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♯13:コーメルシオ諸国連邦【対談】

長い会議から解放されたのは、夕方の五時近くだった。最初のアルバート将軍が統べるサザンクロス国の戦歴報告と対応策。しかしそれはものの小一時間で終わっていた。何よりも長かったのがアンブローズ将軍の不在だったことも関係していた、島船の国の情勢と島民からの質疑応答、受領処理などの事務処理的なことが地味に長かった。

 会議に参加していた上層部の軍人クラスや島船の班長の人達が各島船を責務統括をしており、担当している人たちだった。その担当軍人たちがアンブローズ将軍への報告やあらゆる申請許可や処理などをすることで夕方までかかり、ようやく上層部の人たちが会議室から立ち去った頃に僕は解放された。


「はぁ……やっと終わったぁ……お腹すいたなぁ……」

「シビル様」

「ヒャッ?! は、はい!!」


 驚いて後ろを振り向くと昼に部屋から会議室まで案内してくれた誘導係の軍人が待機していた。


「会議、お疲れ様で御座いました」

「あ、いえ、僕はただ聞いていただけなので……」


 ただ、黙って聞いているだけで地味に眠くてきつかったのもあったが失礼にもあたると思い、敢えてそこは言わなかった。


「夕方で御座いますから空腹でしょう。その事に関しまして今晩、会食が御座います」

「会食?」

「アンブローズ将軍との一対の会食で御座います」

「……そう、ですか」


 誘導係の人から聞いて少しばかり気持ちが下がってしまうものの無碍に断れない自分もいる。


「将軍からのご命令ですし、参加しましょう」

「六時から会食ですので、暫し展望会議室の下にあります休憩室にて待機をお願い致します」


 夕方の五時近くという時間帯だったので距離を考えると部屋に直接帰るという選択肢はなく、そう言われて誘導係の人は僕を休憩室へと案内された。


「こちらが休憩室で御座います。時間になりましたらお呼び致しますので暫しお待ち下さい」


 百八十度に広がる展望窓に沿ってふかふかのソファとテーブルが目に見える。一人になると同時に吸い込まれるようにソファにもたれ掛かる。


「はぁ……ちょっと、頭の中を整理しよう」


 会議中若干眠そうになったとはいえ、耳だけはちゃんと話を聞いていたために会議で行われたことを思い返しながら記憶を整理していた。その間を置いてから姿勢を正し、懐からあるものを取り出す。


「えっと……コーメルシオ諸国連邦は島船で一から十の島船で編成されている国。だからこんな不思議な地図だったんだ」


 取り出したのは今朝頼んで届けてくれたコーメルシオ諸国連邦の最低限の地図。会議の間に掴んだ情報を元にしながら照らし合わせていた。


「今僕がいるところはここ、一等船の展望会議室。加えてここを統括しているのが言わずもがなアンブローズ将軍。そして将軍が不在のときには将軍副補佐が担うのか。この中で一番前にあって一番大きな島船でもある。そして横に並ぶように二等船、三等船があり、後ろに四等船から十等船まで繋がっていっているのか」


 この島船は会議で聞いていた限りではコーメルシオ諸国連邦の島船は一から十までの船が連結しており、それに従って記憶と地図を照らし合わせながら把握していく。


「そして常に海を回遊している島船。だからアンブローズ将軍でも自国へ行き着けるか、陸地から国までの距離感が分からなかったのか。そして周囲を特殊な濃霧で囲まれている。だから敵にも見つかりにくい特殊な無所属地方、コーメルシオ諸国連邦なのか」


 思案顔になりながら地図を眺めているとドアが開く音が聞こえ、思わず顔を上げると誘導係の人が現れた。


「失礼致します。シビル様、お待たせ致しました。そろそろ会食の時間で御座います」

「あ、はい!」

「……そちらは今朝手渡したコーメルシオ諸国連邦の地図ではありませんか?」

「そうです。今朝申請して拝借していました。どういう地形になっているか参考にさせていただいてます」

「拝見しているところ失礼ながらその地図をここで回収させていただきます」

「あの、持っていることは出来ないんですか?」

「申し訳ございません。地図の長期所持は規則により原則禁止となっております。拝借したいのであれば再度申請をお願い致します」

「そう、ですか……」


 やはり国に関することには厳しいのであろう。誘導係が地図を取り上げ、懐にしまう。


「さあ、会食の場所までご案内します。どうぞこちらへ」


 休憩室から出ると案内されたのが先程の会議室だった。


「え? あの、会食ですよね? この会議室であるんですか?」


 そこは先程会議が行われた場所に案内されて疑問に思う。風景は先程と変わらず、違うところは誰もいない殺風景であるところだった。


「会食の場はこちらでございます」


 誘導係の人が壁に隠されたボタンを押すと、アンブローズ将軍が座っていた下から音を上げたと同時にテーブルが自動に動き、隠し階段が現れたのである。


「あー、そういうカラクリですか……」

「プライベート専用になっております。定例会議はこの場で行い、この下は極秘会議をする時などにも利用したりしています。声を大きく上げても部屋一室が防音加工になっていますのでご安心下さい。この階下でアンブローズ将軍がお待ちです。ご案内致します」


