♯15:コーメルシオ諸国連邦【コーメルシオ八等船の反乱】
※アンブローズ視点あり
「ア、アンブローズ将軍……!!」
「な、何故我々の居場所がばれているんだ……!?」
「俺たちの情報が漏洩していたとか……!? この中の誰が……!?」
「俺はしていない!!」
「俺もだ! そんなことをしたらただ事じゃないことはみんな知っているだろう!!」
「じゃあ、何故将軍にばれているんだ、一体どうなって……!?」
コーメルシオ諸国連邦の地形は地図で確認しているのと、一ヶ月間滞在していたことから記憶している地形では一等船から十等船まである。
このことを念頭に、まず一等船を真ん中の先頭に先導と本殿の中枢を担う場所、そしてその両翼として左に二等船と右に三等船となって本殿の補助役として役目を担っている。そしてそこから後ろに連結しているのが真ん中に配置されている四等船から八等船が連なり、またその後ろに残りの九等船と十等船となって総舵動力の役割がある。
一から三、九と十の役割が分かった上で四等船から八等船がどの役割を果たしているのか。
僕が一ヶ月コーメルシオ諸国連邦に滞在として借りていた部屋は四等船の空き住居に住まわせてもらっていた。五等船はマーケットストリートなどの商業施設や娯楽施設などが立ち並ぶ住民の人たちの憩いの場所。六等船は貿易国家大国ということで主に輸出入の工業系が集結している場所。そしてその大型三船の狭間にあるのが七等船と八等船。つまり真ん中に合計五船が横一線に連なっていることになる。そして七等は発掘される資材などの加工と貿易などで輸入されたものの調査区、開発区となる。そして八等は資源を発掘する場所となっている。
これらを踏まえた上で僕がどこにいるかというと……。
「こういう事態になろうかと用心して、シビル少年につけておいたミサンガを渡しておいて正解だったな」
アンブローズ将軍が右手に収めている小型の機械を見やりながら囁く。
「ミサンガ……一ヶ月前に一対一の会食後にお守りとして渡された僕の腕につけてくれたこの銀の輪のことか」
「コーメルシオの貿易が誇る、最新小型の発信機を搭載しておいた。この混乱の中で情報が錯綜する中、少年につけていたおかげで誤情報や嘘情報に惑わされずに済んだ」
お守りって言っていたけどそんなものが搭載されていたなんて。というか、そういうのは絶対建前で本心は僕が逃げ出さないか監視用にとつけさせておいたんだろう、きっと。それがこの事態になって取ってつけたように言ったな。
「抵抗せずに両手を上げろ。さもなくば、この場でおまいらの処分は免れない」
「はっ、そんなことを言える立場か! ここにはな大事な人質という名の魔化錬成師様がいるんだ! 俺たち諸共こいつを死なせてみろ! 今世の将軍のみならず、王家国家が黙っていないぞ!」
「んーんぅ……っ!」
伝えなければとここで好機ととらえた。手に力を込める。僕を縛っている両手のチェーンに錬成陣を浮かび上がらせ、そこから「コア」を生成すると僕を縛っていたチェーンがアクセリアに様変わった。
「っ!?」
驚きを他所に両足にも錬成術を込めて別に作っていたアクセリアを「コア」と合成した。
「なっ、このガキ……っ!! だっ!!」
猿轡も瞬時にアクセリアに変えたが外すための目的だったため、すぐに「コア」を解消し銀の屑に戻した。相手が怯むのを見て僕は思いっきり足に嚙みつき、敵が更に怯む。
「わっ、これは……!?」
「まずい、逃げ……!!」
「わ、うわああっ!!」
その隙を見逃さなかったアンブローズ将軍が裏切者の隊員たちを幾重の鎖で化学力と魔能力を合わせた軌道の力で蜘蛛の巣状に正確に縛り付け吊るし、身動きが取れないよう一網打尽にする。
「ぐっ、うぅ……」
「やりました、アンブローズ将軍!」
「やつらをすぐに『自白の間』へ連れていきます!」
「この事態について詳しく聴衆したら幽閉しておくよう」
「御意!」
捕縛隊の隊員たちが魔能力と化学力でクレーンのように裏切者たちを速やかに連行していく。
「シビル少年、よくやった。すぐにサルベージを……」
