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♯11:コーメルシオ諸国連邦【入国】

 アルバート将軍の歓迎撃策から辛うじて逃れた将軍二人に、僕はまた拉致された。


 コーメルシオ諸国連邦将軍、アンブローズ=バンダル=ジョルダー。


 バックハワード共和国将軍、ハレック=フレグ=アリスタ。


 二人は裏で同盟を組んでおり、アルバート将軍から誘いを受けてのるかそるかのチャンスとみて敢えて乗ってみたのだと思う。僕はどちら側へ行くかということで二人が戦いの勝ち負けで競い合おうとしたが、ハレック将軍側に対してどうしても許せないことがあった僕は彼と別離し、自身の決意でアンブローズ将軍の人質となって彼の後に着いてきた。


「……この辺りだ」

「あのぅ……アンブローズ将軍、この先は海ですよ」

「輪我輩が向かうのは、まさにこの先だ」

「……えーっと……お言葉を返す様で船一つ見当たらないんですが、まさか海を真っ二つに割いて海底を歩いて渡っていく、とか……?」


 前回のウィンチェスター王国の迎撃戦でアルバート将軍が繰り出したデジャブを思い返す僕。本当にそんなことをするのではないかと冷や汗を流しながらおずおずと問いかける。


「どこぞの神話でもあるまい。ちゃんと文明の力を使う」

「はあ、それを聞いて安心しましたが付け加えて疑問が……」

「なんだ?」

「この手錠を外してもらえませんか? 僕は貴方と行くと決めた以上はここから離れませんし、逃げもしません」


 僕の両腕に丁度良いサイズで手錠のような輪っかでがっちりと両手を拘束されていた。


「念には念をだ。輪我輩の居城に着くまで不便ではあるがその状態で連行する。輪るく思うな」

「……」


 あっさりと却下されてしまった。将軍の立場上、常に疑う目で物事を見なければならないのだろうか。あるいは性質に相まってなのか。


「確かこの辺りに……あそこか」


 アンブローズ将軍は茂みへと向かって、植木の葉先を掴んだかと思うと、バサっとした音と共にあるものが姿を表す。


「今からこれで海の先へと向かう」

「これは、ジェットバイク?」

「輪我輩の国が誇る貿易大国たる所以で手に入れた物資。世界でも数少ない水陸両用ジェットバイク、ウィーラーヴィローアだ」

「うわあ、か、かっこいい……っ!!」


 単純に、純粋に、不覚にも。サザンクロス国になかった初めて見るシルバー製法満載の二人乗り式ウィーラーヴィローアの形や出で立ちのよさに見惚れてしまった。


「は、初めてみました! 見た目のフォルムがいい感じで、これは一体どうやって造ってどのように生産してどういった仕組みなのか知りたい! こちらの製造過程を見てみたいくらいです!」

「……よかったな、カトリシア」

「え? かとりし……僕はシビルですけど?」

「おまいじゃない。このヴィローアの名前だ」


 ウィラーヴィローアを撫でながら淡々と教えてくれるアンブローズ将軍。


「……名前つけてるんですか?!」

「あくまで輪我輩の専用機と他のヴィローアと区別がつきやすい様に、だ……何か文句でも?」

「い、いえ、そんな滅相もありません……! それにしても随分と小型ですね」

「一人でここまで来るには充分だ」

「お一人で? ハレック将軍以外本当に誰も連れずに? てっきりこの地で連れ添いか暗部の人が数人いるかもと思ったんですけど」

「旅行にきている輪けじゃあるまい。敵地へ乗り込む際のハレックとの同盟盟約の下と敵地へ乗り込む際、余分に隊を引き連れると無駄と手間と犠牲が増えるだけだ」

「……やはり、度胸が違いますね」

「話している時間が惜しい。おまいはこの隣に乗れ」


 そう促され、僕はハンドルのない隣に乗り込み、アンブローズ将軍は無言でエンジンをかけるとジェットバイクは可動し、右ハンドルでアクセルを回し、走り出した。林を抜けると浜辺を通りそしてそのまま減速することなく海へ着水すると車輪が自動収納平面状化され、ボート式に早変わりすると噴射の勢いでスピードが増し、陸地があっという間に遠ざかっていた。その海風の心地よさを余裕を持って味わえない速さだった。


