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生存戦略 Part12

間に合わなかった……ごめんなさい……。






《FLOLOLOLOLOLOLO!》



左区画の最奥部、真の姿を現したボスとの戦闘は第一形態の時と同じようにレーザーブレスから始まった。


ただし、同じなのは『レーザーブレス』という攻撃方法だけで、その規模はケタ違い。第一形態の時ブレスを爪楊枝とたとえるなら。今のコレは丸太レベルで……。


「全員散開!流石にコレはムリ!自力で回避して!?」


僕らの頼れる姉御タンクもそう絶叫する。

もちろん言われずとも回避させてもらう。

第一形態のブレス、その残滓で瀕死になっていた僕だよ?こんな極太ビームなんか直撃しなくとも周囲の余熱だけでウェルダン通り越してコゲ肉待った無しだよ。

使えるスキルをフル活用して全力回避、同時にドラゴンに向かって『突撃』する。


ブレスを吐いているということは最大の攻撃手段が前方に固定されていると言うことでもある。

この隙に出来る限りの攻撃を叩き込んでやる!


強化された脚力によって瞬く間に距離を詰め至近距離で矢を放つ!


「『十華』『鎧通し』!」


放ったアーツは少し前と全く同じモノ。ただし今回は隠密から続く新コンボを乗せることはできなかったため威力は低下しているだろう。まあ、元々が強力なアーツだ。ある程度の効果はあるはず。



続けて追撃を……って!あっつい!?ドラゴンに近づいた時から肌がチリチリするな?とは思ってたけどもはや痛い!


放った矢の行方も確認しないまま、慌てて退避する。


視界の隅に存在する簡易ステータスを見ると半分以上が失われたHPバーに見慣れないアイコンが映っている。


えっと、確かこう言うアイコンの詳細を知りたい時はそれに向かって集中すればよかったんだっけ? 何分、MP量の確認以外で簡易ステータスを見ることが無いので戸惑う。


えーと?『火傷』?……『火傷』!?


慌ててストレージの底から状態回復薬を探し出して飲み干す。

準備不足というか、詰めが甘かったというか。これで状態回復薬は尽きてしまった。そもそも今使った状態回復薬自体最初のチュートリアルで適当に買った物だ。

その後、状態異常かかるような攻撃を食らうと状態異常になる前にHPそのものが吹き飛んでしまう様になったのでMPポーション以外あまり買っていないのだ。


っと、火傷はなんとか治ったね。HPはドレイン効果で補えばいいからとにかく情報を共有しておこう。


「みんな!フレア・ラムダに近づくとダメージくらうよ!あと近づきすぎたり長く留まると火傷もくらうから気をつけて!」

「マジですか!?長柄武器苦手なんですけど!?」

「うるせぇ!多少距離取れるだけマシだろ!俺なんか拳だぞ!」


僕からの情報共有により若干の動揺を与えたようだが、まあ突入した後に判明するよりはマシだろう。


ここで、ようやくレーザーブレスが終わり僕たちの反撃の準備が始まる。


「みんな一時集合、火耐性とか火傷耐性とかつける」

「ネルネルさんそんなのも出来るんですか?」

「……一応、魔法を極めていくとできるようになる。熟練値高いからそこら辺のバファーのかけるヤツより効果はあると思うよ」

「熟練値?」

「……戦闘が終わったら教えるから、というか運営からのメールちゃんと全部読んでる?アプデ情報と一緒に来てたよ?」


なるほど……僕の場合弾幕に全振りしちゃったからなぁ。メールはあまり読んでない、目次だけ見てイベントがあったら確認する程度だし……。


「まあ、そこも含めて後からだね。いくよ、『広域化ワイド』『耐火性能付与ファイアプルーフ』『火傷耐性付与バーンレジスト』『耐熱体クールボディ』」


ネルネルさんから四重の補助を受ける。これである程度の炎なら何とかなるらしい。


「……でも直撃はしないように、あくまでもある程度の耐性だからさっきのレーザーレベルのやつ食らったら普通に死ぬからね?」


「「「ふっ、当たらなければどうという事もないさ(キリッ!」」」



前衛組揃って仲のいい事で……。

まあ、彼らのいう事も一理ある。と言うか千理以上ある。何せその考えを究極体現したのが僕だからね!当たったら死ぬし!


