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♯18:ロサミュエル公国【裁判判決】

「懲役、十年……投獄生活、ですか……?」


 僕の前に現れた二人の審判官と裁判長。

 急に突きつけられた判決宣告。


「これは決定事項だ。この法律認定書である将軍様の烙印が何よりの証だ」


 勝手だ、勝手すぎる。


 僕の前に堂々と見せつけられているのは知らない間に判決を承諾したんだと確信せざるを得ない。

 勝手に入国、侵入したとはいえ不本意な境遇にあっている。気を失って牢屋に入れられている間に何も無しに知りもしないで、勝手に罪を科して判決されても困る。


「以上により裁判出張を閉廷する。それでは、我々はこれにて……」

「ちょっ……ちょっと待ってください!」


 僕は三人に対して躊躇なく静止を促した。


「被告者よ、抗うべからず。ロサミュエル公国で決められた決定事項は変えられない、異議も意見も受け付けない。下手に抵抗すれば更に処分が科せられる場合もあり得る」

「あの……ぼ、僕こう見えて、見えないかもしれませんが……実は、魔化錬成師です……!」


 自ら身分を告げるのは初めてだった。大概は狙われる可能性があるために隠して明かさないのだが、今回の場合は例外だった。


 でも告げてしまってはもう引き返せない、背に腹は変えられない状況だからここはもう、覚悟するしかなかった。


「……魔化、錬成師……?」


 その場が静まり返る。やはり僕の身分を聞いた途端に審判官たちが一瞬ざわめいたのを感じ取った。反応を見るからにこの国の人たちは流石に『魔化錬成師』という存在を知っていたようだ。


「ど、どういうことだ……?」

「言葉通りの意味です。この国でも世界共通として僕の身分を知っていてもおかしくないはずです。それとも、貴方がたは裁判に関係しているのに分からないなんてことはないですよね?」


 将軍相手であれば論破するのは難しいけど、こういう人たちと相手ならば多少の頭脳戦と駆け引きは得意。


「なんと……これが誠となれば、予想外だ……!」

「ジャグナール裁判長、この場合は、どうしたものでしょう……」

「……被告者。そなたが魔化錬成師だというその証拠は、あるのか……? 口だけならなんとでも言える。そのことが出まかせならばまた罪を重ねることになるぞ!」

「でしたら、この一方的な裁判を改め直して下さい。そうすれば己の特殊な身分が本当だと証明しましょう」

「さ、裁判長!」

「……暫し、待たれよ」


 三人の焦燥感からしてやはり予想外の展開だったようで身分を明かすだけでどよめくのは狙い通りだった。それを表わすように急遽と言わんばかりに三人は離れた場所で相談し始めた。


 ひと時して決意新たにジャグナール裁判長が僕のところへ歩み寄ってきた。


「被告者よ。お前が本当の魔化錬成師としての可能性が含まれている以上、この場合は一端「特例」として処理する。この国を仕切る裁判長のわしであれど、判断がつかない。急遽このことを我等が将軍様より告げ、判断を仰ぐこととする。改めて明日の夜にまたこちらへ伺う」

