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初夏のサクラ

 翌日月曜日。

 栞探偵事務所は通常営業だった。

 皆が集まると、守屋が昨日の顛末について話す。


俵原(たわら)商会はつい先日事業譲渡していた。

 だが公式HPにはその記載もなく、徹底的に事業譲渡の記録を隠していたため問題ない老舗企業と判断してしまった。

 運営企業について入念に調べておけば防げていただろう」


 口で言うのは簡単だが、実行するのは難しい。

 骨董市だけでも出展者は500以上。それにハンドメイド展などの個人・企業複合の出展もあり、それら全てを調べるのは困難だっただろう。

 〈管理局〉が一丸となって調査分担していれば可能性はあったかも知れないが、実際には〈管理局〉どころか〈ピックアップ〉同士の横の連携すらとらず、それぞれの判断でのみ調査を行っていた。


「問題はGTCがどこまで関与していたかだが、俵原商会の古物商としての運営には旧経営陣を残し、展示会だけを仕切っていたらしい。

 そして展示会が終わると同時にいなくなったと。

 

 俵原商会の運営資金に手はつけていないし、事業譲渡金も全額振り込まれている。

 展示会の売り上げが若干持ち出されてはいたが振り込まれた事業譲渡金に比べれば些細なもので、俵原商会側はGTCを訴えるつもりはないらしい。

 

 だが送り込まれてきたGTCメンバー達の経歴は滅茶苦茶だった。〈情報統制局〉が動いて調査しているが、彼らの足取りを追うのは難しいだろう」


 守屋の説明に対して、夕陽が挙手して尋ねる。


「でも事業譲渡を受けるくらいには真っ当な存在だったわけですよね?」


「そっちもダミー会社を作って誤魔化していた。

 とにかく、かなり周到に準備された計画だったのは間違いない」


「なのに〈ツール〉の取引情報を〈管理局〉が入手していた。

 具体的に何処の組織が入手していたか分かりませんか?」


「さあな。そこまでは聞いてない」


 守屋の口ぶりは聞くつもりもないことを暗に示していて、夕陽も「問い合わせろ」とは求めなかった。

 この状況になっても知らせないのだから、何らかの理由があって隠しているのは明白だ。


 GTCがヘマをしたのか、〈管理局〉が上手くやったのかは分からない。

 GTC側が意図的に情報を流した可能性もある。

 ともかく、どういう経緯があって先の展示会のような事態になったのかは、今のところ断定出来ない。


「そして“水牛の像”だが、まだ見つかってない。

〈情報統制局〉が掛け合って警察権まで使って徹夜で捜査したにもかかわらずだ」


「あら。

 見つからずに一晩経ってしまったと言うことは、これから追うのは絶望的ですね。

 もう東京も出ているでしょうし」


 夕陽の言葉に守屋も頷く。

 ”水牛の像”。そしてGTCリーダー鴻巣の行方は完全に闇の中だ。

 そして完全に話を切り替えるようにして、守屋は本日の業務について告げる。


「展示会3日分の報告書を作るように。

 仁木はGTCの発言内容について詳細をまとめてくれ」


 それだけ言って彼は席に着く。

 きょとんとして夕陽が尋ねた。


「”水牛の像”は探さないんですか?

 見つかってないんですよね?」


「〈管理局〉は回収命令を出しているようだ」


「出している?

