色彩の夜明け
まだその目は閉ざされていた。
羽根ペンでつたなく空と海を分け、
暗闇には星を散りばめ、
深海には泡沫を描く。
彼女を閉じ込めたガラス玉
ふわり、宙を飛び
とりどりのインクの海に落ちて、
揺られ旅する夢を見る。
赤い彼女は怒り、煮えたぎり、侵食する。
その炎は地を覆い、燃やし尽くす。
青い彼女は彷徨う、自分の行く先もわからずに。
その涙は濁った水たまりに吸い込まれ、時に顔のない人に蹴り散らかされる。
黒い彼女は閉じこもり、呑み込み、唸り声をあげる。
その叫びは暗雲を走り、空を切り裂く。
白い彼女は祈る、本当の願いもわからぬままに。
その祈りはただ空を流れ、やがてだれかの心に辿り着く。
また、ふわりとガラス玉
インクをかぶってよたつきながら、
飛ぶのは誰の白昼夢。
風にそうっと押された先に、
彼女の後ろ姿を見る。
ひろげた手のひら
こぼれた音
光は泳ぎ、
かしゃん。
彼女は目を見開いた。
すべての色は
ちりぢりになり、また寄せ集まって、
その薄藍の瞳に吸い込まれ、
消えた。
ぱちり。 ぱちり。
瞬いて、吸い込んで、とらえて、
そうして彼女は彼女を見つけた。
かしゃん。 かしゃん。
浮かび、ぶつかって、鳴りあって、
ガラス玉
破れて瞬くのは誰の空。