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♯8:サザンクロス国歓迎撃戦【将軍一騎討ち】

 約一週間後、遂に敵を迎え討つ作戦決行の時はやってきた。


 いつも以上に、サザンクロス国全体が緊迫以上の警戒と殺気に包まれていた。


「盾よ、ここに入れ」

「ここは?」

「貴様を匿う為に即席で作った水壁の部屋だ」


 そんなに複雑ではなく、簡易的に造られた部屋で周囲を水で囲んでその真ん中に座る椅子が置かれている。


「役立たずはすっこんでろ邪魔虫」

「そ、そうさせて頂きます……」


 罵倒されても僕は素直に従う。将軍同士の争いに自分は敵う筈もなく、必ず足を引っ張ることは承知の上だからだ。


 暫くして隊員から通信報告が入った。


『門兵から諜報部員、将軍に告ぐ。標的である例の敵将軍が到着されたとの情報が入りました』

「引き続き警戒は怠らず城内へ案内させろ。向こうが下手な真似を少しでも起こせば貴様らも戦闘態勢に移行しろ」

『了解です』


 どうやら今回の相手をする敵将軍のお出ましのようだ。


「今こそ積年の因縁をここではっきりさせる」


 そう言い残し、アルバート将軍は僕を置いて部屋を後にした。





「……」

『将軍、標的を城内へ入れました。今すぐそちらへご案内致します』

「こちらも今着いた。俺のいる場所へ案内しろ。万が一ヤツが不穏な素振りを見せれば……容赦なく」

『はっ!』


 この場所はクロノワールクローム城内部にある地下闘技場。


 周囲は円形状に囲まれており、黒い天井は高く、ぐるっと黒い壁を囲むように閲覧席があるだけであとは何もないこれもれまた殺風景な場所。


 アルバート将軍はその場から動かず、静かに待っているとゲートが開く音が聞こえた。


「くーるくるくる、いーくくる。逝ったりきたりと無限大。くーるくるくる、くーるくる。輪廻巡るよくるりんと。戦死した将軍の御霊輪どこでくるりと巡るかな?」


 靴音と共によく分からない歌を口ずさみながら右手で銀の輪っかを人差し指でくるくると回し、左手はポケットに手を突っ込んだままアルバート将軍の近くまで歩いてきた。ここからは二人だけの一騎討ち故に空気が張り詰める。


「来たか。随分と俺を待たせてくれたな」

「おしさしいな。サザンクロス国、アルバート将軍。わざわざおまいが自国にお招き頂いたことをここに感謝を証明するよ」

「相変わらず、忌々し気なこと変わらないな。コーメルシオ諸国連邦将軍、アンブローズ=バンダル=ジョルダー」


 今回戦う相手は腰元まである黄土色の長髪を半分に切った軍帽の合間からポニーテールに結っている。結いきれなかった短い髪は姫毛としてこめかみから出ている。紺藍を基調とした膝下まである軍靴と軍服と短袴風のズボンの上に朽葉色と裏地が青緑色を基調とした膝下まである長い陣羽織を身に纏い、更にそこから肩や腰元にチェーンを飾っているという異様な格好と独特の口調でやってきた一人の将軍。しかし、その異才さから隠された威厳と圧力は近くにいる隊員たちが容易に近づけないオーラを放っている。


「かつて停戦以前の頃は、おまいと輪我輩わがはいで相対し互角に張り合い、熾烈を極め、血肉を争いあった仲。何せおまいは「コア」の能力を身につけていなかったからな」

「あの時の俺と今の俺と一緒にするなよ曲芸野郎。停戦状態が疼いていて仕方なかったんだ。この退屈さは半端なかった。痺れ切らしに付き合え」


 独特な台詞を挟みながら冷静かつ事務的な喋り方をしながら牽制する空気を纏わせる。


「このやり取りもおしさしいなぁ、いや懐かし」

「貴様と四の五の余談する暇はない、始めるぞ輪っか将軍」

「始めますかね」


 サザンクロス国将軍―


 アルバート=ガリア=イージス


      対


 コーメルシオ諸国連邦将軍―


 アンブローズ=バンダル=ジョルダー


「ふっ!」


 互いの因縁の歓迎撃戦がアンブローズが指で回していた鉄輪チャクラを数十個ブーメランのように飛ばしてきたことによって開戦された。


「こんな小道具で俺を翻弄出来ると思うか?」


 飛んできた全ての鉄の輪をハイドロゲンの元素に変えて直ぐに液体化した。


「ほう、それが「コア」が入った装飾、魔化錬成術の力か……おまいは水の属性を扱えるだけに、便利なものだな」

「関心している余裕があるのか?」


 錬成術を手に込めると先程液体化させた水を水球状にしてアンブローズに向かって投げ飛ばす。


「うむ、魔化錬成術の不思議さにね」


 アンブローズは水球状になった水を輪っかの中に受け止めて、鉄の輪に熱を帯びさせて蒸発させた。


「やはり化学力と魔能力の組み合輪せは、実に厄介である」


 アルバートも間髪入れず水球状にして連続攻撃を繰り出す。アンブローズもそれに応えるように数に見合った鉄輪を的確に投げて熱で蒸発させる。


「輪っかっていいよね。無限に続くこの途切れない永遠の象徴。まさに無限の輪、友達の輪。あ、こういうの輪、戦友の輪って言うのかなぁ? にしても輪我輩わがはい、嫌いじゃないな」