「明日の……朝、じゃなくて?」

「我々ロサミュエル公国民は夜に活動をする種族である。今回は急遽特例による非常勤裁判だ。よって夜にまたこちらへ伺う」

「夜の種族、なんですか……?」

「話は以上じゃ。我々はお暇する」


 そう言い残し、ジャグナール裁判長と二人の審判官の三人は僕の元から去っていった。


「ふぅ……どうなるかと思っていたけど、どうにか僕の特殊な身分がきいて一時的にこの牢屋から出られる、のかな……」


 一時的とはいえ、今の状況を打開できる策を実行出来て、緊張が解けて僕はベッドに倒れ込んだ。

 だけど僕からすれば少しでも状況が動いただけでも充分ありがたかった。


「とにかく少しでもこの国、ロサミュエル公国に関する情報を掴んで僕が置かれている状況を把握しないと……!」


 とにかく明日に備えて寝る。とにかく、寝よう。果報は寝て待て、という言葉もあるし。








「――こくしゃ、被告者、被告者よ。目覚めなさい」

「ん、むぅ……あ、え……っ?!」


 声に導かれるように僕は飛び起きる。檻の外には昨日の審判官二人とジャグナール裁判長が立ちす尽くして僕を起こしてくれた。


「え……あの、まだ夜ですよ?」

「我々ロサミュエル公国民は夜に活動すると昨日申し上げたはず。ここにいるのであれば、被告も従う義務があります」

「あ、そう……でしたね! ちょっ、ちょっと待ってください……!」


 そのことを寝ている間にすっかり忘れていた。眠気もあるが、この状況で意識が覚醒する。


「今回、被告者である貴方が魔化錬成師という立場を踏まえ、我々は再議論を行い将軍様の答えの結果、特例として再判決の申請が下された。これより被告者を裁判城に連れて行くことが決定した」

「開廷の時間が迫っています。今回は特例事態というわけで、この国を統べる象徴的存在であらせられる将軍様が直々に裁判に参列されます」


 ロサミュエル公国の将軍が裁判に参列するのはかなりの大事であることを語る。朝方の癖が付いている僕にとって夜の活動は慣れなかったが、郷に行っては郷に従う。急いで内巻きになっている髪の寝癖を手櫛で外はねに直して三人の審判官たちに歩み寄ると一人の審判員が檻から出してくれた。


「それでは、番人から被告に手錠とこちらをしてもらいます」


 裁判長と審判員の傍にいた二人の番人。一人の番人は手錠を持っており、もう一人の番人はある意外なものを手にしていた。


「それは、目隠し……?」

「はい、裁判城までの道中はこれを装着してもらいます」

「……分かりました」


 要するに罪人である僕に対して、この国の風景情報を知られたくないためのものだろう。念には念を入れようが半端ない。でも一時的でも外に出られるのであればそこは逆らうことなく、受け入れることにした。


「それでは参りましょう」


 手は後ろで錠に縛られ、視界は全く見えないという状況で僕は連れていかれた。









「目隠しを外すぞ」


 視界が遮られている間に裁判城というところまで連れて行かれた。誘導された後に到着したことを告げられたかのように目隠しが漸く外された。しかし手錠はそのまま外されぬまま過ごす羽目になった。


「着いたんだ、うわぁ……薄暗いな……」


 視界が見えて最初に思ったのは外と変わらない程の暗さだったが、唯一違ったのが青白い蝋燭が柱の上辺りに揺らめいて灯されていた。そして僕は中央にある立ち台に立たせら、周囲は裁判形式の


「これより、ロサミュエル公国将軍様より特例案による不法入国、侵入の罪状に対する被告者の再裁判を開廷する」


 ジャグナール審判長が木槌を二回叩く音が空間にこだますると僕の特例再裁判が始まった。


「我等がロサミュエル公国ベルトラン=タギリ=ウェルドレーク将軍様、ご参列」


 審判員たちが立ち上がり、軍歌のようなものが口そろえて裁判城内に響き渡る。開閉式になっていた壁が左右に開くと人物が現れた。


『この人が、ロサミュエル公国の将軍……』


 心身から萎縮するのを感じる自分がいた。しかし将軍の顔は布で隠されており、まるで閻魔大王から裁きを受けるかのような威厳で鎮座しており、この場でもあるというのもあるが表情も何もあったものではないが将軍としての風格と威厳さが離れていても背筋がビリビリとするような感覚で伝わってくる。


『この裁判で僕の行く道が変わる……ちゃんと話せるか……伝えられるか……とにかく、この状況をどうにかしないと……!』


「被告者よ、被告者よ! この国が誇る我らが将軍様を御前にして上の空か!」

「ヒャイっ?! す、すみません!!」

「特例を自ら引き起こしておいて、この無礼者め……っ!」

「お、お許しを……っ!」


 僕、またやらかした?


