♯21:ロサミュエル公国【聖域区域突入】
後日、僕は村長に根底にある憶測を提案したことを話し、最初は無謀とも有り得ないとも否定されたが、僕が考察することを事細かに説明したら渋々納得をした上で、ジャバラ村長の知り合いである聖域人との謁見を執り行ってくれているということで地下避難所の一室を借りて返事を待っている最中である。
「シビル、あんた本当に型破りなことを考えるんだな。それも外界人の考えで、外にはそういう奴らが多いのか?」
一緒にいてくれているタージャが何気に抱えていた理由を僕にぶつけてきた。
「僕は何度もそういう経験をしてきているから」
「そうなのか! 奇想天外な考え方する奴がいるのか。いやー、外って広いんだなー!」
「危ないこともあるけどね。それよりも、ちゃんと聖域人の方と会わせてくれるかが心配で……」
「じいちゃんの知り合いだから、信頼関係はあると思うよ。九番街区でも信頼性一番の村長で有名だからな」
「外界人の僕だし、ここでは罪人として通っているから……」
「しかし、この国の為に動いて解決してくれるっていうやつを無碍には拒否しねぇよ! ちゃんと意見を説得してやってくれるならな!」
タージャの言葉を信じて僕は辛抱強く地下施設でジャバラ村長を待つことにした。
「おーい、シビル! じいちゃんが帰ってきたぜ! 来いよ!」
「え、本当に?」
数日後。ジャバラ村長が帰ってきたという報告があった。タージャの声で少し希望が沸いてきた。後に付いていくと避難所の外にいる村人達が正座をして待機しており、そしてタージャの祖父であるジャバラ村長と一人の見知らぬ中年くらいの男が立って待っていた。
「ほら、シビルこっちだ!」
「は、はい!」
僕はタージャに促され、ジャバラ区長の元へと歩み寄る。
「ふぉほ、シビルかい」
「ジャバラ区長、ご無事に戻られてよかったです!」
「ああ、この通りじゃよ」
「して、隣の方は……」
ジャバラ区長の横に正装で大層な身形の見知らぬ中年男性が佇んでおり、一瞬身が引き締まった。
「紹介する。わしがかつて聖域人だった時の心の友である現役で聖域人の特許を持つ、シャーロ=ドルケン氏じゃ」
紫を基調に聖域の礼服姿で茶髪で髭を生やしている五十代くらいの出で立ちをしており、一見強面で知性がありそうで物腰が良さそうな聖域人だった。
「どうも第三区画聖域人のシャーロです。お初にお目にかかる」
「初めまして、魔化錬成師のシビルです」
「魔化錬成師……このロサミュエル公国ではその特殊な身分において「特例」を意思強固で有名なジャバル裁判長から言い渡され、我らが誇るベルトラン将軍直々の再裁判判決にて不法侵入で五年懲役の罪人ではあるものの、外界人で希少人種であるのだな? 詳しいことはここにいる我が友のジャバラから聞いた。本当にお前が、謎の敵襲を受けているこのロサミュエル公国を救ってくれる提案があるのだと」
「……憶測な提案ではありますが、確信を得るには実際に僕の提案をベルトラン将軍に実行してもらわなければなんとも……」
「我が友から聞いた話では信じられないとは思っていたが、この国は今被害を受けて緊急事態である。裁判長にダメ元で話を通して聞いてもらうように最善の取り計らいはしてみたいと思う」
「ほ、本当ですか!?」
「ただし、何があっても自己責任は君に全て負ってもらう。この計画が失敗したときの罪も当然更に科せられるだろう」
「は、はい…………」
「大丈夫だ! 俺はシビルを信じる! みんなもそうだよな?」
不安で押し潰されそうになっているとタージャの一声で避難している民間人達が同意する声が響き渡る。
「……この様子を見ると、民間人との信頼関係が出来ているな。分かった、これを目の当たりにすれば君に手を貸さない訳にもいかない。私も覚悟の上でこの話に乗ろう」
「あ、ありがとうございますシャーロさん!」
「おいおいシビル! 聖域人のシャーロ様に気安い呼び方するなって!」
「いや、いい。魔化錬成師がこの国の問題を解決してくれるのであればどんな呼び方でも構わない。それではジャバラ、暫くの間シビルは私の元で預かるが構わないか?」
「ふぉほ、勿論じゃ。シャーロ、頼んだぞ」
「ではシビル、私についてきてもらえるか?」
「はい!」
「気を付けろよ、シビル! 何かあっても俺たちがすぐに駆け付けるからな!」
「ありがとう、行ってくる!」
タージャやジャバラ村長や避難している民間人の人々に見送られ避難施設を後にし、僕は聖域人のシャーロさんの後に付いていくことになった。
「私の住まいは聖域の三番街区だからこの地下避難所から距離がある。まずは六番街区に繋がっている地下階段から上へ向かって外に出て蛇車で向かう」
