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斜陽

お友達の紗奏ちゃんに異変が・・・

  【斜陽】


 最近、お父さんもお母さんもかなり忙しそうにしている。

何となく『今年の夏はどうするの?』

と言い出せないままちょっと悶々としていた。


梨桜はお父さんの予定が空いたら海に行きたいって言っていた。

驚いたことに、私も誘われてしまった。


・・・勿論新人親子の間に入るわけにはいかないから、断ったけど。

・・・だけど、本当は一緒に行ってみたいと思っている。


私は、そっち系ではないけど梨桜はとても好きだ。

控えめで、気遣いができて、かわいくて、とても頭が良い。

・・・胸はまだ小さいけど、それはこれからだ。なんて・・・(笑)


そんなことを考えながら、スマホをいじっていると、


(コンコン・・・)


「はーい、どうぞー」

「紗奏、ちょっといいか?」

お父さんがとても真剣な顔をしている。


・・・なんだか背筋がゾクッとした。


部屋を出て、リビングのソファーに腰を下ろすと、お母さんも来て二人

が前に座る。


私は、今まで感じたことのないような不安にとらわれた。


「紗奏、落ち着いて聞いて欲しい。

 会社が、もたなくなりそうだ。

 大口の取引先が倒産して、うちもその影響を受けたんだ。

 銀行ともいろいろ話をしたんだが、今後の融資は難しいと言われた。

 ・・・すまん。」


頭が真っ白になった。

なんて言えばいいのかわからないし、

何を考えたらいいのかわからない。

ただ、ここには居られなくなったという事だけは確かのようだ。

そのあとはどうするのだろう?

借金とかあるのだろうか?

どこへ行くのだろうか?

・・・


いつの間にかお母さんが隣で私を抱きしめてくれていた。

私はただただ、泣いていた。


ひとしきり泣いた後、両親に謝り、大丈夫だと言って部屋に戻った。

何をしていいか、

何を考えていいかわからず、

私は梨桜に電話をしていた。


「もしもし、梨桜です。」


可愛い梨桜の声を聴いただけで少しだけ落ち着いた気がした。


「もしもし・・・、あたし。いまへーき?」

「うんうん。なに?

       ・・・紗奏?、・・・何かあった?」


「うん。・・・ほら、ウチの親今年は忙しそう、って言ったじゃん。」

「うん。」

「忙し過ぎて、会社がつぶれちゃうみたい・・・。」

「え?忙しいのに?」

「うん。取引先がつぶれちゃったんだって、それで・・・」

「もう潰れちゃったの?、まだなんだよね?」

「時間の問題かな。銀行にダメだしされたみたいだし。」

「紗奏、ウチのお父さんに相談してもいいかな?」

「え?」

「なんか解決法知ってるかも、いい?」

「うん。でも・・・」

「ごめん、ちょっとだけ待ってて。」

そういうと、梨桜は電話を切った。


何故かわからないけど、私の頭の中に、『何か方法があるのかもしれない』

という希望が生まれていた。

梨桜のお父さんって、なんかすごい人なんだっけ?

・・・そんなことも思った。


 うちの両親は小さな会社を経営している。

社員は20人くらいの小さいものだ。

それでも一年間の売り上げは3億円くらいとか言っていたような気がす

る。

取引先の倒産がどういう風に影響しているのかもよくわからないし、連

鎖倒産という言葉はよくニュースに出るけど、漠然としていて私には難

しい。


でも、何か手段があるのなら、なんとかなってほしい。

私は期待と不安がごちゃ混ぜになったような気持ちでベッドに正座し、

スマホを見つめていた。


20分ほどして、スマホが着信を告げる。

通話ボタンを押すと、梨桜ではなく梨桜のお父さんっぽかった。

私はさっきの話を何とか説明しようとしたけどうまくできなくて、お父

さんに代わってくれるよう頼まれてしまった。


階段を降りるとき、勝手なことをして怒られるんじゃないかとか、

家のこと、会社のことを他人に話して失敗だったんじゃないかとか、

そういう不安でいっぱいになった。


「お父さん、ちょっと代わってって。」


それでも、覚悟してお父さんにスマホを渡した。


「うん?」それだけ言うとお父さんはスマホを受け取ってくれた。


そして、私は逃げるように部屋に駆け戻ると、ただじっと待った。


勝手なことをして怒られるかもしれない、という怖さと、

ひょっとしたら解決策があるのかもしれない、という希望を胸に抱えて。


それから、10分ほどして・・・


「コンコン」


私はすくむ足を何とか動かして、ドアを開ける。


「ちょっといいか?」


お父さんは怒っているようには見えない。

「うん。・・・その、勝手なことをしてごめんなさい。」

「いや、いいんだ。

 友達のお父さんなんだって?

