♯3:ウィンチェスター王国【滞在】
※途中でアルバート視点が入ります。
「失礼致しますっ!恐れながら、アルバート将軍に緊急伝令っ!!」
「……騒がしい、仮眠中に。この俺が寛いでいるというのに『緊急』ということは余程のことか……何用だ?」
「申し上げます! 魔化錬成師、シビル=ノワール=フォルシュタイン氏の国内あらゆる場所を捜索し続けているも未だ行方不明! 恐らく他国へ拉致された可能性が高いかと……!」
「……いないと思えば……まあ大方の予想はついていたが。少なくとも自ら数日に及んで俺を目の前から消えたりはしないだろう、あの腑抜けは」
「只今、サザンクロス国が誇る暗部隊が懸命に捜索と情報を集めております! 直ぐにでもシビル氏を探して……!」
「……放っておけ」
「はっ、あ?」
「俺に二度言わせるな、放っておけと言っている」
「し、しかし……!」
「……まだ俺に、三度同じ事を言わせるのか……?」
「ひ、あ、いえ……ちょっと『五連指輪』だけは……っ!」
「用が済んだらさっさと戻れ。俺はまだ少し寝る」
「は、ハッ!!」
「あと……そうだな、あの「盾」のことについて一つ付け加えるのならば、放っておけ――時が来るまではな」
「失礼致します。お早う御座いますシビル様。朝で御座います」
「ふぁ、あ……お、お早う御座います!」
一人の侍女がシビルの部屋に入り、着替えを持参してくれた。サザンクロス国では急にアルバート将軍から叩き起こされるという悲しい習慣があったために朝一に飛び起きて驚いてしまった。
「うふふ、身支度が終わりましたら、食堂でレイノズル将軍がお待ちしておりますのでおいでくださいませ」
「わ、わざわざ僕の為に、あ、ありがとうございます!」
「いいえ、当然のことをしたまでで御座います。では、私はこれにて。何かありましたらお申し付けくださいませ。それでは失礼致します」
侍女から用意された上下生成色のシルク生地の軍服を着用し、部屋を出る。あの人から変な子と捉えられていないか心配もしたし、恥ずかしい思いもした。
「この着替えもまた高級感あるな、ほんとこんな感じな待遇を受けたの初めてだな。サウザンクロス国では自分のことは自分でだったけど、国が違えばこんなにも違うものなんだな……」
ディナーを食べた食堂に到着したシビルはボーイに扉を開けてもらうと既にレイノズルが朝日の窓に照らされ、優雅な姿で食堂にいた。
「ご機嫌よう、シビル殿」
「お、お早う御座いますレイノズル将軍!」
既にダイニングに来ていた将軍に一礼し、食卓の席に座ると今日もまたディナーに続いて豪華な食事で彩られていた。
「やはり私の選んだ軍服、お似合いですよ。昨日来ていた黒よりも充分に映え極まっています」
「あ、ありがとうございます!」
「さあ、モーニングを召し上がりなさい。食べ終わりましたら、是非とも貴方をある場所へ連れて行きたいので」
「は、はい、どこへですか?」
「私がご案内しますのでシビル殿は付いてきてくれるだけでよろしいです」
「は、はぁ……え、将軍直々に……!?」
豪華なモーニングを終わらせ、レイノズル将軍に言われるがままついていくことにした。
「あ、あの、外に行くんですか?」
「ええ、ついでに観光でも行こうかと思いまして」
「か、観光?」
「はい、この国を知ってもらうためにも、シビル殿を是非ご案内したいと思いまして」
「それは態々、ありがとうございます」
お気楽にも僕に観光案内をしたいと意気込んでいるレイノズル将軍の表情は上機嫌である。
「それにしても、この要塞城は入り口まで広いんですね」
「ほんの一部ですから。あ、もうすぐ貴方が過ごした私の要塞城の全貌が見えてきます」
「ふわぁ……!」
二人が今いる場所は要塞城を囲む城壁の監視台。そこから全貌が見え、実は要塞城の周囲は海に囲まれており、まるでモンサンミッシェル風の要塞城。そして更に驚いたのはディアマンテカステッロは内部から外壁、城壁に至るまで全てダイヤ。噴水も街灯もどこもかしこもダイヤだらけの城に心臓の鼓動は跳ねっぱなしである。
「見えているあの山は?」
「あれは我が国のシンボルであるモンテチリエージョで、今でも活火山なのです」
「へぇー!」
まともに他国の情景を見たことがない僕はいつの間にか観光気分に盛り上がっていた。
「しかし今日はあの山ではなく、別のところをご案内します。さあ、ここから下へ降りますよ」
「あ、はい!」
レイノズル将軍に誘われ、エレベーターから下へと向かう。
「これで海を越えて案内しますので」
「豪華だなぁ……」
乗せられたのはこれまたダイヤを敷き詰めた豪華クルーザーであった。
「さあ、早速行きましょうか」
「は、はい!」
クルーザーに乗り操舵手の操作によってディアマンテカステッロから離れていく。
「シビル殿、乗り心地は如何ですか? ご満足は……」