「はぁ……! アンブローズ将軍! 僕を攫おうとしている犯人はこいつらだけでなく、未だに貴方の近くにいます!」
「……どういうことだ?」
「僕を攫おうとし、この国に対して反旗を翻そうとした張本人、アドワ=スターリングラード第八班長です!! あいつが僕を攫おうと真に企んでいるマスターです!!」
「え、ちょ、な、何をそんな……!?」
「……」
アンブローズ将軍はゆっくりと八等船第八班班長のアドワ=スターリングラードを見据える。アドワは疑いの目を向けられたことに黄金の瞳とセミロングの青い髪を揺らした。
「……アドワ第八班長、答えろ。おまいがこの事件の首謀者であるのか」
「そんな、この混乱の中、デタラメを言っているんですよ! 何かの間違いです、アンブローズ将軍! この国や貴方への忠誠を心から誓っている私が、そんなことを……!」
「その人が張本人という根拠は僕を攫った位置から場所の位置までのこの経路が動かぬ根拠になります!! それを総指揮出来るのはこの近場である八等船でしか出来ないと思うんです!」
僕は辿ってきたルートの道筋や聞いていたやり方を事細かにアンブローズ将軍に説明した。
「お待ちください将軍、それならば五等船の班長でも可能ではないですか! 五等船からクレーンを使った形跡もありますし、それだけでなく班長や軍人は無許可で島船を渡り合える権利を持っているのですから私だけを特定するのは……!」
「シビル少年の根拠から察するに、五等船には展望台がある。そこを取り仕切っている班長にはこの企てを計画するのは難しいだろう。シビル少年から聞いたルートではおまいが操作した方が都合がいいことに、辻褄が合うな……」
「そ、それは、そんなの、状況証拠じゃありませんか! 出まかせ言っているんですよ! そんなに言うなら私がやったという徹底的で動かない証拠を提示してほしいです!」
「……ならば緊急脱出用に使う各島船に指定されているシビル少年が乗っているあの浮島。あれがどこのものであるか型番を確認させてもらおうか……」
「……!?」
アドワがそれを聞いた瞬間に目を見開いた。
「輪我輩の国が誇る化学力溢れるデータ機能を以てすれば、あれがどこから持ち出されたのか分かるはずだ」
アンブローズ将軍が告げた決定的な言葉を発した途端にアドワが俯いたまま押し黙ってしまった。
「アンブローズ将軍、早く捕縛を……っ!!」
嫌な予感を感じた僕は大声でアンブローズ将軍に向かって叫んだ。
「……ふ、ごめんだね」
すると第八班班長アドワがポケットの中に手を入れる仕草をするとアンブローズ将軍の上の周囲から次々と小型ドローンが飛んできた。
「!?」
「俺の計画は、誰にも邪魔させない!」
「皆、離れろ!」
小型スイッチのボタンを押すと起爆し次々と反応連鎖するように爆発し、辺りが爆煙で充満した。
「ひぇえ、広い範囲で煙が……ゲホッゴホッ……周りが見えない、わっ……!?」
「小僧、私と来い!!」
僕のいる浮島にいつの間にか僕を攫おうとしたマスター、八等船班長のアドワが瞬時に僕の浮島にいつの間にか移動していた。
「い、いやだっ!!」
逃げだしたいけど周りは海で逃げようがない。でもこのままだと相手の思うがままに連れ去られてしまう。
「お前が余計なことを告げるからだ! 逃げる場所を変える!」
僕が乗っていた浮島が急に浮上するのを感じた。
「ふぉぇぇ!? なな、なんで浮島が宙に……!?」
急にふわっと浮き上がった気がしたかと思えば、いつの間にやら僕の見えないところでマスターの鎖によって浮島が操られ、クレーンのように吊るされていたからである。
「おまい……!」
「おっとここで攻撃を加えてみろ、こいつがどうなってもいいならな!」
シビルがまだ人質となっているために容易に動けないでいるアンブローズ将軍たち。その隙に鎖で繋がれた浮島は自在に操ることによって移動が可能になったため、マスターであるが島船の八等船へと逃げ込む。
「なんとしてでも、緻密に作り上げてきた作戦は狂わせない! 俺だけでもここから脱出して再起を図ってみせる!」
「た、助けてー!!」