「街区? 蛇車?」
「罪人で捕まっていた君は九番街区にある「蜷局独居城」に隔離閉鎖されたところに幽閉されて分からない事だらけだろう。知りたければ出来るだけ教えよう」
「はい、ぜひお願いします!」
この国に関して今まで知らなかったことをこの人から聞き出せば、信憑性においても心配ない。いい情報源が手に入って心から安心出来る。
「まず、蛇車とはこの国の移動手段で、魔能力の低い民間人は借りたり運転手に乗せてもらうことが主流だが、魔能力の水準が高い聖域人の場合は自分で持てることが出来るんだ」
「では、シャーロさんは自前を持っていることですか?」
「そうだ。ただ、罪人の君を連れていることは内密状態ではある。罪人の認識を持っている民間人に君を公共の場に晒す訳にはいかない。そこで君には新しく雇った私の付き人として側にいる形でいてもらう。今からは六番街区に私自前の蛇車を置いているからそこまで向かう」
地下通路を程よく歩くと上へと繋がる階段が見えてきた。
「シビル、ここから六番街区に続く階段だ。上に向かう前にこれを君に渡す」
シャーロさんから頭から膝小僧下まで隠れるローブを受け取る。
「これから先は人目につく。君がいると分かったら街は大騒ぎになりかねない。それを防ぐ為に被っておきなさい。そして蛇車に乗るまでは私語は厳禁だ。話しかけられても会釈ぐらいにしておくように」
「はい、気をつけます!」
僕は言われる通りにローブを被り、姿を見せないように工夫した。
「では、行くぞ」
シャーロさんの後ろに付いて階段を上がっていく。そしてドアに手をかけ開けると六番街区に辿り着いた。六番街区は夜光石に灯されたまあまあ綺麗な夜の街並みに多くの人が往来していた。逸れないようにシャーロさんの後についていくと一人の中年男性がシャーロさんに声を掛けてきた。
「こんにちはシャーロ様! 地下に行ってたんですか?」
「ああ、九番街区付近の地下避難所の視察だ。民間人たちが無事であるかを確認しに行っていたんだ」
「九番街区が大変なことになっているみたいで、お疲れ様で御座います! おや? 隣にいるその人は?」
僕の姿を見て訪ねてきたので一瞬心臓が跳ねた。
「新しく雇った付き人だ。非常事態だから何かあった時の為に連れてきた」
僕は声を出すことなく言われた通りに会釈した。
「左様でございましたか。視察、お疲れ様で御座います。それでは帰路道中お気をつけて」
「ありがとう、急いでいるのでこれで」
僕も急いでシャーロさんから逸れないように後に付いていく。
「この先に止めている、あれだ」
「うわぁ、あれが蛇車ですか!」
人通りから外れた先に二匹の蛇が車を乗せている姿になっている光景でこの場で漸く初めてみた。二匹の大きい蛇が馬の代わりに手綱に繋がれて、その後ろに車になっており四人が乗れるぐらいの立派な広さだった。
「これ自前なんですね。しかもあの蛇はルースですか?」
「その通り。この国原産のアメジストの蛇で私の魔能力で動かしているんだ」
ロサミュエル公国の全員が魔能力を操れる特殊な国。その中で扱えるランクがあって聖域人はきっと魔能力の基礎が高い事が持ち物であると窺える。
「さあ、乗って。すぐに出発する」
言われるがまま僕は蛇車に乗り、シャーロが魔能力で蛇車を操作し、六番街区から出発する。
「よし、乗り込めば大丈夫だろう」
「はぁ……緊張した……」
「到着するまではここでしばらくゆっくりするといい」
「いえ、聞きたい事が沢山あります。この国の街並みって番号の街区で分けられているのですか?」
「ああ、地形は蛇状のジグザグの道なりになっていて下の十番街区から八番街区は低級民間人達が住む、所謂スラム街区域。そこから上に向かって七番街区から五番街区が中級民間人達が住む。民間人向けの宿泊施設、ルース素材、武器、飲食街、娯楽街などの店が集中しているストリート店が発達している区域。そして四番街区から二番街区は私のような聖域人が住む聖域区域で高級施設や住宅地が集う場所だ」
「じゃあ僕がいた場所はスラム街区だったんですね」
「牢獄の「蜷局独居城」が九番街区だったからだろう。しかし、スラム街区が見えざる敵襲に襲われている真っ只中だ。低級の魔能力では通用しない程に強くなっているみたいで聖域区域私にも問題は届いていて警戒していたんだ。そして十番街区に関しては、ほぼ壊滅的被害を受けている」
「そんな状態で将軍はどうしているのですか? 何故未だに助けに動かないのですか?」
「今の現状、私もその解決に向けて動けないでいる。それも理由があるが故で、将軍のご意向の元でなければ我々は出動してはいけないのが一番の理由なんだ」
