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9/12

秋の長雨と、お買い物 ◎

お買い物に出かけたところで、思わぬことが・・・

  【秋の長雨】

挿絵(By みてみん)


 11月に入ってしばらく雨が続いている。

私は去年まで、落ち葉が舞い、冬が近づくこの季節はちょっと物悲しく

てあまり好きじゃなかった。


特に去年はお母さんが体調を崩し始めたのがちょうどこのころだ。

なんだかとても不安で、憂鬱だったのを覚えている。


ところが、今年はこの落ち葉が雨で濡れるにおいがとても心安らぐ。

雨の日は電車通学になり、今の時期でも車内がむしむしするのがちょっ

と嫌だけど、学校に行けば大事な友達が、家に帰れば優しいお父さんが

いる。そして読む本はいくらでもあって、どれだけ雨が続こうがのんび

り読書にふけるだけだ。


 (コンコン・・・)


「はーい。」

「そろそろ冬物でも見に行こうか。」


「うん。行くっ!」


今日の夕食は土曜定例のカレーなので二人で朝から仕込みをしていて、

切り出しが終わった後、お父さんに任せて私は部屋で本を読んでいた

のだった。


(本当はコツコツ進めていることがあるんだけど、

    それはお父さんがいない時にやっている。)


会ってから、初めてカレーを作ってもらったのが真夏の暑い日だった。

なんでも午前中から煮込むらしく、土日限定で作れると言う事で、私も

手伝いながら作ったのだが、だれが作ってもそう変わらないと思ってい

たのは大きな思い違いで、凄くおいしくてびっくりした。


それからというもの毎週土曜はカレーの日と決めているのだ。



雨がしょぼしょぼする中、私とお父さんを乗せた車は走る。


私は、車の真ん中にあるパネルを操作して、動画を再生する。


モニターに映ったのは、腰まである銀髪をなびかせて踊る少女。

実は私の友達だ。


あの後、私の時みたいにお父さんがプロデュースしてくれたのだ。


うん。とってもきれい。


「お前も、紗奏もすごい人気だな。

    ま、モデルと歌がこれだけ良ければこうなるか。」


「あは~。怖くてネット見てないよ。」

「そろそろ二人で歌うのを撮ってみようかと思うんだが、どうだ?」


「あ、それ楽しそう。でもほんとにばれない?」


私はそれが心配だった。

何と言っても凄くいろんなところを回っているから。


まず行ったのは、メイクもしてもらえる美容室。

そこでとっても念入りにメイクしてもらい、もう別人のように。


次に行ったのが、ウィッグ屋さん。

オーダーメイドで金髪のウィッグを依頼。


次に洋風ドレスを扱っているお店で、

これまたオーダーメイドでドレスを依頼。


ちなみに、金髪ウィッグも、ドレスのチョイスもお父さんだ。


3日で両方とも出来上がると、

それを持ってもう一回美容室でまたメイク。


そしてそのまま着つけてもらった。


かなり恥ずかしかったけど、そのままの格好でライブハウスみたいな

ところへ移動して、動画の撮影。


カメラを回す人、光を当てる人など5人に囲まれての撮影だったのだ。


これだけ人に接していたら、確実に私たちの身元がバレそうなものだけ

ど、1月余りたつのにその気配がないのはとっても不思議。


「ねぇお父さん、なんで私たちってバレないの?」


「お世話になった人たちには、俺やお前たちの情報は全部伏せて頼んで

いるし、そもそも素顔を知っているのは美容室だけで、あそこは古い知

り合いなんだ。


