悲しみに浸りたいだけなのに…
「あなたは幸せ?」
少女の声が、マイクを通して響き渡る。
「もしも、私と幸せを求める旅に出てくれるならー」
「私を呼んで。その気になったらで良い。待ってるから」
* * * * *
彼女が亡くなって、もう一年が経つ。
僕はまだ、あれから何もやる気が出ていない。
多くの友達は、僕を気づかってくれたり、優しくしてくれたりしたけれど、それでも立ち直れなかった。
なぜって、ありきたりな理由ではあるけれど、彼女は僕の生きる光。それを奪われたら、もう生きる術がない。何度も自殺を試みた。だけどーそんなとき、あの少女が現れたのだ。
だが、今から話す物語は、彼女に出会う少し前から始まる。
* * * * *
「おーい!」
親友の雨宮が、僕を呼ぶ。
(急かすなよ。うざいって。)
雨宮は、中学のときから大学の今まで、ずっと仲のいいやつ。器用に何でもこなせて、性格も良く、みんなの人気者。でも何故か彼女いない歴=年齢。
その理由はー
「おいおい、お前相変わらず足遅いなぁ。
わ!待て待て。ごめんって!冗談だよ冗談。
それよりさぁ、この間のアニメ見た?え?見てないって?嘘だろ!やっと『魔滅の刃』始まったのに!ていうかさ、お前ノリわりぃぞ。いつもなら『何だよ、お前と違ってヲタクじゃねぇし』とかなんとか言ってくるのによぉ…」
お察しの通り、ヲタク&話が長いのだ。(話好き?)
「そう落ち込むなって、笠井。その…もう1年も…いっちゃ悪いけど…引きずり過ぎじゃねぇか?
彼女も、…優林ちゃんも浮かばれねぇと思うぜ。」
…優林…………………むしろ、あの子は……………………すっぱりと忘れたほうが、…浮かばれないと思うけど……
そう言いたいのを抑えて、
「…で?そんなこと言うためにわざわざここまで連れてこさせたわけ?なら、帰るぞ」
すたすたと真顔で駅へ向かっていく僕を見て、慌てて行く手を阻む雨宮。
「ちょ、ちょちょちょちょっとまて笠井!もちろんそんな訳ねぇって。な?今日はあいどるすたんど!のライブに行くって、LINEしたろ?」
…あいどるすたんど!とは、雨宮の大好きな2.5次元アイドル(で、いいのか?)。
それに全く興味を示さなかった僕に、あいどるすたんど!がどれだけいいかを教えるために、雨宮はライブに誘ってくれたのだ。