「どうしてですか?」
「残念ながら将軍に関する情報はまだ君に教えることは出来ない。聖域人とはいえ、私はまだその中でも将軍との直接謁見は許されない身の上でもある」
「そんな……!」
「しかし、私から裁判長に意見の提出をする嘆願書を申請する事は可能だ。ジャバル裁判長は将軍との謁見を許される上で意見を話せる唯一の存在。だから、この計画を動かすには全て裁判長へご意向をお伝えするしかない」
「じゃあ、どちらにしても、あのジャバル裁判長を説得しないとダメってこと……」
「私の憶測からしても君の意見が通じる可能性は今のところ七十から八十パーセント不可能に近いと考える」
「……ほぼ不可能じゃないですか」
「そこにはやはり君が外界人で罪人であることがネックになる上に、君は今服役期間を厳守しなければならないことを破っている状況で不利な事が多いからだ。しかし、君には害がないことを確実に証明して説得する機会を得れば不可能を可能へ比率を上げることが出来るやもしれない」
「な、なんだか出来るか不安になってしまいました……」
「しかし、君には一つ強みがあるだろう」
「魔化錬成師の身分ですか?」
「ああ、君を法律で咎めることは出来ても君を殺生することはこの国の法律でも許せないのは各国共通であるのは誰もが知っている。その上で君の錬成師ならではの提案を聞いた時には有り得ないと思ったと同時に一縷の希望にかけてみたいと思ったのも事実だよ。だから命を懸けて協力しようと私自身が決めたんだ」
「シャーロさん……」
「私も出来ることは尽くす。だから君も最善を尽くすことを約束してくれ」
「……分かりました」
凄く期待されている。この人の気持ちを裏切れない。やれるだけのことはやろうと心に強く誓う。
「さて、もうすぐ四番街区に到着する。シビル、この下に隠れてもらえないか?」
「え、ここ?」
「検問があるんだ。聖域人以外の立ち入りが制限されている。私の家に辿り着くまではここで隠れてもらうからその間は出てこないように、声を出さないように頼む」
隠れるように指示された場所は座席の下が開き、荷物入れになっているところだった。僕の背丈でどうにか入るぐらいでシャーロさんの言う通りに隠れる。そして蛇車は四番街区の門に辿り着く。
「シャーロ様、お勤めお疲れ様で御座います!」
「六番街区から九番街区の近場まで被害の様子を視察してきたんだ」
「お勤めありがとうございます! 失礼ながら蛇車を検問させていただきます!」
門番の検問が入る。やってることは見えないけれど、隅々まで何も問題がないか調べていることだろう。見つからないか緊張しているので検問の時間が思った以上に長く感じた。
「ご協力いただきありがとうございます! 異常なしなのでどうぞ、お通りくださいませ!」
「お勤めご苦労様」
やり取りを聞いてどうにか検問を突破したようだった。蛇車が進むのを肌身に感じると程なくして止まったのが分かり、ひとときして蛇車が止まった。
「待たせたね。三番街区の私の家に着いた、出てきてもいいぞ」
シャーロさんから漸く出ることを許され、ほっとして隠れ場所から外へ出る。
「ふわぁ! 広い!」
蛇車から降りるとまず広い庭園が見え、大きな一等地とも言えるアメジストのルースで造られた屋敷がドンと建っていた。先程のスラム街区や民間街区とは大違いでお金持ちが住むような高級感溢れる自宅だった。
「私の敷地内だから自由に動いても大丈夫だよ。さあ、部屋へ案内するからお入りなさい」
シャーロさんに広い自宅に招かれ、案内される。
「さて、ここまで来ればもう安心だ」
「ありがとうございましたシャーロさん」
「先ほどの話の続きは談話室で話そう。こっちだ」
内部も家具から何から高級に溢れている。シャーロさんの後に付いていき、談話室へと辿り着いた。
「紅茶は好きかい?」
「はい、飲めます。自分で入れているんですか? 給仕さん達は?」
家に入ってからは使用人が誰一人いなかったことに気付いた。
「帰宅する時間帯だからいるのは私だけだ。そして君を預かる間は休暇を取るようにお願いしてもらったんだ。だから私以外誰もいない状況だ」
「態々そんな計らいを!?」
「なに、基本的なことは自分で出来る。困った事があっても魔能力でどうにかなるし、料理は必要な時間に来てもらって終わったら帰るようにしてもらった」
「ここまで気を遣ってくれて逆に申し訳ないです……」
「今の時点で君がここにいることを悟られるのはお互いにまずいからな。遠慮してもらわなくてもいい。これも国の為だ」
なんて器量が広い方なのだろう。僕が罪人でなければこの国の人達はきっと更に優しい人種なのだろうというのを身をもって知った。