 それで、私たちは?」


 重ねられた問いかけに、守屋はうんざりしたように答える。


「オーナーからは特に指示がない。

 上が何を言っていようが、オーナーからの指示がなければ調査はしない」


「そうかも知れませんけど、でも仁木さんは実物見てますし、私も現場に居合わせました。飛鳥井さんも鴻巣さんと会ってます。

 その上で栞探偵事務所を外す理由って何かあります?」


「さあな。

 そんなのはこっちで考える必要ないだろう」


 守屋は完全に”水牛の像”にもGTCにも興味がない様子だった。


 夕陽としては”水牛の像”について調査を進めたい気持ちもあるが、しないと言うのならそれはそれで良いかとも思う。

 〈管理局〉は情報統制をかけている。

 ”水牛の像”の秘密について、知っている者、もしくは知られても構わない者達だけを動員している。


 “水牛の像”を手にすると見えるという精霊と称された存在について、誰が情報を持っているのか明らかに出来る。

 少なくとも栞探偵事務所はその内に入っていない。オーナーがどちらになるかは今のところ不明。


 直接”水牛の像”を探しに行くのは、秘密を知っている人間が誰なのかを明らかにした後でも遅くはない。

 夕陽はそう判断して、「調査しましょう」とは言い出さなかった。


    ◇    ◇    ◇


 展示会から1週間。

 その間、栞探偵事務所の面々は主に報告書作成に追われていた。


 直接〈ストレージ〉に預けた物については報告書を書かなくて良いと言う説明から一転、オーナーからの指示があったため、各自〈ツール〉について詳細な報告書を作成せよとの命が下ったのである。


 オーナーからの要請であれば仕方がないと、夕陽は〈動体追尾赤べこ〉、〈湿性カメカメラ〉。飛鳥井は〈速乾性スタンプ〉、〈転置スワロフスキー〉。そして仁木は、回収はしていないものの水牛の像について報告書を作成する。


 結局それから1週間が経過するが、栞探偵事務所は”水牛の像”案件からは完全に外され続けた。

 5月の連休に突入し、それが明けても”水牛の像”発見の報告は届かなかった。


「私、とんでもないことに気がついてしまいました!」


 連休明け初日、出勤した夕陽はこの世の理に気づいたかの如く大仰に飛鳥井へと話しかける。

 そんな彼女の様子にも飛鳥井は慣れていて「是非聞かせて欲しい」と話半分に返した。


「例の展示会ですよ!

 どうして今まで気がつかなかったのか不思議でしょうがないです。

 とてつもないことが起こっていたんです!」


「へえ。何かしら」


「私たち、土日に仕事していたんです!!」


 飛鳥井は内容について「まあそうね」と頷く。

 展示会は金、土、日。当然、休日である土日を返上して展示会に参加したわけだ。


「この分のお休みは何処へ消えるのでしょう」


「振休とれるわ。

 前日までに連絡くれれば好きな日に休んでくれて構わない。

 一応、守屋さんの許可が必要だけどね。どうせ断られることはないわ」


「なるほど! そんな制度があったんですね!」


 夕陽はすっかり気分良く、何時お休みにしようかと卓上カレンダーを眺める。


「ちなみに有給休暇もとれるから、年10日は好きな日に休んで良いわよ」


「おお! 有給休暇! 良い響きです!

