あかねさんのその後
海で知り合った大学生、あかねさんの彼氏問題に進展が。
【あかねさんのお宅へ】
今日は何と、あかねさんのお家へお呼ばれしている。
夏の日のお礼なのだとか。
たった1日という時間を勝ち取ってあげたことが、とても大きかったの
だと思うと、お父さんがとても誇らしい。
私たちは、失礼のない恰好をして、こうして来てみたのだけど、この
ものすごいお宅に固まってしまった。
改めて、あかねさんってお嬢様だったんだなぁって思う。
『滝沢朱音』
それが彼女のフルネームだった。
朱音さんのお父さんは、その立派な門の前で私たちを出迎えてくれて、
座敷まで案内してくれた。
そして、お礼の食事会で滝沢さん(朱音さんのお父さん)から語られ
た内容はとんでもないものだった。
朱音さんの好きな人というのは同じ大学の同級生。
借りているアパートで大麻を栽培。
さらに驚くことに、朱音さんを狙っていた本当の理由というのが、
『娘の彼氏が大麻を栽培しているという事実で父親をゆすろう』
という考えがあったというのだ。
滝沢さんは、怪しんではいたものの決め手に欠いていた。
だから、朱音さんにすべて話したうえで、彼氏との話し合いの席に警察
官を待機させて彼自身から証言を引き出したという。そしてその場で逮
捕。(容疑はこの時点で脅迫だったそうだ)
さらにはその時朱音さんを蹴飛ばして罪も追加。
もっとも隣にいた龍海さんが即座に反応したそうで大した怪我はないと
か。
あの日、龍海さんが私たちのいる旅館に朱音さんを迎えに来たのも、
彼氏が来ているのではないか、
また、その仲間が連れ去りに来るのではないか、
と、心配しており、
だからあの場面でお父さんの力を見たかった。
見れて安心して帰った。
と、龍海さんは語ってくれた。
「それにしても、うちの龍海を軽く退けるとは、本間君は何か経験が
おありなのかな?」
と、滝沢さんがお父さんに聞いてきた。
「いえ、これもよく言われるんですが、本当に何にも習ったわけでは
ないんです。小さいころに親戚に護身術としてちょっとだけ手ほど
きを受けたに過ぎません。」
お父さんがそういうと、
「と言う事のようだが、お前はどう思う?」と、滝沢さん。
「そうですね、確かに特段武道を修めたという印象は受けません。
それであってもこれだけの個体差、正確には個体としての戦力差が
あるのですから、私から見たらもはや格が違うとしか。
さらに申し上げれば、お嬢様の梨桜さんもさすがと言わざるを得な
い。あの時、他の皆が息をのむ中、ただ一人微笑んでおられた。あ
れはおそらく、本能的にそれを感じておられたのでしょう。」
「ふむ。まぁなんにせよ、娘のことが解決できたのは、まさしく本間
君のおかげだと思っている。
本当にこのとおりだ。」
・・・といってさらに深く頭を下げる滝沢さん。
「困りましたね。
どうか頭を上げてください。
本当に私は大したことはしていない。
したことと言えば、龍海さんに無理を言って、たった1日、朱音さ
んに時間を作ってあげたに過ぎません。」
「ご謙遜には及ばない。あなたが娘に正直に話せと言わなければ、私
はそうすることもしなかっただろうし、ましてや警察沙汰にしよう
などとは考えてもいなかった。あの時点で大麻を栽培しているとい
う確証は持てなかったのだからね。」
「お父様が私に彼の疑惑を黙っていたのは、私に言っても無駄だと
思っていたからでしょう?」
「うむ。海へ行く前のお前に言ってもおそらく悪い方向にしか向かわ
なかったと、今でも私は思っている。
だがね、帰ってきてからのお前は違った。
何というか、目が私をとらえていた。
だから私もお前に打ち明ける気になった。
おそらくそれも、本間君がお前に影響を与えてくれたからだと、私
は思うのだが、どうかな?」
「・・・お父さんを信じてみなさい。って言われた。」
「聞いての通りだ、本間君。
あの日、娘が君と話さなければ、ひょっとしたら私は今頃、娘とも
どうなっていたかわからんし、娘だって警察のご厄介になっていた
かもしれん。
ということで、だ。改めて礼を言わせてほしい。
ありがとう。」
夕食の宴もお開きとなり、今日はそのままお泊りさせてもらうこと
になった。大切な娘さんとの絆を守ってくれたからなのか、とんでも
ない感謝のされように、親子して戸惑っていた。
いつもありがとうございます。