さて、おふざけはここまで、真面目にやろうか。


「曼荼羅展開」


狙うべき敵は鎧を脱ぎ捨てた事で一回りほど先程よりも小さくなっている。考えて撃たないといくらffが防止されているとはいえ前衛の邪魔になってしまうだろう。


さあ、頭使っていこうか……!


とりあえず弾幕の射出口を左から順に一番〜八番とする。


「……一番、三番、七番、八番発射」


近づいてくる前衛組を迎撃しようとしたドラゴンの前足での薙ぎ払い。それを邪魔するように体を支えるもう片方の前足、それと視界を奪うために顔に向けて弾幕を放つ。


《FLOOoO!?》


ドラゴンの動きを完全に阻止することはできなかったが体勢を崩し、狙いを外させる事には成功した。でも、それで十分。


「ぅおらぁぉあ!『カラミティ・ファング』!」

「『炎・雷・嵐!三属混成『墜星脚』!」

「…………アップ』!全バフモリモリアタックだ!喰らえオンドリャー!」


頼もしい仲間が攻撃できる時間が出来た。


いつもみたいに弾幕を張ってダメージを叩き出すのも楽しいけど今それは必要ない。必要なのはドラゴンを妨害する支援砲撃だ。

それに、僕が居なくとも……。


「ナイス、ユウ。バックアップは任せた、教授たちもユウの補助に回って」

「了解した」

「うむ」

「占星術はバフ苦手なんだけどなぁ」


そう、僕みたいな見せかけの主砲ではなく。

正真正銘の最大火力。このパーティー真の主砲が動き出したから。


「ネルネルさん、後はお願いしますね」

「うん、任された。『九重羽織』今度こそ見せるよ」


おっと、またドラゴンが何かしようとしてる?


「二番、四番、五番発射。六番追撃」


先の三発を大きく開いたドラゴンの口の中に撃ち込み、強制的に口を閉じさせる。遅れて放った一発で戸惑うドラゴンの鼻先を殴りつけて怯ませた。


「うん、やっぱりユウはこっちの方が向いてるよ。さて、私もがんばろ。『起動ウェイクアップ【魔導機杖 サマエル】」


ネルネルさんが構えた大型の杖。その先端部が「カシュカシュッ」と動き、何かカッコいい挙動をして空中に青色の魔法陣を展開した。


「『大海原の祝砲(オケアノス・カノーネ)』!」



ネルネルさんの砲声と共に魔法陣から水の砲弾が打ち出された。


《FLOLOLOLO!》


しかし、ドラゴンに近づくにつれどんどんと砲弾は小さくなりやがて消えてしまった。


「うーん、『ほのお』には『みず』だと思ったけどやっぱり何かしらの対策はしてるよね……。というか『海神』焼却なんだから当たり前。じゃあ、こういうのはどう?『大地母神の抱擁(ガイア・プレス)』」


ネルネルさんは自身の魔法が無効化されたにもかかわらず、淡々と事実を受け入れて新たな魔法を発動させる。


今度はドラゴンと同じくらいの大きさの茶色の魔法陣がドラゴンの直上に展開され、そこから13の巨大な杭が打ち出されドラゴンの四肢を地面に縫い止めた。


「『じめん』は普通に通るんだ。じゃあ『風来神の進撃(ゼピュロ・ストライク)』……。風も通る?うんうん……」


一つ一つ、確かに、しかし素早く検証していくネルネルさん。

凄くカッコいい!


っと、見惚れてる場合じゃないね。

僕も仕事しないと。


「曼荼羅展開」


一度弾幕を放ち切ってしまったことで解けてしまった曼荼羅を再展開する。


「うむ、私たちも補助するよ『見識共有サイトリンク』」


教授が何かのアーツを使うと、僕の視界に様々なデータや数字、グラフなどが表示された。


「教授これは?」

「『見識共有』と言ってな、簡単に言って仕舞えば私の見ている視界、情報を共有するアーツだよ。口頭で伝えてもいいのだがそれだと咄嗟の判断に遅いだろう?見方は教えるから好きにやりなさい」


そう言って僕の視界に表示されている様々なデータの説明をし始める。

けど……。


「ごめんなさい、教授。これじゃま。視界がごちゃごちゃして集中しづらい」

「……うむ、すまない。解除しておこう」


うん、スッキリした。


「って!チャンス!『人外観測眼』起動!斉射!」


前衛組をその巨体で押しつぶそうとしたのか前足を上げ、後ろ足二本で直立していたので、その頂点で。慣性が消え一瞬だけ停止した瞬間に攻撃を加えて逆側に押し倒す!