 ――でも、今のところはとらなくてもいいかなって思います」


 5月の連休が明けたばかりで、今は休まなくてもいいという夕陽の意見は至極最もだった。

 飛鳥井は相づちを打って、「余らせてももったいないから遠慮せず使ってね」と言って仕事に戻る。


 飛鳥井のPCに、展示会で発見した〈ツール〉のデータベース登録依頼が来ていた。

 作成した報告書の内容をそのまま登録すれば良いだろうとデータベースへとアクセス。


 展示会にて発見された〈ツール〉のリストが並んでいた。

 飛鳥井は適当な〈ツール〉をクリックする。

 〈ピックアップ〉にも閲覧権限があるようで、〈ツール〉特性と、発見に至るまでの経緯などが表示される。


 〈管理局〉内での情報共有を目的としているのだろう。

 指示に従い〈速乾性スタンプ〉と〈転置スワロフスキー〉の情報を登録。

 それから何か変わった〈ツール〉がないかとリストを眺めていく。


「あれ、これ――」


 特徴的な顔をした像があった。

 アステカ文明の猿の像。

 展示会2日目に夕陽と共に調べた像だ。


 ――〈ツール〉ではなかったはず。


 クリックして詳細を表示。

 〈ツール〉特性は、生物のような温もりを感じるとある。

 2日目の調査でそれは夕陽が手に取ったはずだ。その前には〈管理局〉の調査員が手にしている。

 気がつかなかったわけがない。


 回収経緯を見ると、発見は3日目。

 〈ストレージ〉所属の調査員が手にした際に違和感を感じて購入。持ち帰り調査の結果、〈ツール〉であることが確定した。

 領収書に書かれた店名は、確かにあの日見た店の物だ。


「淵沢さん。

 少し良い? この像のことで質問があります」


「あ、2日目に一緒に見た猿の像ですね」


「そうよね。

 3日目に〈ツール〉だって判明して回収されてる。

 でも2日目に淵沢さんが調べたときは違ったはずよね?」


「はい。間違いないです。

 2日目、私が手に取った時点では〈ツール〉ではありませんでした」


 飛鳥井は相づちを打つと、席を立って守屋へと相談する。

 2日目に〈ツール〉ではないと判定した猿の像が、3日目は〈ツール〉だと判定された。

 その間に何かが起こって猿の像は〈ツール〉になった。〈管理局〉としては調査の必要がある案件だ。


「分かった。

 オーナーへと報告する」


 守屋もことの重大さを認識し、直ぐにオーナーへと電話をかけた。

 会話は長く続き、その間他のメンバーは押し黙って自分の作業を進める。

 電話が終わると、守屋は立ち上がって飛鳥井へと言った。


「これだけではなく、同様に調査の結果〈ツール〉でないと判定された物が、翌日に〈ツール〉となっていたケースが別に2件あったようだ。

 〈ストレージ〉が詳しい話を聞きたいと言っている。

 午後一で来るらしいが、資料準備できるか?」


「はい。問題ありません。

 ――ちなみに〈ツール〉でないと判定したのは淵沢さんです。

 同席させた方がよろしいかと」


「必要ない」


 守屋は一方的にそう言いつける。

 簡易保管庫での悪ふざけもあって、夕陽を〈ストレージ〉の調査員に会わせるのは危険だと判断していた。

 飛鳥井も反論せず、「ではそのように」と受け入れた。


    ◇    ◇    ◇


 午後早くから〈ストレージ〉が訪ねてくるとのことなので、早めの昼食をとる面々。

 そこへオーナーからの電話がかかってきた。

 いつものように守屋が応対する。業務指示のようで、守屋は数回頷くと受話器を置いて、仁木の方を見て言った。


「調査依頼だ。

 連休中、緑地公園の植樹作業中に異変があったらしい。

 来客があるため自分と飛鳥井は出られないが――」


「おう! 任せとけって!

 ユウヒちゃんを連れてってもいいか?」


「ああ、是非連れて行ってくれ」


 守屋は厄介払いの良い口実になったと、何処か嬉しそうに返す。

 夕陽も夕陽で、久しぶりの調査に興奮気味だった。


「やっぱりたまには外に出ないとですよね!」


 展示会以降ずっと書類仕事が続いたこともあって、外での調査は大歓迎と言った風だった。

 それに、展示会から2週間。まだ例の“水牛の像”は見つかっていない。

 されど水面下でこっそり進められていた夕陽による調査は進展を見せていた。

 夕陽は笑顔を浮かべて、守屋へと問いかける。


「調査が直ぐ終わったらどうします?

