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♯6:ウィンチェスター王国【ウィンチェスターの戦い決着】

※アルバート視点含みます。

「……城内の侵入を許してしまいましたか……」


 流石のレイノズル将軍の表情が怪しくなる。


「ヒッ……!?」

「やはりあの男はこの場で始末をする必要があるでしょう……! 不届きな侵入者には、汚らわしき者には更なるお仕置きが必要でしょう……!」

「レ、レイノズル将軍……!?」

「——この要塞城という聖域まで乗り込んでくるとは、汚らわしい、不届き者! 悪め!!」

「レイノズル、将軍……!?」

「いいでしょう……こうなればお望み通り、私自身が最前線でお相手致しましょう!」


 目に暗い影を携え、血相を変えて部屋を飛び出していくレイノズル将軍。


「どうしよう……行ってしまわれた……くっ!」


 居ても立っても居られずに僕も後を追うように玉座から飛び出していく。




 内部へ侵入することに成功出来たアルバート将軍は庭園へとやってきた。


「敵が侵入した! 迎え討てー!」


 兵士たちが内部侵攻を阻止しようと束になってかかる。


「うがぁぁああぁ……!!」

「がふぅっ……!!」

「邪魔だ、雑魚共。弱くて話にならん」


 アルバート将軍は錬成術であっさりと兵士たちを一掃。


「兵士たち、ここは引きなさい。あとは私が前に出ます」

「レイノズル将軍!!」


 ここで漸く、二人の将軍が相対する。


「改めてご機嫌よう。そしてようこそ、私の美しい要塞城ディアマンテカステッロへ。よくぞ本拠地であるここまで辿り着けましたね。流石は戦将軍という悪名なだけあります」


 過去といい現在といい、因縁の敵同士今ここで迎え討つ時が来た。


「漸く玉座の殻から出てきやがったか。まぁ、俺が引きずり出してやったも同然か」

「なるべく穏便に済ましたかったのですが、貴方があまりにもおいたが過ぎるので自ら出陣致しました。あと、私の自慢の兵士たちを多く葬ってくれた分をきっちりと仇を討って返さねばなりません」

「そんな貴様だからそうして綺麗に保っていたんだろうな。遠巻きから撃ち殺しては勝つ術を持つ卑怯者が!」

「どの口がものを言っているのでしょう。何事にも、誰にでも算段というものはあることではありませんか。貴方だって同じ事!」

「屁理屈を言い合っても仕方ない。貴様さえ倒せば、この王国も俺の支配下になる」

「どこまでも、野蛮極まりない……そんな貴方が大嫌いです!」

「貴様如きに好かれたくもない!」


 サザンクロス国将軍——


 アルバート=ガリア=イージス


      対


 ウィンチェスター王国将軍——


 レイノズル=ゴート=ウィンフィールド


 遂に将軍同士の一騎討ちが火蓋を切って降ろされる。


「さて、年に一度の大干潮で一面に広がっていた海原が一気に干上がり、海底全面がダイヤと化した広い範囲。得意な水がない状況で、どう駆使されますかね?」

「この俺に不利など関係はない。有利に変えるだけ」


 黒いの中に収まる青く映えるアウィナイトの『五連指輪クインテット・リング』をはめた拳で直接地面に叩くとダイヤが水に変わる。魔化錬成術で炭素原子を水素原子に可変して水に変える仕組みですね。しかし、このダイヤの多さに勝てるのでしょうか? 資源をダイヤで賄っているだけにどこもかしこもダイヤの大地は謂わば全部私の武器でもあるのですから。ですので私の取って置きを、是非とも味わってもらいましょうか」