「……よく間に合わせたな」

「スキルで色々誤魔化してますから」


「ナイスユウぅ!全員回転上げろぉ!出来る限りここでダメージ出すぞ!」


ひっくり返ったドラゴンに。

ニアさんの大剣が。

アポロさんの拳が。

バウアーさんの武器群が。

ネルネルさんの魔法が。

ルーレットさんの呪いが。


一斉に降り注いだ。


《FLOOo oO!?》


「効いてる!?効いてるぞ!もう少しで一段目が削り終わる!」


ドラゴンをモニターしていた教授が叫ぶ!

ドラゴンはまだひっくり返っているけど起き上がってしまうのは時間の問題だ。


「だからこそ妨害しましょうか『縛鎖爆殺陣』」


起き上がろうと体を傾け、手を地につけ……そのつけた地面が爆発した。


『縛鎖爆殺陣』設置型のアーツだ。事前に設置しておき、陣を踏み抜いたものを縛り上げ爆殺する。爆発の威力は縛り上げた面積に比例して上昇する。そして再使用までの待機時間は意外と短い。


では、脚一本あたりが人の何倍も大きいドラゴンではどうなるのか?

見ての通り体勢が不安定なドラゴンなら吹き飛ばせるくらいの威力になる。


今度は反対側に転がって起き上がろうとする。

爆発して妨害する。

先程よりも勢いをつけて転がる。

爆破する。

尻尾を叩きつけてその反動で起き上がろうとする。

爆破する。


爆破する。爆破する。爆破する。

徹底的に爆破して妨害する。


《Flooo……》


虐めてるみたいで可哀想になるけど心を鬼にして爆破して妨害する。

あ!また起き上がろうとしたな!爆破!


僕が爆破している間にも前衛組やネルネルさんは攻撃を重ねて、ついに二段あるHPバーの一本を削り切った。

その瞬間、ドラゴンの様子が変わった。

真っ赤に燃え盛っていた全身の炎が落ち着き、徐々に青白くなっていく。

結構離れているはずの僕たち後衛の立ち位置でも莫大な熱量を感じる。


「チッ、退避!」


ニアさんが前衛組に退避を告げる。その刹那、ドラゴンの体が膨張した……。


灰色に染まる視界。

あー、なんだったっけ?そうだ、攻撃予測線。

部屋一面に広がるような攻撃が来るよーって合図か……。

あ、これ死んだ。


「ぬぅん!」


不意に灰色に染まった視界に小さな背中が現れた。身長は僕と同じくらいだけどはるかに鍛え上げられた鍛治師の背中。


「『鍛治魔法ティンカーベル・散熱の防壁』ルーレットォ!」

「はいはい、『人を呪わば穴二つ』対象攻撃力」


ルーレットさんのアーツは何故かガン爺に吸い込まれた?なんで?


疑問を持った直後、ドラゴンの攻撃が到達する。


「ヌゥゥウン!」


攻撃の正体は凄まじい熱波だった。

先程ドラゴンの体が膨張して見えたのはこの熱波で姿が歪んで見えたからのようだ。


数秒の後、攻撃は通り過ぎた。


「た、耐え切った?」


ガン爺の陰に隠れていた僕はほとんど無傷だけど……。

壁となってくれたガン爺は瀕死になっている。

急いで大昔に買った最上級のポーションを使い回復させる。


「ガン爺!大丈夫!?」

「う、む……鍛治師にとって、炎とは、慣れ親しむもの……故に儂の火耐性、火傷耐性などは、マックスなのだ」

「それに俺のバフも有ったからな」

「バフ?」

「そう、『人を呪わば穴二つ』何かを呪えばしっぺ返しがくるって意味だが。この世界のアーツだと何かを呪えばその対極が強化されるってアーツになってる。この場合は攻撃力を呪って防御力を上げた形だな」

「な、なるほど……」


あ、そう言えばみんなは!?


