オッス!オラ死霊術師だ!童貞しか操れねぇけど勘弁してくれよな!
死霊術。
死者を再びの生へと引き戻す、禁断の魔術である。
世界を終わらせた魔術、とも。
その名を聞くのは、今はもう物語の中だけだ。
序
暗い通路を足早に歩く、二つの人影。
「本当なのだろうな?」
老人が押し殺した声で言った。
「は。直属からの報告です。信用に足る情報かと」
長身の男が腰を屈めて言った。
「信用できるのか?本当に?」
老人は錯乱した様子で、「はっ、有り得んだろ」と笑った。
長身の男は視線を落としたまま、黙ってしまった。
足音だけが長い通路に反響する。
「死霊術師」
長い沈黙の後、老人が言った。
「古に、世界を終わらせた悪魔、か?」
老人は笑った。
1
三十歳。お恥ずかしながら、彼女はできたことがありません。
そう、童貞です。
でも、悪くない人生だったな、と。
え?
人生を振り返るにはまだ早いだろうって?
申し遅れました、私。
死にました。
振り返ることしかできないんですね。
しかしご安心を。
死してなお、この身は健在なり!
え?
何を言ってるんだチミはってか?
そうです私が変な異世界転生者です!
2
異世界に転移して2年。
人生をやり直すことを決意した俺は、リアルが充実していた。
優しくて可愛い彼女。ツンが濃い目のツンデレ妹。
当然そんなものはいない。
欲しい。
何を寝ぼけているんだ、俺は。
ちなみに転移してきて、かれこれ2分だろうか。
もう全部嘘。ていうか夢。
目覚めるんじゃなかった……。
「で」
ここはどこだろうか。
薄暗い一室。
締め切られたカーテン。
その隙間から唯一差し込む光が、舞っている埃の多さを教えてくれていた。
そして、ベッドに男女が二人。
言うまでもなく、素っ裸である。
嫌がらせだろうか。
男女は見開いた目をこちらに向けている。
俺は、とっさに笑顔を作った。にやにやした、と言えば分かりやすいだろうか。
ちなみに俺も素っ裸である。
おそらく、異世界に用意された肉体に精神のみが移動してきたため、服はあちらの世界に置いてきたままなのだろう。
欲を言えば、服を着た肉体を用意しておいて欲しいものである。
おこである。
いや、転生できただけでありがたい。
ありがとう神様!
「すいませぇん、あ、失礼しますねぇ」
ドアの傍に掛けられたボロのロングコートを手に取り、俺はにやにやしながら部屋を後にした。
魂に記憶されたその卑屈な笑顔は、部屋を出てからも暫く消えることはなかった。
3
ダッシュである。
男が鬼の形相で追ってくる。
捕まったら殺される……!
それを予感させるには十分の迫力だった。
おそらく、このコートを取り返すために追ってきているのだろう。
だが、俺もこれを取られれば素っ裸である。
人の世で素っ裸の人間は信用されない。
常識である。
おそらくこの世界でも共通の常識であろう。
だから逃げる。
見逃してくれ、頼む……!
毎日ちょっとずつでも更新できたらいいな。