この絵じゃ、これが紗奏ちゃんだってとてもわからんだろう?」


「でも、金髪ウィッグとか、こんなドレスを注文したらとっても目立つ

 んじゃない?」


「お、良いところに気が付いたね、梨桜。

 そこはちゃんと手を打ってあるから、ノープロブレムだ。」


「むぅ~、それを私に教えていただいても?」

「なに、お前たちが特定されないように、目くらましをいっぱい打った

 だけさ、巷に金髪ロング、銀髪ロングがあふれるように。」


「あいかわらず、お父さんは謎がいっぱいだねぇ~(笑)」


どうやら、その手段までは教えてくれないようだ。


なんにせよ、心配はないと言う事で、次を楽しみにしようと思う。

ただ、他の友達とのカラオケは控えないと、声バレするかも。



  【目くらまし】


 日本の業界は案外怖い。

 週刊誌の追いかけ、

 ありもしないデマ、

 なにより、蜜に集まる蟻のごとく、売れると判断すると追い回すスカ

ウトたち。本人が芸能志望ならともかく、そうでないなら絶対の隔離が

必要だ。


といっても、それほど大したことはしていない。


 ネットで、『ドレス指定・金髪ロング(ウィッグ可)のモデル』さん

を十分なギャラ付きで募集した。


 さて、どのくらい応募があるかと思っていたら、これがかなりの数に

上った。その中からある程度ふるいに掛けさせてもらって、全国各地20

人余りにお願いした。


 きっとその子たちは、今回のYoutube映像と関連付けるだろうし、注

文を受けた店には問い合わせが行くだろうけど、こちらとは全く関係が

なく、決済はすべてインターネットだからつながりもしない。


 美容室はもう10年余り付き合いのある、行きつけのところで、特別な

配慮をしてもらい、理由をきちんと説明してお願いした。ここから漏れ

たら私の不徳といえよう。


 そういえば、その当時私の担当だった女の子ももうマネージャーにな

ったそうで、とても大変らしい。


 学校が始まる前に二人で行った時も、梨桜はもちろん新人さんが担当

したが、私の方もカットと最後の仕上げだけで、あとは若いスタッフが

やってくれた。


 動画を撮るのはどうしようか悩んだが、どうせならきちっとしたクオ

リティに仕上げようと思い、ネットで検索して依頼した。


勿論、こちらの情報などは伏せさせてもらったし、あの姿からよもや中

学生とは夢にも思わなかったことだろう。


 アップされた動画は、予想した通りの反応で、誰だ誰だの大騒ぎとな

っていた。最近は歌の上手い子が多いが、それとは別の次元で人を引き

付けるものがこの二人にはあると、親ばかな私は思っている。



  【3.プレゼント】


 11月も中旬を過ぎると風はもう冬のにおいを運んできている。

そう、つい先月の晩秋めいたにおいとはちょっと違う。


頬にあたる風もめっきり冷たくなりマフラーを巻く日が多くなる。


 今日も、私は先週お父さんに買ってもらったチェックの物を、紗奏は

えんじ色の大人びたマフラーを軽くひとえにして巻いている。


私が、紗奏のコーデを大人っぽくていいと言うと、紗奏は、

「マフラー交換してみよ。」と言った。


お互いにマフラーを交換して巻いてみる。


 ・・・いったいどこのラブラブカップルですか?(笑)


「だいたいの目星とかはつけてる?」、

となりを歩く紗奏がたずねてきた。

今日はお買い物に付き合ってもらっているのだ。


「ネクタイにしようかなって。」

「そっかそっか、あなたに首ったけみたいな?(笑)

