♯7:サザンクロス国歓迎撃戦【遂行】
ウィンチェスター王国の将軍、レイノルズ=ゴート=ウィンフィールドと互いに『コア』を用い錬成したアクセリアを使用した魔化錬成術を駆使し、熾烈な争いに勝利し、莫大な資源を手に入れ、「魔化錬成師」の僕ことシビル=ノワール=フォルシュタインを取り戻したサザンクロス国の将軍、アルバート=ガリア=イージス。
現在僕は作戦室で軍隊の代表の人たちと作戦会議室で今後の討論会を交わしていた。
「――諜報部員の情報によると、他国の隣国同士での資源と政権を巡っての争いが絶えないことによって、現在の我が国への影響は当たり障りのない状況となっております」
「弱者国同士のどんぐりの背比べ戦争。やはりこちら側に仕掛ける気はない、ということか」
「我が国家はそれにより安定し、民間人も平和に過ごし、自国の資源に加え、追加輸入された資源によって更なる活性化も図り、経済も軍事も潤いがあるかと」
「しかし、やはり他国がこちら側への侵略の気配がないとなると軍事組織としての進展の見込みはやや下降に傾くな」
「将軍、民間人への配慮としましては今の現状でも悪くはないかと……」
「俺から一つ奇策がある。これを機に、我が国の権力と勢力を拡大していく。やはり、何事も待つだけでは起こらない。前回の戦いを見習い、自分から仕掛けていくのもまた一興だ」
「しょ、将軍!?」
「……」
アルバート将軍の前髪の触覚が揺れ動く。
これはまた、よからぬことを考えている。
この前のアルバート将軍への質問に対しての返答。
「戦が好き」と宣言していただけに、迎え討つに飽き足らず、攻め入ることも一興と語らんとしている姿を横目に僕はいつもハラハラしていた。
「前回のウィンチェスター王国ではシビル氏の拉致によってあちら側の将軍による仕掛けで成り立ったようなものです。こちら側が仕掛けるにしてもどのようになさるお心算で御座いますか? 一国を制圧したものの、ヘタして失敗した場合にはこの国の命運も左右し兼ねません」
「無闇やたらと他国に多く仕掛けたりはしない。狙いも目的も、俺なりに目処はついている。そして今はどうしてもある資源を、我が国に仕入れたいものがある。前々から目をつけていた因縁の国があるだろう」
「え……ひょっとしてあの国、ですか!?」
「他に何がある?」
アルバート将軍が目に付けている国があるらしい。ベテラン隊長格の男が思い出し、焦燥に駆られ意見をアルバート将軍にぶつける。
「あの国は今まで停戦状態であったのをあえて戦争に持っていくのですか!?」
「慄いているのか? この国の軍隊であろう者が……」
「い、いえ、あの……そういう意図では……っ!!」
「この『コア』が組み込まれている魔化錬成術を持ってすれば、宣言した通りに手に入れてみせるこの俺に、反故意思を示すということか……?」
「そ、そうではなく、停戦中から戦争へ動かすにはそれ相応の策を練らなければいけませんし、そして相手も警戒しているのでそう簡単には動かないでしょう」
「その心配か。それに関しては俺なりに策は立てている」
「どういった戦略を?」
「ウィンチェスター王国の戦略を一部採用する。敵国の将軍を、こちらの国に誘き寄せる」
「――っ?!」
戦将軍として有名であるアルバート将軍と同等に、対等に対抗している国があったことは。まあ、この人の場合は他国でも名のある将軍として有名ではあるだろうし、ウィンチェスター王国の件もきっと噂で広がっているだろうし、そして何よりも色んな因縁が絡んでいそうではある。僕もこの国の人間として匿われているのであれば他国の情報を詳しく聞いてみたい気もする。
「あの、アルバート将軍。魔化錬成師として敵国に宣戦布告で相手をする国の情勢と将軍の詳細を知りたいんですけど……」
「貴様は知る必要はない」
「う……」
安易に却下されてしまった。
「これは軍務命令だ。この重要件は必ず実行に移す。案を考えた後日、調印書を発行しろ」
なんと在ろうこと。恍惚に大胆な発言で大掛かりな作戦が始まろうとしていた。
ただ、相手にする他国のことを知っておきたいのは確かだった。
「あぁ……やっぱりアルバート将軍は……!」
シビルは作戦室から自室に戻って机の上で頭を抱えていた。