僕を乗せた浮島は恐らく八等船班長アドワの魔能力。鎖を利用して物体を沿わせたうえで自由に移動させることが出来るのだろうと後になって知る。八等船はそもそもシルバーの採掘場になっており、舟艇では多くの資源が掘り起こせる場所になっている。そうなると、発掘されたものを上へ引っ張り上げることに長けている魔能力や化学力の人じゃないと出来ない。その上ではこのアドワという男はより優れているということになる。そうじゃないと人よりも大きいこの浮島を容易く移動させることなんて出来ない。それらがきっと八等船の島船にありとあらゆる場所にリフト状に張り巡らせているのだろう。
「裏切者が逃げたぞ!」
「特殊部隊、集結!」
アンブローズ将軍の掛け声と共に待ちわびていたかのように一斉に多くの部隊が現れた。
「隊員、総出で必ず八等船でヤツを追い込め。絶対に海の外側まで行かせるな! コーメルシオが誇る編成部隊を総出で各ルートを徹底追尾しろ! シビル少年を傷つけることなく無事に奪還することも忘れるな!」
「「はっ!!」」
一部隊六人編成で統一されている全島船のルートを知り尽くしているコーメルシオ特殊部隊。
一番編成:エンブレス 一から十ルートを担当
二番編成:スエッジ 十一から二十ルートを担当。
三番編成:グレース 二十一から三十ルートを担当。
四番編成:フィガロ 三十一から四十ルートを担当。
五番編成:ベネチアン 四十一から五十ルートを担当。
六番編成:マディラ 五十一から六十ルートを担当。
七番編成:オペラ 六十一から七十ルートを担当。
八番編成:ヘリング 七十一から八十ルートを担当。
九番編成:ビスマルク 八十一から九十ルートを担当。
十番編成:スピア 九十一から百ルートを担当。
以上が数々の厳しい試験や試練を乗り越え、アンブローズ将軍に認められた魔能力・化学力の能力値が高い全部隊となる。
アンブローズ将軍の命令で一斉に動き出す戦闘に長けた隊員たちや素早さに富む隠密隊たちが息の合った連携で八等船へと集中する。
シビルを無事に奪還すべく、多くのコーメルシオ諸国連邦特殊部隊の壮絶な奪還戦が始まった。
『緊急指令緊急指令!! 特殊部隊一番編成から十番編成、本部より次ぐ! 首謀人八等船班長アドワ=スターリングラードによる現行捕縛と魔化錬成術師シビル=ノワール=フォルシュタイン氏の奪還を各自決行せよ! 標的は八等船から外海から脱走しようとしている! 各ルートを速やかに封鎖し、脱走を全力を以てして阻止せよ!』
島船中にけたたましいサイレンが鳴り響き、警報アナウンスが八等船中に放送される。一番編成から十番編成と隊員や隠密隊員たちが己の魔能力と化学力を駆使し、各自ルートを把握しているため二手、三手と分かれて速やかに出撃する。
『こちら一番編成エンブレス隊長、一から十ルートまで手分けして捜査にかかります!』
コーメルシオの通信機を使い、それ以降の編成も同じくコンタクトをとり合い、任務を実行する。
「各部隊編成に告ぐ。輪我輩も後方から情報を追いながら出陣する。明確で正確な情報と行動をするように。アドワ=スターリングを取り逃がすな!」
『『はっ!!』』
アンブローズ将軍も耳にイヤホンをはめ、編成部隊から送られるデータ情報を頼りに大局を見ながら編成部隊の後を追って軌道の魔能力を駆使しながら鎖をつたい、スピーディーに八等船へと向かっていく。
「アドワが向かった先はこちらのルート。シビルが浮島ごと連れ去られた方向は向こうのルート。八等船のクレーン技術を使って巧妙に策を考え、班長ならではの移動手段を計算して考えられたということか。いかなる輪我輩でも、ここで判断を急がなければ手遅れになるやも」
アドワが逃げた先はルート方面。つまりは逃げる方途運ぶ方を別にしてアドワは行方をくらましていた。しかし装備を怠っていなかったアンブローズ将軍はアドワが放った煙幕の中で人の温度を感知するスコープをあらかじめ身に着けており、鋭い観察眼で辛うじてアドワとシビルの他音を頼りに行先の方角は認識していたのである。
『こちら二番編成:スエッジ部隊! アンブローズ将軍、応答願います!』
特殊部隊二番編成:スエッジ部隊からルート付近で通信が入った。