 レイノルズ将軍は懐からあるものを取り出した。


「初お披露目なばかりに、貴方に対して使いこなせることだけは、至極恐悦なことですね」


 手にしていたのはイヤリング状になっているアクセリア。ルースは宝飾の先にキーホルダーのようにチェーンに繋がれたレンズが付属していた。


「さあ、このイヤリングの本領発揮と行きましょうか——」


 レイノルズは右耳にはめているイヤリングからチェーンに付属しているレンズを白い瞳の右眼に直にはめ込んだ。


「コードロック——!」


 アクセリア『標的弾眼ベルサーリオ


 標的を記憶し、反応したレンズがスコープのように照準が表示された。


「さて、私の放つ弾丸を避けられますか?」


 ちなみに銃という物理的な武器を持っておらず丸腰の状態ではある。しかし、今の彼には錬成術の力がある。


「———アンリロード『零式神風不規則機関銃エアフォースランダムドッグファイト』!!」


 レイノズル将軍が唱えると宙に魔方陣が数個現れ、ダイヤで作られた弾丸がリボルバー式に装填されるように魔方陣に当てはまっていく。


「っ!!」


 弾速だけではなく、レイノズル将軍の速さが先程の比じゃなかった。走っているのではなく足元にある魔法陣の瞬足で素早く照準を定め、とてもではないがアルバート将軍の目では追いつけない速度で狙ってくる。ただでさえ外でもダメージを受けているために少しでも当たらないように


「いくらすばしっこい狼如き獣でも、隠れて潜もうとも、私の前では一匹たりとも逃がしませんからね!」


 右眼のレンズに力を込め始めると、イヤリングにはめ込まれている繋がっていない五角の星型である魔化錬成術の源『コア』が異様な光を放ち始めた。


「魔化錬成術『金剛万華鏡ディアマンテカレイドスコープ』」


 壁に隠れていてもダイヤが幾重にも写す鏡のようになっているところからレイノズル将軍はレンズを通して見透かしている。


「そこ!」

「っく! 姑息な!」

「すばしっこいだけに間一髪で避けますね、こうもしつこくちょろちょろと!」

「世界で一番美しいと言われるダイヤも、こんな扱いだともはやここは地獄谷だな」

「それはもう。まさしく貴方の行き先は地獄ですからね」

「ふっ、上等! 天国よりかはマシ。退屈しないで済みそうだ!」

「お望みであれば、私の手で地獄へ護送して差し上げますよ」

「だが、貴様如きに命を奪われる筋合いはない! 何度でも撃ち込んでこい。一つ残らず払い落としてやる!」

「魔能力を使って撃っている兵士たちと違って、私の場合はただ撃つだけとは限りませんよ」

「?」

「スナップ!」

「――っ!?」


 レイノズル将軍が指を鳴らすと爆弾を仕込んでいたかのように、ダイヤの壁が突然弾け飛んだ。まともに食らった訳ではないが、ダイヤの破片が飛び散って刺さったり傷が付いたりとダメージを受ける。


「外と違って狭いが故に、ましてや錬成術を加えてのこの威力をまともに食らえば身体が粉々になりかねませんよ。ここらの周囲は爆弾が仕掛けられていると思ってください。私のランダムでどうとでもなるのですから。例え隠れていてもカレイドスコープでこの瞳につけているレンズ越しで見えてますから」


 外と違って死角がなく、常に見えている上に照準が常に向けられている状態。一瞬の油断が命取りという不利な状況。


「相変わらず手口が狡賢い」

「貴方に言われると不本意ですね。私はこの世の悪を倒す為なら徹底するだけであって無闇に力を奮っている訳ではありません。貴方のいない世界でも、魔化錬成師の彼は私の国で今後も大事に育ませていただきますよ。我が国家安寧のために――」

「……口の達者さと一国の将軍としては悪くない力だ。しかし、こんなかすり傷程度は勲章にもならん。そして未だに貴様は、俺に遠く及ばない」

「この様な状況で悪足掻きを。観念なさらないのであればこのまま息の根を……!」

「『五連指輪クインテット・リング』の、奥の手を使わせてもらう」

「奥の手……?」


 リングに力を込め始め、構え直して手を添えた。


「っ! このまま息の根を止めましょう!」

「……来い、貴様の攻撃を何処からでも受け止めてやる!」

「何処にそんな余裕が……! 言わずとも言葉通りにしてやりますよ!」


 不利な状況で余裕があるのが理解出来ないレイノズル将軍が挑発に乗り、アルバート将軍に照準を合わせる。


「ふふっ、先程のドッグファイトと一緒にしないでくださいね。『金剛石跳弾ディアマンテバウンドガン』!」


 この技は例え標的を外したとしてもダイヤが周囲を囲んでいる状況でダイヤ同士ぶつかり合えば跳ね返る仕組みになっており、標的を逃さず隙を突いて撃ち抜ける。そして照準に合わせて撃ち放ち、案の定アルバート将軍は軌道を見抜いて晒したがそこから弾丸が跳ね返り、まさに心臓に向かってダイヤの弾が目掛けて跳弾し上手くいくと確信した。