「カモメー、カモメー! ほーら、エサだぞー!美味しい? じゃあ口移しで、イタッ!」
「いただけてますね。可愛らしい」
僕は動物が大好き。サザンクロス国でも自然豊かな野生の動物たちに癒され、ウィンチェスター王国でも同様に動物で日頃の疲れを癒していた。
「さあ、到着しましたね」
「うっぷ……少し、船酔いした……」
「よく我慢なさいました。お薬を手配しましょうか」
素早い手配で酔い止めの薬を処方することが出来て楽になれた頃、レイノズル将軍の後についていくと。
「シビル殿、あれが我が国の資源民の区分地区でして、ダイヤの発掘と製造と加工を行っている工業地帯で御座います。許可は通っているのでどうぞシビル殿もお入りください」
「いいんですか? うわあ、僕こういうの興味があるんです!」
「それはそれは、好奇心が刺激されますよ」
門を超えて暫く歩くとコンビナートのような建物が見えてきた。
「え、こ、このコンビナート、ひょっとして……!?」
「ええ、全部ダイヤで出来ております」
要塞城だけでなく、工業の建物、機械、道具が全てダイヤであしらわれており、目が眩みそうだった。
「この国は世界で最も硬いルースであるダイヤが大量に取れる王国。所謂、炭素が最も豊富にあるのです。世界でもっとも硬い鉱石なだけに、これだけのダイアがあればどんな衝撃や爆発でも微動打にしないのですよ」
「そうですよね。炭素が凝縮されていて鉛筆の芯と同じ要素でもその凝縮具合で構成が違っているから強度が全然違うんですよ。だからどんな打撃や衝撃でも耐えられるから、そんな資源が豊富に取れるのは他国で滅多になくて……!」
興奮したのか、久々にご機嫌に蘊蓄を流暢に話し出すシビルをホッコリとした眼差しで見つめるレイノズル将軍。
「はっ、ぼ、ぼ、僕としたことがつい知識を披露し過ぎて……!」
辺りが静まり返っていることに気づいたことに我に返り、謝罪する。
「謝る必要はありませんよ。流石は魔化錬成師だと感心しまして。そこも可愛らしいなと」
「はぁ……左様で御座いますか……」
笑顔で穏やかに受け止めてくれたのでここはうやむやで終わることにした。それからレイノズル将軍の指示に従いながら工業の中を案内された。そしてこれまた豪華な個室で高級茶葉を使用した紅茶を飲んで寛いでいた。
「如何でした?」
「凄かったです! あんなに多くのルースが発掘されて製造過程から加工場まで案内してくれて。僕は今までずっと錬成の記述を暗記したり没頭したりで部屋に篭っていたことが多かったので資源民や開発民の皆さんの現場を直に見られることが出来て勉強になりました!」
「それを踏まえた上なんですけど、またこちらへ来ていただけます?」
「え? はい」
休憩後、レイノズル将軍がまた僕にある場所へ案内される。
「うわ、薄暗い。ここは一体……?」
「さて、ここからは機密事項に入りますので、暫し失礼――」
「え――」
薄暗く見えていた辺りが急に暗闇に包まれた。
「失礼致します、アルバート将軍! 速報、緊急速報で御座います!」
「……くぁ……来たか」
「例のものがこちらへ到着致しました!」
「見せろ」
「はい!」
「……果報は寝て待て、だな……なるほどな、この内容と条件。そして向こうから歓迎してくれるとは、余程の自信があるということか。これを提出する、持ち出せ」
「はっ!」
「さて、いよいよか。俺の血を騒がしてくれるといいがな」
「……」
「殿、シビル殿、大丈夫ですか?」
「……――はっ! あっ……?!」
レイノズル将軍の声に気づくと僕はいつのまにか休憩していた個室に居た。
「今日の見学お疲れ様でした。さあ、あとは観光して要塞城へ帰りましょうか」
「あ、は、はい……」
僕の頭のなかでは『?』と謎の疑問が心境を占める。寝ぼけていたかのような曖昧な意識と記憶に違和感が残る。
「疲れましたか? 疲れた時には甘いものに限りますよ。この後、観光地に行く手配になっているので、名物をご紹介しようかと」
「は、あぁ……疲れてないような、でも気怠いような……」
「そうとくれば甘いもの食べましょう! 私もやみつきになる美味しい名物があるのですよ!」
「承知、しました……」
道案内を率先するように、振り返りざまにレイノズル将軍の右耳のトライアングルに模したイヤリングが印象的に光る。
「さあ、着きました。ここがウィンチェスター王国観光名所が一つ、ランバードストリートです」
「活気がすごいですね」
ウィンチェスター王国、観光名所ランバードストリートへと案内されたシビル。勿論どこも彼処もダイヤの建造物で満ちており、様々な出店が立ち並んでおり、売り子たちが客引きで賑わっていた。
「あ、将軍様よ!」
「レイノズル様がお通りになられるわ!」
「粗相のないように、邪魔にならないように道を開けて」
羨望の眼差しと気遣われる姿に本当に人を惹きつける。
