♯19:ロサミュエル公国【牢獄服役ルーティーン】
「んぅ……朝……いや、夜か……ふぁ、眠すぎる……」
ロサミュエル公国は夜に活動する夜行性種族。朝方の僕にとっては中々慣れない環境ではあったが郷に行っては郷に従う。というのが新たな国に慣れて生きていく上での術であり、基本中の基本。というよりも拉致され始めてから身に付けた僕の経験で得られたものでもある。
服役一日目の牢獄生活が始まった。外に一切出られない僕がまず出来ること。
「眠気飛ばしに、体操しよう」
まず鈍らないように体を軽く動かす。上下左右に体を回し、手と足を伸ばしストレッチをする。そしてサザンクロス国で行っていた簡易的な軍体操を行う事で少しでも運動不足を解消したい。
「ふぅ……よし、終わり! って……言ってもやっぱり本一つもなければ紙やペンすら置いてないな。書く暇さえ与えてくれないのか。なら、この場所と周囲の習性などを把握しよう」
一呼吸してある程度体がほぐれた辺りで体操を終了したものの、まだそんなに時間が経っていない。そこで初めてである為にこの場所を把握するのが一番いい。
「戦が好き」という誰かさんとは違い、僕にとっては戦いや体を動かすよりも頭を動かす方が一番好きだ。ドアのところに格子があり、外が見える隙間があったので歩み寄って覗いてみた。
「うん、予想通りやっぱり暗いな……廊下の奥が全く見えない……」
今は夜。当然だ。そしてこの行動で勘違いして欲しくないのは別に脱獄などを図ろうとは思っていない。
仮にしようにも道中目隠しをされていたこともあってロサミュエル公国のどこに何がという場所の情報を把握していない。もちろん地図なんていう情報が漏れるような書物類がある筈がない。故に慎重派である僕はなんの準備もなしに脱獄なんていう大それた計画は図れない。
それに法律国家の国だけに、下手に脱獄して再度捕まれば罪が重なる可能性もあることを予測していたので小心者である僕は脱獄などの勇気も微塵もなかった。
なので脳のトレーニングとして空想シミュレーションなどをしてここに何があってどんな造りになっているだろうという想像を膨らませるのが好きで、何より閉鎖されている空間にずっといても頭が鈍らないようにするのが目的だからだ。
「夜はやっぱり薄暗くて、灯りはあっても正確な内部構図は把握出来ないか。でもここは独房であることは間違いない。牢屋とはいえ、他の罪人を見かけないし、誰一人として他人の気配がない。故に独房と判断していいだろう」
しかし、牢屋の外を見て一つだけ気になったことが。
「夜に照らしているあの灯り。確か裁判城の柱にも使われていたものだった。きっとあれがこの国の日常生活に欠かせないもので、夜にだけ光る鉱石を使っているのかもしれない。ということはこの国で生産されているものかも……はぁ、調べたいな!」
僕の知識欲が疼いた。想像するだけでも楽しいが、本でしか情報を知り得てない僕にとってはその国や土地でしか手に入らない、見られない鉱石などの実物を手に取って調べてみたい欲に駆られる。他の国でもそれで楽しんでいたし、退屈凌ぎにもなっていた。
「あれ一つ牢屋の中にあるだけでも退屈凌ぎになれるのに……なんとかならないかなぁ……!」
独房という中、有利でもあれば不利でもある状況。やはり、情報には人がいないことには何も始まらない。
「夜光石は後に解明するとして、僕がずっと不思議に思って印象的だったロサミュエル公国のベルトラン将軍が僕の生成する『コア』を望まなかったこと。魔化錬成術の力を必要とされなかったのは初めての経験だったな……」
各国将軍は少なからず僕の力『コア』を生成したアクセリアを欲している。なのに、無欲なまでに裁判の時のベルトラン将軍ははっきりと断言し、これ以降要求されることもなく過ごしている。
「それどころか、雰囲気と様子からして僕の存在自体を拒絶するような反応と言い方だった。何か理由があるのか……うーん、気になると猶更実際に人と関わりたくなる! やっぱり一人で過ごすには限界があるにはあるなぁ……誰かここへ来ることもあるのかな?」
ここに来るまで今までが自由に過ごしてきただけに、一日何もせずというのは存外厳しいものだ。ベッドの上で様々な情報を整理し、終わった後に先程の灯りに使っていた鉱石についての想像とこの国の情勢にベルトラン将軍の僕に対する不可解な態度について巡らせていたときだった。
「牢屋番号十五番!」
「ショワァッッ!?」
考えごとをして周りが見えていないだけに、突然の人の声に心臓が跳ね上がった挙げ句、変な声まで出してしまった。気恥ずかしい中でドアの方向を見た。