「……待たれ。皆、静粛に。仮ではあるが、被告、特殊身分である魔化錬成師の話を聞こう」

「しょ、将軍様……! ははーっ!」


 ベルトラン将軍の一声で周囲のみならず、裁判関係の人ですら頭が上がらず、言う事に従い鎮まる。たった一声で従わせる将軍の威厳。ジャグナール裁判長ですら有無を言わされない状況にまでさせるとは余程の圧倒的な支配力、軍事力、何よりも国としての誇りを思う尊さが一瞬にして窺えた場面だった。


「被告者、主の名を告げよ」

「はい、シビル=ノワール=フォルシュタインです……」

「……この国ではあまり、親しみのない名ではあるな。外界人だということが窺える、恐ろしいものよ……」


 確かに風体に似合わない名であることは自分でも認めている。ひょっとすると、この国では珍しい名前なのかなというのも念頭に入れとかないと傷つき方が半端ないのでそう考えることにした。


「被告者シビル、単刀直入に告げる。不法入国及び不法侵入で罪に問われている主は、本当に自身があの特殊な身分である「魔化錬成師」であるという証明は出来るか?」

「はい。丁度証明出来るので、よろしければここでお見せしても結構です」


 滅多に人前で公開することはないだけに、抵抗は若干あるものの限られた小数のみがここにしかいないため立場上仕方なく特別公開することにした。簡単に証明してもらえることを聞いて当然周囲の人たちはどよめく声が聞こえる。


「皆の者静粛に! 将軍様のおわす御前で神聖な裁判城で騒ぎ立てるでない」

「どうやって証明する? その状態から生み出すことなど可能なのか?」

「少々お待ちください」


 周囲が僕に集中する中、僕は「コア」を生成するある場所に力を込める。

 それは僕の右手の掌に生成用の錬成陣が浮かび上がると同時に見守っていた裁判官たちに響めきが起こる。

 そして僕を縛っていた手錠に力を込めると、コーメルシオの時の縛っていた鎖と同じように錬成し、見事に「コア」が込められたアクセリアを仕上げたのである。


「これが錬成術を発動させる「コア」が込められたアクセリアです」

「信じられない……あれが噂に聞く……こやつは、本物の本物だ……!」

「だとすれば、どうして希少人種なる錬成師が我が国へ不法入国及び不法侵入などという罪を……!」

「如何でしょう? 僕が本物の錬成師だということは分かっていただけたでしょうか?」


 「コア」の生成を見届けた上でベルトラン将軍の口が開く。


「不法入国に関する法律上の誤りを悟った。そのお詫びとして被告者の弁護を聞こう。主のような外界者が何故このような形でロサミュエル公国へと辿り着いたのかを説明してもらえぬか?」


 漸く僕の不遇な遭遇の誤解が解けそうな状況に、やっと弁明を赦してくれたことで僕の心は晴れ、無実を証明することが出来る。僕はここへ辿り着いた経緯を一言一句漏らさずに起こった事実をベルトラン将軍に告げた。


「……そうか、コーメルシオ諸国連邦から空を渡ってこの国の神域の禁域区域付近に不時着したのか」

「はい、偽りはありません。僕もまさか不時着したのがこの国とは思ってもいなくて、僕の意思で不法入国したのではなくて不本意な出来事だったんです! だからどうか許しを……!」

「……成程……主が不遇に遭ったことを認めよう。そうでなければこの国へ入ってきた辻褄が合わない。災難であることには間違いないとしかと心得た」

「じゃあ、それでは……!」

「……主の強大な源を創る力が偽りでないことは理解したが故に魔化錬成師と認めよう……しかし、わたいは錬成術という力を求めてはいない。それは不要の長物だ」

「……え……?」

「わたいが代々受け継がれてきた魔脳力は将軍の座として充分に有り余っている。そのような力なくとも借りることは、ない」


 僕の生成した錬成術を必要としない。こんな経験は初めてだった。各国の将軍は誰もがこの力を求めているはずなのに。


「……これを以て、この特例再裁判をわたいから被告へ直に判決を言い渡そう」


 ベルトラン将軍直々の判決。周囲の者も息を潜めて見守った。


「不法入国の件に関してはわたい等の誤りを認めることによって免罪しよう……だが、主が不時着したロサミュエル公国の神域であり禁域でもある歴代将軍のみしか立ち入ることが出来ない神聖な場所の不法侵入に関しては、どのような理由であろうとも免罪を赦す訳にはいかない」