 〈ストレージ〉の皆さんが帰るまで、事務所に戻るのは待った方が良いですか?」


「そうだな。夕方まで外で報告書でも書いててくれ」


 それは夕陽の求める答えと違った。

 なのでひとまず頷きつつも、再度具体例を挙げて提案する。


「報告書はもちろん書きますよ。

 でも例えば、帰り際に偶然”水牛の像”を見つけてしまったりしたら、持って帰って来てもいいですか?」


 守屋は怪訝そうな顔で夕陽を見据えた。

 彼女は大きな瞳をキラキラと輝かせて、本気かどうなのか分からない笑みを浮かべている。

 ”水牛の像”については他の調査員が動いていると連絡があった。

 だが別に、栞探偵事務所に調査はするなと禁止命令は出ていない。

 守屋はため息交じりに答えた。


「空き時間の使い方は任せる。

 ただしその分の費用は経費で落ちないからな」


「分かってます。

 それと、何か見つかった場合はきちんと報告させて頂きますね」


 夕陽は仁木へと笑顔を見せて「まずはお仕事頑張りましょう」と意気込んだ。

 昼食を終えて休憩を挟むと、仁木と夕陽は緑地公園についての詳細資料を受け取って事務所を後にした。


    ◇    ◇    ◇


 移動は仁木のランサーエボリューション。

 2人は異変が観測された淵沢町にある緑地公園を目指す。


「ユウヒちゃん、自動車通勤始めたんだってね」


「はい。中古で安い軽自動車を買いました。

 水色のアルトです。可愛いんですよ」


 仁木は事務所の駐車場に停まっていた水色のアルトを思い出した。

 型の古い年季の入った車ではあったが、夕陽の言うとおり安かっただろうし、バスで行き来できる範囲での通勤用途なら何の問題もないのだろう。

 夕陽は仁木の言いたいことを察して告げる。


「私、あまり車にはこだわりがないんです。

 アクセルを踏んで加速してくれればそれで構いません。

 あ、でも高速道路をしっかり走れるとより安心です」


「まあそうだよな。

 それぐらい出来れば基本満足だろうな」


 車趣味のない人間にとっては、自動車なんてのは移動手段の1つに過ぎないのだ。

 仁木は自身が乗りこなすこのランサーエボリューションの良さは、きっと夕陽に通じないだろうとちょっと残念に思った。

 