「ヒャワワ……ど、ど、どちら様……!?」
「食の時間だ、下の受け取り口から貰うように!」
どうやら牢屋番をしている番人が僕の部屋へ朝食を運びにきたようだ。受け取り口の下からトレーに乗った食事が僕の部屋に入ってきた。
「食事……はぁ、よかった! ちゃんとご飯は用意してくれるんだ!」
罪人の身分でひょっとしたらこのまま飢え死にも考えていたが、これから牢獄生活をしていく上ではご飯は至極のひと時になりそうでまた一つ素晴らしい退屈凌ぎになりそうだった。
「う……なんだ、これは……!?」
が、しかし運ばれてきた食事が見るに耐えない程の衝撃を受けてしまった。
「紫の食パンに紫のこれは……バター、みたいなもの……? そして紫スープに紫の……これはヨーグルト……的な……? そしてこれは紫の不思議な飲み物……青色じゃないけど、それに続いて食欲が抑制しそうな色だ……」
毒気のあるゲテモノみたいなものが出てきて、食べようか躊躇してしまう彩りの食事だった。
「……でも、ここの国の服役飯ってこんなものなのかな……まぁ、ないよりかはいい。これしかないし、食べないと一日乗り切れないから……朝食を……ん? でも今は夜だから夜食になるの、か? でも、この国は夜起きて活動するから朝食のような……ややこしいな……」
魔化錬成師の身分で今までの国では高待遇や最低限の衣食住を今に思えば贅沢に味わってきたと痛感する。その気分が抜けきらなかったのもあって今の待遇はかなり質素に見えていたので、ここで初心に帰るかのように僕は質素な朝食という名の夜食を勇気をもって食べた。
「ふぅ、御馳走様でした」
出された服役飯、意外にも味は普通に美味しかった。というのも。
「グロテスクな見た目に騙されていたけど、食パンはブルーベリーテイストでバターもブルーベリーを練り込んでいたものだった。スープは味的にカブの味がしたから紫カブを使っていたのかな? ヨーグルトも飲み物もただブルーベリーを配合したものだった。この国ってブルーベリーが産地なのか? ただ、口の中が異常に甘い……」
口の中の甘味が残る中、空になった配膳をトレーごと持っていき、受け取り口の外に置いた。
「さて、これから何しようかな……?」
味もお腹も満たされたが、やはりその後は何もない。最低でも本だけあれば一日は早いものだが、何もしていない一日というのは長いもので一瞬寝て過ごそうとも考えたがこれ以上寝ると寝疲れして体が一段と怠くなりそうで困った。
「……あ! そうだ! 確かアレがあったんだっけ!」
突然あることを思い出した僕は、ベッドの下からあるものを取り出した。
「これこれ、このアクセリア!」
そう、昨日僕が魔化錬成師であることを証明する為に即席で披露したコアを錬成して創生した『アクセリア』だった。この国のベルトラン将軍からは不要と言われたものをそのままにしておくわけにはいかなかったので僕が持ち帰ったもので、力は込められているものなので他の手に渡らないように隠して保管していたのである。
「んーよく見るとなんかイマイチで中途半端な出来上がりになったな。素材があまりよくなかったのかな? この形からしてどこに装着したらいいものか……」
手錠から錬成したもので異様な形になっていた。
「僕が生成したこの『コア』。僕としてはえらく不揃いなアクセリアにしてしまったな。僕の力量が不十分なのか元の素材が原因なのか。やっぱり専門の装飾人に頼むといいな」
僕が魔化錬成師であることを証明する為に生成した不格好なアクセリアを眺めて疑問を感じることがあった。
「ダイヤ型の穴……大きさ的に指輪にも使えないし、この穴のサイズだと腕輪としても使えないし、イヤリングとしては大きいし……なんでこんなのが出来たのかな?」
形の不格好もそうであったけど、大きな疑問がある。
「でも、これら手錠から錬成して作られたものだから、ここで生産される鉱物とかを見た目と僕の記憶で調べられるかもしれない!」
そして僕は夕方までアクセリアだけに無我夢中になっていた。
「牢屋番号十五番!」
「ふぇいっ!?」
歪なアクセリアについて没頭していた僕はちょっとしたことでも驚き症の僕にとって急に声をかけられるとついつい変な声が出てしまう。
「風呂の時間だ。一時外出を許可する!」
「あ、お風呂……!?」
夕食が終わったロサミュエル公国でいえば朝の七時辺りに番人がやってきてそう告げられた。入れないとは思っていたが、ここのどこにお風呂があるのかと疑問に思っていたがちゃんと連れて行ってくれるみたいで僕はほっとした。
お風呂はこの服役生活での至福のひとときになりそうだ!