「この海の先に行ったことはなかったけど、エメラルドに近い色で綺麗だなー!」

「……」

「あ、イルカの大群だ! 資料で読んだことあるけど実物は初めてだなぁ! 流石海では史上最速とだけあって、このスピードについてこれてる! 癒されるなぁ!」

「海豚など、どこにでもいる。なんだったら鯨も海域の先へ行くとそんじょそこらにいる。捕鯨も日常茶飯事だ」

「鯨を、食べるんですか……?」

「輪我輩の国では貴重なタンパク質の源でもある食料だからな」

「うぅ……」


 自分もその国へ入れば食べなければならないことに少し気分を悪くした。だから話題を変える。


「あの、差し支えなければお聞きしたいのですが、ここから貴方の国までどのくらいの距離ですか?」

「輪我輩でも、予測出来ない」

「……はい?」

「運が良ければ日があるうちに。輪るければ日が暮れても見つからない。心して……」

「ちょ、ちょ、ちょ!! 言葉を遮るようで申し訳ないのですが、待ってください!! ご自身の故郷の距離間が分からないことってあるんですか!?」

「事実に嘘をついても仕方あるまい」


 あまりにも無表情に近い顔で淡々と最低限のことしか言わない姿に僕の知りたがりの精神が疼き、恐れ多くも分かっていながら恐る恐る聞く。


「……会って間もない人に失礼ですが、ひょっとして方向……」

「音痴ではない。そうでなくばサザンクロス国まで迷ってしまうことになる。それに輪我輩はアルバート将軍とは戦争で幾度も争ってきた因縁の仲。国の道行きを知らぬ筈がない」

「しかし故郷までの距離が分からないって、それは自分の家まで分からないと言っているようなものですよ」

「方向感覚は長年培った技術と勘がある。そうでなくても、国の民の殆どに最新のコンパスをこのウィーラーヴィローアに搭載している。しかし、距離だけは長年経っても未だに掴めないままだ」

「そ、そんなことって……」


 しかし、そんなことはあるわけで。


「あの……まだ見えてこない感じですか?」

「今のところ、見える兆しなし」

「見渡しても一面の海、このままではもう日が暮れてしまいますよ……」

「こんなことは日常茶飯事、百も承知だ」

「僕にとっては初体験ですよ。どれだけ走れば着くんですか?」

「静かにしろ、気が散る。黙らないとその口も輪轡をしなければならなくなる」

「っ!?」


 それだけは是非とも勘弁願いたい。そう思っていた矢先だった。


「……気配」

「え、何かありました?」

「何かくる」

「え、って!?」


 目の前には巨大で如何にも獰猛な人喰い鮫が突然海から現れた。目安体長はおよそ十四メートルほどと思われる。


「ヒョわエェエェ!?」

「いつもの遭遇。大したことのない大きさ。この近海では珍しくない」


 当然アンブローズは平然。僕は当然の如く叫び怯え恐れていた。


「あ、あ、ああわあはああ、ど、ど、ど、ど……!!」

「騒ぐな、気が散る」


 アンブローズは冷静に状況を把握すると、銀の輪を拡張し始め、向かってくる肉食鮫に投げ飛ばし、それが頭に引っ掛かった。


「ループ、ハング!」


 開いていた拳をぐっと握り締めると突如として鮫の頭だけが勢いよく吹っ飛んだ。錬成術を授与していないとしても流石は一国を担う将軍。こういった獰猛な動物にも恐れない強靭な力と度胸の持ち主。


「ハワアワホワ……こういうことは日常茶飯事なのですね……」

「今回海泊するための食料が偶然手に入った輪けだ」

「かい、はく……? それって、今日は貴方の国に辿り着けないこと確定ですか……?」

「日もそろそろ落ちて辺りは真っ暗になる。それにこの海域までくると濃霧が発生し易く更に視界も悪くなる。このまま獰猛な魚類たちと遭難したくないだろう」

「海の上で生活なんて初めてだなぁ……」

「心配せずとも視界に疎い魚類たちはこちらが動かなければ向こうから襲ってくることもない。しっかりと対策は……?」

「アンブローズ将軍……?」

「しっ! ……音が」


 僕は目を凝らし、アンブローズ将軍はカトリシアに搭載されているソナー音を目印にそっと耳をそばだてる。すると霧の影の中からとある大きな影の物体が映し出された。


「え、あ、な、なんか向こうから物体が近づいてきます、よ……? まさかまた鮫……!?」

「……少年、今回は運良く海泊しなくてよくなったぞ」

「な、なんか、出てきた……これは……?!」


 驚きは隠せなかった。霧から突然物体が姿を現した。今度こそ紛れもないアンブローズ将軍が納めるコーメルシオ諸国連邦、という島の大小が幾重にも鎖によって連結している島でもあり、船として浮かび進んでいたのだ。それも一隻だけではない。横に後ろに、何十隻とこれと同じようにどでかい船が回遊していたのだ。


