中国人物語1
つまらない小説ですが、最後まで
お読みいただけると嬉しいです。
私は今、畑にいる。
私は今、自分の家の畑を耕している。
自分の家に畑があるなんて、すごいことじゃない。
中国では、そんなもん。
自分の体全体が、土臭い。
そろそろ、土にまみれるのにも、抵抗を感じる年頃。
ミミズとか、なんかの幼虫も、ウニョウニョいて、気持ち悪い。
中国の空。とても好き。大好き。
だけど・・・日本の空にも、手をかざしてみたい。
時々、そんな気持ちが私の心を襲う。
父も母も、今まで一所懸命稼いで、私のわがままを聞いてくれた。
そんな両親でも、日本に行きたいという願いだけは、許してくれないだろう。
「リン、全然手が動いてないわよ」
母が言う。
「うん・・・私、疲れちゃった」
「何言ってんの。これぐらいで疲れてたら、やっていけないわよ」
鍬で土をほぐす。
「ねぇ母さん、私日本に行きたい」
母の返事はない。無視したのか、あるいは聞こえなかったのかもしれない。
「ねぇ、母さん」
「あんた、まだ十六なんだよ?就職して、自分で生活できるようになるのが先でしょう」
母はそう言いながらも、手を休めない。
「私、日本で働く」
私がそう言うと、母は深い溜め息をついた。
「日本語もわからないのに?それにねぇリン、あんた日本で就職するどころか、
日本に行くお金すら、ないじゃない」
「・・・」
「あきらめなさい」
「私、お金ためる」
「・・・あんた、今貯金いくらあるの?言ってみなさい」
母は静かに言った。
「五千さんびゃく・・・」
「バカなこと言うんじゃないの!」
初めて母の声が強まった。私は驚きを隠せなかった。
「とにかく、バカなこと考えてないで勉強しなさい」
どうしてわかってくれないの・・・
テレビをつければ日本のニュース。
そんなにいい話ではない。
だけど、もっと日本のことが知りたい。そう思った。
お金ためて、日本に行って、いろんなことを知って・・・
それまでは日本語を覚えて・・・
父や母は、あまり日本のことが好きじゃないみたい。
だから、家族でテレビ見るときは、日本のニュースは見ない。
今日は、父も母もいない。
古い動かなさそうな、安く買ったトラックでドライブらしい。
相変わらず、二人は仲がいい。
テレビをつける。
日本のニュースはやっていない。
つまらないバラエティ番組ばかり。
「リン!大変よ!」
いきなり、隣町に住んでいる姉が、飛びかかってきそうな勢いで家に入ってきた。
「な、なに?お姉ちゃん。顔色悪いよ」
「お父さんとお母さん、事故にあったって」
耳を疑った。
「嘘でしょう」
「ブレーキとアクセル踏み間違えて、崖から落ちたって」
「で、でも、生きてるでしょ!?大したことないんでしょ!?」
ふと見ると、姉の目から、涙が流れていた。
「もちろん、生きているわよ!
あたしたちの親だもの・・・死ぬわけ・・・」
姉は立てひざをついて、自分の顔を覆い隠した。
私は姉の様子をみて、察した。
「死んだんだ」
「死んでないってば!」
姉の震えた声が、強く私の心を揺さぶった。
「死んだんでしょう!?本当のこと言ってよ!」
涙が頬を伝った。
あぁ、私はなんてことを・・・
両親が事故にあっているとも知らず、のんきにテレビを見ていた。
どうしよう・・・
どうすればいいんだろう。
まだ、ひとつだって親孝行できなかった。
人間はいつ、人生を断ち切ることになるかわからない。
不安。ここから先、どう生きていくのか・・・
その不安と悲しみは、姉も同じだった。
初めてお葬式に参加した。
親の。
溢れてくる涙をこらえて、姉に話しかけた。
「ねぇお姉ちゃん、これから先どうするの?」
「私はおばぁちゃんの家で暮らすわよ。リンはどうするの?」
「あたしは・・・」
何も考えられない。どこに行こう・・・
「あんたそういえば、日本に行きたいとか行ってなかった?」
「え?」
日本・・・しばらく忘れていた。
「それとも、私と一緒におばぁちゃん家来る?」
「日本、行きたい」
「なら行ってくれば?」
「行っていいの?」
「もちろん」
日本に行くなんて、反対すると思ってた。みんな。
「リン、お金はここにあるから」
そう言って、手渡されたのは通帳。
中をのぞくと、とんでもない数字がしめされていた。
「母さんも父さんも、リンが日本に行きたいの知って、
リンのためにお金ためてたんだよ。
葬式の費用に少し使っちゃったけど、これだけあれば大丈夫よ」
信じられない。日本に行くことを
反対していた両親が、私のために・・・
「ありがとう・・・お母さん、お父さん」
私は、もう振り向きはしない二人に感謝をこめて泣いた。
そして二週間後、日本に旅立つことを決めた。
お読みいただき ありがとうございました。
連載小説ですので、次回に続きます。
貴重なお時間 ありがとうございました。
よければ、感想やアドバイスなど
お願いします。