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7/12

歌姫・梨桜

秋の夜長は、カラオケです!。

  【娘とシャウト!】


 9月も終わりに近づき夜空にはきれいな月が浮かんでいる。


今日は梨桜が一緒にカラオケに行きたいというので来ているのだが、

あまりの澄んだ歌声に聞き惚れてしまった。


日ごろから良い声だとは思っていたが、音程の確かさと声質と相まって

何とも形容しがたい綺麗な歌だった。


『聞かせる歌』ではなく、『聞きたくなる歌』


『相手に主張する歌』ではなく、『相手に感じ取らせる歌』


そんな感じがした。


一方私は、昔からハードロックが好きだった。

・・・人にはそう言っている。

ヘビメタ、とは少し言いたくない。


日本でヘビメタというと、とてもビジュアルなイメージでとらえられて

しまうのが、私は好きではないのだ。


別に、格好がどうだから、というのではない。

ヘヴィーメタルの、ヘヴィーメタルたる所以は、何と言ってもヘヴィー

な魂の叫びにあるのだと私は思っている。


それを体現するための格好であればクールなのだが、

恰好とは裏腹のお優しい歌はメタルとは言いたくない。


社会や権力に向けられる反骨の咆哮。

それが私にとってのメタルなのだ。


娘のかわいらしい歌の次に、なんと私は、『Judas Priest』の

『Painkiller』を叫び散らした。


そう、まさに叫び散らした。


高音は出る。それだけが私の取り柄だ。


それを聞いた梨桜は、なんと、目を輝かせて『凄い!』と一言褒めてく

れた。


私は、それで思わず調子に乗ってしまう。


その後のこのボックスはもうカオスと言っていいだろう。

中学生が可愛い歌を歌い、

次におっさんがメタルを叫び散らす。


いったいどこにこんなボックスがあるというのだろう。


なかでもひと際、梨桜に気に入ってもらえたように感じたのが、


 『ビヨンド・ザ・リアルムズ・オブ・デス』

  (死の国の彼方に)


という曲だ。


うん。わが娘ながらわかっているじゃないか!


2時間、私も力の限り叫びつくし、

梨桜も十分楽しんでいた。(たぶん)



そして家に帰り、まったりとした時間を過ごしてベッドに入る。


あの屋久杉を目にしてから、梨桜がこっちに来ることはだんだん減って

いった。やはり自然の力というのは、癒しの力があるのだろうと思わず

にはいられない。


あの日本最古といわれる木を目にしたとき、梨桜はもうボロボロ涙を流

していた。自分でも気づかないうちに。


本当にあの島へ、あの木へ連れて行ってよかったと感じた瞬間だった。



しかしそれにしても・・・と、私は梨桜の歌に思いをはせる。


あの子の歌は、なぜあんなにするりと心に染み入ってくるのか。


静かに、浸食されるように、癒される。


これを放っておいていいのだろうか?


否。


あくる日、私は一計を案じて梨桜に話してみる。

すると、条件付きではあるが、この子はとても乗り気になった。

さてさて、どうなるかがとても楽しみである。



  【静かなブーム】


 10月も半ばになると途端に秋らしくなる。

窓から夜空を見上げると、月がとっても綺麗だ。

そして、PCから流れるYoutubeの音楽が見事にはまっている。


『歌ってみた』シリーズでちょっとした話題になり、聞いてみたところ

これがすごく秋の夜空にマッチしている。


 歌もうまい。

 音程もすごく確かだ。

 そして、声がとても澄んでいて、ちょっと聞き覚えがある。


モニターの中の子は、金髪で、ゴシックのロングドレスを身にまとい、

妖艶ともいえる眼差しでこっちを見つめて歌っている。


幼いのか、そうでないのか、ちょっとわからないミステリアスな感じが

とてもいい。そして、アップされてからまだ1週間だというのに100万

回の再生回数に達していた。

このクオリティーならそれもうなずける。


明日はカラオケに行く約束をしているから、

あの子に歌ってもらおうかな。


 オリジナルは、『ブラックモアズナイト』というグループの、

 『シャドー・オブ・ザ・ムーン』といった。



  【紗奏とカラオケ】


 今日は紗奏とカラオケに行く約束をしている。

午後2時に1つとなりの駅(紗奏のうちがある最寄り駅)

