♯10:サザンクロス国歓迎撃戦【帰路】
突拍子ではあるが、ここで将軍たちの繰り出す魔化錬成術たる技に関しての豆知識を改めて説明しおさらいをしよう。
将軍の力は各国の資源、順応性、得手不得手によって魔化錬成術は左右され、各々で様々な技を駆使して戦う。
それにより、物理的な武器、兵器、戦闘機の類などは一切不要。
それ故に将軍たちは国の最終砦「人間兵器」なのである。
ここからは現在確認されている力の特質と使用している将軍を一部紹介していこう。
魔術に特化し魔能力を原動に非科学的に戦う「魔術型」。
ウィンチェスター王国将軍・レイノズル=ゴート=ウィンフィールド。
化学に特化し資源に沿って化学的に戦う「化学型」。
コーメルシオ諸国将軍・アンブローズ=ヴァンダル=ジョルダー。
化学と魔術を両立均等に戦う加減の扱いが大変な「均等型」。
バックハワード共和国将軍・ハレック=フラグ=アリスタ。
そしてその中でも異業種でもあるのが「コア」の錬成術を秘め、全化学・全魔術共最大限に特化させ、人智を超えた力を駆使して戦うのが「魔化錬成術」。
かつて使用していたのがレイノズル将軍。
現時点で使用出来るのがサザンクロス国のアルバート=ガリア=イージス将軍。
力の源である「コア」を生成出来るのが言わずともがな、希少な人種として力と頭脳を継承し、生存確認されているのが魔化錬成師のシビル=ノワール=フォルシュタインなのである。
今紹介しているものでもこれはまだほんの一部であり、この先にも未知なる使い手が現れることだろう。
それを踏まえた上で、今後の戦いの展開を見てくれると幸いである。
「はひぃー……敵をどうにか撒いたっしょ……! 俺様、も、もう……魔能力がほぼゼロっしょー……」
「少年は?」
「あぁん? なぁんか気ぃ失っちまってるっしょ」
僕は知らぬ間にハレック将軍に担がれてぐったりと伸びていたらしい。そこからの記憶は全くない為に話を聞くからには、茂みの森にてアルバート将軍の錬成術を掻い潜り、クロノワールクローム要塞城を脱出することに成功したという。
それが同盟を組んでいたアンブローズ=バンダル=ジョルダー将軍とハレック=フレグ=アリスタ将軍。
「無事であるな」
「魔能力がほぼゼロなのに俺様のことも気を使えや……とりあえずあの場所へ向かうっしょ!」
二人は少しでも追手から距離を取るために待機場所に決めていたというある場所へと向かっていったという。
「追手は……今のところ来ていないな」
「だな。ふぅ、もう少し遅かったら日が暮れになるところだったっしょ」
「とりあえず少年はこの簡易牢に閉じ込めておこう。輪我輩、作戦に戦いに疲れた。今日はもう休んで明日行動だ」
「おいおい、このままオールしねぇのかよ!! 年寄りくせぇな!! 俺様なんて最高三日オールオッケーだぜ?!」
「おまいのペースに合わせる筋合いはない。輪我輩は休める内に休む」
「なんだー! ほんと見かけ通りジジくせぇ習慣っしょー!」
「……黙らぬならおまいを拘束してここに置いていく」
「まぁまぁ、今は同盟の真っ只中だから、な、な?」
「……その少年はさっさと簡易牢にしまっておけ」
「おいおい、これって俺様がしなきゃダメ?」
「将軍たるもの、最後まで請け負った責務を全うするものだ」
「堅苦しいっしょー! 律儀である俺様でもそんな堅物行為を押し付けるのは……!」
「……」
「ああもう、分かった、分かったから無言の圧力はよしてくれっしょ!」
「おまいの相手するだけでも骨が折れる。さっさと済ませてこい」
「……っけ! なーんであいつ中心で仕切られなきゃならねぇっしょ! いつか見とけっしょ!」
二人の将軍が脱出したサザンクロス国では緊急事態会議が行われていた。
「アルバート将軍、申し訳ございません! アンブローズ=バンダル=ジョルダー将軍及びハレック=フレグ=アリスタ将軍がサザンクロス国を逃走!「魔化錬成師」、シビル=ノワール=フォルシュタイン氏の拉致を再度許してしまいました!!」
「……」
「逃してしまいました重さ相応の罰はいくらでもお受け致しま……!」
「それでいい」
「はい?」
「そのままでいい……その方が、俄然楽しみだ」
「あ……あの……!?」
「まだ昨日の今日だ。鼠二人はそう遠くへは逃げていないはずだ。御託を並べている暇があるのなら可能な限り、引き続き詮索隊、諜報部員、隠密員は総出で隈なく手広くあいつらの行方を追え」
「了解しました!」
「さあ、この鬼ごっこはどちらが勝者となるか」
「失礼致します! 諜報部員からの伝達です! 将軍二人の行方をくらましてしまい、現在もなお捜索中で誠に申し訳……!」
「言い訳は聞きたくない。この件もまた放置しておくに限る」