「これは……?!」


 しかし成功を思い描いていたのとは裏腹にアルバート将軍に着弾したダイヤの弾が粉々に散ったかと思えば空気のように消えていった。


「なん、ですって……!? ダイヤが消えた……!?」

「……消えた? 本当にそう思うか?」

「ダイヤのルースですよ! 世界で一番硬いと言われるものが、そう簡単に消えたりは……!」

「魔化錬成術を用いておいて聞いて呆れるな。俺は正にそれを使ったんだ」

「一体どういう……!?」

「ダイヤに含まれる多くの炭素を水素化し、更にその液体となったものも俺の『五連指輪クインテット・リング』で気体化して消しただけだ」

「っ!? 気体化……ですって……!?」

「例え水はなくとも、炭素分子を水の分子に生成して気化させる、これが俺の錬成術のとっておきだ」

「なっ……!?」


 レイノズル将軍にとっては想定外のとっておき。『金剛集中豪雨弾ディアマンテゲリラスコール』の時は使用していた炭素を水素化して液体に変えて攻撃出来る。そして今使用しているのが液体であるもの、または液体ではないものを水素化して蒸発させる『気体化』を使用している。これは僕がサザンクロス国から拉致される前に修行で試していた力をここで実践していた技でもあり、化学力と魔能力を交わらせて駆使しただけに魔能力の消費も激しく伴う。


「まぁ、気体化するにもおよその力を要するが、貴様を仕留めるには充分だろう」

「くぅっ……!!」


 予想外の展開にレイノズル将軍も本当にピンチに追い込まれそうになってしまう。


「無駄撃ち鉄砲、数撃ち当たるにしても気体化には無意味」


 放たれる無数のダイヤの弾もどんどん気体化して消していく。そして、レイノズル将軍の間合いが取れた。


「捉えたぞ!」

「っ!?」

「はぁっ……!!」


 間合いに入れた渾身の拳一撃をレイノズル将軍にお見舞いする。


「——っぐぅ……はぁ……!」


 その衝撃をまともに食らい受けて身体ごと吹き飛んだレイノズル将軍。


「ふわぁあぁあ!!」


 レイノズル将軍の身体はそのまま玉座の間へと吹き飛ばされた。


「が、ふ……っ! ……ディアマンテの鎧でなければ、今頃内臓が破裂していました……けど、身体が……っ! わ、たし、は、こんな……こんなところで負ける訳には、いかない……っ!」


 ディアマンテの鎧のおかげで内臓の破裂と骨折は免れたが鎧は気体化して消え、しかもかなりの衝撃を食らった為に全身の激痛と痺れで自由に動けなくなった。アルバート将軍は容赦なく玉座の間へと歩み寄ると微動だに動けないレイノズル将軍からあるものを奪う。


「ちょっ……!」

「もう貴様には必要ないものだ」


 片手で簡単に取り上げたイヤリングを破壊する。すると、外部のダイヤ化していた珊瑚礁や海底が儚い音を立てて割れると共に消え、元の岩礁に戻った。


「ああっ……アクセリアが……!!」

「これで魔化錬成術も使えまい。辛うじてダイヤで構成された鎧でどうにか致命傷は免れてはいるが、既にぼろぼろの状態で俺の正拳をもう一度食らえば無事じゃ済まないだろうな」

「……っ!!」

「これで勝負あったようだな。さあ、さっさと終わらせ……」

「っ、その前に、降参の盟約を、貴方にお渡ししたはずです……! 負けた者に対する対価の盟約を、将軍とあろうお方がお忘れになったとは言わせません、よ……!」

「……ああ、そんなくだらないものがあったな。だが、あんな紙切れなんぞ負けた者には意味のない代物だろ。将軍さえ討ち取れば、この国や軍隊や民や資源は、みんな俺の物になるんだからな」


 アルバート将軍は敗者に容赦がない。調印書などは単なる紙切れにしか思ってない以上に、奪うものはとことん奪ってしまう。


「調印の盟約を交わせば、それは絶対の約束ですよ……! 破ればどうなるか、お分かりでしょう……?」

「何を言っている、先に戦争を仕掛けてきたのはそっちだろ? 言い訳をグチグチとのたまうやつが一国の将軍として呆れるぜ。負けたケジメはきっちりつけてもらわないとな」


 ダメだ、これは……!