 そりゃー喜ぶね!、きっと。」


「えへへ。

 後は一応手作りのものを。

 紗奏のはこっそり選ぶから、期待しすぎないように期待してて。」


 そう、もうすぐお父さんと紗奏の誕生日なのだ。


「手作りって、手編みのセーターとか?」

「セーターは難しいかな、マフラーを。」


「尽くすねーー。」

「今があるのは、お父さんのおかげだからね~。」


「ところで梨桜、この辺結構いい値段なんだけど?」

「うん。夏にお昼代をためておいたから。ちょっとリッチなのですよ。」


「そっか、お昼は自炊してたんだ。得意料理は?」

「お父さん式カレー」


「なになに?特別な奴?粉から作るとか?」

「ううん、市販のルーを使って、

 ほとんど裏書通りに丁寧に作るだけなの。

 手を入れるのは、お肉炒めるときに赤ワイン入れるのと、

 野菜を炒めるときは素材ごと分けて炒めていくのと、

 炒めてるとき、フライパンは洗わないのと、

 煮込むときには、はちみつとインスタントコーヒーと、

 トマトを一切れ入れるくらい。

 あとは、香り付けのローリエは説明書より多めに入れるかな。

 あ、そだ、

    お肉はちゃんと下味付けて、炒めるときは脂身使って・・・」


「オーケー、梨桜、それ十分凝ってるからね!」


「あ、最後にしょうゆをひと回しかけるんだよ!」


「お醤油を?それは初めて聞いたかも!」


「それからねぇ、お味噌汁も上手になったと思うし、

 漬物も覚えたのですよ~」


「あれあれー、花嫁修業みたいですよー?梨桜。(笑)」


そうそう、私たちの年頃はかなり意識に差があったりして、もう理想の

彼氏像から理想の結婚生活から、いろいろ考えている子もいたりする。

私はまだお子様なのか、あまりそういったことに興味が無いのだ。


2学期早々に告白されて、ドン引きするくらいに。


 そういえば、あれからそういうこともなく平和な日々が続いている。

告白するほうも勇気がいるのだろうけど、断るほうも凄く体力を使うか

ら、できればあまり経験したくない。


紗奏はそういうことが結構あると思うんだけど、大変じゃないのかしら。

・・・と、考え事をしながら眺めて回っていると・・・


(あ。こういうのいいかも・・・

    綺麗にディスプレイされているものの中に

    お父さんのイメージに重なるのを見つけた。)


「これなんてどうかな?」


「ドット柄ね、なるほど、色味的にもネイビーって本間さんにあってそ

うだし、このドットも良いと思う。ダンディーな感じするよ。


 ・・・て、梨桜、凄い値段だよ?

 NinaRicciだって、有名ブランドなのかな?」


「さ~~、私はこういうのにはとても疎いから。(笑)

 ・・・じゃ、紗奏の反応も悪くないみたいだし、

 直感でこれにしよっかな。」



  【スカウト?or not?】


 二人で買い物をして、お茶をして、ぶらぶら歩いていると声をかけら

れた。


「すみませーーん、ちょっといいですかーー??」


スーツを着た20代中ころ?くらいの男の人だ。


「私こういう仕事をしておりまして・・・」

と言って名刺を差し出してくる。


なんでも芸能関係者のような名詞だ。きわめて怪しいけど。


「雑誌のモデルとか、芸能界とか興味ない?」

私は梨桜と顔を見合わせる。


「すみません、私たちまだ中学生なので。」

「心配しなくても、中学生のモデルいっぱいいるよ。

 っていうか、やるなら今でしょ!」


  (・・・古・・・。)


「すみません、時間が無いですし、そういうの興味ありません。」

「もったいないよー、

 二人とも今のアイドルなんて目じゃないくらいかわいいじゃん、

 どうかなー?ちょっとだけ話させてよー」


  (しつこい・・・)


 私はちょっと視線を強くしてきっぱり断ろうとしたその時・・・


「ちょっと!、この子たちまだ中学生なんですけど、通報しますよ!」


 私たちの後ろからそんな声が聞こえた。


振り替えると、20代くらいのおねーさんが速足で駆け寄ってきて、自称

スカウトマンをにらんだ。


・・・凄い美人だな・・・。


「ちょっといい?」


そういうと、おねーさんは私の手から今渡された名刺を抜き取ると、

サラっと目を通して、


「それとも、ここに電話して確認してもいいかしら?」


「あ、いや、俺は雑誌のスカウトをしていただけで、

 怪しいもんじゃないって!」


「だから、この番号に確認しますよ?って言ってるんですが?

 この子たちは、はっきり拒否してましたよね?

 私聞いてましたし。」


「拒否っていうか、まだ交渉中だって!」


「いえ、交渉なんてしてません。

 はっきり断ったのに付きまとわれて困っています。」


「ってことのようだけど?」


「あー、はいはい、失礼しました。」

そういうと似非スカウトマンは足早に去っていった。


「芹野さんっ!!、ありがとうございました。

 凄い偶然ですねっ。」


  (え?梨桜とこの人知り合い?)


「こんにちは、梨桜ちゃん。危なかったね。

 大丈夫?」


「はい、おかげさまで平気でした。」


そういうと、梨桜はペコっと腰からお辞儀をする。


いつの間にこんな綺麗なお辞儀を覚えたんだろう?


