表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/24

♯17:ロサミュエル公国【不法入国】

「わ、わ、何? え?? アレ?? 僕、空飛んでる?!」


 浮島ごと宙に浮いていることに気付いて驚いた。空から聴き慣れた調子のいい声が響き渡る。


「……ハレック……おまいか」

「呼ばれて、飛んでて、東奔西走、律儀な俺様が風の噂を聞きつけて、失礼ながら上から馳せ参じたぜ!!」

「呼んでいない。むしろ、邪魔」

「冷たっ!! 顔に似合ってまさに、冷たいっ!!」


 ショックという言葉が目に見える程のリアクションを見せるハレック将軍。


「何しに来た? 同盟同士と言えども許可もなく勝手に入国してくるのは礼儀がなってない」

「だーかーら! この律儀な将軍である俺様がこの錬成師の坊主を預かるって言ってるっしょ!」

「……え??」


 ハレック将軍が調子のいい言葉で急に僕を預かると聞いて身の毛がよだった。


「……おまい、この期に及んで横取りする気か?」


 無表情に近いアンブローズの表情や目付きが鋭くなったを察した。


「誤解すんな、盗りゃしねぇよ! 俺様のスタンスである「風の噂」でイージス卿があんたの国に突如奇襲したと聞いて危ないと思ったから律儀な俺様は前もって上空でスタンバッてたんだよ! 同盟同士、当然のことだろ?」

「輪我輩はそんなこと頼んでもない。勝手な判断は……」

「っ!? ジョルダー卿、後ろ!!」

「!?」


 アンブローズ将軍の背後から鎖の破壊音が突如聞こえてくると同時に鋭利なものが向かって襲ってきた。


「っく?!」


 気配を素早く察知したアンブローズ将軍は寸でのところで鎖の輪を錬成術で束ねてガードした。


「なんだ、今のは……!?」


 冷静であるアンブローズ将軍も流石に少し焦ったような表情を見せた。襲い掛かったその謎の物体は水のように、しかし水ではない不定期な動きを繰り返しながら蠢いていた。


「……ちっ、慣れていない分、扱いづらいな」


 鎖で身体ごと鎖されていたアルバート将軍が姿を現した。水のような銀の物体が宙に浮かんでいるのを背景越しに見えた。


「わ!? なんだありゃあ!? 俺様見たことねぇっしょ!! ってか知らない内にイージス卿が進化してるし!?」

「ひょっとすると、さっき僕が合成した錬成術を巧みに使いこなしている……!?」

「アンブローズ、勝手に完結させているようだが、まだ勝負はついていないぞ」

「アルバート……相変輪らずしぶといな」

「まだまだ、こんなかすり傷程度の攻撃では俺を倒せないぞ」

「しかし、見る限りしんどそうだが」

「勝手に貴様が決めるな」


 よろける事なくスムーズに立ち上がる。体力が人知を超えているアルバート将軍ではある。


 しかし、あれは錬成術を使い過ぎている。無理もない、陸地からここまで力を頼りに使って走り渡ってきたんだから平然としていたとしても僕からしたらお見通しである。


「おまい……まさか輪我輩の資源であるシルバーを……!」

「貴様の国の生産物である銀を、このリングの力に纏わせてもらったぞ」


 アンブローズ将軍との戦いの前に、僕が『五連指輪クインテット・リング』にシルバーを錬成し、それを水に纏わせていた。


「銀とハイドロゲンに合わせて貴様のシルバーの元素を、液体化させてもらった。そして……」

「……っ!?」


 アンブローズ将軍がある異変に気付いた。


「鎖が、腐食している上に浸食が早い……!?」


 鎖がじわじわと腐食が進み、ボロボロと壊れ錆びていっているのを見て冷静な顔が強張る。


「今更気づいたか……俺を抑えて囲んでいた鎖から浸食させてもらった。そして更に、先程の高潮で蒸発したことを忘れていないか?」

「まさか、雹のように降ってきた大量の塩……!?」

「ハイドロゲンと銀の元素を分解し、海水が蒸発することによって出来た塩を合わせたものを錬成術に込めてこの煩わしい鈍り銀を腐食させれば貴様の武器も生成出来まい」

「……っ!」


 しかも雹のように降っていた塩はこの八等船の島船全体にかかっている。抑え込まれていたところだけでなく、満遍なく全体にかかっている為に通常よりも腐食の浸食が早い。不利からの後手を打って相手の攻撃を封じるアルバート将軍の戦知能がアンブローズ将軍の知能を上回り、不利に追いやった。