 守屋もまるで自動車に興味がなく、社用車もプリウスでいいだろうと適当に決めたほどだ。

 飛鳥井は外車に乗っているようだが、その辺りの話には一切乗ってこない。

 結局、自動車趣味について語り合える人間は栞探偵事務所には存在しなかった。


「まあいいさ。

 それよりキヨから貰った資料はどんな感じだ?」


 キヨというのは守屋のことだ。

 守屋(もりや)清美(きよみ)。だから仁木はキヨと呼んでいる。

 夕陽はその名前を仁木から聞いた際に「可愛い名前ですね」と口にしたところ、守屋から露骨に嫌がられたのでそれ以来名前については触れないことにしている。


「ざっくり説明すると、緑地公園で連休中に開催された植樹祭の最中に、1本のサクラの木が開花したそうです。

 開花は2日前。ですが本日までにほとんど枯れ落ちたようですね」


 夕陽は紙の資料を膝の上に置いて、スマホを操作して動画サイトのリンクを開く。


「動画サイトにも出回ってますね。

 初夏に咲くサクラ。植樹祭での珍事」


 動画に映っているのはサクラの木。

 薄桃色の花を咲かせているが、背景に映る別のサクラの木は若葉で緑に染まっている。

 5月の連休中に関東圏でサクラが咲くというのは異常事態と言える。

 それもそのサクラはつい先月に花を咲かせて、それを散らせているはずだ。


「この動画も、花だけじゃなくてもっと引いた位置から撮ってくれていたら木の回りに何が置いてあったか分かるんですけどね」


「探せば引いた絵もあるかもな」


「ああ、ありましたね。ですが人混みが凄いのばかりです。

 結局、現地で探すしかなさそうです。

 ところで、植物が〈ツール〉になった例ってありますか?」


「植物がっていう意味ではなかったかな。

 木彫り細工とかだったらあったりしたが、生きた状態で〈ツール〉になったのはないはずだ」


「ふむふむ。

 生物は〈ツール〉にならないんですね」


「そうだな。これまでに生物が〈ツール〉化した例はない」


 仁木は運転しながらそう断言した。

 夕陽も返答に納得して、「なら近くに置いてあった物ですね」と調査方針について私見を述べる。


 緑地公園に到着すると、守屋は工具箱を担ぎ、夕陽も〈ツール〉回収用の道具の詰まったリュックを担ぐ。


「まずは現地かな。

 もう花は散ってるらしいが確認してみよう」


「2人で行く必要もないですね。

 私、公園の管理事務所のぞいてきます」


 2人での行動をやんわりと断られた仁木はおどけて悲しそうな素振りを見せながらも、仕事の効率はその方が良いに決まっていると理解を示した。


「じゃあ分担して行こう。

 ユウヒちゃんはさっさとこの調査切り上げて、“水牛の像”探しに行きたいんだろ」


「そういうことです。

 多分、そんな難しくない調査です。

 ぱぱっと終わらせてしまいましょう」


 仁木は頷いて、問題の発生したサクラの木を目指す。

 夕陽は反対方向。公園の外周沿いに歩いて管理事務所へ。


 管理事務所は掘っ立て小屋で、建物前を通りながら横目で確認すると、事務員が1人中にいるのが見えた。

 話を聞くのは後。

 最初に聞いてしまうとややこしくなるかも知れない。


 夕陽は管理事務所を通り過ぎて、その隣に設置されていた野外物置を確認する。

 物置の隣でツバキが咲いている。

 寒椿――冬の花だ。5月に咲いているのはおかしい。

 と言うことはここが当たりだ。


 夕陽は物置の鍵を確認。

 安物の物置に使われる鍵はそこまで複雑な造りをしていない。

 どうせ中に金目の物など入っていない。

 それでも自由に持って行かれては困るから、一応かかっているだけの鍵だ。


 夕陽はリュックからドライバーを取り出す。

 この種の鍵なら何度か外したことがある。簡単に鍵の解除に成功。音を立てないように扉を開ける。

 寒椿の咲いていた側に、樹脂製のバリケードが並んでいた。

 ポールを通して立ち入り禁止を示したりする工事用保安用品だ。

 駐車場の区画や、イベントやお祭り会場での区画設定。軽作業の周辺安全確保などに使われる。


 縁だけの無機質なものから、カエルやウサギなどをかたどった物まで様々で、40枚以上はまとめてしまわれていた。

 夕陽はその中から迷うことなくチューリップをかたどった形状の1枚を取り出して、物置を閉めて鍵をかけ直す。


 物置から距離をとり、人目につかないところでリュックからブルーシートを取り出し樹脂製バリケードをくるむ。

 〈ツール〉の影響範囲と、どのくらいの時間で花が咲くのか不明なので不安ではあるが、それを抱えて仁木の元へと向かう。


 5月に開花したサクラの元には人が僅かに集まっていて、ほとんど散ってしまった花を写真に収めている。

 その中に仁木の姿もあって、何か考えて居る風にサクラの木を見上げていた。


 夕陽は背後からこっそり近寄って声をかける。


「仁木さん。ちょっと良いですか?」


「あれ、管理事務所は? 見つからなかった?」


「そんなことはないですけど、ちょっと話があります」


 仁木は首をかしげて夕陽の後に続く。

 結局駐車場まで戻り、夕陽は抱えていたブルーシートを少しだけはがして中身を見せる。


「なんだこれ?」


「あれです。絵柄は違いますけど」


 夕陽の指さした先には、駐車場の職員専用スペースに置かれた樹脂製バリケードがあった。

 言われてみればそうだと、仁木はぽんと手を叩く。


「まさかそれ、サクラの花に関係あるのか?」


「はい。近くで寒椿が咲いていたので間違いないです。

 多分ですけど、植樹祭の最中、あのサクラの木の周りに置かれていたのだと思います。

 心配なら事務所に戻って裏の空き地ででも実験すれば確かめられますよ」


「いや、ユウヒちゃんが言うなら間違いないさ。

 それより、随分早かったな。

 管理事務所の人に許可は?」


「無許可です。簡単に持って行ける状態にあったのでこっそり持ち出してきました」


「1枚くらいなくなってもバレないか?

 ま、キヨの指示を仰いで、必要なら同じようなのを買ってくればいいだろ。

 簡単に持ち出せる状態ってことは、簡単に追加も出来るってことだろ」


「その通りです。

 それより、時間が出来ましたね」


 到着から僅か5分。

 5月にサクラを咲かせた〈ツール〉は何の問題もなく回収された。

 夕陽が含みのある笑みを向けると、仁木も豪快にニッと歯を見せて微笑む。


「そうだな。

 さて、夕方まで適当に“水牛の像”でも探してみるか」


「はい。是非探しましょう!」


    ◇    ◇    ◇


ツール発見報告書

管理番号:KK00292

名称:豊穣神ラーレ

発見者:淵沢夕陽

影響:C

保管:B

特性:周囲の植物の開花を促進


 

読んでいただきありがとうございました。

「面白かった」「まあまあ良かったよ」と思っていただけたら幸いです。

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次回も読んでいただけたらなによりです。

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