 高い展望台という仕組みに納得がいった。構造上、中から外の構造は見て取れない所謂死角状態。登ってくる時も外の風景が見えなかったのはその為でもあり、その状態であればこの展望台に秘密の部屋を作ろうと思えば出来なくもない。僕はそう考えながら階段を降りていった。



「……来たか」


 下へ降りていくと真正面に将軍が鎮座していた。雰囲気は暗めではあるが、レトロでシックな部屋。最初に目に入ったのは円卓テーブルの上に乗った豪華食材。この辺りの海域で取れた新鮮なサメの御頭がドンと鎮座しており、その横下に色とりどりの刺身の舟盛りが盛っていた。そこからアンブローズ将軍が癖のように人差し指でシルバーの輪っかを回しながら上座で待機していた。


「この度は会食に歓迎していただき、ありがとうございます」

「座るといい」


 指示されてから椅子に座ると同時に将軍も輪っかを回すのをやめ、姿勢を改め直す。


「次回の会食がある場合、挨拶は不要だ。今後も長くおまいがこの国にいてくれるように、アルバートから、各国の将軍からおまいを奪還しないよう総力をかけて尽くす所存でいる」

「は、はい……」


 ここで食事が置かれた移動テーブルが運び込まれてきた。


「失礼致します。シビル様のご会食はコース仕様となって御座います。前菜はアンブローズ将軍が昨日狩りました鯨肉のカルパッチョで御座います」

「鯨肉の……め、珍しいですね」

「コーメルシオ諸国連邦の歓迎食だ。存分に味わえ」

「いただきます。お言葉ですけど、アンブローズ将軍の分は?」

「輪我輩、コース料理というちまちまとしたものは生憎と好まない。この舟盛りいっぱいの刺身と片手に白焼酎ボール「ヤマト」と食後のデザートさえあれば充分だ」

「ふ、舟盛り全部を頂くんですね……?」


 アンブローズ将軍は体系的に細身寄りな方にも関わらず、一人前とは思えない程に様々な魚介類の刺身がふんだんに盛り付けられている舟盛りを全部平らげるのかというギャップが際立つ。「ヤマト」と書かれたブランドの白焼酎に炭酸を入れ一口、刺身を一口と交互に戴いていく。それに合わせるように僕も鯨肉のカルパッチョを一口いただく。


「ん……美味しい」

「おまいをこれから管轄下に所属させる。今回の会議の通り、サザンクロス国だけにあらず、噂を聞きつけるであろう他国からの略奪に対して国全体、全力をもって尽くす所存だ」


 前置きもなく唐突に合理的に話すアンブローズ将軍に思わずフォークを止めて耳を傾ける。前のウィンチェスター王国に拉致されたことを思い出しながら、将軍同士の争奪戦を目の当たりにしたことを思い出すと肩が竦みそうになる。


「ただ、戦将軍として名高いアルバート将軍はあのまま黙っていられる相手ではありませんよ。いずれは何かしらの手を尽くして追撃してきますから」

「あやつとは過去に野戦、侵略、迎撃も数えて何戦と交えている。戦に対する執念深さは百も承知だ。おまいを取り戻す為に襲撃することなど想定している。だからこそ、おまいの力が必要だ」

「……」


 一番というほど聞き飽きたセリフを聞いてしまう。その度に沈んでしまう気持ち。将軍同士の会食なんて、そんなものだ。


「お言葉を返すようですが、例え国で一番強く偉い将軍といえども、錬成術の授与に関する許可は……」

「輪かっている。強制も強要もするつもりはしない」

「……!」

「その意味を込めて、この国を存分に満喫するがいい。一等船から十等船まで軍人以外の民間人には通常、連絡橋通行申請許可証が必要なのだがおまいは無条件にいつでもどこでも渡って通れるようにしておこう。行き来も不自由なことはさせないと誓おう。他にも希望があれば申すといい」


 前菜が終わって、次にコバンザメのフカヒレ姿煮スープが出てきた。これも一口すくい口に含むと濃厚な味わいととろみが口いっぱいに広がる。そして話を聞いて気になることは聞いておきたい。僕はこれを機会に不意にこんな質問をした。


「アンブローズ将軍。答えられる範囲でいいのですが、アルバート将軍とは過去に何戦も交えていると。将軍は戦の為に交えていたのも理由の一つだと思いますが、どの辺から戦ってきた間柄なのですか?」

「言えることは最小限にさせてもらう。輪我輩は幾千と他国と戦っているが、あやつとは特に例の大戦前からでも多く交えている。魔化錬成術を使わずとも互角の戦いが続いた」


 表情を変えずに淡々と語っていく。性質としては無表情ではあるものの極端に黙秘というわけではない。


「輪我輩の国は無所属地方というどこの地方にも属さない特殊な地方。そういった珍しいもの好きなこともあるだろう。国を拡大することも兼ねて輪我輩の国に目をつけた。そこから、ずっとだ」