「戦が好きというだけで、末恐ろしい作戦を考える……もう少し国の安寧のことも考えてほしいものなのに……」
愚問愚答からの愚行。
次の戦争でも波乱に満ち、どうしようもない焦燥感に駆られる。
「アルバート将軍がどうしてもほしい資源……欲しいものならどんな手段でも実行する。例えこの国が戦場と化しても、か……。でも、他国の敵将軍の実力を舐めてたらエライことに……」
ついの最近まで、僕はウィンチェスター王国の囚われ人で、王国を統一するレイノズル将軍の戦略と実力を目の当たりにしたばかりなだけに、次の標的である将軍は何者でどのような力を秘めているのか、未知なだけに不安と恐怖は否応でも感じざるを得ないことに悩んでいた時だった。
「こんにちは! シビル=ノワール=フォルシュタイン様。ただいま御在宅でいらっしゃいますか?」
突然のノックの音と共に隔てたドアから声が聞こえ、はっと顔を上げる。しかし今回は丁寧にノックをし、声は野太くもハキハキと丁寧な敬語口調で問いかけてきたために少なくともアルバート将軍ではないことだけは分かった。
「え? あ、はい今開けます」
ドアを開けるとそこには隊員服を着た青年が箱を抱えて佇んでおり、共に軽く会釈をする。顔見知りとは程遠く、例えどこかで会っていたとしても互いにあまり深い関係ではない者同士だった。
「どうも、お疲れ様です!」
「あ、どうもです。あの……何か御用ですか?」
「はい、こちらの箱をシビル様宛に配布するように命じられました。少しの間入室してもよろしいですか?」
「命じられた? 詳細が分からないのですが、立ち話もなんですね。どうぞお入りください」
「失礼します」
来訪者を招き入れ、ドアを閉めると同時に青年が担いでいた箱を床に置き、一息入れる。
「ふぅ、ここまで結構距離があって運ぶのも一苦労でした。何しろ将軍から直々の御通達で資源民区分からこちらへ運ぶよう御用達がありましたのでお伺い致しました」
「資源区民……遠いところから態々運んで頂いてご足労です。それで貴方は?」
「あ、申し遅れました。私はクロノワールクローム要塞城御用達運搬・配送専門人のミカルと申します。主にアルバート将軍や要塞に勤められている隊員の方々から頼まれた資源や軍事装備などを運搬したり、民間に住まれている隊員方のご家族へ手紙や荷物などの配送を専門にしている内の一人です。証拠にこれが私の身分証明書になります」
首から下げていたタグには確かにミカルの写真と勤めている区分地までしっかりと書かれていた。
「そうなんですね。しかし、僕は何も頼んでいませんよ」
「こちらはアルバート将軍の御命令によりシビル様へお届けするようにとの御達しがございました」
「アルバート将軍が?」
「中身の説明までお願いしますとの御命令も承っておりますので、暫しのお時間を頂戴してもよろしいでしょうか?」
「はい、分かりました」
「では早速ですが、御本人様開封ということなのでお願いします」
配送人のミカルから開封を催促され、言われるがままにシビルは箱を開け、中身を取り出し確認する。
「これは、軍服?」
箱の中にはこの国ではお馴染みの指定の黒一式の軍服が変えを合わせて上下共に十着が誂えられていた。
「こちらは民間商業区分と装備開発区民が結集して見繕いました最新のサザンクロス国の隊員指定軍服で御座います」
「そうなんですね。ただ、見た目は前の軍服とそう変わらないですけど……」
「ここからは私が今までとは違う軍服の仕様を説明致しますので暫しご清聴を」
ミカルから五分程度に軍服の仕様を説明された。
「――以上を持ちまして、私の説明はここまでで御座います」
「成る程。ただこういうのは一流の軍人が羽織るものなのに、僕じゃ威厳が立たないかな」
「何を仰いますか。シビル殿は我等が誇る立派な魔化錬成師で御座います! 各隊員たちから希望を持たれ、アルバート将軍に尽くす忠実なお方です! これを羽織れば更に国としての士気に拍車がかかりますとも!」
「そう、ですかね……」
「それに、以前のウィンチェスター王国での一件で大変な目に遭われても無事にこの国へ戻り、勝利を収めたきっかけが貴方様だと伺っております。民間の間では有名になっておりますよ!」
「ええー……そんな言う程……」