 明日詳しいことを聞きたいそうだから、会ってみる事にしたよ。

 なんだか、手があるような口ぶりだった。

 期待しないというのも失礼だけど、話をしてみようと思う。」


「うん。・・・怒ってない?」

「いや、すまない。お前に助けられるかもしれないな。

 そしたら、お前が社長やるか?(笑)」


「じゃぁ、お父さんは副社長で。(笑)」


今日の突然の出来事に、頭は全く追いついていかず、突然真っ暗闇に

なったかと思うと、突然光が差し、頭がくらくらした。


  【伸朋 : (少し時間はさかのぼる。)】


 今日の晩御飯は、そばとてんぷらにした。


そばつゆは何度作ってみても、売っているものの方が旨くて結局は自分

がとったダシとまぜて使っている。


今日のてんぷらはエビとかぼちゃとナスにしてみた。


衣も、卵を入れたり氷を入れたりして、かき混ぜすぎないようにするの

だが、どうしても和食屋のような出来栄えにはならない。

刺身の味もそうだが、素材の味がそのまま出る料理は難しい。


 飯を済ませて洗い物を片付け、ゆっくりと湯につかる。

最近は、飽きてしまって副業のほうをほったらかしにしていたのだが、

娘も出来たことだし、また少し遊んでみようと思っている。これ以上貯

めてもしょうが無い気もするのだが、あって困ることはない。


 そして、風呂から上がると、何やら梨桜が真剣そうなまなざしで話し

かけてきた。


聞けば、この間会った友達の父親の会社が危ないのだそうだ。

このところ、梨桜の話に頻繁に登場する紗奏という同級生は、その存在

がかなり大きいもののようだ。


状況を知らねば対処のしようもないため、とりあえず話を聞いてみたい

と言うと、その紗奏という子に電話をしてくれ、次いでその父親に継い

でもらった。


状況を整理すると、紗奏(父)の会社は健全経営だったが、取引先の倒

産により売り掛金が焦げ付き、いったんは銀行から運転資金を借りられ

たものの、その後に銀行から求められた経営改善に向けた指針に達する

ことができなかった、という事のようだ。


連鎖倒産は、日常どこにでも起こりうるし、そのための保険なども整備

されているが、そこまで念入りにしている事業主は中小では少ないだろ

う。また、即座に不渡りを出さずに済んだことからも、十分立て直しは

できるはずである。


私はそう考えて、明日さっそく話をすることとした。

時間的な猶予はそうないだろう。


 翌日、会社へは急病と言う事で連絡し、有給を申請しておいた。

白石さんはこちらへ来てくれるというので、『浅緋』で待ち合わせる。


向かい合って顔を合わせ、挨拶を済ませるた後、まずはプライベートに

踏み込んだことを軽く詫びる。


白石さんは顔色も悪く、まずは十分な休息が何より必要に見えた。

話を聞いたところによると、おおむね考えていた通りで、銀行から示さ

れた指針はちょっとハードルが高いように思われた。


ある意味貸す気が無いともとれる。

倒産した会社以外の取引額が低く、新たな販路の確保が難しいと踏まれ

ているのかもしれない。


私は大ざっぱに『説得に協力してみる』と白石さんに言い、二人で取引

先の銀行へ向かうことにした。


銀行では小部屋に案内され、担当者とおそらく何らかの責任者との4

人でテーブルについた。(副支店長のとのことだ。)