「アルバート将軍! 一度ならず二度までもシビル殿を他国への拉致を許し、それをまた放っておくとは、ウィンチェスター王国の二の舞をお考えなのですか!?」
「…………」
「こ、今回の作戦は将軍自ら立てた計画でこのような事態になっておられることをご自覚なさっておいでですか!?」
「……次に御託を並べたヤツは俺の魔化錬成術の拳が飛んでくると思っておけ」
「……っ!?」
「貴様らは心配する暇があるのならば次の事態に備えておけ。これも、想定の範囲内だ。俺の作戦、思惑はむしろ順調に進んでいる。これからが楽しみで仕方がない。貴様らは次に来る事態に備えておけ」
「「イェッサー!」」
「おーい、おーい、朝っしょー!! 起きるっしょー!!」
「……っ、さ輪がしい……最悪の寝起きだ……低血圧の相手にデリカシーというのはないのか……?」
「うわ! 不機嫌だなぁ! ったく朝から低血圧なんてほんと老け顔が増してるっしょ!」
「……輪我輩はまだ二十九だ。おまいが異常に機嫌が良すぎるんだ」
「俺様、朝も昼も夜も常に全開っしょ!」
「輪めくな鬱陶しい……それと、なんだそのけばけばしい毛皮の服装は……」
「ああ、これか?? かっけーっしょ?? 俺様推しのスタイルっしょ! まあ、これは戦闘用ではなく、日常的におけるものだ! ジョルダー卿も俺様のスタイルに射抜かれたら、推しモノとして提供するっしょー!」
「断輪る。おまいのセンス、永久に理解できない」
「俺様もあんたの輪っか好きは死んでも分かんないっしょ!」
「別に他人の理解を求めていない。輪我輩が好きであればそれでいい」
「まあ輪っかが好きだから、四角いものとか角ばったものが嫌とかって偏った言い方するんだろ?」
「それこそ偏見だな。輪我輩はそれらを目にしても、別に何も思わない。その物理的なものがそこにあって、必要に応じて存在するという感覚だけで、特に何の感情も浮かばない」
「んーなるなるーってか! まあ、俺様はあんたの理屈なんざまーったく気にしていないけどな!」
「ただ、アクセリアには輪我輩なりのこだ輪りがある。それ輪絶対ネックレスに限る。指輪や腕輪や足輪やピアスなどの類い輪身に付ける範囲が限られている。多く纏えるものが出来るのがネックレス。それ以外のアクセリアやルースなど無用だ」
「へー! それはそれは意外や意外! でもお前さんなりに拘りは持っているっしょ!! ま、どーでもいいんだけどな!! この会話ですらもな、いやーっははは!!」
「慣れしいぞ風使い。盟約の元の同盟とはいえ、おまいはもっと距離感を知れ。今現在協力と協調の範囲外だ」
「えーっ、つめたっ! でもはいはい。所詮同盟なんてそんなもんさ! 将軍の身分である互いに手の内を見せ合うことで今後のことを警戒しなくちゃいけねぇしなぁ!」
頭の横で両手を振って飄々とチャラそうにあけすけにものを打ち明けるハレック。
「……それよりも、輪我輩とおまい二人にはある重大な一件を抱えているだろう」
「そうそうそうだよなー! お互いにどうしても譲れないものがあるっしょ! 互いに取り交わした盟約だけでは中々決まらなかっただけに、そのおかげでイージス卿への乗り込み作戦を遅らせたからな」
「おまいが渋っていたからだろう?」
「人のこと言う〜? 言うだけ言う〜? あんたも相当答えるのに躊躇してたクセによー!!」
そうこう言い合っている間に二人はある場所にたどり着いた。そこは二人が作った避難所でそこには携帯仮牢屋小屋が設置されており二人があらかじめ用意していたもので、アンブローズ将軍お手製の鉄輪専用の鍵を使って中に入ってきた。
「……」
その牢屋部屋に監禁されている僕。手足に鉄輪がはめられたまま、黙って蹲っていた。
「さて、この魔化錬成師の少年。どちらが所持するか、だ」
二人の将軍に見下ろされた僕はどこも物怖じしなくなったかのように黙り込んでいる。
「世界でも希少な人種で錬成術の源である『コア』をこの世に創世し生成する。謂わば神の禁域に値する特殊な能力を持つ一族が一人。将軍たちが喉から手が出る程欲しがる人材でもある」
「まあ、こんな気弱くせー坊主が、って意外性もある。正に展開としては美味しい話っしょ!」
「さて、この少年をどちらが所持出来るか……だ」
「当然、危ない中探しに行ってここまで抱えて連れ込んできた俺様に権限があるっしょ!!」
「おまいは謙虚のカケラもないヤツだ。アルバート将軍への乗り込み作戦及び決行人はこの輪我輩が考案したことだろうが」
「それ言っちゃう〜?? 独り占めする〜?そりゃないぜ〜ジョルダー卿!! ここは輪の様に俺様に丸く譲ってくれたっていいじゃねぇかー!!」
「おまいの誘導尋問に惑輪されない。しかし、このままではキリがないのも事実」
