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6章 そして悲劇へと・・・

その事件は一本の電話から始まったという。





「・・・それにしても、何でトオルの部屋はこんなに暑いのよぉ!!」

「んなこと言われたって、俺の部屋冷房無いもん。」

少し怒り気味の綾乃に対し、平然と話すトオル。

日付はまだライブから間もない9月10日であった。

もう9月とはいえまだ夏真っ盛りのこの時期。

特に暑いこの年からするとまだまだ朝夕でさえ蝕む暑さに、冷房の無いこの部屋にいるだけで汗が流れてきた。

扇風機が回っているとはいっても大して変わらない。

今日は朝からのライブの練習後、トオルの部屋に泊まりに来ていた綾乃であった。


「そんなに暑いならどっか涼しいとこに出ます?」

「はっ!?お金ないんでしょう、トオル・・・そんなんでどこに出られるっていうのよ!!」

「ラブホとか?」

苦笑しながらトオルが言うと、「ばっかじゃないの!?」と言う綾乃であった。

恋人になるまではこのように簡単に話せる友達のようであった。

しかし、付き合うとなってからはお互いを意識しすぎて戸惑いがちであった。

しかし、すぐに以前のように何でも話せるようになった。

少し遠慮がちな綾乃の心を明るくほどいてくれたのもトオルであった。

2人ともあまりに近すぎる距離だったためにあまり気づいてはいないのだが。


「あっ!もう、こんな時間だ・・・明日バンド練習あるし、早く寝よっ。」

「だなぁ。んじゃぁ、そろそろ・・・」

「って、そういう意味じゃないわよ・・・んっ・・・」

一緒のベッドに潜り込んできて、行為に持ち込もうとしたトオルを制止しようとした綾乃であったが、口付けで止められてしまった。

「・・・ちょっと!!明日は早いんだから・・・」

「嫌?」

口付けの後、少し怒りながら言う綾乃に笑みを浮かべながらトオルは返した。

やっぱり最後は、綾乃の負けでそのまま持ち込まれることとなったのだ。



『プルルルルル・・・』

一本の電話に翌朝、2人は起こされてしまった。

「なんだよ・・・。こんな早く・・・。綾乃の携帯なってるよ!!」

トオルがつぶやき、隣の綾乃を起こした。

「早くって、もう10時じゃない!?ちょっと、寝過ごした!!!」

そう言って綾乃は急いで電話に出た。

せかされるようにトオルも起き上がり、シャワーを浴びに行った。


「はい?」

そう電話に出ると、相手は少し焦っているようだった。

「えっと・・・誰ですか?」

悪いとは思いながらもそう返す綾乃だったが、相手は思わぬ人であった。

「ユウジさん?」

「そう、俺はdiableのドラムのユウジ。それより、あんたか?麗華さん殺したの?」

「麗華さん?殺した?何言ってるの?」

寝起きで突然言われた言葉に綾乃は少し戸惑ってしまった。

「だから、麗華が殺されたんだよ!!」

ユウジの話によるとこうだ。

今朝早く、漁に出ようとしていた男性が岸に浮いているものを発見した。

近づいていくとそれが死体であることに気づいた。驚いて警察に連絡すると、数時間後、その死体が麗華の死体であることが発見されたのだ。

麗華の持っていた携帯の最終発信履歴が、綾乃だったということをユウジが耳にし、綾乃に電話をしたということだ。

「どうしたんだよ?」

騒々しい様子に気づき、風呂上りのトオルが出てきた。

「ど、どういうこと?確かに昨日のお昼くらいかな?麗華さんから発信があったわ。内容は別に大したことじゃなかったけど・・・

 でも、昨日は麗華さんに会ってもいないし、ましてや殺すなんて・・・」

絶句して綾乃が返した。『殺す』という言葉にトオルも驚いているようだ。


 そんな時、トオルの部屋のチャイムがなった。

トオルが出てみると、相手は警察のようだ。

「け、警察の方が家に何のようですか?」

「ちょっと、綾乃さんにお話を聞きたくてね。いらっしゃるでしょ?早瀬綾乃さん。」

トオルが戸惑いながら尋ねると、男性と女性の警察官が2人警察手帳を持って立っていた。

すぐに綾乃がユウジとの電話を切って出ると、そのまま綾乃は警察とともに連れて行かれてしまった。


 【cle】のメンバーも突然来たトオルからの連絡に、驚きを隠せなかった。

「死亡推定時刻って昨日の昼ぐらいだろ?昨日の昼って俺ら、ずっと練習してたじゃん。ありえないよ。」

シンジが大きい声で怒鳴るように言う。

「分かってるよ。俺だって警察に何度もそのこと言ったけど、信じてもらえないし。

 俺らバンドやってるやつなんてあてにならないって感じで言うんだぜ。証拠なんて出てないくせにさ・・・」

ずっと一日中一緒にいたので、そんなことできるわけが無いのはトオルだけじゃなくて、スタジオにいた皆が知っていることであった。

 そこに綾乃より連絡が入った。

内容は「もう解放されたから。大丈夫。今から向かうから。」という内容であった。

その連絡によって、メンバーもよかったと安堵のため息をついた。


 綾乃は警察より詳しい話を聞いていた。

「別に、そんなひどいことを言われたわけじゃないの。ただ、発信履歴の最終だったから何を話していたのか聞きたかっただけみたい。私もまさか麗華さんがって思うし・・・」

まだ警察も自殺と事故、そして殺人なのかと詳しいところまで調査がいき通っていなかった。

 実は綾乃は、ショウと麗華が付き合いを始める前から友達として仲良くしていたのだ。