「……っあ、あの、アルバート将軍!! お待ちください!! 恐れながら一つ、僕から提案があります!!」


 僕は意を決して二人の間に割って入る。


「……」

「……シビル殿……」

「……貴様、不自由なく生きていたようだな。盾如きが折れに対して意見を聞く理由は……」

「……まあ、聞いてあげてもよろしいのではありませんか……? あの盟約……いえ、『例の調印』にも、記載されているでしょう?」

「……ふん。盾よ、この俺に意見をするということは、余程のことなんだろうな?」


 納得いかなそうではあったが意外にもアルバート将軍はあっさりと耳を傾けた。


「あ、あの、ですね……僕っ……——僕はこの国に永遠に滞在することを決意しました。ですから、私は貴方の国へは戻りません」


『あ、れ————?』


「私はこの戦争を以てして、ウィンチェスター王国を治めし、レイノズル=ゴート=ウィンフィールド皇帝将軍に永遠の忠誠の誓いをたてました。この身は今後末永く、彼の側で仕えると……」


『僕は、何を、言っているんだろう——?』


「アルバート、お聞きになったでしょう? シビル殿の仰っていることは、お互いに交わしたあの盟約の条件下ですよ。勝敗関わらず、どんな状況であろうが彼の意思表示は絶対優先であると。貴方も調印を押印したからには、如何に蛮行なる行動をしようが覆せません」

「……」


「っ、アルバート将軍—……僕、は——―」


『違う、僕が言いたいのはこんなことじゃ——―!』


「あっ……!」

「なっ!?」


 一瞬だった。その直後に広く響き渡りそうな鈍い音が駆け抜けたのは——―。


「この、大腑抜けがぁぁ!!」


「いっっ、だああァァ!!」


「ちょっ――っ!?」


 突然の怒声と衝撃。そして猛烈な激痛が頭にそして連動するように身体中に痛みが駆け巡り。僕は反射的に大声で叫んでいた。


「アルバート! 魔化錬成師相手に何を……貴方には正常な判断はないのですか!?」

「あぁ!? こんなの、匿ったときから日常茶飯事で当たり前のことだ!!」

「当たり、前……だからといってアクセリアのある方で殴るなど……!!」

「うう……いだだ……いだい、なんで、あ、れ、でも、なんだか靄が晴れたように頭の中がスッキリと……」

「おい、貴様ぁっ!!」

「ぴぃぃいいっ!?」

「大腑抜け如きが、この俺にいけしゃあしゃあと! その発言は俺への反抗異論と捉えてもいいということなのだな!?」

「ひょわえぇ〜〜……!!」


 突然に響き渡る怒号。

 珍しく感情的になってる。

 これは本気の憤怒だ。

 目を晒したくても胸ぐらを思いっきり鷲掴みにされて動けない。


「まだ寝惚けているようならもう一発必要か……!?」

「あぁぁああぁ、あのですねぇ、そのですねぇ!! アルバート将軍、ち、違うんですぅ!! その、さっき言ったことは、僕の本心じゃありませぇん! それはですねぇ、くくくく、口が何故か勝手に動いたんですよぉぉ!!」

「っ!? シビル殿が正常に……まさか……アルバート! 私の暗示魔能力を、魔化錬成術で解いたというのですか……!? いつから見破って……!?」


「……暗示魔能力、なんだそれは?」


「なん、ですっ……て……!?」

「久々に頭にきたから無性もなく仕置きしたまでだったのだが、成る程……貴様がこいつに何かしらの小細工を仕掛けていたのか。つくづく、貴様の偽善者ぶりにはヘド以上のものがあるな」