「あ、、芹野さん、学校の友達の紗奏ちゃんです。

 で、紗奏、こちらお父さんの会社の芹野さん。」


「初めまして。」

「あ、はい、はじめまして。」私もあわててお辞儀する。


「ああいうのに簡単についていくとほんっと危ないから。

 まったく、最近の大人はどうなってるんだか・・・」


「あれたぶん、偽スカウトマンですよね。

 雑誌とかアイドルとかじゃなく絶対AVだと思う。」

  (なぜなら電話をかけるのをいやがるように見えたからだ。)


「名刺なんて、誰でも好き勝手造れちゃうからね。

 ところで、お二人はお買い物?」


「はい、もうすぐお父さんの誕生日なので。」

そういうと梨桜はにっこり微笑み、

プレゼントの入ったかわいい紙袋をチョンと上げて見せる。


「あら~、お父さん泣いちゃいそうね。」


「芹野さんもお買い物ですか?」


「ええ。私も課長にはお世話になっているので、気持ちばかりの、ね。」


なんと、この人も梨桜のお父さんの誕生日プレゼントを買いに出ていた

ようだ。


こんな偶然ってあるんだな。


と、そこで私は梨桜から聞いていた話を思い出した。


 (同じ会社の、凄い美人さんが告って振られた・・・)


 そっか、この人がきっとそうなんだ。

 それにしても、大人の色気というのはこういうものなのかと、今改め

 て実感する。

 海で会った女子大生二人組も、あの時はとても色っぽく見えたものだ

 けど、今こうしてこの人を目の前にすると、その差は歴然としている。

 私たちの副担任も、たぶん同じくらいの年のはずだけど、女っけは皆

 無に等しいな・・・

  ・・・なんて思ってしまった。


 そして、私たちは改めて3人で少しお茶することになり、芹野さんの

知っているスウィーツのお店に案内された。



  【芹野】


 ちょっと前から女の子の声が聞こえる。

なんでもスカウトらしきものを断っている感じだ。


目をやるとなんとそこには、本間課長の娘さんが一緒にいるではないか。

そして、毅然と断っているのはその友達らしい。


数分間やり取りを聞いていると、相手の男がちょっとしつこいのにムカ

つき、私は思わず近寄って行った。


見ると、スーツは着こなせておらず、どうもまっとうなスカウトマンに

は見えない。

案の定名刺の仕事先に連絡するというと、そそくさと去っていった。


まったく、中学生を相手に何をやっているのか・・・。


娘の梨桜ちゃんはとても気さくに話しかけてきて、課長の誕生日プレゼ

ントを買いに出てきたのだといった。

私と同じ目的とはびっくり。


丁度私も買い物を終えて一休みしようかと思っていたところなので、二

人をお茶に誘うと快くついてきてくれた。

二人とも素直でいい子だ。


 この年頃だと、甘いものをいくら食べてもどんどん消化して太る心配

もそうないのだけど、社会人となり運動量が極端に減ると、ぜんぶ体に

蓄積されてしまう。


週2回程度のジム通いなど、学校生活に比べれば運動量としては比較に

ならないのだろう。


 二人ともとてもかわいらしいので、学校でもモテるでしょ?と話を振

ると、なんでも2学期早々梨桜ちゃんに告白してきた子がいたんだとか。

この子は見た目少し幼くは見えるが、こうして一緒にお茶していると、

中学生とは思えない雰囲気を持っている。隣の友達のほうが子供っぽく

見えるほどだ。


 梨桜ちゃんは、課長の会社での様子を聞いてくるので、その仕事ぶり

がいかに洗練されているかを、

   (あまり熱く語らないよう注意しながら)

