♯16:コーメルシオ諸国連邦【コーメルシオ居城迎撃再戦】
※半ばアルバート視点あり
「ちっ! つまらんものを拾ったな」
「あ、あはワハワハワハワハ……ア、ア、ア……っ!」
僕の顔は既にこの海のように真っ青。
視界は未だ逆さまの状態。
体がえびぞりになって宙に浮いている感覚に、僕の体ごと脇に抱えられていたと察した。
その上から久しぶりに聞く相手に聞こえるくらいに吐き捨てたドスの効いた罵声。
陸地から海で囲まれている島船までには絶っっっっ対なる距離があるはずなのに忍者の水蜘蛛の術を使ったように、陸地からここまで海面を目にも止まらぬ俊足、いや瞬速で、百メートル走ならば約三秒感覚で走り渡ってきたのを目撃した僕は唖然を超えて狂い笑っていた。
「貴様の軍服に装着していた発信器を埋め込んだ甲斐があった」
「あ、あは、アハハ……そ、それを頼りに、ここ、まで海面を、走ってきたんですか……?」
「それがなければ俺はここに到着出来なかっただろうな。それぐらい察しろ愚鈍」
貴方もアンブローズ将軍のくれたミサンガと同様なことをしていたのですね。にしても、発信機が埋め込まれたからといって疾走してくるなんて。力を与えると本当にロクなことがなく無茶苦茶なことをしでかす将軍である。
「島ごと回遊し、漂うことで所在地が不明で中々辿り着けなかったコーメルシオ諸国連邦の行方を漸く掴むことが出来た。あとは……」
アルバート将軍が言い終わる前に巨大で長いチェーンが海の中からいきなり現れた。
「うわっはああっっ!? 今度は何ぃっっ!?」
「捕らわれた魚のように騒ぐな鬱陶しい」
その巨大なチェーンに乗っていたのは海へとダイブしたアンブローズ将軍。その手には魔化錬成術が込められたアクセリアを手にしており、見事にアンブローズ将軍の手に渡るようになった。そしてこの反乱の首謀者である第八班長アドワは伸びきって気を失っている様子だったが、鎖で体中蓑虫状態で縛られている状態で引き揚げられたようだ。
「アンブローズ将軍、ご無事で!!」
待機していた編成部隊数名がアンブローズ将軍のところへ颯爽と向かう。
「アドワを一時牢屋へ。後日自白の間で尋問を」
「はっ!!」
今回のシビル拉致犯人の首謀者である八等船班長アドワ=スターリングラードはそのまま捕らえられ、連行されていった。
「全編成部隊、この八等船全付近は更に大規模な戦場になる。民間人に第七班、第十班への避難指示を緊急館内放送で通達し、速やかに誘導しろ」
「了解です!」
的確な指示で他の軍人達は民間人への危害が及ばないように隣の島船へ避難指示を率先して行い始める。
「アルバート、またしてもおまいか」
「盾を連れて逃げたのは貴様だろ。それを追撃するのは当然。サザンクロスでの決着はまだ途中だ」
解決したのも束の間でコーメルシオ諸国連邦まで襲撃してきた人物をアンブローズ将軍は悟ったように言い放った。
アルバート将軍の奇襲は、いつも奇想天外である。
「うわぁ!! 黒曜の軍服……っ!? あれはもしや、サザンクロス国のアルバート=ガリア=イージス……っ!!」
「アンブローズ将軍に幾度と争いを交えた戦将軍が、こんなところまで……!!」
アドワの反徒事件が解決したかと思えば、突如として海の向こうから疾走して現れたアンブローズ将軍の因縁相手に気づいたコーメルシオの軍人たちは戸惑いを覚える。
「案外、迷いなく居場所を突き止めたな。不確定に回遊する上に、全地方常に濃霧に覆われている海域にあるコーメルシオ諸国連邦へ」
「存外、手間取った。陸地からの距離を測るまでは憶測で、行き着くかも定かではなかった。この島船が丁度いい距離で回遊してくるのをな。貴様が預かってたこの盾を、取り返させてもらう」
僕の憶測からに、陸地から海面をおそらく水の力を持つ魔化錬成術を足に練り込んで海面と反発させる事で走り渡って来たのであろう。
この人の本能センサーは侮れない……。
地獄の底からでもと言わんばかりに狙った獲物はどこまでも追いかけてくるという執念。流石は将軍クラス。
「……まぁいい。たった今この国を守れるくらいの互角の力を手に入れた。取り返されたのなら、再度取り返すまで」
僕から受け取った魔化錬成術の「コア」が篭ったシルバーのチェーンをかざすと錬成術が発動したのか、アンブローズ将軍の軍服に纏っていた鎖が反応しだすと同時に、八等船の島船にも異変が起こった。