まずは白石さんに口火を切ってもらって、銀行側の考え方を確認したと

ころで、運転資金の借り入れに対する、私の保証案を提示してみた。


白石さんは固まり、

副支店長は冷静に『担保となるものを確認したい』というので、私はそ

れをその場で示し、私が保証人になることで問題ないということになっ

た。


保証人というのは、相手が滞りなく返済していく限りこちらには何ら影

響はない。また、金額的にも想定内に収まっていたので、もし仮にどう

こうなったとしても私と梨桜の生活に影響はない。

反対に、白石さんの会社が倒産して娘が大切な友達を失うデメリットの

方が大きいと私は判断していた。


銀行を出ると、『浅緋』まで送ってもらいコーヒーを飲んでいる。


「本当になんとお礼を言ったらいいか。」

白石さんは深々と頭を下げる。


「いえ、銀行の対応でもわかりましたが、白石さんの会社自体は全く問

題がないと思いますし、私は保証をしただけなので、気になさらないで

ください。それより、娘にとってはお嬢さんがとても大切な友達のよう

ですので、これからも末永く仲良くしてあげて欲しいと思います。」


「本っ当にありがとうございました。」


「それから、この件でお願いが二つだけありまして、それだけは守って

欲しいと思います。私は親バカですので、娘の幸せのみを考えてのお願

いです。」


「その・・・お願いというのは・・・?」


私は、白石さんに二つだけお願いをした。


娘が紗奏ちゃんとこれからも仲良くしていく上でどうしても必要だと思

われることを。


  【疑心】


私とお母さんは、リビングでお父さんからの連絡を待っている。

梨桜のお父さんが銀行の説得に加わってくれるということだけれど、本

当にうまくいくのだろうか?ほんの少し希望ができた分だけ、それが潰

えることを考えるととても怖い。

お母さんは言葉もなくテレビに目をやっている。おそらくその内容はど

っちでもいいのだろう。


ただじっと待つこの時間がとてもつらいのだ。


やがて、お母さんのスマホが着信を告げる。


「はい、私です。」

・・・・・・

「本当ですかっっ!!

 ・・・・良かった・・・」


上手くいったんだ!!!


号泣し始めたお母さんを見ていたら、私の目からも涙があふれてきた。

良かった。本当に。


「それで・・・え?・・・はい、浅緋という喫茶店ね?