で待ち合わせだ。


9月の終わりに、お父さんが「秋物を見に行こう」と誘ってくれて、店

員さんに選んでもらったのがとてもお気に入りで今日もそれを着ていく。


紗奏はとにかくきれいで大人っぽいので、私もそれなりに頑張らないと

大変なのだ。


「梨桜――。」(紗奏がこちらに手を振ってくる)


(私もぱたぱたと手を振り)

「待った~~?」


「今来たとこー。」

「あはっ(笑)」(なんだかとってもイケナイ会話に聞こえます。)


 駅から少し歩いて、モールの中に入るといろんなお店があり、最近よ

く行くカラオケ店もその中のビルに入っている。

今までカラオケなんて行ったことが無かったけど、お父さんと行ったの

を皮切りに、最近は毎週紗奏と一緒に行っている。


案外リーズナブルなのだ。びっくり。


おかげで、芸能界とかにとことん疎い私も、いろんな歌を聞けてとって

も楽しい。


それに紗奏の歌はなんだかとっても心に刺さる。

上手いのもあるけど、説得力がある、凄い。


お父さんの歌が、頭をハンマーでぶっ叩いてくるとすると、

紗奏の歌は、鋭利なナイフを心に刺してくるような感じ。


一方、紗奏も私の歌がいいと言ってくれるので、嬉しいやら恥ずかしい

やら・・・。


 お店に入ると、今日もドリンクバー付きの1時間セットにした。

お互い最近のお気に入りを一曲ずつ歌ったところで・・・


「ねっ、梨桜、今日はお互いリクエストとかしない?」


と紗奏が提案してくる。


「お~、楽しそう、でも私あまり知らないから、フォローしてね。」


「オッケー。じゃ、私からリクエストするね!

 多分知ってると思うんだけど・・・


 『ブラックモアズナイト』の、

 『シャドー・オブ・ザ・ムーン』お願いしていい?」


 (エッ!・・・一瞬固まる)


「えーっと・・・」(とりあえず・・・どうしよう?)


「私に隠し事はいけませんことよ、梨桜ちゃんっ」


 私はじっと紗奏を見つめる・・・


「ごめん!、隠してたわけじゃなくて・・・」


「アハハ、今や時の人だよ、梨桜。」

「そうなの?」


「ネットとか見てないの?」

「うん。反応が怖いから(笑)」


「凄いよ、アップから1週間で100万回再生、

        謎の金髪美少女あらわる!」


「・・・謎ではあっても、

 美少女ではない。(笑)

 微少女というならわかる!

     ・・・なんて(笑)」


「アハハ!!、梨桜が自爆って珍しい!!

            そういうキャラ??(笑)」


「はじめてお父さんとカラオケ行った後にね、

 『楽しい事思いついた!』ってお父さんが言って、

 話を聞いてから、身元がばれないなら私も楽しそうだなって。」


「いや、すぐばれると思うよ、

    芸能関係者の追跡を甘く見てはいけない。」

「う~ん、バレたらいやだな~。」


「やっぱり、人前に出るのは嫌?」

「う~ん、・・・無理かなぁ。

    絶対悪口とか言われるし、怖いよ。」


「どこにでもあら捜しするやつとかいるからね、でも、ま、梨桜のお父

 さんが絶対っていうなら、バレないのかも?裏ボスだから。」


「そうそう、お父さんの歌も凄いよ。ヘビメタ。

 ああいう趣味だとは思わなかったのもあるけど、

 高い声にびっくりしたよ。」


「ヘビメタ?、なにそれ!、みえなーーーい!

             超意外なんですけど!」


「だよねっ!

 ていうか、


 それよりっ!

 紗奏の歌、凄くいい。心に刺さる。


 こう・・・ナイフでサクッ・・・と、凄いの!!。


 そうだ!、紗奏もyoutubeやってみよう!」


「なぜそうなる!(笑)」


「だって、どうせ話題になるなら、道連れがほしいもん。」


「一蓮托生かい!(笑)」


それから二人でカラオケよりも、会話で盛り上がってしまい、いつの間

にか1時間が経ったのだった。


娘のワンピ姿を描いていただいています。


こうご期待です!

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