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エピローグ


「遅いわよ、綾乃!!」

怒ったように美紀が言った。

「ごめん、仕事終わって急いだんだけど。まだ?」

息をきらせながら綾乃が答えた。

「まだみたいね。遅れてるのかしら??」

敦子が綾乃の問いに答えた。


今日は万里が仮出所する日だ。

あの東京ドームライブが終わって10年。あの事件から15年が過ぎた。

あの事件のとき、19歳だった綾乃たちも、もうすぐ34歳だ。



 広田敦子は大学を卒業後、両親の会社で一年ほど事務を務めた。

その後、会社の役員として働いた。当時役員を務めていた男性と結婚し、今はその男性が社長を務め、敦子は副社長として働いている。

子供はもうすぐ5歳になる男の子が一人いる。

 宮原恭子は大学を卒業後、近くの会社に就職した。

そして、一年後貿易会社の社長と結婚し、今や社長婦人だ。

子供は7歳になる男の子と5歳になる女の子がいる。

 村井美紀は大学を卒業後、大学院に入った。

経済学を学ぶために3年ほど海外の大学に進学した。

そして今は、母校でもあるS大学で教鞭をとっている。

しかし現在は、恋人はいるがまだ独身だ。

 早瀬綾乃は今もあの【cle】でバンド活動を続けている。

5年前は爆発的にヒット曲を飛ばし続けていたが、今やCD不況のあおりでそこそこにしか売れなくなってしまった。

しかし、【cle】はトップグループとして人気はいまだ高い。

綾乃もトオルと結婚し、もうすぐ5歳になる女の子がいる。



「もう、あれから15年ね。長かったのか短かったのか・・・」

恭子がしみじみと言った。

「あのころは一緒に同じトコを歩いてた私たちも今や別の道を歩いているわ。長かったのよ。」

そう敦子が言った。


 

向こうから誰か歩いてくる姿が見えた。

「万里よ!!」

そう言って、美紀は走っていった。

後を追いかけるように、綾乃たちも走っていった。

美紀は泣きながら万里を抱きしめた。

「みんな、来てくれたんだ。ありがとう。」

そう言って万里は笑った。



「あれから15年も経ったのね。長かったわ。15年が。にしても、みんな変わったわね。なんか、変わらないのは私だけね・・・」

喫茶店で席に着くなり、万里は悲しそうに言った。

「立場は変わっちゃったかも知れないけど、気持ちはあの頃のままよ。私たちはみんな万里の友達。ねっ?」

綾乃が言った。

「それにしてもすごいメンバーよね??私たち。

 トップバンドのボーカルに副社長、社長婦人に教授。そして私が刑務所あがりって感じ?」

おどけたように万里が言った。

「万里・・・」

「とにかく、今日は飲もう。家族も仕事も嫌なことも全部忘れてさ。」

暗くなってしまったその雰囲気を、明るくしようと敦子が言った。

「そうよ。久しぶりにみんなで集まったんだもん。綾乃なんて、全然私たちのためにスケジュール空けてくれないしさ。」

意地悪な笑みで恭子が言った。

綾乃は焦ったように「そんなことないよ」と言い返した。

まるで大学時代を思い出すようで、みんなとても盛り上がった。


少し飲むと、みんな酔いが回ったように上機嫌になった。

「綾乃、すごい売れてるみたいね。凄いじゃない。やっぱり綾乃の歌は、人を説得させる力があるのよ。」

万里が近くに来て、綾乃に言った。

「あの時の万里のおかげよ。私が今歌ってられるのは。あの時、万里にああ言って貰えなかったら私は絶対に歌ってなかった。ありがとう。」

「ううん。綾乃は絶対に歌ってたわ。あの時、一時期は歌を辞めてしまっていたかもしれない。でもきっと、綾乃はまたマイクを持っていたはずよ。綾乃は歌が好きなんでしょ?

 あと、意外。敦子ちゃんが一番沢山来てくれたのよ。綾乃の情報を教えてくれにね。しかも嬉しそうに。」

驚いて綾乃は顔を上げた。

「驚くでしょ?実を言うと、大学時代私は敦子ちゃんが苦手だったのよ。ココだけの話だけど。それは、綾乃をすっごい意地悪してたから。そして我儘言い放題って感じだったじゃない?

 でも、綾乃を嫌ってたのはやっぱり違ってたみたい。反対に敦子ちゃんは綾乃が好きだったのよ。大事な友達が別の人と仲がよくなるって言うのが嫌だったんじゃない?」

ふふと笑って、万里が言った。

驚いて綾乃は敦子を見た。敦子は恭子や美紀と楽しく話しているようだった。

「小さいときからの友達だったんでしょ?守ってあげなきゃって、きっと思ってたのよ。その感情の裏返しが、私たちの前で出てたのね。」

綾乃も確かに少しは分かっていた。

大学のときからみんなと一緒のときの敦子は冷たかったが、2人になるといつも綾乃を心配そうに見守っていてくれた。

どんな時でも、綾乃の相談相手は敦子だったのだ。


「なぁに、2人っきりで親密そうに話してるのよ。」

美紀が酔って2人に絡んできた。

「まったく、美紀は昔からお酒弱いのに・・・」

そう呆れて万里が言った。

「ん?敦子が綾乃ラブだって話。」

大きな声で万里が言った。

「うん。2人はラブラブゥ・・・」

そう言って、美紀は寝てしまった。

「全く・・・飲みすぎよ。美紀。」

そう言って、笑いながら万里は美紀の介抱をした。

敦子を見ると、敦子は驚いた顔をしていた。


「敦子が、万里のトコに言って、私の情報教えてたってほんと?」

綾乃は敦子の近くに行き、そう聞いた。

「ほ、本当よ。だって、万里は綾乃の情報知らないわけでしょ?そ、それなら教えてあげなきゃって。」

「すっごい、嬉しそうに話してたって言ってたよ」

そう、笑って綾乃が言うと、敦子は顔を真っ赤にして「うるさいわよっ」と言った。




明日からは5人にとってまた普通の毎日が始まる。

でも、それは昨日までとはまた違う新しい時間となるだろう。


明日になるのは誰だって不安だ。

先のことなんて誰もまだ分からない。

でも、私たちはそれでも生きていかなければならない。

そして、歩いていかなければならない。

でも、出来る限り、明日がいい日であるように努力していくことは大事なことだと思う。



                   End


これにて完結です。

感想などありましたら、是非お願いします。

又、誤字脱字などございましたら教えていただけたらうれしく思います。

まだまだ初心者ですが今後はより精進し素敵なお話が書けるよう努力してまいります。

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