「アルバート将軍の性質からしてそうでしょうね。彼がこの国を狙う理由が先程の会議を通して理解しました。この国は島船という特性を活かして海域を回遊することで他国と貿易取引をして輸出入していることを」

「しかし、輪我輩としては侵略などの戦争類に自ら仕掛けることもなく、むしろ興味も関心もない。地方全域の海を回遊する特殊な島国であるが故、輪我輩がそういう思考でないだけだ。ただ、この国が末長く貿易国家として維持出来るような環境が欲しいだけ。侵略する理由もない上に他国と無意味に争う必要性がないのだがまた侵略してくる他国がそれをさせないとしている。だから輪我輩としては他国の圧力や勢力や侵略から守れるような力が欲しいと思っている」

「……」


 聞き入っている間にフカヒレのスープが終わり、そこからメインが持ち出された。


「本日のメインメニューはサウライナウィンド地方近海本マグロのステーキでございます」


 見た目も美味しそうで香ばしい匂いが鼻を燻るが、アンブローズ将軍の言葉を聞いて考えているだけに手をつけられなかった。


「……それは心からの……」

「真実だ」


 国を治める偉い将軍とあれど、発言がにわかに信じがたい話ではあった。それは権力者には絶対的な圧力で物を言わせ、弱者を強制的に従わせようというのが多く、現に僕も嫌と言うほど経験してきている。簡単に二つ返事で了承するわけにもいかなかった。


「あの……錬成術に関してはもう少し、検討させてもらってよろしいですか? 僕の秘めるこの力は、国の明暗を左右してしまう恐ろしいものです……だから」

「構わない。どれにも申請があると同じで、おまいにも輪我輩に対する申請許可が必要でもある。今日明日とは言わないし、急ぐ事もない。よく考えてからでもいい」

「……はい」

「……そろそろメインに手をつけた方がいい。せっかくのステーキが冷めてしまう」

「い、いただきます!」


 アンブローズ将軍はそれ以上の追求も要求もなく、白焼酎ボールを片手に刺身を食べ進めていく。本マグロのステーキに手をかけたときは既に冷め切っていた。


「コース料理、最後のデザートになります」

「これは、プリン……?」

「輪我輩が不在の中で案件が溜まっていた。長々と会議をした中でのこのデザートが至福のひとときだ」

「デザートなんて、ウィンチェスター王国で味わって以来だ……!」


 僕は甘いものは基本好きだったけど、サザンクロス国では甘味は厳禁。アンブローズ将軍が好物だという鮮やかな黄色のデザート、レモンプリンだった。


「いつ食べても甘味と酸味が絶妙だ。海域の日差しを受けて育ったレモンが格別だからこそ」

「はむ……うん、これはクセになりそう」


 合理的なアンブローズ将軍の何気ない姿が垣間見えた。僕も久しぶりの甘味を堪能出来た。


「本日は会食にお招きいただき、ありがとうございました」

「長時間の会議と会食、ご苦労だった。最後にこれをおまいに」


 するとアンブローズ将軍が懐から取り出したものを僕に渡してくれた。


「これは、なんですか?」

「シルバー製のミサンガだ。この国ではお守りのようなものだ。肌身離さず携えておけ」

「は、はい……ありがとうございます」


 もらったミサンガをなんの疑いもなく左手首にはめる。


「今日は休め。そして会談で話した例の件はゆっくり考えてから答えをもらおう」

「はい、ご検討致します」


 と、言っても本当にこの人に僕の力を渡してもいいものか考えものである。







「はあ……つっかれたー!!」


 アンブローズ将軍との対談が終わり、解放されたのが夜の九時。輪ッカーシャ部屋に戻った僕は一気に精神的疲労がどっときたのでそのままベッドへと蹲る。その中で対談で交わしたことを思い返していた。


「自国の安寧を守る為に……か。将軍としては最もらしく、的確な判断だけど、立場上僕の力がロクな使われ方しかないんだよね……」


「コア」を生成するに当たってすぐには決断が出来ない。


「ただ、僕の憶測としては悪い人には見えない。とりあえず一ヶ月は様子を、見よう……」


 結局僕はお風呂も入らずに今日もそのまま寝入ってしまった。


♯13へ

 これからの健康健全のために散歩を始めました作者です。

 散歩を始めてから体が若干軽くなったように思えます。このご時世の為にフィットネスジムに行けなくなってしまい、リバウンドをしてしまったのもありましたが自分の夢の為にも再復帰するためには健康でなければという意識が強くなりました。週二、三日ぐらいですが最低限でもこのぐらいは継続していこうと思っています。運動するからいは、出来れば楽しく疲れたいというわがままもあって歩くときは音楽を聴きながらノリにのってたまにふりつけも挟みながらやっています。小説書く時も同様にやってます。テンポのいいダンスとかをやれたら絶対に筋肉もついて痩せるのになと思っていますし、ストレス発散にもなるでしょう。完コピはやってみたいですね。次の作品が中途半端なので急いで仕上げたいと思います。今日はここまで☆彡


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