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8章 真実

よくドラマに出てくるような警察の面会所で2人は会うことになった。

綾乃が一人じゃ心配だということで、途中まではトオルも着いてきた。

「ここで、大丈夫か?俺はここで待ってるから」

トオルがそう言うと、綾乃は少し心配そうにそれでもうん。とうなずき歩いていった。


少し椅子に綾乃は待たされていた。

それはほんの数分のことであったが、綾乃にとっては長い時間だったように感じた。

突然、前の扉が開き、「お待たせしました」という言葉と同時に、手錠をはめられた万里の姿が見えた。

途端に、綾乃はポロポロと涙をこぼしてしまった。

目の前の椅子に座った万里はふふと悲しそうに笑い、「ごめんねぇ」と声を掛けた。

「ど、どうしてよ。万里。な、なんで麗華さんを?まだ、相談してくれれば良かったのに・・・」

綾乃は涙ながらに万里に訴えた。

「ごめんね。でも、さすがに綾乃には言えなかったの。だって、綾乃はショウの昔の恋人でしょ?

 ふふ。知ってたのよ。ショウと付き合ってた時から。でも、ショウが遊びじゃなくって、本当に綾乃のことを愛してるように見えたから私に邪魔はできなかった。だから、そんな綾乃と美紀の紹介で会ったときは驚いたわ。あのときの子だぁって・・・。

 でも、さすがにあの後、ショウが綾乃をストーカーしたり意地悪してたなんて知らなかったけど。今回、警察に言われて驚いたわ。まさか、ストーカーするほど綾乃を愛してたんだって。うらやましくもあり、悔しくもあったわ。あんなに、私がストーカーしてたときには嫌がってたのにね・・・。

 付き合っていたときも私はショウをすっごい愛してたのに、ショウは私を全く愛してはくれていなかったの。それでも少しは私を愛していてくれるんだって付き合っている時は思ったわ。でも、三ヶ月ほどで別れようって言い出して。悲しくって。でも、こんなに愛しているのに分かってくれないショウを憎んだわ。だから、それから付き合う女に対して意地悪したの。でも、それで分かったけど、ショウはその彼女たちのことを本当に愛してはいなかった。そして、彼女たちもね。

 それから、ショウが警察に訴え出た時はあまりにも悲しかったわ。相手は私だって分かっているのにどうして、私に言いに来ないのかしらって・・・。それで少し引きこもりになっちゃったり。

 確か、それからすぐだったわね。綾乃と付き合ってたのは。だから、もう私の出る幕がないんだって、諦めてたのにあの麗華が現れて。ショウはあの人のことを信頼して愛してるみたいだったけど。私には理解できなかった。」

万里は思い出すように、それでいて悲しそうにでもはっきりと綾乃に話した。

綾乃も涙ながらに、でもしっかりと聞いていた。

「先に、綾乃の友達だって聞いていれば、こんなに恨むことはなかっただろうけど。でも、あの人は許せなかった。

 ふふ。それをショウに話したら、ショウもそんなに麗華のことを愛していないんだって。綾乃に振られたショックで頼れるのが麗華しかいなくて付き合ってるだけなんだって言ったの。 あっ、綾乃がバンドで歌ってるのは結構前から知ってたのよ。ショウを見にライブハウスに行ったら、綾乃が歌ってるんですもの。ショウのライバルバンドだっていうのは聞いてたけど、聞きほれちゃったわ。綾乃には驚かされることばかりよ。ふふ。」