二人に話して聞かせると、なんだか自分のことのように嬉しそうにして

いる。


 ウチはかなり大きな会社なので、方向性ごとに開発1課から、4課ま

であるがうちの課はダントツに抜けている。桁が一桁違っているので飛

び抜けていると言ってもいい。

私たちスタッフ一人ひとりの仕事量はそうそう変わるものではないので、

作り上げる商品ソフトウェアのクオリティの違いが出ているのだ。


仮に同じようなソフトを作るにしても、その設計次第で内部構成が結構

ちがってきて、それはそのまま処理速度などに影響してくる。


『重い』とか『軽い』といった使い勝手もその一つなのだ。

また、顧客がほしがる機能とかは『表層願望』であることも多く、実際

にそのまま設計してしまうと、使い慣れてくるに従いまどろっこしくな

ったりもする。


 と、そんな話を織り交ぜながら課長の仕事ぶりについて話していると、

この子たちは楽しそうに目を細めながら聞いている。

私が課長に告白して振られたというのはよもや知らないだろうし『好き』

なことがばれてもちょっと恥ずかしいので『できる上司だと部下は楽』

というスタンスで話している。


 課長は家でお留守番なのかと尋ねたところ、

なんでも毎週土曜はカレーの日だそうで、家で作っているのだそうだ。


よもや料理までできるとはつゆほども思わなかったので、とてもびっく

りした。忙しくなると会社に寝泊まりすることなどもあり、そういう時

はパンやカップ麺で済ませているため、意識の中にそういう刷り込みが

なされていたようだ。


 私が紗奏ちゃんという子と話している間に、

梨桜ちゃんは何やらスマホを操作していて、

とんでもない提案をしてきた。


 「二人とも今日は一緒に食べませんか?」・・・と。


 えーーーっと、これはどう答えたらよいのだろうか・・・。

 


  【紗奏】


 梨桜がお父さんカレーをふるまってくれるというので、私は即断OK

し、家にlineを送る。


隣の芹野さんは、ちょっと思案顔なので、助けてもらったお礼にと、私

が背を押しておいた。


ちょっと大人の女性としての、好きな男を前にした態度を学ばせてもら

おうと思ったのだ。



 そして・・・


 「おじゃましまーす。」


 私と芹野さんが挨拶すると、本間さんは笑顔で出迎えてくれた。


 気まずくないのかな?

と様子を伺うけれど、それらしい素振りはない。


普通、振った相手を家に招くなんてシチュエーションは、そうそうない

はずなのに。

それに、梨桜も二人にくっついて欲しくはないはずなんだけど、なぜ晩

御飯に誘ったんだろう?


本当にただのお礼なのだろうか?


 私はあまり友達の家に遊びに行かないほうで、仲の良い美沙の家しか

行ったことが無い。だから梨桜の家へあがるのも初めてだ。


ちょっとドキドキする。


 リビングのソファに芹野さんと並んでかけて待っている間、ひそかに

様子をうかがう。


気まずくはなさそう・・・

というか普通に、自然に喜んでいる。

  (あぁ・・・本当に好きなんだなーって顔だ。)


 私も直樹といるときにこんな顔になってるのかと思うと、恥ずかしい。

小さいころから一緒にいることも多かったし、まさか中学生の私が6つ

も年上の自分の事を異性として好きだとは夢にも思っていないだろう。


 『兄のように慕っている。』


そう思っているはずだ。いや、思っていてください。


 そんなことを考えながら待っていると、梨桜と本間さんがお盆に晩御

飯を乗せて運んできてくれた。

カレーライス、サラダ、スープと一般的なメニューだけど、一品一品が

とてもきれいに仕上がっている。サラダの彩も豊富だし、スープもとっ

ても澄んでいておいしそうだ、良い香りがする。


 「 「 「 「 いただきまーす。」 」 」 」


 4人でお辞儀をしてカレーを口に運ぶ。


 うん!!!、とってもおいしい。梨桜が自慢するわけだ。


 芹野さんも目を丸くしてその感想を本間さんに伝えている。


 どうやら、料理上手なことは知らなかったようだ。


でも、梨桜の手前だからだろうか、今はそれほど気持ちが顔に表れてい

ない。さっきまであんなに緩み切った顔(失礼!)をしていたのに。


カフェで話していた時も、梨桜に取り入ろうというそぶりは全くなかっ

たし、今もごく普通に上司と部下の体で話していて、告白したとかされ

たとかは全く感じさせない。


 何というか、私は大人の感情コントロールをとても見くびっていたよ

うだ。


 明日は久しぶりに、直樹が実家に帰るついでにちょっと勉強を見てく

れるというのだけど、私はどうしたらいいんだろう?

まったり進行のお話で恐縮ですが、お読みいただきありがとうございます。

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