 アルバート将軍は最初から何も知らずに……。


 この人の予想外過ぎる行動には呆気を取られる……。


「おい惚け!!」

「ヒョエっ!? ひゃ、ひゃい!! なんで御座いましょうアルバート将軍!!」

「貴様はこのクソみたいな偽善平和国家に永遠の忠誠を誓うというのは、事実の上か?」

「い、いえ、いいえ、断じて違います!! 私はこの国に永遠の忠誠を誓うつもりはありません!!」

「……くっ! 私の、最大の目的が……!」


 こうしてレイノズル将軍の本当の企みは予想外にも打ち砕かれた。


 アルバート将軍の奇行な本能によって——―。


「……貴様のそれが本意だと、受け止めていいのだな?」

「はい、偽りは御座いません! ただ僭越ながら、私のもう一つの提案をアルバート将軍に聞いて欲しいので御座います!!」

「性懲りもなく……だが貴様がこの戦争の盟約に関わっている以上、聞かざるを得まい。さっさと話せ朴念仁」


 盟約上僕の発言が、この戦争の終止符が大きく左右される——―。


「……僕は、サザンクロス国へ、クロノワールクローム城へ戻ります。アルバート将軍の元で変わらず従います。その代わり、レイノズル=ゴート=ウィンフィールド将軍のお命だけは見過ごしてください……!!」


「シビル殿……!」

「何を言い出すかと思えば、つまらんほどの滑稽ものだな。敗者に情けは無用というのが戦の鉄則だが、貴様が提案するからにはそれ相応の理由なんだろうな?」

「た、確かに仕掛けたのはあちらで、戦では負けました……! しかし、貴方にとっても僕にとってもまだ必要なお方なのです……!」

「この俺が必要だと?」

「魔化錬成師として、彼には存在してもらわないと困ることがあるのです……! だから……っ!」


 一瞬の沈黙。そして結論。


「……成る程な。貴様にしては的確で一理ある発言だな」

「え、うわっ!?」

「そういう訳だ——今回の盟約に関して、こいつの意見尊重で貴様の命は見過ごしてやろう。だが調印書に記載していた降伏盟約は鉄則上守ってもらう。そして、この「エサ」もついでに持ち帰らせてもらう。我が国には必須だからな」

「はは……エサ……か……」


 エサとしてそう言われても、何も荷物のように襟を掴んで背負い持って帰ることはないはずでは……?


「……私としては、シビル殿の不在は、相当の痛手ですね……」

「この腑抜けのおかげで貴様の命があるだけありがたいと思え。今後は貴様の軍事国家活動の動向を監視し、こちらの管轄で制限させてもらうからな」

「……貴方の本能に完敗です……参りました……」

「……レイノズル将軍……」

「凱旋だ!」


 外で待機していた隊員たちを引き連れ、凱旋の帰路に着いた。地震による干潮の異常現象も、渡り着いた頃には元通りの海に戻っていた。









『ウィンチェスターの戦いは降伏宣言により、レイノズル=ゴート=ウィンフィールド将軍、敗北宣言——


 魔化錬成術同士の死闘の末、サザンクロス国、アルバート=ガリア=イージス将軍の勝利を治めたのである』


「ふぅ……こんなものかな。日誌を書くと頭の整理が出来て落ち着くー。本当に、散々な争いに巻き込まれたな……だけど、将軍達同士の戦いは凄まじかった。力を持たない者からしたら滅多に見られないだけあったし、将軍は最後の砦というだけあって、本気でぶつかり合ったら国ごと滅ぼしかねないことこの上ない……と、日誌の余韻に浸っている場合じゃない! ふぉえ、もうこんな時間!? 今日の午後には戦歴結果報告に招集されているんだった! 急がないとアルバート将軍にまた仕置きでどやされる!!」


 自室で書いたメモ帳型の日誌を懐に入れて僕は急いで支度して部屋を後にする。




「この度の戦歴としてサザンクロス国が勝利を収めた時の調印書のもとにより、ウィンチェスター王国から勝ち得た戦利品は以下の様になっております今回の戦利品として降参の盟約を交わしていた内容は、レイノルズ将軍の命を保持する代わりに、ウィンチェスター王国からはダイヤの資源の約五十パーセントを提供、更に約半数の市民を人質としてサウザンクロス国に強制送還などの功績を納めまして御座います」

「ウィンチェスター王国から入る資源物であるダイヤの強度の硬さから防衛対策に採用し、魔化錬成術導入の参考にする。あとは適当に他国に値段つり上げて売り飛ばして今後の軍事運用費の足しとして使用する事に……」