「そうだったんだ・・・」

「ええ。驚いた。でも、やっぱりその間ショウと付き合っていても表立って付き合ってるのは麗華。私は二番手。悔しくって辛くって・・・

 そして、あの日、私が麗華に連絡したの。もちろん最初は殺すつもりなんてなかった。多分、ギリギリいや、最後までそんな気持ちなんてなかったの。」

そう言って万里はあの日、麗華が殺された日のことを話し始めた。



万里は麗華を海の、しかも崖っぷちに呼び出した。

9月中旬とはいえ暑いこの季節にはまだ海岸には人がたくさんいるため、あまり話せないと思ったので人気のあまりないところに呼んだのだ。

万里が早めに着き待っていると、気だるそうに麗華がやって来た。

「あんた?ここに呼び出したの?なんなのよぉ。こんなとこに、暑いのに、いい加減にしてよ。」

少し怒りながら麗華がやって来た。

「ごめんなさい。でも、話がしたくて・・・

 ショウのこと本当に愛してる?少しでも愛が足りないなら別れてよ。私はショウを愛してるのよ。好きなのよ。お願い・・・」

そう言って万里は泣き出してしまった。

「ばっかみたい。そんな泣いちゃってさぁ。それに、あんたみたいな別に可愛くない子じゃ、ショウの価値が下がるわ。そんなくだらないことを言うだけなら私は帰るわ。忙しいのよ。」

麗華は馬鹿にしたような笑いを万里に向けて帰ろうとした。


「一年前の電話とか、悪魔の手紙っていうの?覚えてる?」

突然万里から言われた言葉に麗華は驚いて顔を向けた。

「ど、どういうこと?もしかしてあのときのはあなたがしたことなの?」

「ええ。だって、私は貴方が嫌いだったんですもの。貴方はあのことをショウに隠してたみたいだけど、ショウは貴方の様子から気づいていたらしいわよ。

 それから、ショウは私を愛してくれていたわ。もちろん、セックスだってしたし、愛してるって言葉だってたくさん貰ったわ。貴方より私を愛してるって。」

万里は得意げに麗華に言った。

実際はたくさんというほどまではなかったが・・・

「う、嘘よ。ショウは確かに私を私だけを愛してくれていたはずだわ。そ、そんなわけないわ。」

麗華は少し青ざめて言った。

その言葉に先ほどまでの勢いは感じられなかった。

だから、万里も強気な気持ちだった。

「本当よ。ショウは昔から私だけを愛していてくれた。ただ、一人だけを除いてね。もちろん、貴方じゃないけど。」

「そ、そんなわけないでしょ。ショウがあんたみたいな子を愛するわけがないわ。こ、今回も私の二番手ということでしょ。あんたはどうせショウにとっては浮気相手ということよ。」

万里は麗華のその言葉にカッとしてしまい、その後の記憶はないという。

気づいたら麗華は倒れていて、万里は血のべったり付いた大きな石を持っていた。

万里は自分のしたことに突然怖くなり、石を海の下に投げた。

そして、動かなくなった麗華を見て、震えがとまらなくなった。

でも、麗華をこのままにしておくわけにはいかない。

自分のしたことだといつか分かってしまう。

そう考え、万里は麗華も海の下へと投げた。

その後、もう何も考えずにその場から逃げ出してしまった。



話を聞いた綾乃は途中からその風景が浮かんでくるようで目を閉じてしまった。

「ショウが心から愛したのは、きっと綾乃一人よ。

 麗華さんが言ったことは当たってるわ。ショウにとって、私はいつでも二番手。仮に愛してる女の浮気相手だったのよ。いつも・・・」

万里は悲しくなり、目を閉じた。

「こんなこと、警察にもまだ言ってなかった。綾乃に最初に言うべきだと思ってたから。

 でも、私から綾乃に言いにいくことは出来なかった。だから、今日来てくれて本当に嬉しいわ。」

そう言って万里は綾乃に微笑みかけた。

全てを話して、すっきりとした感じであった。

「警察からショウのデビューが私の事件でなくなったと言う事を聞いた時は悲しかった。でも、ショウが私のいない間に有名になるのは嫌だからって少し喜んでる自分の気持ちにちょっとショックを受けたの。そんなに、私はショウを愛してたのかしら?