「……え……?」

「よって、神域不法侵入の罪によりシビル=ノワール=フォルシュタイン被告者に五年の投獄服役生活を言い渡す」

「そ、んな……!」

「これ以上の異議は認めない。これにて特例再裁判は閉廷」

「これにて、閉廷、閉廷!」


 ジャグワール裁判長の木槌が響き、特例再裁判は閉廷した。将軍は去り、僕も兵士たちに強制的に連れていかれ裁判城を後にした。

 懲役が十年から五年に軽減されたとはいえ、五年もあの薄暗く狭い牢屋で投獄生活をするハメになってしまった。


 やはり魔化錬成師の身分をもってしても国によっては思い通りにいかないことを身をもって思い知らされた瞬間だった。








「はぁ……これから五年間も暗い投獄生活を強いられるなんて……」


 ロサミュエル公国にとっては夜は活動の時間帯。その証拠に番人たちは役目を果たすように見回りをしている。再裁判を終えて自分の牢屋に戻ってきた僕はベッドの上で起こったことを整理していた。当然、裁判城より外は目隠しをされたために視界からの国の情景情報は分からなかった。


「……でも、今回の再裁判は僕にとっては大きかった。情報入手するにはまず気になる点を抑えていくことが大事なこと。少ない情報でも何かをキッカケに掴んでいこう!」


 情報は目からだけではない。もちろんここへ辿り着くまでに耳からの情報もちゃんと入手していた。とりあえず理解していることをまとめると、ロサミュエル公国を統べるのがベルトラン=タギリ=ウェルドレーク将軍。顔は分からないままだったけど直々の対面も果たせた。法律の元で支配し国を治めている制度になっている。裁判の人たちが崇拝に近いほどに将軍を崇めている様子を見ていると、この国の区民たちも同様なんだろう。


「でも他の情報が掴めなかった。だからこそもっとこの国について詳しく調べていこうと思う。それにしても、僕の中で一番気になったのがベルトラン将軍が僕の力に興味がないような口振りと態度だったけど、それは事実なのかな? 少なからず僕が見てきた将軍は特殊な力をどんな手段を問わず欲していた。そんな中で力は借りないと聞いたときはそんな将軍がいるんだと珍しすぎて驚いたけど、逆に必要としないのには何か理由があるのかな?」


 しかし、これ以上追求しても思い当たる節も確定出来る情報も何もない。その時は別の疑問を考える。


「それともう一つ気になるのが、僕が不時着した侵入してはならないこの国の神域。見知らぬ僕を罪に仕立て上げるぐらいだからそれだけ近寄らせないようにする他者を寄せ付けぬ禁断の領域……ということになるのかな?」


 不法侵入のつもりではなかったが実は不時着した浮島から探索の意味で彷徨っていたとき、偶然その領域で実物を見ていたことをちゃんと記憶していた。


「あの時見た感じはルース、だったのかな……? でも、異様で異質なものだった感じがする……調べていないから詳しくは分からないけど、禁域であることと何かしらの関係があるのかもしれない……」


 そしてその後に背後から叫び声を聞いていつのまにか意識を失い、目を覚ましたときにはこの牢屋の中に閉ざされていた。


「はあ……! 気になることがいっぱいある! もっと詳しい情報が欲しい、その為なら僕も手段を選ばない!」


 今回は罪人の身分故に、当然資料も書類も本も一冊もない状況。頼んだところで断られるだろう。

 でも、逆に僕の知識欲が燃える。ないならないで打つ手はきっとある。

 情報が少ないからこそ、僕の調べ癖に闘志が付いたのである。


♯19へ

 久しぶりにカラオケに行ってきました作者です。

 まあ、随分と歌ってないと鈍るものなんですね。大学生くらいの頃は歌っていても疲れなかったのに今では歌った後に一呼吸休憩を入れないと次の曲に行けない。そして喉がつぶれやすくなっている。やはりアーティストなどプロで頑張っている人たちが凄いなと思いました。日頃から見えないところでボイトレや筋トレなど努力して表舞台に立ってパフォーマンスしているのだなと改めて感心しました。次に行く機会があったら喉を暖めて歌えるように準備していこうかなと思っています。


 ちなみに前回言っていた動画撮影の件ですが、カラオケで歌ったうたスキ動画に上げています。

YouTubeもしくはニコニコ動画に一般公開していますので「miAco」で検索してみてください!


 次回はロサミュエル公国でシビルの投獄生活編です!それでは次回☆彡

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