「我が国が勝利を収めたと聞いて、凱旋祭りで日夜騒いでいました! 新たな資源も手に入り、経済が更に潤って活気が溢れました! こうなると、シビル殿はもはや軍神なのではないかと口揃えるぐらいに!」
「で、ですからそんな大層な事は……」
「でも、だからこそ心配なのです。これから先、各国将軍たちがこぞって策略を練って貴方を狙う傾向が高いでしょうね。拉致の一件もありましたから、クロノワールクローム要塞ではかなり厳重に警備も強くなりました。前はなかったこの身分証明書も、あの拉致事件がきっかけで私たち要塞関係の勤め人は必ず付けるように義務付けられました」
「やっぱり。僕も今まで見た事がなかったから。きっと将軍が……」
「なので、今後も気をつけてくださいね。僕たち民間人もいざとなれば貴方をお守りするように言い渡されていますので」
「はあ……」
「ところでシビル様は、本を読むのが趣味らしいですね」
「はい、自由時間があるときは趣味の一環として。本当はアルバート将軍が因縁で敵対している相手のことを少し知りたいとは思っているんですけど将軍からの許可が下りなくて……」
「然様で御座いましたか。もし、よろしければお力添えしましょうか?」
「え、そんなことが出来るんですか……?」
「ふふ、実は僕の父親が図書資料関係の仕事についてまして、きっとシビル様のためと頼めば貸し出してくれるかもしれません」
「ほ、本当に!? といっても、相手の国に関する資料だから貸し出すには厳重な申請が必要だと……」
「ふふん! それは私に任せてください! どういった資料をお求めですか?」
もしそれが可能だったら、頼んでみたいかも。
「じゃあ、お願いできますか?」
僕は急遽持参していたメモ帳の紙にほしい資料を書いてミカルに渡した。
「……はい。確かに、お預かり致しました! 少し時間がかかると思いますが、しばらくの間お待ちくださいませ」
「よろしくお願いします」
「と、いけない! シビル様相手でしたからこれ以上にない機会にと話し込んでしまいました。要塞部外者が長居すると城の警備の方に警戒されますので。最後はこちらに受け取りのサインをお願いします」
持参していたボードには受け取りの用紙があり、僕はサインを記入する。
「はい! 確かにお届けいたしました! シビル様、また後日! そして今後のご活躍を期待しています!」
「は、はい……」
活躍を期待と言われても魔化錬成師の「コア」を作ること以外特に何の力も持ち合わせない僕に言われてもな……。
後日、軍事会議が催された。もちろん僕も参加していた。
「今回の宣戦布告が成立しそうだ」
「……」
僕は心底落胆する。隊員たちは勿論、言葉にこそ態度にこそ出さなかったが内心落胆している者が多いだろう。
出来ればこの戦が成立して欲しくなかったのが本音。
「恐れながら将軍、調印書の内容公表をお願い致します」
「こちらへ招くというのが条件効果もあったが、やはり「盾」の存在も効いたようだ」
脳内では『え、僕が?』と占める。
「やはり『餌』としておびき寄せるには貴様の身分を出した方が手取り早かった、盾よ」
そしてすぐさま僕の心の中は『なんということだー!!!!』と叫んでいる。
「それで最初から迎撃戦に持ち越すんですか?」
「折角の因縁の相手との再戦になる。だから俺から猶予と余興を与えることにした」
「猶予と余興、ですか?」
「アイツとは長年と多くの戦歴を交えている。それ故に俺への警戒心が高い上にかなりの用心深い性格だ。なので、一人で来ることを条件に、俺たちは手出しをせずにこの要塞城の中へ招き入れることにしている」
「こ、ここ、このクロノワールクローム城に、態々敵将軍を招き入れるのですか!?」
敵を自らの陣地に招き入れる将軍が何処にいるんだ。この人のぶっ飛んだ発想は計り知れない。
「猶予と余興と言っただろう。ただ迎撃するよりも新鮮さを取り入れられる」
戦に新鮮さなんてあってはいけない。
すぐさまに脳内平和三大原則『いらない、欲しくない、望んでない!』が浮かんだ。
「要するに我々は招き入れるまでに敵将軍に手出しをしてはいけないということですか!?」
「調印書にそう契約した。故に貴様らも手出し無用。反故することは許されない」
敵将軍を無条件でこの国に招き入れるってどういう迎撃戦なんだこれは……!?
