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5章 ライヴ〔後半〕


打ち上げ会場は近くの飲み屋だった。

飲み屋と言っても実はシンジのバイト先で今日は貸切にしてくれたのだ。


「俺らの東京ドーム初ライブ成功にかんぱぁいっ!!」

シンジが大声で言うと「かんぱいっ!!」と皆で一斉に言った。


「綾乃にそんな面があったなんて知らなかったわよぉ。何でバンドしてること早く教えてくれなかったのよぉ。」

美紀が少し責めるように言う。

「ごめん。あんまり興味なさそうだったから言いにくかったのよ・・・」

苦笑いをするように綾乃は言った。

恭子は他のスタッフやメンバーのところにいる。

男たちの前ではぶりっ子恭子でいるので、その顔にだまされているのか恭子はいつももてているのだ。

「それはうそね。どうせ、私たちの前じゃ見せられない綾乃でいたい。とでも思ったんでしょ。」

敦子が本心を突いてきた。

「え・・・」

「それに、バンドなんていつまでしていくつもりなの?もしかして、ずっと続けていきたいと思ってるんなら辞めたほうがいいわよ。

 そんなんで生活していける人たちなんてほんの一握りなんだから・・・」

冷たく敦子が言い放つ。

 

離れたところではトオルとリュウが話していた。

「そういや、最近桃ちゃん(桃子)見ないよなぁ。どうしたんだよ。」

「あっ、桃子とは別れたんだ。」

思い出したように言うリュウにトオルがはっきりと言った。

「はっ、マジかよ!!」

つい大声になってしまいリュウは皆の注目を浴びた。

「おい、ちょっと、静かに話せよ。」

「だって、桃ちゃんとすっげぇラブラブって感じだったじゃんよぉ。どうしてだよ。それにいつの間に・・・」

「俺がアヤノのこと好きだって言うこと桃子結構前から気づいてたみたいだし、それにアヤノに対して冷たく接してたからな。」

「それで、別れたのかよ?」

トオルの説明に少し怒ったようにリュウが言った。

「まぁ、それが大きな原因かな?俺の彼女とバンドのボーカルが仲悪いなんて雰囲気が悪くなっちゃうジャン。そういうのが嫌だし。それをはっきり言ったら、もういい。なんてそれっきりです。」

少しうつむいてトオルが言う。

「で、おまえアヤノには告ったのかよ。」

「あぁ、ライブの前の日にな。桃子とのこともちゃんと全部話して。そしたら、ライブ終わったら、話すってよ・・・」

「ふーん。どうだろうな・・・」

トオルは敦子たちと話しているアヤノを見て落ち込み気味に言う。

「だめかもしれない・・・あいつショウとのことあって、男と付き合うの臆病になってるっていうか・・・

 それに、敦子ちゃんに相談してたのかも。今日ずっと睨まれた気するし・・・」

「だ、大丈夫だって。あの時は結構おまえが近くにいて励ましたり相談に乗ったりしてたじゃん。アヤノなりにそれはすっげぇ感謝してるみたいだったし。結構信頼してるんじゃないの?」

トオルを励ますようにリュウが言う。

「ありがと」とトオルも笑って見せた。

トオルとリュウは幼馴染で小さいころから一緒にいた。

いつもは落ち込みやすいリュウの相談に乗っているトオルも立場逆転という感じだ。


「ところで、トオルくんとのことどうするのよ?」

美紀が恭子たちのところに行ったとたん敦子が綾乃に言った。

「私に相談してきたということは、迷ってるところがあるってことよね?」

冷たく敦子が言うと綾乃が下を向いた。

「私はトオルのこと信頼してるし、ショウとのことでも相談に乗ってもらったし。すっごい好きなの。でも、桃子ちゃんとこの前話して・・・」

綾乃は告白される前からトオルが桃子と別れたことは知っていた。

それは、フランスから帰ってきた数日後、突然桃子から呼び出されたのだ。

「トオルのことすっごい好きだったのに、あんたのせいで、別れたのよ。なんて言って泣かれちゃって・・・。

 なんか桃子ちゃんがトオルのことをすっごい愛してたこと一緒にいて分かってたからなんか辛くなっちゃってさ・・・そんな気持ちじゃだめじゃないかなぁって思ったり。」

落ち込んだように綾乃が言った。

「ばっかじゃないの。前の女にそんなに気持ち入れ込んじゃって。好きなら好きってはっきり言っちゃえばいいのよ。ほら、今言ってきな。相手も近くにいるし、大チャンスじゃない。」