「貴様の偏癖など聞いていない。胸糞悪いことを発するな道化師野郎」


 アンブローズのどうでもいい入れ知恵を聞かず、水球状を目眩しにした上で間髪入れず近接格闘術の強烈ブローをお見舞いする。


「これは、受けるの痛そうだ」


 アンブローズは向かって来る拳の所定からうまく逸れて勢いに任せて受け流し、得意である近接格闘術・柔道技の大外刈りを繰り出す。


「っ!」

「柔を極めて剛を制す。これぞ、無限大・八の字!」


 輪っかを変形させて『♾』の形にし、アルバートに両手に枷としてはめた。


「この……っ!」


 アルバートは透かさず足を天高く伸ばしてアンブローズの頭目掛けて蹴り上げてきた。


「輪っと!」


 それを寸での差で交わした。


「これで制限したつもりか?」


 アルバートの両腕は手錠となり両手をがっちりと封じた。


「輪我輩、思ったことがある。オニオンリングはなんで流行らないんだろうね? フライドポテトは流行ってるのにさ、オニオンリングってただ玉ねぎを揚げるだけだって考えがちだけどさ、フライドポテトだってただじゃがいもを揚げただけなんだ。それに意外とバリエーションが豊富なのがこれまた意外と知られていないんだよね。ほんとに世の中輪っかを舐めすぎだ」