急いであたりを見回すと、それぞれがポーションを使って体力を回復している最中だった。

よかった、大ダメージは食らったみたいだけど死んじゃった人は居ないみたい。


《FLOLOLOLO……》


声につられて前を見ると、ドラゴンがいた。

ただ、その身にまとう炎は青白く燃え盛りどこか神聖な雰囲気を醸し出している。


「ねえ、教授。青い炎って何度くらいでしたっけ?」

「おおよそ7000度と言われておるな」

「そっか、ちなみにコンロの火は?」

「物にもよるが1700度ほどだな。流石にあのドラゴンの炎がコンロと同レベル。なんて事は無いだろうが……」

「だよね」


さて、現実逃避はおしまい。

他のみんなも回復が終わったりバフをかけ終わったみたいだね。


「っし!おまえらぁ!最後まで気張ってくぞ!」

「「「「「「「おう!」」」」」」」


第二ラウンド……いや第三?うん。第三ラウンド開始!


「オォォオアア!」


ニアさんが突撃していき、あるラインを超えたところで……発火した!?

それでもニアさんは足を止めずに進み続けドラゴンに一太刀入れる事に成功した。

ドラゴンの体力が数パーセントだが確実に削れた。

もしかして防御力はさっきよりも低い?

その瞬間ニアさんがチラッと僕を見た。

反射的に鎖を飛ばしてニアさんに巻きつかせ、引き寄せで回収する。


「っはぁ!無理だ!近づけない!」

「だったら魔法で!『大地母神の抱擁(ガイア・プレス)』!」


ドラゴンの直上に展開された魔法陣から巨杭が打ち出されるが……やはりある一点を超えると燃やし尽くされた。


《FLOOOOOO!!!》


「まだだ!まだ諦めない!」


そう言ってネルネルさんは走り出した。


「え、ちょ!?無理だって!ネルネルの耐久じゃ!」


ニアさんの制止も聞かずに進み、例の一点に差し掛かるとき。


「『短距離転移ジャンプ』」


突如、姿が搔き消え。次の瞬間、ドラゴンの背に出現した。


「ゼロ距離からなら!『大海原の祝砲(オケアノス・カノーネ)』!!」


ガリッと、今までで一番大きくドラゴンの体力が削られる。


「っく、『短距離転移ジャンプ』」


直後、全身からダメージエフェクトを撒き散らしながらネルネルさんが僕たちの近くに出現した。


《FLOOOOOO!?》


攻撃を食らったドラゴンが今までとは違う苦しみ方をする。頭を抱え、まるで悶えるように。


「ナイス!ネルネル。チャンスだぁ!」


ニアさんの号令とともに前衛組がドラゴンに再突入する。


《FLOOoooo……ォォオ。オン?》


声質が……変わった?


「ォォオ!喰らえ!」

「『炎・炎・炎一色重複『爆殺掌』!」


《ォオ!?久方buリニ目zaメタト思ッタラ……鬱陶シiハ!》

「え?あ、ちょ!?みんな……!?」


あれ、もしかしてみんな気付いてない!?


「ユウ君、どうかしたかね?」

「教授聞こえてないんですか!?」


もしかして僕だけ!?


《フム?我声wo解ス者ガイルノカ》

「テメェ!何ユウ見てやがる!こっち向け!相手は私だ!『クレイジーダンス』!」

《届カヌト知リナガラ、ソレdeモ仲間ノタメニ剣ヲ振ルウカ……。ソノ心意気良シ!》


まずい!