「第二編成:スエッジ部隊。どうした?」
『こちら、およそ十六ルート付近にて二人、アドワ第八班長の罠にやられました!』
「そうか、戦死した二人はどのようにして罠にはまった?」
『それが……トラップに関しましては我々の口からの説明では言い表せないので戦死した隊員二人と他の四人からのサイド戦闘データをお送りします。そちらをご覧になった上で八等船を慎重に通った方がよろしいかと思われます!』
アンブローズ将軍はスエッジ第二編成部隊が送られてきたデータで様々な角度の視点で戦闘の状況と隊員がやられた状況を確認した。
「何も、見えない……スエッジ第二編成部隊すらも気付かれずにやられている……? このような死に方は……このルートはアドワが向かった先に近いところではあるな」
「確か八等船はここは様子を見ながら先に進もう。このルートを通ってタイミングを伺うか」
トラップがどのようであるか分からぬまま内部詳細地図を確認しながらアンブローズ将軍は八等船で掴めそうなルート三十から四十へと向かう。移動中にまた新たな通信が入ってきた。
『アンブローズ将軍! こちら第四編成:フィガロ部隊! アドワ第八班長の捜索をしているのですが、』
「第四編成:フィガロ部隊、アドワはまだ見つからないか?」
『どこかに隠れ潜んでいるのは間違いなく、我々も最新の技術を大いに使用しているのですが全く行方が掴めません!』
「心当たりもないか?」
『隈なくは調べているのですが、やはりこの島船の管轄だっただけに巧妙に逃れている可能性も!』
「裏ルートもあったりするのか? 規則上勝手にルートを作成するのは厳禁処分にしているはずではあるが……」
『ヤツのことですから隠れて構いなくやっている可能性も御座います!』
「相輪かった。引き続き捜索を続けろ。輪我輩も目星部分を手あたり次第探してみる」
『はっ! お気を付けを!』
「……とりあえず、あそこへ行ってみる価値はある」
アンブローズ将軍の中で目星のあるところまで様子を見に行くことにした。
「五十ルートから繋がる、キャリークレーンエリア」
島船八等船の中心区域。キャリークレーンエリアは円柱状に縦長の構造で天井はなく青空が見える吹き抜け式の建築になっている。しかし移動型回遊の島なので時化の日や大嵐などは自動的に天井が現れる仕組みになっている。そしてその中で円形に沿って施設が多く存在するエリアで、コーメルシオの貿易技術を搭載された階段が収納されていてわざわざ円形状で遠回りをして歩き渡らずとも自動で階段を橋のように架けることで対面している場所に交差させ、発掘された資材を運搬することが出来る。また舟艇の最深部では銀が大量に発掘出来ることを生かし、資材を下からクレーンで持ち上げることが出来る。勿論この施設やクレーンなどの機械は全て銀で出来ている。
「アドワ……この施設の全てを管轄していた。律儀に任務を遂行する未来ある班長と思ってはいたのだが……」
無念な思いを口にした直後体に違和感を覚える。
「ん、なんだ……!?」
急に体が宙に浮く感覚を感じると体が縦穴に持ってかれる。
「むぅ……くっ!」
見えないものに体中縛り付けられ、徐々に圧迫される。
「……っ、『彼岸鎖法・倶利伽羅曼殊沙華』!!」
彼岸花のように鎖が四方八方に咲き乱れるように圧迫していたものからバチンと解放されるが下は暗い深淵に落下しそうになる。
「これは仕掛けてきたか……!」
八等船に仕掛けられた鎖の罠がアンブローズ将軍に迫りくる。徐に魔能力を込め、軌道に沿って幾重もの鎖を交差しながら絡みつくように結ばれていくその先に自動で作動する階段にかかったことを確認すると思いっきり階段を引っ張り、アンブローズ将軍に引き寄せられる。
「はっ!」
引きずり出した階段に乗ろうと足を乗せると更にその階段が対面する方向へ暴走したかのように橋掛けをし始める。
「くうっ……!!」
階段が轟音を上げて突っ込まれる前に手すりになっているところに鎖を飛ばし、素早く跳んで逃れる。
「自動階段が暴走している……アドワ、どこにいる……!?」
どうやらこのキャリークレーントラップの術中にアンブローズ将軍はまんまとハマった。