「そんなこと、知らん!」

「あ、あとイカリングも美味しい。どっちかというとイカリング派だね、輪我輩わがはい

「そろそろその減らず口を黙らせようか」

「そして、輪我輩が鉄輪にこだ輪っているのは、装備するにはこれに限る」

「――!」


 軍服の袖の中に仕込んでいた分銅付きの鎖が勢いよく飛び出してきた。


「沢山の鉄輪が何重にも幾重にも飾れる代物だ」


 アルバート将軍に仕込んだ手錠に鎖で縛りつけると目一杯に引っ張り、一本背負い風に投げ飛ばし、重力と遠心力に任せて思いっきり地面に叩きつける。


「こんなものか」

「……」


 武術の達人であるアルバート将軍にとっては受け身など朝飯前。なんのダメージにもならない。


「停戦状態だっただけにおしさしくも懐かしさのご挨拶だよ」

「懐かしさを振り返るな。貴様ごときの鈍り輪で、俺を縛れると思うな!」


 両腕に縛っている手錠の銀の輪にぐっと力を込めると一瞬でハイドロゲンの元素に変えて気化した。


「……蒸発した?」

「錬成術で気化させてもらった」

「水の属性ならではだな。そういうことが出来る実に面白いだけに厄介である」

「前から手応えはないとも微かに感じていたが、やはり錬成術をつけるとそれ以下に見えてしまう」

「言うようになったな。今の輪我輩の化学力がどこまでいけるか確かめさせてもらう。水封じ・鎖国!」


 複数の輪を繋がれることでチェーン状にして飛んでくる水を縛って動きを封じた。


「から、閃光爆鎖せんこうばくさ!」


 チェーンに熱伝導を含み、水を蒸発させた。


「目には目を、歯には歯を、蒸発には蒸発を」

「ほう」

「コーメルシオ諸国連邦が誇る貿易大国で得た物資はやっぱり役に立つ。色んな輪っかが作れて色んな細工が仕掛けられるのだから」

「それなら、やってみろ」

「ふむ、さながら参る」


 再びチェーンを投げ飛ばしてくるのを間一髪で避ける。


「ふっ!」


 避けたはずの鎖が軌道を変えてアルバートを狙ってきた。


「ふん、どうやらこの狭い空間が功を奏しているか」


 それでもアルバートは器用に無造作に飛んでくる鎖を持ち前の俊敏さで交わしていく。


「『不軌道・紆余曲折の道』」

「やっと重い腰をあげたか年増」

輪我輩わがはいはまだ二十九だ」


 そして更にチェーンを重ね合わせて折り合わせ、鎖が変形し刃物と化したのに加えて回転を加え始めた。


「『終廻しゅうかいチェーン槍』!」


 軌道の魔能力で回転数を増した鎖がチェーンソーの如く、狭い地下闘技場を覆いつくす。


「貴様の魔能力、『様々なものを軌道に乗せて自在に操る』鎖の長さを利用した遠方技」


 例えるのであれば走ってくる人の軌道、飛んでくるボールなどの軌道、鎖だけに限らず自分が投げるものの軌道も自在に変えられるのがアンブローズ持ち前の魔能力である。


「余所見していると八つに裂かれるぞ」

「貴様に心配される筋合いはない、『水素爆発バッサーシュトーフ』!!」


 アルバートは水の球を作り出すと飛ばして爆発させる。


「小規模の水素爆発。それも錬成術ならではか」

「貴様の魔能力がどこまで通用するか、逆に見物だな」


 繰り出しては縛り封じての繰り返しの格闘戦が続く。


「『終廻チェーン槍』!!」

「錬成格闘術『永月ながつき』!!」


 アルバートの跳躍力で高いところから鎖の隙間を見極めて滝の如く縦に勢いよくハイドロゲンを叩きつける。熾烈な攻防戦が地下闘技場で両者は因縁の相手だけに一歩も譲らない早業で戦いを繰り広げる。


「はぁ……やはり、アクセリアに錬成術の『コア』があるのとないのでは全然違うね。いや、これは参る」

「……おい、貴様……本気できてないだろう……?」

「そう見えるか? そう見られてるか?」

「そんな調子じゃ死ぬぞ」

「やはり、輪我輩わがはいのチェーンに対して水が……」

「このサザンクロス国の豊富な水にはそのぐらいの鎖じゃ太刀打ち出来ないだろう。地下闘技場は特に地下水が豊富な場所だからな」

「……うむ……」

「今まで貴様とは幾度も本気で戦ってきたが、こんなやり甲斐のないものは初めてだな」

「おまいが有利な状況に身を置いているからだろうが」

「さて、貴様がそんな調子ではこちらも興が冷めて息の根を止めてしまいそうだぞ」

「でも、死ぬ輪けにはいかない。だから、これで策は組ませてもらっている」


 アンブローズが懐から何かを取り出す。


「調印書に書かれていたことには従うが、戦いのルールは無用だ」


 手の中に収まるほどのスイッチを親指で押すと天井がいきなり爆発し、闘技場全体に爆音が轟くと同時に瓦礫が落ちてくる。


「っく!!」


 不意の爆破にアルバートも反応して落下してくる瓦礫から逃れる為に退避する。


「他国の貿易で入手し、開発したコーメルシオ特別大量生産、シルバー仕様のドローン搭載小型地雷機だ。小型でも威力は相当」

「先程の鎖の攻撃は陽動で、その最中にさり気なく仕込んでいたか」


 遠隔操作でアンブローズはいつの間にか小型の操作系の暗器をアルバートに気付かれないように仕掛けていた。


「この闘技場に数台放ってある。気を付けながら戦うことだ」

「くだらない小細工を!」


 アルバートも錬成術を手に込めて水球状にしてアンブローズ目掛けて放った。


「むっ!」


 嫌な予感がして避けるとアルバートの魔能力で案の定水球が波風打つ爆弾のように弾けた。


「錬成術には貴様のようや小細工は不要だ。いつでも俺の化学力の知識と融合、魔能力の操作で爆発を放てると思っていい」

「本当に、力を手にしてから更に厄介になっているな。おまいは……」


 ここから駆け引きや探り合いの展開になると思われた。


「……なんだ、この音は……?」

「……」


 天井から激しい轟音が地下に向かって近づいているのが聞こえる。


「いやっは――っっ!!」


 突如要塞内に響き渡る破裂音と暴風が地下に吹き荒れる中、溌剌とした雄叫びが闘技場内に響き渡る。そして穴が開いた天井から暴風と共に颯爽と現れた。


「!?」

「滾る、煮え滾るよこの情熱!! バックハワード共和国将軍であるこの俺様、ハレック=フレグ=アリスタ、風の噂でここに推参、あっ、推参てか!!」

「やっと来たか、遅いぞ……うつけ」


 この地下闘技場に横入り乱入した新たなる将軍の登場。


 不可測な事態にも関わらずアルバート将軍はそれすらも当然の如く平然としていた。


♯9へ

この話数を寝起きで投稿した作者です。

昨日まで仕事で今日はお休みだったので夕方近くまで寝てしまいましたw

ただ夜は強いんですよね。遅くまで起きてられるときがあって朝近くまで起きているときがありますWWW

寝ているときの幸せ。次の日が仕事であることの気怠さ。両方味わっています!

そしてそんな中で小説を書いてます………………めげないぞ!! では次回☆彡

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