「シビル少年、このアクセリアは輪我輩に力を託したということでいいのだな?」
「……あ、あの……まぁ、はい……」
「よし、錬成術を使用した上で輪我輩の本領発揮、だな」
アンブローズの力と錬成術が合わさった力が八等船に込められているのがみるみる変形していくことで目にとれた。
「……盾よ」
「ハヒ? んぎゃ?!」
「貴様、ヤツに魔化錬成術を与えたな?」
「や、あ、あの、これは、その、えっと、これは、説明すると、長くなって、何というか、仕方、なく……っ!!」
視界は逆さまでも、睨みを効かせたアルバート将軍の気迫と迫力には慄き、言葉が覚束なく脂汗が止まらない。
「盾の分際で余計なことを……まあ、少しは張り合いがある戦いが出来る、ということだな」
「結局楽しんでるーーっ!!」という心の声の大ツッコミ。戦がなければ退屈と言うだけのことはある。と、思っている間に島船が変貌していくのが逆さまながら目に見えていた。
「迎撃戦が始まる! 民間人たちを即座に避難させ、我々編成部隊もアンブローズ将軍の援護側に回って応戦だ!!」
「錬成術を手に入れた輪我輩は今やおまいと同等、もしくは……この領分であればそれ以上」
「ほざくな!」
「アルバート、ここへ不法入国した洗礼、輪かっているだろうな?」
「貴様との積年の決着に、この国を丸ごともらう。しかしその前に……」
「ぐぇぎゃっ!?」
逆さまになっていた視界が反転し、アルバート将軍の強面が視界に入る。気づけば片手で胸ぐらを掴まれ、ぞんざいな扱いを受けていた。
「貴様がいると邪魔だ弱虫。他将軍への力の譲渡に関する仕置きは後回しだ」
「そ、その前に、お詫びの代わり、ですが、これを、貴方に譲渡します……!」
抽出していたシルバーの塊を、魔化錬成術が込められている『五連指輪』に錬成した。
「俺のアクセリアに何を、した?」
「これで、どうか、他将軍への錬成術譲渡へのお仕置きをお見過ごし、下さい……!」
「どういうことだ?」
「使いこなせるかどうかは、アルバート将軍の御心のままに……」
「余所見している場合か?」
アンブローズ将軍が仕掛けてきたことによって開戦。アルバート将軍は最後まで僕の言う事を言う前に胸ぐらを掴んだまま、僕の体は投擲のように勢いよく投げられた。
「ぶふぉおっっ!!」
投げる勢いがあったのに僕の体への衝撃はクッション素材がある浮島が和らげてくれた。
「あ……僕はここで大人しくしとけと……もう少し丁寧にしてほしいというのをアルバート将軍に懇願しても無理な話だろうな……」
叶わぬ願いと思いながら勢いよくアンブローズ将軍が構えている八等船の島船へと向かう。
「なんだこのけったい形状の城、要塞城のつもりか?」
「魔化錬成術、銀の島城『鎖状・蜘蛛鳥囲』」
アクセリアに力を込めると島船が変形に変形を重ね、鎖が蜘蛛の巣の如く、鳥籠のように張り巡らされた無骨で強固な島城と変革する。
「八等船の島船全体が蜘蛛の巣状の檻のような形状に……やっぱり将軍クラスだと錬成術の規模が違う……!」
「どこまでも輪我輩を追ってくるか、アルバート」
「どうしてもこの資源を我が国に、そして貴様との因縁をかけてここで決着をつけたい」
「……この戦バカ」
島船八等船で再び繰り広げる二人の因縁の戦い。
アルバート=ガリア=イージス
対
アンブローズ=バンダル=ジョルダー
この戦いは「コーメルシオ居城迎撃再戦」としてコーメルシオ諸国連邦の歴史録に刻まれることとなる。
「魔化錬成術が込められたこの鎖を全部を掻い潜る事が可能かな?」
「そんな鈍り鎖、全部取っ払ってやる!」
アンブローズがチェーンを更に長くし、展望台の天辺までかけるとクレーンのように吊り上げられ、上まで登っていった。
「その前に貴様はここが何で囲まれているかを忘れるな」
アルバート将軍の『五連指輪』の力が発動すると周囲の海が迫り上がり、ウィンチェスター王国にて道を開いたときのモーゼの高潮のような光景が三六〇度眼上に広がり、島船は完全に囲まれていた。
「この大規模な津波だと、島船が丸ごと沈没しちゃう……!?」
アンブローズ将軍は慌てる様子もなく、先程僕が与えたアクセリア『因果応報の漣鎖』に力を込める。
「魔化錬成術、『守護断縛・因縁の竜巻』」
鎖が縦横無尽に飛び囲い、竜巻のように駆け巡っていく。海水が触れたところから一気に散布して消えたと思いきや白い雹の粒みたいなが島船辺り一面に降ってきた。