「アドワ……おまいはどこに隠れている?」
『隠れる? 隠れていないですよ。俺はちゃんといますよ。お前をここで落とせるのならこの状況を見届けてからでも亡命してもいいだろう』
コーメルシオ諸国連邦島船八等船キャリークレーンエリア。
アンブローズ=バンダル=ジョルダー
対
元八等船第八班長アドワ=スターリングラード
元上司と元部下の拮抗戦が始まり、後に「コーメルシオ八等船の反乱」として歴史資料に記載されることとなる。
「おまい、一体どこに……!?」
スピーカーから流れる声がアドワであることは間違いなかったがいくら周辺を探してもアドワの姿が見当たらない。
「隊員たちが言っていた敵の見えない姿、見えない攻撃……」
「なるほど、先ほどの見えない謎が、読めたぞ。ならばこれだ、『流転流鎖・天の羽衣』!」
両手の十本指で固定させ、鎖を羽衣のように編み込んでいき、天の川状の鎖が出来上がり、軌道の流れに沿って器用に動かす。
「やはりこれはクレーンの鎖か……!」
天の川状の鎖を振り回すことで見えないものをはねのけたり、退いたり、叩き落としたり、壊したりと器用に軌道を操ることによって見えないものが視覚化することが出来た。
「馬鹿め、この島船の班長を担当していた俺にとっては庭のようなもの。そして特殊部隊が総出で来ることなど想定内だ。部隊の特徴を掴んでいるこの好機を逃すわけにはいかない俺の化学力で逆にあいつらを追い込んでやる!」
今まで自分が八等船を担当していた元班長マスターのアドワが予測していたかのようにこれを機会に仕掛けていないはずがなかった。
「この俺が密かに誰にも見られずに修行し鍛えた魔能力。これからの発展と支配向上のために今こそここで発揮するとき!」
アドワが地上に宙に張り巡らせていた鎖に手をかざし、力を込める。
「『透明に蔓延る鎖同化』!」
アドワが魔能力によって張り巡らされていた鎖が一瞬で透明になり、周囲に溶け込んだのである。
「アドワ……新たな魔能力が目覚めていたのか……!」
「フフ、新たに芽生えた俺のこの魔能力、あらゆる人体、物体を透明にする力。それに合わせた化学力による機動によって部隊を殲滅に追い込んでやる!」
アドワの新たな魔能力の目覚めにアンブローズ将軍も新たな対策をとらなければならない上に彼にはある一つの弱点がある。
『輪我輩は化学力は格段上にあっても、魔能力がどうしても圧倒的に比例しないのは確かだ。鎖を軌道に乗せて操るだけで精一杯……! アドワの性格と力を考えると化学力の力を以てしても……』
脳内分析をしているアンブローズ将軍は元々魔能力には乏しく、化学力と違って自在にこなせないことがある。鎖が透明化されているのが相手であれば魔能力と対等でなければ意味がない。
「ふふ、長年この国にいたんだ。アンブローズ、未だにお前が魔能力が未熟であることなど知ってはいる。しかし、そんな非力にも近い能力を以てして何故将軍の地位にいるのか、俺には解せん!」
長年抱いてきたアンブローズ将軍への不満と嫉妬を吐露し、アドワはクレーンを使ってアンブローズ将軍に更なる仕掛けを挑む。
「この俺の武器で更に追い詰める。この『不吉死神の鎖鎌魔』で!!」
アドワの化学力と魔能力を組み合わせ変形させた武器、二メートルの長さがある大きな鎖鎌となって手元に現れた。
「更に俺とこの鎌を透明化させることで忍ばせるように相手を狩る!」
自身と武器を透明化させ、暗躍するようにアンブローズを襲う心算でいる。
「隠れ消えたか……相手が見えないのが厄介だな。アドワの操る鎖も見えない状態。周囲に気を付けつつヤツの動きにも注意を見張らなければならないのか……!」
常に警戒しながらアンブローズ将軍は天の羽衣の鎖を保ちながら
「くっ!」
間一髪で鎖鎌を避けたが頬から一筋の血が流れた。
「どうした、周囲に対する危機感が覚束ないぞ!」
「く、ぐぅ……!!」
視覚化出来ない状況で鎖鎌魔を受ける度に腕や足に何か所かに傷をつけられていく。
「気を付けないと腕や足、はたまた首がなくなるぞ?」
寸でのところで鎖鎌を気配で察知して避けながらも完全には避け切れずに手足が傷ついていく。
