4章 ライヴ〔前半〕
パリから帰ってきたアヤノはライブの練習に大忙しであった。
今まで休んでいた分と言ってシンジから多くの練習メニューを言い渡されたのだ。
そんなうちにあっという間に当日9月1日がやってきた。
「はぁぁ・・・」
大きいため息をアヤノがついていると、
「大丈夫?相当緊張してるみたいだな・・・」
とトオルがアヤノの肩に手を乗せてきた。
「そりゃ、緊張するわよ。東京ドームよ。ありえないじゃない。」
アヤノが少し涙目になって言う。
「大丈夫、大丈夫。なぁんて俺もすっげぇ緊張して昨日から寝れねぇよ。けど、今までやってきたんだ。それに、いつもの俺らでいいんじゃねぇの?いつもの俺らに『Q』のファンは着いてきてくれたわけだしよ。そんな俺らに違うことやれって言っても無理なことあいつらが一番知ってると思うし。俺らは『Q』の【cle】のままでいいんだよ。」
励ますようにトオルが言う。
「ありがとー。トオル」
にこっと笑ってアヤノが答えた。トオルは少し照れてしまった。
「きちゃったぁ。綾乃。すっごいジャン。なんかマジっぽいし」
笑いながら、美紀が入ってきた。敦子も恭子も万里もいる。
「あっ。来てくれたんだぁ。ありがとう。」
綾乃も涙をぬぐって元気よく話しかける。
涙には気づいていないようだ。
「あっ!カッコイイ。綾乃のカレシ?」
トオルに気づいた恭子が冷やかすように言った。
「あっ、違うわよ。バンドのギター担当のトオル。」
綾乃がはっきりと言い切るとトオルは少しショックを受けたようだ。
美紀や恭子は「すごいねー」等と言いながら楽屋を見渡している。
その恭子には周りから「かわいいねぇ」と言われてとても喜んでいた。
一方、万里は端のほうで大人しく立っていた。
敦子はトオルに少し冷たい目を向けていた。
トオルはそれに気がつくと理由がわからないのか『?』を浮かべていた。
「あ、そうだ綾乃、diableはどこにいるのよぉ。ショウは。」
美紀が思い出したようにそうに言うと恭子もそうよぉ。というように首を傾けている。
その言葉にトオルはじめバンドメンバーは固まってしまった。
「そ、そうね。ど、どこにいるんだろーねぇ。」
その雰囲気に気づいた綾乃は皆を外に連れ出した。
皆で「どこだろう」と探していると偶然向こうからdiableがやってきた。
それに気づいた綾乃は「あ・・・」と立ち止まってしまった。
「アヤノ・・・そういや、今日アヤノたちも出るんだってな。お互いがんばろうぜ。」
とショウが明るく話しかけてきた。
「ショウ・・・」
と言ってアヤノがうつむいてしまった。
「中井くん?」
突然美紀が言った。
「村井さん?」
ショウも驚いた様子だ。
「えっ、ショウさんの知り合いっすか?」
と、隣にいたユウジが驚いた様子で言った。
「うん。中学校の同級生だったの。ね。それにしてもdiableのショウって中井くんのことだったんだぁ。さすがにかっこいいって噂たつだけのことはあるわねぇ。って、それにしてもバンドしてるなんて知らなかったわぁ」
と美紀が説明する。
恭子は「えぇ。マジ!!」と驚いていた。
「あぁ、久しぶりだね。村井さん」
とショウがにっこりと笑っていった。
「やっぱり中学校のときからかっこよかったもんねぇ。すっごいもててたのよぉ。ねぇ、万里。」
と美紀が万里を見て言った。
「長谷川!?」
驚いたようにショウが言った。
「うん。」と小さな声で万里が言い、うつむいてしまった。
「誰、その人たち?」
いつの間にか麗華が現れ、美紀たちに冷たい目を向けて言った。
「あ、えっと、俺の中学校の同級生と【cle】の・・・」
「あっ!!モデルの麗華だぁ」
トオルが麗華に説明していると恭子が大声で叫んだ。
「ほんとだぁ。キレイ。私、憧れてるんだよねぇ。もしかして中井くんの彼女麗華なの?」
と美紀が言うと、麗華も「そうよぉ」と言い上機嫌になった。
ライブはすごく盛り上がった。
10組の出演バンドのなかで、【cle】は6組目。
diableは最後の10組目で盛り上がったライブの最後を飾った。
「さいこぉ!!!よかったわよぉ。【cle】もdiableも最高ってかんじ。他にもいいバンドいくつもあったシィ」
恭子が大盛り上がりで話した。
「そうねぇ。」と敦子も言ったが複雑な表情である。
「俺ら今から打ち上げするんだけど、恭子ちゃんたちも良かったら一緒にどう?」
ライブ直後でハイテンションのシンジが誘うと恭子たちは「よろこんでっ」と盛り上がっていた。
「あれ、万里は?」
万里がいなくなったことを美紀が気づいた。
「あっ、本当だ・・・」
と恭子も探そうとした。
そこに美紀に万里から『ごめん、先に帰るね』とメールが入った。
「よっし、では打ち上げ行きますかぁ!!」
と、恭子が盛り上がって言った。