「流石、魔化錬成術の「コア」が込められたアクセリアだ。幾度となく交えた力が格段に違うことが分かる」
「鎖の一つ一つに熱が込められているからそれで海水を上手いこと気体に変えて蒸発した。そして残っているこの雹みたいな白い粒は、塩だ……海水から出来た塩……!」
「この魔化錬成術の八等船の資源を元に作った仮の要塞城でおまいを仕留めよう」
八等船の島船が錬成術の力によって無数の鎖が張り巡らされた。鎖に取り囲まれ、それはまるで蜘蛛の巣と鳥籠を合わせた造りになって敵を逃がさないような構造だった。
「『例の大戦』以降からの戦いから、おまいが歓迎してくれたサザンクロス国の時と同じようにはならんぞアルバート」
「上等、俺と貴様の力がどこまで行き及ぶか。確かめてみる価値はある」
アルバートは八等船の中盤付近へと降り立ち、アンブローズは張り巡らされた鎖に沿って追いかける形になっている。
「……二人の将軍がこれからどうなるか、ここからでは見えなくなった」
僕は浮島に吊られたまま置いてけぼりにされたが安全性はあるためにそのまま大人しくしていた。
場面は変わって資源の中心地・八等船内部。
「おまいの国へ歓迎してくれたお返しとして、輪我輩の要塞城へ歓迎しよう」
「貴様もあの時の様に逃げられると思うな! この島船で貴様を倒し、この資源の全てを奪ってやる!」
アンブローズがベアリングを取り出すとそれをチェーンの間に引っ掛け、そして両手の指にチェーンを引っ掛ける。
「錬成格闘術『犬の疾走路』!」
あやとりの様に構えながらもヨーヨーのようにチェーンを操るとベアリングの回転力が散歩の速さではなく、強化された魔能力の軌道によって加速が増した状態でベアリングを自在に操り、アルバート目掛けて飛んできた。
「錬成格闘術『死輪蘇』!!」
水圧と利用してバック転を活かした回転蹴りで『犬の疾走路』を跳ね返す。
「錬成術が使えるようになって貴様は曲芸師になったのか? くだらんことを!」
「侮るなよ、錬成術で軌道のスピードはあの時の倍増しだ」
避けてもベアリングが壁に当たる手前で軌道が変わり、それがまるで蜘蛛の巣のように張り巡らせている様にアルバートを取り囲む。
「ふん……っ!!」
勢いよく向かってくるヨーヨー状態のベアリング軌道をアルバートは間一髪で蹴り上げ、受け身を取る。しかし、アンブローズの軌道を操る力の前では多少のズレなどものともしない。
「そして輪我輩に不足していた魔能力も錬成術で補うことが出来る、錬成格闘術『因果廻り返し(ループ・ザ・ループ・コーサリティー)』!!」
ヨーヨーの技方式でベアリングがループし、アルバートに向かって攻撃する。
「小癪!! 錬成格闘術『屍喪月』!!」
アルバートは『屍喪月』で両手で放たれた水圧を水壁にしてベアリングの速度を遅くさせる。
「しめた……!」
「……!?」
アンブローズ将軍の錬成術と魔能力である軌道を操れることによってあやとりに仕込んでいたチェーンを操作し、アルバートの両腕が羽交い締めに封じられた。
「おまいに錬成術は使わせない。ここがどこのテリトリーであることかを輪すれるな。次は両足だ」
「またこの手か。この俺を、たかが両腕を使えなくしただけで封じたなどと、甘くみるなぁ!」
「言ったな。ならばこの幾重の鎖を掻い潜ってみせよ」
手をかざすと数千本の鎖が島城を守るように覆われた。両手をかざす独特の構えで指先に鎖が絡まり、あやとりのように動かすと動かしているのと同じようにチェーンが絡まり、束ねた形となってアルバートに襲い掛かってくる。
「錬成格闘術『悪魔の交差独楽』!」
中国独楽のディアボロの操作のように鎖が縦横無尽に高速で交差し、アルバートを囲むように暴れまわった。
「っ、錬成格闘術『棺亡月』!!」
体中に水分や水素を集めて反動で弾けさせることで四方八方から襲い掛かってくる鎖を木っ端微塵にした。
「おまいも存分に格闘術を錬成術に込めて使いこなせるようになっているか。しかし、それは想定済。そして輪我輩もこうなることを信じ、錬成術を駆使した近接格闘術、否、この場合では遠方格闘術になるか?」
幾重にも鎖を操り、掻い潜りながら逃げるアルバート将軍に容赦なく鎖の波が押し寄せる。
「くっ……!?」
俊足力があるアルバートが四方八方から向かってくる鎖を避けていたものの、珍しく足が少し縺れ始めた。錬成術の力を放出して海面を自力で走ってきたツケがここに来て巡ってきたのか足場となる地面足元をすくわれる。