「おっとっと! やっぱここは危険だな。んじゃま、そういう訳で錬成師の坊主はこっちで預かっておくから、戦将軍を追っ払うなり倒すなりなんとかがんばるっしょー!!」

「え、ええーーっ!?」

「ハレック……待て!」






 僕がコーメルシオで過ごした記憶はここまでだった。今現在はと言うと……。


「ちょっと、何で僕が貴方の元に預からなきゃならないんですか!? 下ろして下さい!!」


 と、浮島の中で叫んでおり、ハレック将軍のジェット気流に乗って上空を移動中である。


 防寒具も何も着ていない僕にとっては外の突風は凍えやられてしまう為に浮島が防御の替わりになっていることで出ることが出来ない。


「くぅ……なんでこんなことになって……!!」

『おい、坊主! 聞こえるかー?』

「なっ……!?」


 突如ハレックの声が浮島の中で響き渡る。


『声の聞こえてる方、こっちだこっち!!』

「声って、ここから聞こえる……?」

『おーい!! 俺様の声聞こえるかー!?』

「う、るさい……そんな声はらなくても聞こえてますよ……!」

『やっと通じたっしょ! 今から俺様の国までひとっ飛びに行くからもう少し辛抱してくれっしょ!』

「なんでそんな勝手なことを……!」

『あの場所にいたら逆にあんたも巻き添えくらう勢いだったからこっちで預かった方が安全っしょ!』

「それはそうかもしれないけど独断実行で勝手に判断されても困ります! だから冷静になって話を聞いて……!」

『うわっ、なんだ!? 何が起こってるっしょー!? ああーっ……!?』


「え……!?」


 一瞬の浮遊感に見舞われた直後、重力に従って浮島ごと落下していくのを感じた。


「にぃぎゃああーー!!」


 その後に恐怖感が僕の心と脳内に占め、叫び声となって表れた。


「えー、と……これは、マジかっしょー……!」


 上から眺めることしか出来なかったお調子者のハレックもこの場面では流石に青ざめた表情で焦りが見えていた。










「……はぁ、色んな国に行くごとに、閉じ込められがちだよね僕は……」


 目が覚め起き上がったとき、また薄暗い部屋の中に窓と出入り口に頑丈でおどろしい鉄格子が張り巡っていた。ベッドは安置されていたものの、見渡すと周囲は殺風景。当然最低限のものしか置かれていなかった。サザンクロス国に保護されたことを始め、拉致されて牢獄され続けたことを思い返した。しかし、こういうことがサザンクロス国から立て続けに起こっていただけに何度も経験しているからこそ内心慌てず、騒がず、混乱することもなく慣れていくようになったことに逆に怖くなる自分がいた。


「ハレック将軍からどうにか逃れたものの、この状況と雰囲気からして、ここがいいところとは言えないし、なんか、気味が悪い……」


 ただ暗いというだけじゃなかった。空気が重く、どんよりとした牢獄みたいな、というよりも正しくその通りの場所であった。


「更に困ったことが今回は全くもって不時着したこの国に関する情報がない。あの物体があること以外は……」


 あの物体というそれは浮島が落下し、不時着した直後のことを思い返す。


「浮島の高度な技術で作られた弾力材のおかげで衝撃もさほどなく助かったけど、壁に取り囲まれたこともあって風景も何も全然分からなかった。迷い易いところだったし、不思議なモニュメントを見つけたけど、あれは何だったんだろう……? 歴史的にも価値がありそうだったし、ああ、思い返すだけでもじっくりと調べてみたかったなぁ……興味深く眺めようとしていたところにそこから謎の人物が僕の所へやってきて見つかって、首元に何針か刺された後に記憶が曖昧で目の前が真っ暗に……そして気づけば薄暗く狭い部屋に閉じ込められたところで目を覚ました」


