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7章 過去


翌朝のニュースは、万里の話ばかりであった。

もちろん同じ大学に通っていた子が殺人を起こしたという事件に、綾乃たちの通っている大学もその話で持ちきりだった。綾乃たちも全く関係がないとはいえ、「あの子達と一緒にいた子よねぇ」と後ろ指をさされていた。



「万里ってね、中学のときから中井くんのこと好きだったのよ。」

美紀が寂しそうにうつむいて話し出した。

「当時は片思いみたいだったけど。中井くんってね、中学のときからすごい人気があって、私とか特に万里みたいな大人しい子が近づける雰囲気じゃなかったの。いつも周りには可愛いくて派手ないわゆるギャルみたいな子がくっついてたって感じだったの。だから中学はそのまま卒業しちゃって。

 高校に入って私と万里もクラスが離れちゃって。そうすると自然と話さなくなるじゃない?まぁ、私たちは家が近かったから話すことはたまにあったとしても、詳しいことまでは話さなくなってたの。そのうち万里に、恋人が出来たって聞いて。その時の万里ってすっごい嬉しそうに話してたのよ。誰ってことまでは聞いてなかったけど、好きで好きで仕方がないって感じだったわ。

 でも半年もしないうちに、万里の一緒に住んでるお婆ちゃんから泣きつかれちゃってね・・・。万里が引きこもり状態になっちゃったぁって。

 もちろんその時は説得してその状態からは解放されたみたいだけど。でも、その理由はどれだけ聞いても教えてくれなくって・・・。」

美紀は話している途中で涙声になってしまい、しまいには泣き出してしまった。

調べにより分かったことだが、万里が引きこもり状態になっていたのはちょうどショウが身の危険を感じストーカー行為を警察に相談した直後のことであった。

「そ、それにしてもショウくんもひどいわよね。最近は万里と麗華さんを二股かけて付き合ってたって言うじゃない。」

恭子が美紀を励ますように言ったつもりだが、それにより余計に場の空気は沈んでしまったようだった。



「警察と美紀から聞いたんだけど、万里ってショウと一年くらい前から付き合ってたんだって。この前言ったけど麗華さんにいたずら電話が来てたって。それはやっぱり、万里だったらしくって。麗華さんはショウには隠してるつもりだったみたいだけど、ショウはそのことに気がついちゃったらしくって万里に会いに行ったみたいなの。」

「それで、付き合いだしたってわけか。あまりに単純だな・・。」

呆れたようにトオルが言った。今日は綾乃はトオルといた。

あまりにも身近な事件に綾乃は対応しきれなくなり、落ち込んでいるところをトオルが綾乃の家まで来てくれたのだ。

今日は綾乃の母親は沢山いる男の1人とお泊りということで、家には綾乃1人しかいなかった。

「でもdiableもこの事件のせいでデビュー無くなったんだろ。まぁ、この事件はショウが引き起こした事件だから自業自得って言えばそれまでだけど・・・」

diableはメジャーデビューが決まっており、すでにデビュー曲のレコーディングも済ませていた。

しかし、今回万里の起こした事件にショウがかかわっているということを週刊誌に書かれたため、スキャンダルを恐れたレコード会社側がデビューの話を白紙に戻したのだ。

しかし、同時に書かれたアヤノのことは【cle】のメジャーデビューの話へとつながっていた。【cle】を全く今まで知らなかった者たちも注目するところへとなったのだ。

週刊誌の見出しには『メジャーデビュー間近、バンドボーカルの二股の起こした事件!!』『以前は別の女性にストーカーをしていたバンドボーカル』等とショウに関する話題も多かった。

「【cle】にとってはメジャーデビューの話も出てきたしってところかな・・・」

「バカなこと言わないでよ!!万里の起こした事件でデビューなんてしたくなんかないわ。シンジたちがその話に乗ったとしても私は絶対に嫌よ。万里が、万里が・・・」

トオルが言ったことに綾乃は大声を出していたが、しまいには泣き出してしまった。

それにはさすがのトオルもおろおろしてしまった。

「じょ、冗談だよ。さすがのシンジだって今回の話は蹴るだろうよ。俺だってそんなことで、デビューの話が出てきたって嬉しくなんてないよ・・・」

トオルはそう言って励まそうとしたが、綾乃は泣くばかりで収集がつかなくなってしまっていた。



「よし、俺らもデビューに向けて頑張るぞ!!」

翌朝、練習スタジオでシンジは、張り切っていた。

「じょ、冗談だろ?アヤノの友達の万里ちゃんが起こした事件で俺らが注目されたわけだろ?そんな話をのんだのかよ?」

「もちろんだろ?せっかくのチャンスだ。これを逃したら俺らにデビューのチャンスなんて来ないかもしれないんだぞ?俺らが何のためにここまでバンドをしてきたのか分からないじゃないか。確かに不本意なことはあるが、この際しょうがない。」

トオルが怪訝な顔で尋ねるがシンジは笑顔で答えた。

「無茶だって・・・それにアヤノは反対する。俺だって納得は出来ない。そんなことでじゃなくって、本当に実力だけでデビューが出来るところのほうがいい。」

トオルが反論するが、シンジが「でもデビューしたいだろ?」と言うと、トオルはうつむいてしまった。

「ほら、みろ?お前だってデビューしたいはずだ。俺らだってお遊びでここまでやってきたわけじゃない。デビューというものを目指してやってきたんだ。ここでデビューを目前にして蹴れるか?いや、無理だ。さすがに俺には無理だ。

 そりゃ、アヤノは反対するだろう。でも、俺らにアヤノを抜かしてなんて無理だ。それに、事務所のほうもアヤノを入れるのは絶対条件になっている。どうにかして、俺らでアヤノを説得するしかないだろうな・・・」

シンジが考えるように言った。

その後、トオルに「アヤノを説得しろ」と言ったが、トオルは「無理だ。」と首を縦には振らなかった。

「ところで、アヤノは万里ちゃんに会ったのか?会って話でもしたら気が変わるんじゃないか?」

そう言うシンジの提案でアヤノは万里に会いに行くことになった。


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