「捕らえた、錬成格闘術『縦四方鎖固め』!!」
銀の鎖がアルバート将軍を柔道の抑え技の如く上に多い嵩張っていった。
「ぐ、はぁっ……!!」
これを好機と見たアンブローズがアルバートを落下の勢いと引く力と相まって地面に叩きつけると綾鳥の技を加える。
「輪我輩の柔の極意、ここに極まれり……そして」
更に取り囲まれている鎖があやとりのように結び目がどんどん細かくなっていくのをアルバートが見上げる形で編み上がっていく。
「鳥のように舞い、蜘蛛のように捕らえ殺す! 島船要塞城真骨頂、魔化錬成術『堅牢・巨蜘蛛縛鎖』」
「……っ!!」
蜘蛛の巣の網目のようになった鎖が束になって幾重にもアルバートの上に覆いかぶさった。
「……っく、魔化錬成術の力は強大だとは聞いていたが予想以上に心身の気力と体力を削られる……しかし、これだけの鎖が重なれば動けまい、もう『例の大戦』から幾度となく交えたおまいとの戦いをいい加減この場でつけたい……故にこの八等船ごとおまいを爆破する」
アンブローズ将軍が密かに各ルートごとに小型ドローンを仕掛けていたことによって懐に備えていた小型スイッチを押下し、大規模な大爆発が起こり、八等船が火の海と化した。
「……僕、またこのまま取り残されないかな?」
戦闘の状況を大きい鎖が飛び交うというほんの一部しか見れていない僕は浮島に取り残されたままサルベージ状態にもの憂いているときに八等船から突如大爆発が起こったのである。
「どひぇぇ!? 何が起こった!? なんで急に八等船が爆発して!? け、結局将軍たちの勝負はどうなったの!? まさか、この状況だから共倒れになって……」
「シビル少年、待たせた」
声がする方を見やると鎖を伝ってボロボロの軍服になって帰ってきたアンブローズ将軍が壮絶な戦線から戻ってきた。
「いひゃっ!? び、吃驚したぁ……あ、アンブローズ将軍! 一体何が起こっているんですか!? 八等船がいきなり爆発を起こして、大丈夫なんですか!? アルバート将軍はどうなって!?」
「質問が多いな。引き上げながら説明する。とにかくシビル少年、おまいをこのまま引き上げるから大人しくしていろ」
「あ、はいぃ……アンブローズ将軍! アルバート将軍は……!?」
「……あやつはこの八等船ごと始末をつけた」
「え!? でもこの八等船って他国との輸出入に欠かせない資源の宝庫で貴重な場所のはず……そんなこと自ら大破させていいんですか?」
「アドワの地位が不在であると同時にアルバートの思惑を一つ潰したに過ぎん。これは輪我輩の判断であるし、想定内の決断だ。故に心配無用。だからおまいを連れにきた」
「そんな、船ごとだなんて……」
「とにかく、このままおまいを一等船に部屋を移動して輪我輩の管轄下に匿って……」
「いやっはーっっ!!」
「ん、いぃ!?」
「……おまい!」
アンブローズ将軍と僕は聞き覚えのある声が聞こえる方向へ見上げると。
「いやっホ――!! おーい、無事かージョルダー卿!!」
「え、ええ、な、何!? なんであの人が……!?」
特徴ある声と共に辺りを暴風と共に空から現れた人物。こんな時に、またしてもあの男が横入りに舞い降りてきた。
「危機が起これば東奔西走!! 例えそこが火山の中海の上、どこまでも駆けつけるとはなんて律儀な俺様っしょーー!!」
「……ハレック=フレグ=アリスタ!」
♯17へ
来週から新たな仕事場で作業をする作者です。
いきなり冒頭でどういうこっちゃとは思いますが、正直に言いますと小説を書いている傍ら、別の仕事をしていて掛け持ちしています。その内の一つがコロナの影響で終わらざるを得ないという状況になって新たに紹介されたところで仕事をすることになっています。その出勤場所が朝七時からと凄い早いのですが、もうこれから春に向けて暖かくなったり日が長くなる時期なので丁度いいぐらいかなと思います。また一から覚えていくことが多いですがコロナもこれからワクチンの輸入で接種が出来る時期になってきたのでそれまでの辛抱で頑張りたいと思います。ワクチン接種を義務化するのであれば全然後回しでもいいです。医療関係者から感染者の方を優先して受けていってほしいです。一刻も早くコロナが終息することを願うばかりです。
次回はアンブローズ将軍と同盟を組んでいるハレック将軍の突然の登場でシビルが波乱の新天地へと移行します! それではまた次回☆彡