「魔能力が欠落しているお前では俺の魔能力にどう勝てる算段であるのかな!? よくそれで将軍として君臨していたものだ!! この才能ある俺を差し置いて!!」
「……っ」
縦長の空間で鎖を使用してターザンのように縦横無尽に移動し、攻撃したり避けたり、暴走する渡り階段がアンブローズ将軍に襲うところをまたしても避けたり鎖でカバーしたりと熾烈な攻防を繰り広げていた。
「『彼岸鎖法・倶利伽羅曼殊沙華』!!」
見えない鎖を取り払うために曼殊沙華のように鎖を軌道に乗せ、見えない透明の鎖を断ち切っていく。
「無駄だ! 俺の操る鎖を何本断ったとしても、この魔能力とここにある全ての資源を使用しての化学力を併せ持てば、いくら将軍とてひとたまりもないだろう!」
「……」
キリがないことだけは察しがついているアンブローズ将軍はそれでも地道に迫りくる攻撃を受けては避けて、透明の鎖を断ち切るという繰り返しを果てなく行った。
「しかし、ここはクレーンなどの鎖だけではない!」
橋渡しの代わりになっている自動階段もアドワの手にかかれば造作もない。階段を透明にさせることで見えない橋階段が出来上がる。
「むっ……!」
周囲に気を取られていたアンブローズ将軍の反応が少し遅かったが故に物凄い勢いで迫ってきた階段に体を押し付けられた。暴走した階段が衝撃音と共に銀の瓦礫が落下していくのが見える。
「……っ」
粉煙が晴れた場所には磔にされたように階段と壁の間に挟まれ、身動きが取れなくなったアンブローズ将軍。そこにアドワが引き寄せられるよに程よい間隔と距離で鎖鎌魔を携えて現れた。
「その将軍の首、もらった!!」
隙をついてアドワが『死神の鎖鎌魔』を投げ振るうとアンブローズ将軍に見事命中した。
「どうだ、亡命する前に見事に倒し俺の力を見せしめに……!?」
首に命中させたと思ったアンブローズ将軍の体が崩れたと思えたが、実は人型の形をした鎖帷子を最大の魔能力で身代わりとし陽動として、アドワを透明化から引きずり出したのである。
「『身代わりの楔帷子』」
「なっ……偽物……!?」
「はぁ……っ、魔能力を限界までこの鎖帷子に供給した甲斐があったおかげでどうにかなった……見誤ったな、おまいの姿が見えればこっちのもの」
「うおっ……!?」
鎖の位置をアドワの胸倉に鎖を装着させ、軍隊格闘術である得意技、柔道と鎖の術を折り合わせた一本背負いでアドワを放り投げた思いっきり引っ張りアンブローズ将軍が脳内で考えていたある場所に強制誘導させた。
「格闘術『大漁一本背負い』!!」
「ぐっ……あっ……!?」
「援軍!!」
『『はっ、アンブローズ将軍!!』』
統率力抜群の部隊編成たちがキャリークレーンエリアに漸く集まり始めた。
『各部隊編成、キャリークレーンエリアに到着しました!!』
通信機から一番から七番編成の部隊がキャリークレーンエリアに集結し、アンブローズ将軍の援軍としてやってきた。
「この施設全体にありったけの魔能力を込めろ!」
アンブローズ将軍の命令で一番編成から七番編成の魔能力が一斉に施設全体に込められると、シルバーが縦長に大きく長い大鎖に変形し始めた。
「うお……っ!! この膨大な魔能力は……!?」
特殊部隊編成の存在理由はこのためにあった。自身に足りない魔能力は全てこの編成部隊によって補えることでアンブローズ将軍は軍事君臨している。厳しい訓練と統率力と絶対忠誠を誓わなければならないものを全て乗り越え、選ばれた者のみが入隊を許されるのがこの部隊編成である。施設にある全シルバーを将軍を含め、全部隊の魔能力を結集させ、アンブローズ将軍の化学力を合わせることで初めて強力で強大な力を発揮出来るのである。その攻撃がアドワを巻き込んで、天井の吹き抜けを突き抜けて螺旋状の鎖が竜巻のように下から上へ吹き荒れた。
「『六道の辻・天界大螺旋』!!」
「っぐうわああ!!」
遥かにアドワよりも上回る膨大な魔能力によって周りのシルバーを使用して六つの大鎖の竜巻を発生させ、巻き込まれたアドワは激しくエリアの外へと吹き飛ばされた。