「あ、その!殺さないで下さい!」

《殺シタ方ガ後腐レナク済ムガ……マアソレモ一興カ、了解ダ》


ドラゴンが今までとは違う確かな『技術』を感じる尻尾攻撃を繰り出しニアさんを吹き飛ばす。


「生きてる……まさかユウ君」

「はい、言葉……通じるみたいです」


ニアさん達は今の一撃でスタン状態になったらしく指示が出せない。なら代わりに出させてもらおう。


「戦闘中止!戦闘中止です!」


ニアさんが吹き飛ばされたので警戒しながら隙を探していたアポロさんとバウアーさんに指示を出す。

二人は困惑しながらも非戦闘状態に移行しつつある後ろの状況を見て従ってくれた。


「さて、ユウ君。説明してくれるかな?」


前衛二人が戻ってくるのを確認してから教授が聞いてくる。


「その前に、本当に教授達には聞こえてないんですか?」

「ああ、全く聞こえない。今も『FLOO』と鳴いているようにしか聞こえないよ」

「一体何の話だ?」


話がわからないアポロさん達への説明も含めて簡潔に告げる。


「どうやら私はあのドラゴンの言葉がわかるようです」


「え、まって最初から?」

「いえ、明確な言葉として聞こえてきたのはネルネルさんが直接水魔法を当ててからですね。その時の言葉からどうやら『目が覚めた』って感じですかね?」

「ふーむ、それにしても何故ユウ君だけ言葉がわかるのだろな?心当たりはあるかね?」


わかりません……。

悩んでいると思わぬところから答えが出てきた。


《それは其処の童のもつ核の仕業よな》

「へ?」


いつのまにか近づいてきていたドラゴンが答えた。

核……あ。

ステータスを確認してみる。


『夜天の魔核』これか……。今まで全く効果のわからなかったスキルの一つ。こういう効果だったのか。


「ドラゴンは何と?」

「僕の持つ種族固有スキルの所為だと」

「どのような?」

「詳しくは私もわかりませんがユニークモンスターから受け継いだスキルです」


このドラゴンなら魔核の事何か知ってるかもしれないし聞いてみよう。


「あ、えーとありがとうございます。その随分流暢に話せますね?」

《先ほどまでは数百年ぶりに話すので鈍っていただけだ》

「なるほど。それでこれの事分かるんですか?」

《うむ、よく知っているが……。我が教えるものでもないな。自らの手で知ることに意味がある。と言っておこう》


お預け……か。

まあ、イベントが終わったら色々と進めてみよう。カイネンさんのクエストでだいぶ足止め食らってたからね。


「ユウ君、ドラゴンに何故あそこにいたのか聞いてくれるかい?」

「はい、えーと」

《よい、我の声はそなたにしか届かぬがそなたらの声は我に届く。教えてやるが、よいか、正しく伝えるのだぞ》


そう言ってドラゴンは語り始めた。


《ある日のこと、我が役目である海神を焼却していた時のことだ。その時はちょうど海神の侵攻が小康状態であったため1時の休息を得ていたのだ》


簡潔にまとめて話すか。


「えーと、仕事で疲れたので昼寝をしていたら」


《卑劣なる人間どもが我が不意を打ち我を封印したのだ。それだけなら燃やしてしまえば良かったが何やらおかしな蓋をされて燃やすに燃やせぬ状況になってしまい。貴様らによって先ほど解放されたのだ》


「寝込みを襲われて封印されてしまったようです。それでさっき私達が封印を壊して自由になった、だそうです」


カッコつけた内容を省いたら三行で済む内容になった。


「それで、『海神』ってなんですか?」

《うむ?ああ、そなたらには伝わっておらぬのか?言ってしまえばタコの化け物だな。強大な力を有し神を名乗る不届きものよ。我が役目は来たる日までそのタコを焼き続ける事であったが……さて、今はあのタコ何処にいるのやら……》


なるほど?わかったようなわからないような……。


《おお、そうだそなたらにコレを渡そう》


そう言って僕たち一人一人に光る玉が寄ってくる。

手を差し出すとその上に乗り『笛』に変わる。


「これは?」

《我が鱗で作った笛よ。もしそなたらがあのタコに出会ったらそれを吹け、さすれば何処に居ても我に届くであろう。先ほども行ったようにタコを焼くのは我の役目故な。何処に居ても駆けつけよう》


ほぇー、お助けアイテムかな?