「さて、シビル。本題の続きだよ。まずは裁判長の謁見に関することと、この国の裁判の仕組みを説明するよ。ジャバル裁判長は一番街区のリューリタ裁判所というところにいる。その中の祭壇の間ですることになっているんだ。」
「確か僕の再裁判のときにその場所へ行ったことを覚えてます」
「君が実際に経験した通り、仕組みとしてはジャバル裁判長を始め、審判員二人、裁判員の聖域人が五人、傍聴席には選ばれた聖域人という中で執り行われる。その中で我々は訴訟する形をとることになる」
「そ、そんな中で訴訟すると思うと足がすくみますよ……!」
「竦んでいる場合ではない。私とそして君の命運もかかっているんだ。当然、弁明する人もあの場所にはいない。その中で君の意見が勝訴しなければならない。その為には強く説得するだけの意見を用意することしかないんだ」
「うー……」
「しかし、今回に関して違うことがある。一つは何度も言うが、君の特殊な身分だよ」
「魔化錬成師の身分……」
「それは君の身を守る盾にもなる。それは裁判で徹底的に誇示した方がいい」
シャーロさんの話で初日に牢屋に閉ざされた中での突発的な判決を言い渡された理不尽な境遇を思い出す。
「確かに僕が独房で捕まっていた中で判決を突き付けられ、危機的状況で自身の身分を打ち明けたことによって「特例」が出されたのもこの身分のおかげだったから。でもあの時は訳が分からず、無我夢中だったから……」
「そんな感じで咄嗟の判断が功を奏することもあるのだよ。だから次も出来る筈だ」
「……僕の持つ提案は五分五分の確率です。意見次第で左右されますからなんとも……」
「では今回が違うところをもう一つ上げてみようか。それはね……誠心誠意、誠実な心だよ」
「誠実……」
「だから私も誠実に矢面に立ち、またあの裁判に新たな「異例」を成し遂げようではないか」
シャーロさんの誠意ある言葉が僕の不安を宥めてくれる。そして一番聞きたかったことをシャーロさんに告げる。
「シャーロさんは、初対面の僕に、罪人の僕にどうしてこんなに協力的なんですか? よく考えてみても、やはり面識のない人にここまでしてくれるなんて滅多にないでしょうし、ただそれだけではない。そう言っているのが表向きな気がして仕方がないのです」
「……君が魔化錬成師、外界人、罪人とは思えない優しさと誠実さ。それは表向き思うのはあながち外れていない。私が何故君に協力するのか。それは君が再裁判を起こした「既成事実」があるからだよ」
「あの時の再裁判……」
それは僕が魔化錬成師だという身分を証明するために起こした再裁判のことをシャーロさんは言っているだろうと思った。
「再裁判の話が起こったときは聖域人のみならず全民間人の間に噂が巡ってきたのだよ。しかもベルトラン様がその裁判に参席されて直判決をなされたと聞いたときには誰もが驚いた。提訴不落の裁判を申し立ててやり直しの判決がなかなか覆らないと言われる我が国では衝撃だった。そしてその矢先に私の親友であるジャバルからの話だった。九番街区で魔化錬成師を匿っていると聞いたときに何かのきっかけになればと思った」
「貴方も関わって巻き込まれるかもしれないのに……」
「君はこの国に不法入国者であって判決が即決で下った極限の中で再裁判という異例を起こした。これは聖域人のみならず全民間人全員が噂にするほど有名な話になっているよ。特殊な身分をあまり公共で明かしてはならないという中で君が自ら力を証明するといって将軍相手に自ら直訴して見事に成し遂げて罪を五年ほど下げたという外界人では特例なのだと。その事を思い出すんだ。これは弱気になっては裁判は覆らない。今後は気をしっかり持つように心がけるんだ」
タージャに救われ、ジャバルさんの縁を経てシャーロさんが協力してくれる。ここまで協力して支えてくれる人の存在に僕も、弱気のままではいられない。
♯22へ
春眠の影響「?」で作品制作に多少の支障を抱える作者です。
仕事場でもそうですけど、やたらと不意に眠気がきたりゲームとかはやる気があって一生懸命やるのに……なんだか怠惰が出てきている感じがします。個人的には好きな季節ですがこういった春の効果ってある意味すごいんですね。とりあえず小説に限らずこれを基盤としていろんなことをやってみたい思いは日に日に膨らんではいるんですよね。これも春の効果なのかな?
次回はシビルがロサミュエル公国のために自身の抱えている罪を顧みず緊迫した波乱の展開に突入していきます。ただ、この次の作品がまだ未完成なのでひょっとしたら投稿延期になる可能性があります。これも春の効果かな【言い訳】。それでは☆彡