「くっそ……! あ、危ない……ま、まだ……だ……俺はここでは終わらな……」
あらかじめ外に張り巡らせていた透明の鎖に受け止められ、アドワは叩きつけられる致命傷は逃れることが出来た。
「アドワ……いい加減にしろ」
「ひっ……!!」
ターザンのように器用に操る鎖を伝って外へとやってきたアンブローズ将軍。編成部隊の犠牲や情報のおかげで漸くアドワを追い詰め、抑えつけながら軍帽から垣間見える静かな威厳と怒りを帯びた瞳に睨まれ、背筋が凍る思いをするアドワ。
「おまいは輪我輩に勝てない。才能だけに陶酔し取りつかれたおまいの野望もここで潰える」
「っ人の力に頼っておきながら……!! 前の将軍は完璧だった……! 「例の大戦」の時から強く、化学力も魔能力にも優れて、俺の才能も認めてくれて目をかけてもらえたものを、お前が将軍になってからは俺はこの地位のまま過ごした数十年……何故だ……何故お前の欠落したやつがなれて、俺は……理解出来ないっ!!」
「……輪我輩は確かに魔能力の才能は限りなく疎い。どう頑張っても化学力と同等に力を上げることが出来なかった。それ故に苦悩したこともたくさん、あった。試行錯誤をした上で輪我輩はこの特殊部隊を編成することに至った。統率すること幾十年、連携も強くし、魔能力の才能と努力で修行に耐えた者たちだけを厳選し、取り揃えた。だが、おまいはどうだ? ろくに仲間をまとめきれない結果で今では一人で孤軍奮闘し、それでも世界を支配するという世迷言を垂れるおまいに、この統率力を仕切れる力があるとは思えない。将軍の器に値する軍事力が、圧倒的におまいには足りないことと見受ける。そして前の将軍といい、アドワ、おまいのその思考も輪我輩には到底理解出来ない」
「……っ、驕るなよ……この欠落将軍!!」
「うひぃぃ!!」
しかしまだ諦めていない。アンブローズ将軍の辛辣な言葉に逆鱗に触れた気持ちでアドワは浮島に乗っているシビルを化学力を使って近くまで引き出してきた。
「シビル少年……!」
「まだお前の立場を分かっていないようだな。この魔化錬成師が俺の手の内にいる限りはむやみに手出しは出来ないであろう!」
「……」
「俺にはまだ逆転のチャンスがある! さあ小僧、この窮地から逃れるためにもその「コア」を含んだアクセリアを俺に寄越せ! 俺の才能と相交われば完璧になる!!」
「あ、あわわ……ア、アンブローズ将軍……!」
「コア」が込められたアクセリアをアドワには絶対に渡すまいと握りしめ、涙目になりそうになりながらも助けを乞うようにアンブローズ将軍を見据える。すると僕を見据えながらアンブローズ将軍の口が開いた。
「……シビル少年、アクセリアと共に海に身を投げろ」
「ふえっ……ちょっ!?」
突如アンブローズ将軍の声が僕が海へ行けというのが聞こえた。落ちたとしてこのあとどうするんだという気持ちで踏み出せない。
「早く、言うとおりにする!」
「ふっ……わっ……!!」
「馬鹿か! それを聞いて俺がさせるわけないだろ!!」
アドワが少し焦った顔をしながらシビルを海に落とさないように駆け寄ろうとしていた。
「……隙を見せたな」
勢いに押されてアンブローズ将軍の言う通りに僕は思い切って身を投げ出す。体が一瞬無重力状態になって宙に浮かぶと同時に重力で落下していくのが体中に伝わる。アドワの隙を見逃さなかったアンブローズ将軍が軌道の魔能力で追い打ちをかけた。
「うっ、しまっ……!?」
「八番、九番、十番編成部隊、行け!!」
「「「はっ!!」」」
合図をきっかけに油断をしたアドワがアンブローズ将軍の残りの部隊、八番編成:ヘリング、九番編成:ビスマルク、十番編成:スピアがアドワに向かって一斉に取り囲む。
「なっ……外で待機していたか……!」
「我が国が誇る統率を甘く見るな」
『落ちる……っ!!』
アドワが取り囲まれているその間に落下していくシビル。海面に叩き付けられるかもしれないという恐怖を感じ、目を瞑ったがいくら待っても海に落ちた気配を感じず、恐る恐る目を開けると逆さの状態で吊るされていた。
「あ……アンブローズ将軍……!!」
間一髪で僕の足をチェーンで繋いで落ちるのをアンブローズ将軍が阻止してくれたようだ。