「歓迎する迎撃戦、クロノワールクローム要塞城歓迎撃作戦だ」
全然上手くない。その上、そんな言葉あって欲しくないと口を大にして言いたい。
「この条件を呑むのと同時に相手も隊も誰も連れずに一人で。それでもかの敵将軍の力を知っている我々にとってはそれでもかなりのリスクが高過ぎるような気もしますが……」
「無論、俺の調印書にも歓迎される間は一切の手出し無用と釘を指している。条件を破れば容赦なくこちら優先で迎撃戦に持ち越すことにしている」
「作戦決行はいつほどに?」
「およそ約一週間。相手の意向であるが故に待たせられるのは癪だが、久しぶりの対戦に免じて特別許している。その間にこちらも準備が進められるということだ。決行当日までにヤツを迎え撃つ準備を整える。総員、要塞城及びサザンクロス国全域に警戒態勢伝令をここに言い渡す!」
「「「イェッサー!!」」」
「そして盾よ、この調印書の我が軍の敗北条件に貴様を差し出すように加えられている。この条件には必ず従え。まあ、あり得ない話ではあるがな」
「は、はい、了承致します……」
この身分のせいで僕が戦利品扱いにされている。
約一週間後に控えるこの歓迎撃作戦決行に嫌な予感しかしないのは果たして僕だけだろうか……。
「あぁ……嫌な予感しかしない……ろくなことに巻き込まれそう……!」
自室に戻って机に伏してネガティブ思考にとらわれていたときにノックの音が聞こえた。
「こんにちは。シビル様、御在宅でしょうか?」
「……この声は!」
急いでドアを開けるとミカルが笑顔で佇んでいた。
「どうも、クロノワールクローム要塞城御用達運搬・配送で御座います!」
「ミカルさん!」
「シビル様、大変お待たせいたしました。中に入ってもよろしいでしょうか?」
「どうぞ!」
僕はすぐにミカルを自室へと入れた。
「申請に時間がかかってしまいましたが、どうにかしてシビル様が求めている資料をお借りすることが出来ました!」
「態々、ありがとうございます!」
こうして無事に調べたかった貴重な資料を借りることが出来た。
「この貸出は期限がありまして一週間となっていますのでその時になればまたこちらまで取りに参りますので!」
「一週間も……ほ、本当に、本当にありがとう……!」
「シビル様のお役に立てるのであれば、父も私もお力添えしますよ!」
僕のためにここまでしてもらえるのは本当にありがたい。
「では受け取りのサインをお願いします」
僕は用紙にサインを書いた。
「それでは、また一週間後に回収しに来ますので失礼致します」
「はい、本当にありがとうございました!」
そう言ってミカルは僕の自室をあとにした。そしてすぐさまに受け取った貴重な資料を読み漁った。
アルバート将軍の因縁の相手であり、これから死闘を繰り広げる相手、コーメルシオ諸国連邦のアンブローズ=バンダル=ジョルダー将軍について。
♯8へ
これからまた掛け持ちする新しい仕事を覚えなきゃいけない作者です。
小説との両立は本当に大変です。いつでも投稿出来るように作品はスタンバイしているのですが、見返しているうちにここを追加して削除したり、急遽話数を追加したりとハプニングが起こったりするのです。その上で仕事をしていて新しいことを覚えたりしなきゃいけないこともあって、とにかく時間が足りない……!次はいつ投稿するか迷った挙句出せるうちに出しておこうという判断で今日になりました。
このような感じで毎日更新ならぬ、まちまちランダム更新というスタンスでめげない投稿にしていけたらと思います。錬合将軍のこれからの物語は新たな戦争が始まり、新たな展開が起こっていくようになります。
とりあえず、言い訳をしながらでも頑張ります!じゃないと……やっていけない! 以上!