 というのが僕がこの国へ不時着した経緯である。物思いにふけっていると足音が近づいてくるのが聞こえた。


「誰か来る……!」


 暗闇で視界は遮られていたがそれだけに聴覚が冴える。牢屋に響く靴音でこちらに近づいてくるのが分かった。


「裁判長、こちらが禁域の場所で捕獲致しました例の対象物です」


「捕獲」という言葉に「今なんと言いましたか?」という嫌な予感を察知した途端に緊張と恐怖感が身体中に駆け巡る。


「朝にも関わらずここに来るまでに起きていられたことが何より」


 目の前には紫音一色の法廷服を纏った髭を長く生やした老人の男と両隣に補佐的な男の三人が僕の前に現れた。


「アワハワ……あ、あ、貴方たちは、な、なな、何者ですか?」

「口を慎まれよ。これから我等審判官たちの合意のもと、裁判による判決を被告者に下す為にやってきた」

「え……裁判? 判決……?」

「我らはロサミュエル公国法律審判官の者で御座います」

「法律、審判官……」

「そしてこのわしが国の裁判の全てを仕切る最高裁判長のジャグナール=ワードローだ」


 ロサミュエル公国。厳格そうな老人の言葉から発せられたのはあまり聞き慣れない国の名だ。僕の記憶の中にはそういう国の情報は全くなく、歴史文献や世界共通書にもあまり聞かない国。それは裏を返せばこの戦争の世界では何かが起こればそれは記録として綴られ、世に出るのが主流のはずなのに、事を起こさず文献にも乗らないという国はとても珍しいことになる。


 そしてただでさえ空間が暗い中で寝起きで状況を上手く把握出来ていない上に更に重苦しい人物と発言に出会ってしまった僕。紫苑の裁判服を身にまとい長髭を生やした若干しゃがれた声色でいかにも頑固で裁判長として厳格そうな老人でジャグナール=ワードロー裁判長という初対面にも関わらず初っ端から最悪の状況に発展する。


「これより、被告に判決を言い渡す。ロサミュエル公国への将軍の許可なしに入国した及び神聖なる神域への不法侵入を犯した罪を問うものとする」

「罪に問われる……それは、どういうこと?」


 不安な心境でこんなところに閉じ込められて裁判長が来て判決を言い渡されて急な展開で頭がついていけない。

 いきなり見知らぬ国に来たかと思えば見知らぬ裁判長、審判官たちから言い渡される突然の有罪判決。

 不本意とはいえここに不時着してしまったことにこの住民たちが不法入国及び侵入と疑われてもおかしくはない。

 ただここは牢屋で、裁判所でも何でもないのにこちらの訴えも弁明も無しに被告者を無視して判決が下されるなど、無茶苦茶でありえないと思い、僕はこんな意見をした。


「あ、あの……お願いです! この国がどういったところであるか分からないのですが、僕がここに至るまで話は長くなりますが、僕はとある不本意なことに巻き込まれてここへ不時着したのです! この事を伝えたいのでもう一回裁判のやり直しの要請を、この国の将軍に会わせて下さい。どうか僕の意見を……!」

「静粛に。今の発言を慎め。被告の発する論理は現時点で却下する。外界者に対する我等が国が誇る将軍様への許可なくしての迎合は法律により禁じられている」

「そ、んな……!」

「よって被告者を不法入国者及び不法侵入者とみなし、ロサミュエル公国法律第六条、及び法律第十三条旨、五年の懲役、更に神域の不法侵入により更なる五年、合計十年の投獄生活を科す」

「十、年……?」


 気付かぬ間に僕は被告となり、一方的な裁判判決で有罪にされてしまった。新たに置かれた状況とこの国でまたしても前途多難な歩みになりそうであった。


♯18へ

 これから新たな試みを始めてみようかなと思っている作者です。

 というのは、あるものを動画配信してみようかなということです。詳しい内容は説明出来ませんが、既にそれに向かって自分なりに準備をしているところです。といっても動画を上げるにしても一ヶ月、最長二ヶ月ぐらいの「限定配信」という分類になり、一時的にYouTube、もしくはニコニコ動画に上げることになります。ちゃんと配信出来そうな場所で撮影して、ある場所で配信していこうかと思っております。勿論、この作品と同時進行でやっていこうという所存です。3~4分ほどの短い動画なのでそれが何十本かとれるものではあるので無理しないように調整していきます。ただ、自身の中で疑問に思うところは「YouTuber」としてやっていくかというとそうでもない心境だったりするのでどこか複雑なところはありますが、完成したものは次回の作品で動画のURLを貼り付けたいと思っています!


 次回作はシビルの前途多難、ロサミュエル公国滞在編です! それではまた!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