「島船第八班班長おまいを断罪する」
「はっ……! お前になぞ屈服するもんか!! あの小僧から力を手に入れて俺は全てを支配すると……!」
「果たしておまいにそんなことが出来るだろうか……不可能に近い」
「絶対不可能とはいえないだろう! 化学力は文明の域を凌駕し魔能力は人智の域を超越した!! だったら下剋上だってあり得る話だろう!!」
「……浅はかだ。おまいには国を統べる力も、軍事として統一する資格も、全ての世を支配することもなきに等しい」
「欠落将軍がぁ……!!」
「あ、アンブローズ将軍、これをっ!!」
僕が投げたのは先程縛られていた鎖を『コア』を込めて生成した魔化錬成術のアクセリアをアンブローズ将軍に向かって投げた。
「……それは!」
「隙あり!!」
「っぐぅ……!」
アクセリアに目を背けた隙にアドワが透明化させていた鎖を忍び込ませていたために部隊編成の目を搔い潜ってアンブローズ将軍に向けて鳩尾を喰らわせる。
「そのアクセリアは俺のものだー!!」
僕としたことが投げるタイミングが悪かった。アドワ班長の手に渡ったらとんでもないことになる予感をしたその時だった。
「……ん、なんの音だ?」
微かではあるが何処からか音が聴こえてくる。しかもそれは海の方面からどんどん大きく近づいてくるようだった。
「え、ちょ、何か来る……!? まさか、人喰いサメ……それとも、鯨……!? ちょ、ちょ、僕は餌じゃないし、美味しくないよ……!!」
咄嗟に身の危険を感じ、パニックになった僕は勝手に嫌な予感をして焦っていたが、ある物が目に入ることで別の意味で予感は外れた。
「ん、え、ええ、うええっっ!?」
僕が驚きに満ちた奇声を上げたのは無理もない。
気のせいと思いたかったが何しろ物凄いスピードでこちらに向かってくる物陰。視力には絶対の自信がある僕は疑いようがなかった。
それが海面を物凄いスピードでこちらに走って向かってくるのは、人喰い鮫でも鯨でもなく、勢いよく形相をして島船へと向かってくるアルバート将軍だった。
「か、か、かか、海面を全速力で走ってるーー!?」
「取ったー!! 「コア」が生成されて出来たアクセリアをついに……! これで魔化錬成術は俺のも……ふああぎゃああ!!」
海に落ちたアドワが「コア」が込められたアクセリアを手にし、海面まで上がってきた略奪人班長だったがアルバート将軍の走ってくる軌道に丁度いたものだから、踏み台にされてしまい、その瞬間に運悪くチェーン型のアクセリアを手放し、またしても海の中へと沈んでいった。
「わわ、ちょ、ちょっとま……このままじゃ僕に……!! ア、アルバート将軍、止まって、そこで止まって、ぶつかるぅぅ!! ふぎゃあはああーー!!」
僕の儚い願いは当然届くはずもなく、そしてそのまま猪突猛進の如くノンストップでスピードを維持したまま吊るされている僕の方まで向かってきたのである。
♯16へ
この話に一週間かかって投稿しました作者です。
こんな私は最近、運動不足と自粛が重なって体の下半身が肉まんになってしまっている状態を解消しようと散歩を始めています。毎日、というわけにもいかないのですが休みの日は一日一万歩行けるように小さい目標を立てて音楽を聴きながら実践しています。住んでいるところの近くに河川敷があり、遊歩道もあるのでそこをスムーズに散歩させてもらっています。天気がいい日はとても気持ちいいし小説で疲れたときのリフレッシュにもなったり唐突にネタが思い浮かぶこともあるのでコロナの影響でジムなどの施設に行きづらい状況の中ではいい運動だなとつくづく思っています。最長15キロメートル歩きました。デジタル万歩計が二万歩以上行きましたw
そういえば小さい頃から探検とかが好きだった自分が川の先には何があるんだろうという気持ちで歩いていたらいつの間にかこんな距離になったのだなと思いました。結果、帰った後足パンパンになりましたが休みの日などはちゃんと続けていけたらなと心に刻んでいます。
次回はいよいよ戦将軍とコーメルシオ諸国連邦の迎撃戦が再び始まります! それでは次回☆彡