 いや、確かに愛してたけど、独占したかっただけなのかもしれない。」

少しつらさを含めていた表情をしていた。

その顔を綾乃はしっかりと見ていた。もう、涙は出ていなかった。

「綾乃はやっぱりデビュー目指してるんでしょ?今回の事件で綾乃にも迷惑を掛けちゃったのは分かってる。でも、綾乃にはデビューしてほしい。私は綾乃の声に惚れちゃったし。綾乃の声に救いを感じたわ。綾乃にならきっとメジャーデビューしても生き残っていける力があると思うの。

 この前のライブで聴いた最後の曲。「ami」って言う歌だっけ?私、あの歌好きよ。フランス語で友達って言う意味よね?あの歌に私のことも含められてたらすっごい嬉しいわ。あの歌が有名になって、みんなに聞いてもらえたらすっごい嬉しい。

 本当に綾乃には成功してほしいのよ!!!

 ショウの愛した綾乃ですもの。」

万里は最後のところに特に力をこめて言った。

綾乃はまた少し涙ぐんでしまった。

「い、いいの?私は歌って?私は万里を利用しちゃってるっていうことなのよ?だから・・・」

「私は綾乃には歌っていてほしい。何回も綾乃のライブを見たけど、大学で見ている綾乃よりステージで【cle】のボーカリストのアヤノの方が輝いてるし、素敵よ。

 それに、私を利用してくれてるなんて大歓迎よ。」

ふふと笑って、万里は綾乃を見つめた。

一枚の厚いガラスを通して向かい合っている2人であったが、すぐ近くにいるようであった。

「あ、ありがとう」

そう言って綾乃はまた泣き出してしまった。

「もう、今日綾乃は泣きすぎよ。」

そう言って万里は笑っていた。

万里も綾乃に会い、つらい今までの生活を忘れ、元気になっているようだった。

それから、「もういいでしょうか?」と言われるまで、2人は他愛のない話で盛り上がっていた。

別れのとき万里は立ち去る前に振り返り、「ガンバレ!!綾乃は私の大事な友達で、憧れの人なんだからね。」そう言って、ばたんと閉まる扉の向こうへと消えていった。


綾乃は少しの間、俯いていたが、「よし!!」と呟き、立ち去った。

「ごめんね。お待たせ。」

そう言って、待ちくたびれているであろうトオルへ元気よく言った。

トオルは良かったと思い、「よし、帰るか。」と言って立ち上がった。




「私、メジャーデビューしたい。歌が歌いたいのよ。」

帰りの車の中で、突然綾乃がトオルに向かって言い出した。

トオルは少し驚いたが、うん。とにっこり笑って頷いた。

「みんなスタジオで練習中よね?私は最近サボってたから練習しなきゃいけないし、スタジオ行くわ。

 あーあ、サボってたことシンジに怒られちゃうかしら?」

そう、元気よく言った。

「トオルはずっと私だけを一番に愛していてね。」

少し恥ずかしそうに聞こえるか聞こえないかの小さな声で綾乃が言った。

トオルは聞こえていたのか、ははっと大きな声で笑い、「もちろん」と元気よく答えた。



「お待たせ!」

メンバーが練習しているスタジオに元気よく入っていった綾乃を見て、昨日までの雰囲気と違い驚いているようであった。

「どうしたのよ?それより、シンジ、私やっぱりメジャーデビューしたいわ。

 よし、デビューに向けてレッスンするわよぉ!!」

元気よく言い、綾乃は別室の控え室へと向かっていった。

「い、いきなりアヤノどうしちゃったの?」

リュウが不思議そうにトオルに向けて尋ねた。

「知らない。けど、万里ちゃんと会って自分の決心固めたんじゃないの?

 それより、シンジ早く契約しようぜ。」

「どうしちゃったの?トオルまで。昨日までと全然違う・・・」

リュウは呟いた。シンジはその2人の様子を見てにっこりと笑っていた。


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