 はい、わかりました。これから向かいます。」


「紗奏、お父さんが喫茶店で待ってるっていうから、一緒に行こ。」

「え?私も?、うん、わかった。」


私とお母さんは、お母さんの赤いちっちゃい車でお父さんの待つ喫茶店

へと向かった。


扉を開けて中に入ると、奥の席にお父さんと本間さんと梨桜の姿が見え

た。


お父さんが軽く手を挙げる。


「おまたせ、お父さん。よかったね。」

努めて普通の声色になるようにして私が言うと、


「ああ。本間さんのおかげでね。まぁ、座って。」


お父さんもなんだか結構普通に見えた。

難しい話にはならなかったんだな・・・。


私とお母さんがウェイトレスさんに紅茶を注文してから、お父さんはゆ

っくり話し出した。


「本間さんと一緒に銀行と話をしてみて、改めて自分の交渉力の低さを

感じたよ。ずいぶん心配をかけたが、無事銀行とも話はついたし、もう

何も心配ない。」


すると、お母さんはまだ少し不安そうな顔で、本間さんに話しかける。


「この度は本当にありがとうございました。

 でも、・・・何かご迷惑をおかけしたんじゃありませんか?」


「いいえ、私は本当に交渉のお手伝いをしただけで、

そもそも、銀行というところはマイナスのファクターを少しでも減らす

ように話を進めていく場合が多いんですよ。


 だから、取引先の未収金以外全く問題のない会社にも、あらぬ経営改

善策を押し付けようとする。


 ですから、私はそりゃ経営の改善じゃないでしょ、って押しただけな

んです。まぁ、今回はちょっとお偉いさんも出てきてくれたみたいで、

まとめる気があったようにも感じました。


 部外者が話に割り込んで、気分を悪くされたかもしれませんが、ご容

赦ください。」


「いえ、とんでもございません。お手数をおかけしました。

 娘ともども、ほっと胸をなでおろしたところなんです。」


私もお母さんと一緒に頭を下げると、なぜか反対側にいる梨桜もこちら

に頭を下げてくる。


この場の空気は結構硬いもののはずなんだけど、とても柔らかく微笑ん

でいる梨桜がとってもかわいらしい。


お母さんはたぶん、本間さんが銀行を説得するにあたってなにがしかの

犠牲を(例えば保証人とか)払ったんじゃないかと心配していたんだと

思う。


だけど、本間さんはそんなことはないですよって返したんだろう。

私と梨桜もいるから、生々しい表現を避けたのかもしれないけど、こち

らもそれなりにオトナになっているから、話の内容は解りますとも。


それに、いくら何でも億単位の融資の保証人とかに個人ではなれないん

じゃないかな?と思う。

お父さんの様子を横目でチラ見しても、特に卑屈にもなっていないし。


私の両親と、本間さんはその後も経済論で盛り上がり、私と梨桜は目

線だけで会話していた。


『ありがとうね。』

『ううん。ぜんぜん。』


たぶんこんな感じに。


  【夏の予定は・・・】


その日の夕方、憑き物が落ちたように部屋でまどろんでいると、スマ

ホが鳴った。


着信画面には『梨桜』と表示されている。


「もしもーし。りーおー♪」

(私は変なテンションで電話に出てしまった)


「アハハッ、紗奏、今平気?」

「うん。へーきだよー、りーおー♪」


「もうっ(笑)、今週の土日って、空いてる?」

「うん! 空いてるよー。なにー?」


「この間言ってた、海!。

お父さん今週末大丈夫だって!、一緒に行こ~~」


「いくいくー!!」

「やった~~!!! 楽しみにしてるね!!」


・・・やってしまった。

あまりにも何にも考えず、即答でOKしてしまった。

ウチの大ピンチという壮絶なプレッシャーから一気に解放されて、頭が

こんにゃくになってた。


せっかくの親子水入らずに、水を差さないのだろうか?


とりあえず、両親に相談(というか報告を)しなくては。


私は、階段をとんとん降り、まだリビングでくつろいでいる両親に話そ

うとすると、二人の話声が聞こえて、・・・そして途切れた。


私に聞かせられないような話をしていたのか!

・・・なーんて。


ちょっと語尾を聞いた感じでは本間さんに関することのようだな、と思

った。

 『あんな人が一会社の課長だなんて信じられん。』


確かにその言葉聞きましたよ。この不詳の娘が。


そして、何食わぬ顔で扉を開けて中に入る。


「お父さん、お母さん、あのね、ちょっといい?」

「うん。なんだい?」

「今週の土日さ、梨桜が海に誘ってくれたんだけど、行ってきていいか

な?梨桜のお父さんの引率で。」


二人は顔を見合わせ、にっこり微笑むと、

「いいよ、行ってきなさい。日焼けには気をつけてな。」

「はーい、ありがとう。」

私はお父さんの首に抱き着いてチュッてしてあげた。(外国人みたいに)


 そして、

 日は瞬く間に過ぎ、金曜日の夜・・・

私は梨桜とおしゃべりに興じていた。


「明日は梨桜の水着姿が拝めるのかー(笑)」

「ちょっと~、おまわりさ~ん!、オヤジがいますよ~」

「はーい、いけない中学生はここですよー」

「あはは。自爆テロだ(笑)」


「たのしみだねー、一緒に海!」

「そうだよ~、・・・・・・実はね~・・・・・・」

「お?お?何か告白ですな?」


「ずっと仲良くなりたかった。」


「・・・すっっっっっっっっごい照れるんですけどっ!」


「なんかね、波長がね~、合うかな~って。」


やばい・・・これはやばいです。可愛すぎます。


・・・そういえば・・・

「あ、そういえば、なんかよく目線はあってた?」

「・・・えへへ。そうそう。

 学校でさ、みんなと話してるとき、話がなんか妙な方向にいきそう~

 ・・・って困ってると

 いつの間にか紗奏が近くにいて、話を持って行ってくれてたんだよ。

 気づいてた?

 紗奏がいなかったら苛めとかにあっちゃってたかも、私。」


「梨桜は可愛かったからねー、それにか弱かったし、明美としてはター

 ゲットにしたかったのかもね。」

「うちの学校のヒロインに可愛いと言われましても・・・」


「いつ、だれが、どこのヒロインになったんじゃーー!!」

「あはっ。・・・しかも、無自覚に助けてくれてたから周りも何となく引

 いていったかなって。


 だから、私の中ではずっと紗奏はとっても特別なのです。」


やばい、マジでやばすぎる、この子は。

私を落としてどーするつもりなの。


「じゃぁ、明日は目いっぱい楽しもうー」


私は、そういうのが精いっぱいで・・・

うなじから肩のあたりがむずがゆくてしょうがなかった。


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