と、思ったのが間違いだった。
「では、これを装着してもらう」
「え、また目隠し……?」
「移動時の義務として着用してもらう。逆らうなら罪を科す」
「……わかりました」
裁判城の行き来と同様なことを番人から求められてきた。そこまで念には念を入れるのかとは思いながらもそんな言い返す勇気もなく、僕は仕方なく従った。
「ちゃんと歩け!」
視界が遮られているから歩き辛い。視界が閉ざされている中で両脇に番人がいて僕の両脇を掴まれ逃げられない状態にして連れていかれた。こんな状態だから誘導してもらわないといけないことではあるが、歩幅が合わないから腕を強引にぐいぐいと引っ張られ、加えてまた手錠も掛けられていたために乱暴な形となっている感じに見える。
「浴場の脱衣室に着いたぞ」
「あ、じゃあ外してもらえますか?」
「手錠は許可する」
鍵が外れる音が聞こえ、両手は一時解放された。
「あ、れ? あの目隠しは……」
「目隠しは外に出ている間、常に着用してもらう」
「ここでもですか!?」
「服役義務だ」
「でもこの状態じゃ何も見えないし、自分だけでは何も……!」
「我々が脱衣をする」
「わ、や、え……!?」
一瞬どういうことと思った瞬間有無を言わされず、強引に上下を脱がされていくのが感覚で分かった。
「ややや、ちょ、まっ、脱ぐのは自分で……!! ちょっ、うむっ……苦しっ……!!」
無理矢理脱がされ、手を引かれて暖かい湯気が身体中に伝わることで湯殿の中へ入っていくのが分かった。
「これより、洗髪を行う」
「え、嘘っ!? ちょっ、髪は自分で洗うから、わ、あつぅ!! 急にお湯をかけな、わはぁ!! 今度はつめたっ! ぬるっとしたものが頭の上で、いたぁっ! 髪引っ張らないでー!! もう少し優しく……!」
「いちいち喚くな、大人しくしろ!」
強引にガシャガシャと髪を洗われてお湯も雑に浴びせられた。
「ブワッぷぅっ!!」
「よし! 次は体の洗浄だ!」
「わひゃっ! あつぅ!! うひゃあ! 冷たいー! い、痛い、皮膚をガシガシこすらないで、体は、え、あ、ちょっ、あ、や、前は、前だけは、あ、あ、あにゃ、にゃぎゃあぁ――……!!」
「……はぁ」
入浴時間から牢屋に戻された僕は魂が口から抜けそうになったかのようにベッドでぐったりとなっていた。
「なんか、こんな事が毎日続くならせっかくの癒しの入浴が地獄の時間になりそうだ……」
「就寝時間だ! これより就寝中の時間帯に起きている者は罰を与えるものとする!」
番人が就寝報告したことによって朝九時には独房は絶対就寝。夜に寝る習慣のあるこの国は日差しが眩しい中で眠る。夜光石性質のある光もいつの間にか朝日を浴びることによって自然と消えていた。
「はぁ……入り込む日差しが眩しすぎて逆に寝れない……」
ベッドも硬い上に隙間から溢れる日差しが眩しくて眠れない状況での就寝。当分寝不足状態が続く。
というわけで、これが僕の服役の日課となっていったのである。
♯20へ
最近YouTubeで日本の良さを再確認している作者です。
日本と海外のあらゆる経済面、生産性、外向性などを比較しているYouTubeが挙げられているのを拝見していますが、海外からはかなり日本は絶賛されているみたいですね。特に感銘を受けているのが日本の自衛隊が海外が災害に遭って困っているときにすぐに救出し、人の為に慈しみを持って救命活動していることから感謝されているという素晴らしいものを拝見し、親日国が徐々に増え始めていることに改めて日本というものの文化、習慣、人当たり、マナーなどの良さを実感することが出来ました。
私個人としては日本の文化の良さがあると分かっているのと同時に仲間意識の強さの協調さが生み出される窮屈さやジレンマが時として鬱陶しさを感じていた時期がありました。何の為に、何故見ず知らずの他人の為に気を遣わなければならないのかということを。
しかし、先人たちの行いや行為が間違っていないことが海外で徐々に絶賛され、証明されている事実を知った上で心を改めることが出来ました。
その中で一つ憂いがあるとすればこれからの若い人が日本の文化の良さを失いそうになったり、相手に奉仕することが当たり前化していることに鬱陶しさを感じやすい昨今。多くの日本人は海外から絶賛されていることをもっと認識し、日本という恵まれた国、日本人でよかったことを少しでも多くの人に誇りを持ってほしいです。というよりも、日本のメディアがこれを取り上げてテレビに流してほしい。YouTubeなどでこれからももっと広めていってほしいです。そして、日本人の行動を当たり前と思わず、褒めることを恥ずかしいという気持ちはあると思うので口に出さずとも態度と行動でお互いに感謝の気持ちを持ちましょう。海外の人はちゃんと褒めるときには言葉にしてくれるから嬉しいですよ。
そしてこれからも誇りであることに驕らず、日本と海外との友好関係を継続していくためにもやはり「謙虚」であることを自覚し、思いやりを持って他国と向き合っていってほしいと海外に感心がある私には切に思います。とにかく、海外旅行……行きたいなぁ……! コロナ、終われ! マスクを早く外して呼吸を自由にしたい! そしてパスポート取っているからもっと海外文化に触れたい!
次回作は不憫な服役生活を送るシビルに展開が起こります。長々とあとがき失礼しました。
それでは☆彡