「お言葉ですが将軍。そこは適当ではなく、もう少し効率のいい売却の仕方をした方が……!」

「知らん。そんなに細かくこだわるならば、この国に区分を増やして資源売買専門を作ればいいだろ」

「しかし一つの区分を作るにしても、それこそ莫大な予算が必要で……!」

「騒がしい。細かい雑用の事柄を俺に振ってくるな」

「いえ、こればかりは重要な事柄に関し、将軍のご決断がないことには我々も動きようが……!!」


 このままだとまとまらなさそうに悟った僕が意見をする。


「あ、の……その件は僕も交えて協力します。理数計算は割りかし出来ますので、予算系統とかダイヤの市場価値計算は僕にもやれるような気がします。ウィンチェスター王国滞在期間に多少なりともルースのことを勉強して来ましたので。それと、他国に売るのでしたら女性向けにおしゃれとして作ると需要がいいかと思うので、加工技術を駆使して仕上げて行くといいと思います」

「本当ですか、シビル殿!  我々のない発想を提案出来るとは! とても参考になって助かります!」

「流石は魔化錬成師ですね!」

「ええと……そんな、大したことは言ってませんよ……?」


 この国に戻ってきた限り、戦以外では大雑把な適当将軍であれば国が内から潰れかねない。


 後半の会議は僕が仕切る形で解散となった。




「戦勝対談会議、お疲れ様でしたアルバート将軍」

「面倒な議論で俺は疲れた……仮眠を取る前にリキュールの『フブキ』を一杯もらう。あとここの片付けは貴様がやれ」

「……あのですね、アルバート将軍。立ち去る前に一つだけ、お聞きしたいことが……」

「此の期に及んでなんだ。愚問だったら断るぞ」

「は、はい……戦に置いて、将軍はみなそれぞれに掲げるものがある中で、アルバート将軍は何の為に戦うのですか? 国の為、地位の為、名誉の為、誇りの為、資源の為、征服の為、民や仲間の為——。きっとレイノルズ将軍をはじめ、各国の将軍にはそれぞれ胸に秘める矜持があると心得ます。私はこの国に仕えてから数年が経過していますが、未だに貴方様の目的が定かでない。この国に従ずる信念を固めにくいので御座います。是非、教えていただきたく存じます」

「……まさしく、愚問中の愚問だな」

「……では、お答えは却下と?」

「だが、貴様はウィンチェスター王国の件に置いてサザンクロス国に対し、「盾」として「エサ」として多大なる貢献をした。今後もこの国に尽くすその暁に特別に教えてやる」

「っぐ、はい…………」


「戦が好き、それだけだ」


「……はい?」

「戦は俺の生き甲斐だ。ただ産まれて、ただ生きて、ただ死んでいく。そんなつまらん人生など、俺には生きる意味がない。戦いの中で生きていることを実感出来る。相対するときの刺激と悦楽。戦は俺の為にあるものだ」

「……お言葉を返すようですが、それだけの意思でずっと戦争を……」

「それだけ、とはなんだ? 貴様の愚問に答えてやっただけでも光栄に思え」

「は、はぁ……」


 アルバート将軍にとっては戦が全て。

 ただ、それだけ。

 大義名分も何もない。

 ……これが正に、愚問愚答。


「大体、敵の暗部隊のしょうもない策略に引っかかり、貴様は他国に拉致された。そして敵の甘い毒蜜を啜られてあわや自然と寝返ろうとした。本来ならば貴様のような意思のない軟弱者で価値のないヤツはこちらから願い下げだ。助けに行こうなどとは微塵も思わない。魔化錬成師で『将軍の盾』の身分を誇りに思うことだな」


 そう吐き捨て会議室から去っていくアルバート将軍の姿を黙って見送った後に。


「うぅ……もう、あの人はしちゃかちゃだぁ……っ!」


 アルバート将軍の毒舌は僕にとっては致死量に値する。それを食らって机にひれ伏しながらぽつりと泣き言を呟く。


 やはりこの国に戻って来なければよかったかもと今更ながら後悔する僕だった。


♯7へ

 この作品の連載よりも他の事でバタバタしている作者です。

 というのも、この連載をしているのと同時に他の仕事も掛け持ちでやっていてその仕事先からの紹介でお願いできませんかという案件が一気にきてスケジュールを調整したりどうプランを立てていこうかということで頭を使いました……汗>>

 そんなこんなでなんとかスケジュール調整の目途はつきそうなのですが、またしても投稿がいつになるのか分かりません。といってもランダムスタンスは元々あるものだから今更感は否めません……。

 大変な反面もありますが、適度に仕事を頼まれるのは悪くないと思っています。

 次回作はいつになるか分かりませんが、またペースが掴める日にアップします。ではでは!

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