「さあ、シビル殿、早速見て回りましょう!」
「あ、はい!」
少年に返ったかのようなレイノズル将軍案内され、様々な出店を見て回る。
「見たことがないものがいっぱいある。どれも興味深い」
「シビル殿、あれですよ! 貴方にお勧めしたい名物のあるお店が!」
「そんなに急がずとも……!」
「わっ!」
「あ、ほら!」
案の定急ぎ過ぎてレイノズル将軍の右肩に他人の肩がぶつかった。
「あ、すみません」
「こ、これはレイノズル将軍様!! も、申し訳ございません、私の不注意で貴方様の御肩に当たってしまい、つ、償いを……!!」
一人の住民がレイノズル将軍にぶつかっただけで周囲がざわつき始めた。ぶつかった民間人が跪いて必死に謝罪する。
「いいえ、私はいつもこんな感じです。はしゃいでいてちゃんと注意していれば良かったのです。顔をお上げなさい」
するとレイノズルはぶつかってきた民間人に徐に額に軽くキスをし、親愛を込めた。
「さあ、これで私と貴方の間には因縁も何もありません。あとは親愛が残るのみです」
「深い恩恵を、ありがとうございます……!!」
光景を見ていた周囲の住民たちが羨ましそうに騒ぎ見惚れていた。
「将軍様からの親愛の証よ!!」
「是非ともにあやかりたい!」
「御心深き将軍様、万歳ー!!」
「レイノズル様ー!!」
老若男女子ども問わず、住民たちがレイノズル将軍を讃えるようにして囲まれ、不穏なざわつきが称賛に変わっていた。
「民間人にもしてる。やっぱりあれは習慣なのか……もの凄い慕われようだ……」
これも将軍の器。住民に信頼されている統率者というさりげない威厳。昨晩に僕もされた額にキスされたことが身分のない民間人たちにもしてる光景に習慣は本当なのだと刻まれた。そう考えている内に名物が売っているお店に到着する。
「あ、いらっしゃいませ……レイノズル将軍様!」
「あの、ミエーレトルタを二つください」
「はい! どうぞこのまま持っていってください!」
「あのお金を……」
「いいえ、不要でございます! 偉大なる将軍様に食してくださるだけでもありがたく思います」
「そうですか。では、このお店を御用達にさせてもらいますね。リストに載せますので今後お世話になります」
「誠に光栄です! お買い上げ、ありがとうございます!」
御用達に太鼓判を押された店は繁盛する。店の売り子たちが羨ましそうに眺めていた。
「レイノズル様! お菓子にはこちらの高級茶葉など如何でしょうか!」
「更にこちらのお菓子、新商品ですので是非お試しを!」
「こちらの調度品も見ていらしてください!」
「どれも魅力的ですが、また日を改めてお伺い致します。本日は素晴らしいゲストを優先してお連れしているので」
やんわりと断りを入れて群がる売り子たちから離れていった。
「お待たせしましたシビル殿。はい、こちらウィンチェスター王国の名物菓子ミエーレトルタです」
「買いに行っていただいて、わ、わざわざありがとうございます!」
「このお菓子は蜂蜜入りでほんのり優しい甘さがやみつきになるんです!」
満面の笑みで幸せそうな表情につられて綻んでしまう。
「どこで食べます?」
「これは是非帰りのクルーザーでお茶をしながら優雅に夕日を眺めながらいただきましょう」
「名案ですね。何気にそういうの憧れていました」
それからランバードストリートで有名なダイヤで造られた教会や彫刻像などを見て回り、夕日に照らされたクルーザーで先程購入したミエーレトルタとカモミールティーに舌鼓する。
「ふぅ……」
「今日は如何でしたか?」
「はい、とても充実した一日を堪能させて頂きました。特に工業地帯は勉強になりまして、今後の研究の参考にさせていただきます」
「真面目なのですね。そんなシビル殿に朗報で要塞城外に一番大きい国立図書館が健在していますので、シビル殿に無許可無償で使用出来るよう手配致しましょう」
「本当にいいのですか!?」
「ええ、どうぞご自由に心ゆくまでお勉強なさってください」
「それは嬉しいです! 何から何までありがとうございます! 前にいた国では満足に出来なかったから……! ううっ、帰ってから早速通いたいです!」
「今日はもう閉館していますし、まずは申請してからなので暫しお待ち下さいね」
図書館の無料解放に心浮かれ、クルーザーに乗せられて優雅にお茶をしながら要塞城へと戻っていった。
♯4へ
週一投稿している作者です。
毎日配信更新なんてはっきり言ってムリです。YouTubeじゃあるまいしというアンチな気持ちでいます。
もしやってくれというのであればゆとりがあるくらいの収入があれば毎日でもやってやります【強がり】。とにかく気持ちを萎えさせず奮い立たせるためにも最近オシているYouTubeの配信ネタをヒントにしながら日々物語作りしていますw
小言は以上、ではまた次の投稿で!