「なんだ〜?? こうなったら力付くか〜??」
「……これに関する調印の盟約に記載はないからな。輪我輩、別に構輪ない」
「かっ、上等じゃねーか!! この際、どっちがつえーか思い知らせて……っ!!」
二人が僕を巡って力付くで強行に出ようと構えた。
「ここで戦闘しないでください」
今の今迄黙り込んでいた僕は構わず横入りした為に二人は思わず振り返って注目する。
「僕がどっちかにお世話になるかで、そんなことで張り合うなんて国を統べる将軍ともあろう人が、みっともないですよ!」
「かーっ! みっともないってよージョルダー卿!! あんたのやり方、みっともないってよ!! 将軍に指図するただの坊主というこの状況!! いやっはは!! こりゃ笑える展開っしょーー!!」
「それはおまいも含まれていることだ。少年、二つに一つという選択肢で互いに譲れない場合は戦闘の展開もあり得るのだよ」
「んまぁ、時と場合でこの状況はまさに戦闘で決めることではあるしょ!!」
「でしたらその必要はありません。僕はどちらについていくか、もう既に決めましたから」
「……!」
「なんと!?」
二人の将軍の内、どちらに着くか決断した僕の発言に二人は予想外だったようで思わず驚愕した表情になる。
「マジか! 気弱そうで発言力もなさそうに見えたけど、意外や意外! 坊主は自分を持ってやがるっしょ!!」
「そうか、それなら話は手っ取り早い。おまいがどちらに着くか決めてもらった方が互いに恨みっこなしで後腐れがなくていい」
「な、なんなんだ、久々にこの別の意味での緊張感……! 戦闘では味わったことがねぇから、そしていつも立場的に選ぶ側だから! ひょっとして選ばれる気持ちってこんななのか……!?」
僕が下した決断は――。
「アンブローズ=バンダル=ジョルダー将軍。僕は貴方の元で人質になりましょう」
「輪我輩か……少年、よい決断だ」
「んなんでだっしょーっっ!?」
迷いのない事実でアンブローズ将軍の元で人質に決めた。
これが今後どういう展開をもたらすかは未知ではあるけど。
「おい坊主ー!! あんた俺に担がれて守られた大役の恩を忘れたのかー?! なんでよりにもよって輪っか好きの変わり者のとこに行くんだよー!? なんでなんでなんでっしょー!!??」
「騒輪ぐな。一国の将軍ともあろうおまいがみっともない。この少年が決めたことだ。認めろ」
「納得いかねーっしょ!! せめて理由を教えてくれっしょ!!」
「…………貴方に恩なんて微塵もありませんよ。あの人を……ミカルさんを殺してまで、僕を奪いに来ることはなかったはず……だから、僕は貴方がどうしても許せない……! それだけだ……!」
でも、こうなったのは僕のせいだ。一週間後にあの資料を回収しに行くことで要塞城へと向かっていったのだろう。それがきっかけだから、余計に悔しい。
「ぐぬぬ……っ!」
「どうやら知らない内に随分と嫌われたようだな、ハレック将軍殿」
「かっ!! へいへいわっかりましたよ!! ジョルダー卿、あんたに預けておきゃあいいんだろ!! ただ、選ばれたからっていい気になりなさんなっしょ!! 後でこっちにきたかったなんて後悔すんじゃねぇぞ坊主!! 俺様はこう見えて意外と律儀な将軍で通っているんだからなっ!!」
将軍として面目丸潰れのハレック将軍は不機嫌ながらも諦める。
「おまいの日頃の行いが明暗を輪けたのだろう。これで決まりだ。とっととおまいの国へ戻れ。また動きがあれば同盟盟約の下、今後の伝達は続行する」
「けっ!! 言われなくても帰ってやるっしょ!!」
不機嫌さ全開でハレック将軍はこの場所から立ち去った。
「……」
「行くか。今後、輪我輩の下で世話になるからには少年、おまいの名を教えて貰おう」
「……シビル=ノワール=フォルシュタイン」
「そうか、シビル少年。早速輪我輩の国へおまいを歓迎する」
僕はこうしてアンブローズ将軍の治める国へ人質として誘われた。
♯11へ
気づけばもう年が暮れて年が明ける今日この頃の作者です。
色々とありました2020年。コロナの影響で自粛が続いて何かと生活が大変でしたが何とか乗り越えられたかなと思います。まだ油断が出来ないこのご時世、引き続き気を付けて健康に暮らしていけたらなと思います。今年の年末年始はいつも通りに実家に帰って友達や知り合いと再会するといった形です。その中でも一人中学の頃からの友達と何十年ぶりに再会するのがなんだか新鮮に思えます。募る話もあるので何かと楽しみです。というわけなので小説の方も年明けの投稿になりますが、帰ってきたらすぐにアップするかと思います。果たして来年はどんな年に、どんな出来事が起こるか。
それではよいお年を!