敦子がきっぱりと言った。

「えっ、今?」

「そうよ、今。トオルくんだって、ライブが終わってからって言ったからずっと答え待ってるのよ。ほら、辛そうよ。見たら分かるでしょ。」

そう言って敦子はトオルを指していった。

トオルは一人で辛そうにうつむいていた。

「わ、分かったわよ。言ってくるわ。」

綾乃はトオルのところに向かっていった。

「ほんとに世話が焼けるわね・・・」

敦子がつぶやくように言った。


「と、トオル、隣いい?」

突然降ってきた言葉にトオルは驚いて顔を上げた。

「あ、いいけど・・・」

少しの間、二人の間は沈黙が流れていた。

周りは皆、いい感じに酔っているのか大盛り上がりであった。

「この前の話だけどさ・・・」

小さな声で綾乃が話し出した。

「もし、良かったら付き合ってほしいなぁ。なんて・・・」

「マジで!!!いいの?」

突然大声でトオルが言った。

「え、うん。それより、立ち上がって・・・注目浴びてるわよ・・・」

照れたように綾乃が言った。

「マジでぇ!!やったぁ!!」

綾乃の話を聞いていないのか、トオルが綾乃を抱きしめて言った。

周りからは「ヒューヒュー」の冷やかすような声や「マジでぇ」と驚く声がしていた。

リュウは「ほら、大丈夫だったろ」と言って、トオルに微笑んでいた。

敦子は「ふっ」と笑い、少し寂しい顔をした。



「まっさか、綾乃とトオルくんなんてねぇ・・・」

翌日、学校で美紀が驚いたように言った。

「あーぁ、私トオルくんねらってたのになぁ・・・。あーゆー人って結構出世するのよぉ。」

「なに、おばさんみたいなこと言ってるのよ。しかも、あんたは昨日会っただけじゃない。」

落ち込んだようにみせる恭子に対し、馬鹿にしたように美紀が言った。

「でも、昨日はぁ・・・うふっ。リュウくんとぉ・・・。えへっ。」

「はっ!?リュウって、ベースの?あんた早すぎよ・・・」

あまりの恭子に呆れる美紀だった。

「そういえば、万里。昨日どうしたの?体調でも悪かった?」

思い出したように敦子が言った。

「あ・・・というわけでも無いんだけど、用事があって・・・」

うつむくように万里が返した。

「ならいいんだけどさぁ、気がついたらいきなりいないと心配するじゃないのよぉ」

少し怒ったように美紀が言った。

「ごめん・・・」とつぶやくように万里が言うと、もう皆別の話へと移っていた。

それから万里は考えるようにうつむいていた。

その様子に綾乃は気づき、どうしたんだろうと首をかしげた。

敦子も少し悩むように黙っていた。



その帰りは、久しぶりに綾乃と敦子は二人きりになった。

「ねぇ、ショウと万里って昔何かあったのかしら?」

突然、敦子が言い出した。

「え、どうして?今日の万里の様子にショウが関係あるってこと?」

驚いて綾乃が言った。

「いや、それはわからないんだけどね・・・昨日ショウと会ってからなのよ。万里の様子がおかしいのは。多分だけどね・・・

 昨日のライブ中も何か万里考えるようにうつむいてたし・・・」

首をかしげながら敦子が言った。

「ショウと万里が同じ中学なんていうことには私も驚いたわ。

 ショウとは付き合い長いけど、あまりそういうことは知らなかったし。でも、それと関係あるのかな」

「さあね、でも昨日のショウも少しおかしかったわね。美紀と会ったときは普通だったけど、万里を見たとたんすごい驚いた顔をしてたもの。

 綾乃はそれどころじゃなかっただろうけど・・・。あんたまだショウみたら動揺するのね・・・」

呆れたように敦子が言った。

「だって・・・やっぱそれはねぇ・・・」

「綾乃、大変だったのは分かるけど、もう1年近くは何もないんでしょ?

 もう、ふっ切れる時期だと思うわよ。」

「まぁ、麗華さんと付き合うようになってからはショウ自体の考えも色々変わったらしいし。 やっぱ彼女には感謝しつくせりよ。私もショウもね・・・」

苦笑いをして綾乃は答えた。

綾乃の心には今でもショウから傷つけられた傷が強く残っていたのだ。

それはショウも一緒であった。

だから一時期ショウはライブ活動が全くできなくなり、カウンセリングに通う毎日が続いた。そんなときに既にモデルとして頂点を極めつつあった麗華が現れた。

「もう恋愛なんてできない。怖い。信じられない。」と毎日のようにつぶやいていたショウであったが、麗華のショウに対する愛情のおかげで気持ちが一変でき、今の状態であるのだ。

「麗華さんがいなかったら、もちろん今のショウは無かったと思うし、今の私も無かったと思う。」

「やっぱりカウンセリングより一人の女性の愛情がショウを変えたって事よね。

 すごいわね。愛って・・・」

敦子がしみじみと言った。

いつの間にか話は、万里からショウとのことへと話が移っていた。




これから起こってしまった愛情から引き起こされた凶悪な事件が少しずつ近づいているとも知らずに・・・


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