もちろん綾乃が麗華を紹介したわけではないが自然と麗華がショウを好きになり、付き合い始めたのだ。

しかし、周りに綾乃と麗華の仲が良かったという話が浸透していないために、「なんで突然、綾乃が?」と最初に疑われたのだという。

昨日の電話もそんなに大変なものではなく、「今度遊びに行こうね」という感じのものだった。

「まだ、私の疑いが晴れたわけではないの。また話を聞きに来る。って感じで言われたわ。でも・・・」

綾乃はそう言ってうつむきがちに下を向いた。

「だ、大丈夫だって。俺らが一日中一緒にいたってことは証明できるわけだし。」

リュウが明るく言った。

しかし、トオルの言葉に警察が信じてくれなかったのは事実だ。

特に【cle】と麗華の恋人でもあるdiableがライバルのバンド同士であったことも警察のほうで調べていたという。


その夜、綾乃は敦子の家へと向かった。

やっぱりなんとしても信頼できるのは幼い時からの交流のあった敦子ということだろう。

敦子も一度会っただけではあるが、数週間前に会ったばかりの麗華が殺されたという事実には驚きを隠せなかったようだ。

言い忘れたが、その後警察が麗華は他殺だと断定し、その日のニュースでは大きく取り上げられていた。

「それにしてもいつ綾乃と麗華さんだっけ?知り合ったのよ。あの時そんな雰囲気じゃなかったし。それに、私は知らないわ。

 まぁ、綾乃について知らないことはたくさんありそうだけどね・・・」

「私が麗華さんと知り合ったのはまだバンドに加入する前よ。ショウとも出会う前だったし。お母さんと色々あって六本木に行くようになってすぐのこと。

 最初は六本木に行ってもどこに行けばいいのか分からなかったから、街じゅうをブラブラしてたの。

 そこで麗華さんのグループに会って、遊ぶようになったの。バンドを始めてからも結構一緒に遊んでたわ。麗華さんは私よりも年上だし、そのグループでもリーダー格のような感じの人だったから草々人前で簡単に話しかけたりはあまり無かったのよ。

 だからこの前も目での挨拶だけみたいなね・・・」

敦子の冷たい言葉に対し綾乃は悲しいことを思い出すかのように話した。

その様子を見た敦子は気持ちが分かったかのように優しい笑顔を見せた。

「それにしても、なんで殺されなきゃ無かったんだろうねぇ。恨みとかかうような人だったの?」

敦子の問いに綾乃は麗華について思い出していた。

綾乃は麗華たちとクラブで飲み歩いたりゲーセンに行ったりと派手に遊び歩いていた。

麗華の家もお金持ちであったため(敦子ほどではないが・・・)、仲間を連れて旅行に連れて行ってくれたこともあった。

綾乃は、そんな麗華を尊敬していたしいい友人として慕ってもいた。

だからそんな麗華を恨んでいた人等いるわけがない・・・

とまで思っていたところで一瞬思考が止まった。


「あっ・・・」

突然黙っていた綾乃から声が上がった。

「どうしたのよ。誰か思い出したの?」

不思議そうに敦子が声をかけた。

まだ綾乃がショウと交際していたときにもショウが怯えたように言っていた。

「昔からのストーカーがいる」と。

以前交際していた相手だということだがその子の異常な執着振りが怖くなり、ショウが相手の子を振ったという。

その日からストーカー行為のようなものが始まったという。

トオルがその後付き合った何人かの彼女に対しいたずらをしたり、不安になるような行いをしたりということが続いていたという。

あまりの身の危険を感じ、ショウが警察に相談したところ、そのことを分かっていたかのように相手の子のストーカー行為はパッタリとなくなった。

だからか、綾乃には全くそのような影がなかったのだ。

しかし、一年程前麗華からその様な子がいると相談が来た。

もちろん相手の子がわからないので以前のストーカーの子かは不明だがいたずらの手紙が来たり、非通知で「ショウと別れろ」と電話が来たりしたそうだ。

ショウを不安にさせたくなかったので話してなかったということだが。

しかし最近はそんな相談も全くなくつい最近麗華に確認したところ「あぁ、あれは大丈夫よ。ほんと一回か二回ぐらいのことだったし」と明るく言っていたので、今まですっかり忘れてしまっていたのだ。

「なんで、そんな大事なこと早く思い出さなかったんだろう。」

綾乃は暗くなってしまっていた。


「それなら、そのことを警察とショウくんには言うべきだわ。

 彼女のことを調べてもらうべき。相手の子が誰かどんな子か知ってるの?」

敦子が毅然とした態度で言った。

「知らないわ。私に直接被害が及んだわけじゃなかったから、詳しくは聞いてないし。」

 また、言い忘れたがショウが一番犯人として疑われやすいがショウたちはその日一日中大阪でライブを行っていた。

麗華が殺されたことを聞きつけすぐに戻ってきたらしいが、トオルが殺人を行うことは無理だと決定付けられていたため、ショウに対しては簡単な事情聴取しか行われなかったらしい。


 その後、敦子が警察とショウに連絡をしてくれた。



 その翌日、2人は美紀からの電話により衝撃を受けることになった。

ショウにストーカーをしていた相手は万里であり、麗華を殺害した犯人も万里で間違いないだろうと警察は確信しているという。

なにしろ万里は、その日のアリバイが全くないどころか、麗華と会っているところを目撃され、万里の携帯の発信履歴にその直前に麗華の携帯に掛けていることが警察の調べにより分かったからである。


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