「でぇぇ、でで、でっっかぁ!!」

「大したことない、あれでも主体となっているところから小さな島船が連なっているだけだ」

「あれは、ふ、船……!? でもよく見ると、島が動いているようだ……! それにしては規格外の、僕の想像を超えたでかさですよ……!!」

「違う、船ではない。これらは島だ」

「し、島っ?!」

「見まがうことのない、正真正銘、コーメルシオ諸国連邦、輪我輩が治める不確定に回遊する島船だ」

「島、船……常に動いている、回遊島船?!」


 もちろん僕は初めて見た。島の下が船の作りになっていて、そして見上げると大きく、本当に回遊していた。するとスポットライトが照らし出され、僕たちが乗っていたウィーラーヴィローアにあたる。


『……——あー、あー……! ――将軍、そこにいらっしゃるのは、もしやアンブローズ将軍でございましょうか?』


 島船の先導に取り付けられている巨大なスピーカーから機械的な声が海中に響き渡る。すると、アンブローズが前にあるボタンを押すと自動的にスピーカーとマイク拡声器が出現し、島船に向かって声を出した。


「正真正銘、アンブローズだ」

『ご無事のご帰還で御座いました。サルベージ致しますので暫しお待ちを』

「それと、たった今ここに鯨を狩った。食料班に指示して引き揚げて欲しいことを伝達せよ」

『了解致しました』


 暫くすると作動の機械音が聞こえてくると、巨大なクレーンらしきものが降りてきた。アンブローズが操作を行いながら丁度いい位置に着くとクレーンがここまで乗せてきたウィーラーヴィローアを慎重に優しく包むように掴み上げ、徐々に上へ上へと引っ張りあげてくれた。そして、下に数人の作業員たちが指示をし合いながら合図をし、クレーンは丁寧に下へと降りていった。一日かけて漸く足に地がついた。




「アンブローズ将軍! 此度の遠征、お疲れ様で御座いました!!」

「カトリシアのメンテを頼む」

「「はっ!!」」


 作業員たちは素早い手際でウィーラーヴィローアを造船ドッグの保管庫へと移されていった。


「うわ、っとと……はぁ……」

「よろけているな。おまいは何もしていないのに溜め息か。呑気なものだ」

「道中、ずっと座りっぱなしと速さと驚くようなことばかりだったので……」

「この先そのようだと海の上で暮らして行けないぞ」

「だけどここは、船の上とは思えない程に揺れもなく安定していますね。このぐらいでしたら、酔うことはないので大丈夫です」

「そうでなくては困る」


 すると自動ドアが徐に開き、コーメルシオの色に統一された隊服を着た数十人の隊員らしき人たちが綺麗に隊列を組んで足踏みを揃えてアンブローズの元までやってきた。


「全体止まれ、右を向け!!」


 リーダーらしき人物が合図と共に足踏みを止め、一斉に半回転で右を向いた。そして、まとめていたリーダーがさっとアンブローズの前へと出てきた。


「我等がコーメルシオ諸国連邦将軍、アンブローズ=バンダル=ジョルダー様に、敬礼っ!!」


 コーメルシオの習慣なのか、全員が息を揃えて右手を拳にしたまま右に向かってまっすぐ張り、その次にそのまま拳を胸に当て、そして素早く両手を後ろへと組んだ。


「アンブローズ将軍! 特例任務、お疲れ様で御座いました! お一人で敵地へ向かわれ、ご無事のご帰還であること、我々隊員、及び民間人共々安堵の胸中で御座います!」

「不在間、首尾の方は?」

「はっ、現状維持で異常は御座いません!」

「各島船班長の報告事項は?」

「緊急報告は現在御座いませんが、雑多から重要まで各島船の案件が数百件御座いますので、明日は是非に会議をお願い致します!」

「あい輪かった。それと解散前に紹介をしておく。例の少年をこちらで匿い保護することになった。魔化錬成師、シビル=ノワール=フォルシュタインだ」


 シビルの名前と身分を聞いて隊員たちの表情が驚きに崩れた。


「隊員、静粛に! すると、例の同盟作戦は成功、といった形でしょうか?」

「危ういところもあったが、命辛々だ。魔化錬成術を使うあやつに真向から挑むことは危険であったものの、一応は、成功だ」

「流石はアンブローズ様で御座います!」

「明日改めて、戦歴報告を兼ねて今後の行く末の検討討論を行う、以上だ。各自持ち場へ戻れ」

「はっ!! 一同、敬礼っ!!」


 一斉に息の合った先程の手順を組んだ敬礼でアンブローズに挨拶を終え、リーダーの号令と共にそのまま速やかに立ち去っていった。


「さて、輪我輩も部屋で休みたい。おまいを部屋に案内する。ついてこい」

「は、はい……」




 互いの靴音が廊下に響き渡る。僕とアンブローズ将軍と共に過ごす部屋へと案内してくれていた。


「ここがおまいの部屋、輪ッカーシャルームだ」

「部屋まで名前を!?」

「各部屋に誰が配置しているか分かりやすいように各部屋に名前を施して熟知しているだけだ。輪我輩だけでなく、他の隊員や住人たちにも同様である。何よりもこの界隈は船室が多い住宅区民だからな」

「……国の情勢なのですね。変わった習慣」

「おまいも部屋の名前を覚えざるを得ないぞ」

「えー……」


 ドアを開けて通された船室、輪ッカーシャルームという名の僕の部屋として割り当てられた。間取りはサザンクロス国のクロノワールクローム城で使用していた部屋よりもやや広めではあるが、こちらも必要最低限の作業をするための机と椅子。そして簡易的なタンスとベッドが置いているぐらいでその隣に洗面所と簡易風呂。別個にお手洗いが常備されていた。


「何か依頼があったり不備があればこの机の中に電報がある。それを書いてこのポストに入れれば係りの者が申請対処するのがこの国での習わしだ。他に分からないことがあればその都度尋ねるといい」

「……」

「では、早々に寝るよう」

「あのぅ、その前に一つ」

「?」

「これ、いい加減外してもらえません? いつまでこの状態でい続けなければならないのですか?」


 そう、僕の両手は未だに手錠が嵌められている。アンブローズはじっと見据えたまま。


「……輪すれていた」

「はうっ!?」


 視線を上に仰ぎながら独り言のようにつ呟いたのを見て明らかに些末なこととして忘れ去られていた。その後に漸く僕の両手は解放された。


「明日こちらへ輪我輩わがはい直々の電報が入ると思う。必ず目を通しその指示に従うよう」

「明日?」

「この島船は第一班から第十班まで連なっている船だ。報告するのも手広で結構な一苦労が故に各部屋に電報が届くシステムになっている」

「なるほど。島船の構成ですね。それが第一班から第十班か……」

「先程の造船ドックで聞いていたように、明日朝に島船班会議が行われる。紹介を兼ねておまいも参加してもらう」

「僕も、ですか……」

「今後を共にすることで国の命運が左右される。おまいの会議への同行は必須だ」


 そう言い伝えるとアンブローズは癖のように輪っかを人差し指で回しながら僕の部屋を去っていった。


「国の命運って……口揃って僕のことを……」


 聴き慣れているようで、聞き飽きたこの言葉。


「疲れた……今日はもう何も考えたくない……」


 とにかく、拉致されたことによる気力も思考力も体力も限界で、とりあえず体を休めるためにベッドへ倒れ込むように突っ伏した。


「いっ、かたっ!?」


 唯一違っていたのはウォータースプリングではなく、ただ板を敷き詰めたベッドだった。


♯11へ

 明けましておめでとうございます。新年一発の投稿となります。作者です。

 コロナでお盆の日実家に帰れなかったので心配だったおばあちゃんに顔見世出来てよかったです。

 しかし帰る日になってお母さんが持病のヘルニアを抱えて寝込んでしまったのにはちょっと心苦しい思いでした。お母さんが還暦を超えて前のように体が思うように動けなくなってしまったことに心配が増えながらも福岡に戻った次第です。あと十年、二十年、家族や友達、そして自分がどうなっているのかと身の振り方を考えさせられた年末年始でした。知り合いの人や中学や大学の友達と再会し、少しずつ変わっていく日常を噛みしめながら新年を過ごしていきたいと思います。今年もどうぞよろしくお願いします。そして小説もよろしくお願いいたします。

 あと、実家に帰ってびっくりしたのがおじさんとおばさんが鬼滅にハマっていたことでした。普段アニメなんて見なかったのにDVD借りて映画まで見に行ったそうです。ではまた次回☆彡

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