《さて、ほかに聞きたいことはないか?我の知ることならば答えよう》

「っ!はいはいはいはい!」

「あ、ニアさん起きた」


ようやくスタン状態が解けたニアさんが勢いよく手を挙げる。

どうやらスタンしていても外の様子を知ることはできるみたい。


《おお!目が覚めたか勇敢な乙女よ、何が聞きたい?》

「はっはっは、まあ手加減してもらえてたからな無事だぜ。それで私が聞きたいのは一応勝てはしなかったがそれでも善戦はしただろ?何か褒美は貰えないかな?と思って。具体的には種族変更とかしたい」


す、凄い。言葉はわかってないはずなのにコミュニケーションが取れてる!?


「ニアナ君、言葉がわかるのかい?」

「いや?依然さっぱりわからんが表情でなんとなくだな。それでどうだ?」


あ、通訳します。

「《ふむ、そうだな。たしかにそなたらは我を打倒するの事は叶わなんだ。しかし、そなたらの位階では打倒そのものが不可能であったことを考えると……うむ、褒美を与えるに相応しいか。良かろう!我がカケラを与える!》」

「《種族変更は我が心に適ったものにのみ許す。勇敢な乙女、それと拳士と魔法使いだな》あれ?バウアーさんは?」

《そこの勇者は好かん》


なるほど?好みでは無かったと。


「一つ質問、その種族変更を受けるとどうなるの?」

「《答えよう、我は炎を司る真なる竜。その力故に『火竜人』への道が拓ける。魔法などは火に属するものは強化されるが水に属するものは弱化されるだろうな》」

「なら私は遠慮する」

「あー、俺も遠慮しておきます。仙術スキルは人族限定スキルなので種族が変わると困るんですよ」

「《わかった、それで乙女よ。そなたは?》」

「勿論変更する!わたしドラゴンとか大好きだしな!」

「《うむ!そうであろうな!さて、それでは我が前に力を受ける物を持ち並べ。乙女が中心となるようにな》」


ガン爺は愛用の鍛治金槌を。

バウアーさんは一番よく使う長剣を。

ルーレットさんは靴を。

ネルネルさんは帽子。

アポロさんはセスタスを。

教授は片眼鏡を。

僕は夜天骸一式を。

ニアさんはその体を持って並ぶ。


《さて、力を授ける……が、そなた、『魔核持つもの』は少し待て後からだ》


並んだらドラゴンに外された。何故だ。


僕以外のみんなに力が与えられる。

物を器に選んだ人達の変化はほとんど無かった、強いて言えば器となった武器や道具の色味が赤くなったかな?ぐらい。

ただ喜んでいることから能力値は大幅に上昇しているようだけど。


そしてニアさんは劇的に変化した。

一番大きな変化は背中から綺麗な真っ赤な翼が生えた事だろう。広げると片翼五メートルはありそうな大きな翼だ。それから尻尾と角も生えた。これらも真っ赤で物凄く強そう。

あとは指が龍のように鋭くなったり、頬に鱗のようなものが薄っすらと浮かんでいたりする。

強さと美しさを兼ね備えたニアさんらしい姿になった。

アポロさんが大興奮してさっきからスクショ撮りまくってる。後で何枚か貰おう。


《さて、待たせたな『魔核持つもの』いや、『夜天を継ぎしもの』と呼ばせてもらおうか》

「それで、どうして私だけ後からなのですか?」

《それはな、そなたの武具は夜天の躯を用いて作ったものだろう?故に我が力を弾いてしまうのだ》



《まあ、そういうものだと思えば良い。ただその武具に我が素材を継ぎ足せば話が変わる。我が力を受け入れるようになるのだ》


じゃあ、ふつうにくれればいいじゃん?


《だが、我が体を渡すには先ほどの戦果では少々足りぬ。故に》


もしかして僕だけで戦えと?無理だよ?


《故にそなたが持つ最大の一撃を我に放て。その一撃を持って試験とする》


最大最強の一撃……。アレだね。でも色々と問題があるよね。


「一つ質問、もし死んでしまったら生き返らせてくれる?」

《何をするつもりかは知らんがその程度で有れば容易い》

「良かった……なら全力で撃てるね」


久しぶりに解禁だよ。


使用条件を確認しよう。

一つ・HP、MPが全快状態である事。

大丈夫。両方とも右端まで達してる。


二つ・状態異常にかかってない事。

問題ない、状態異常にはなっていない。


三つ・いかなるバフも掛かっていない。

ステータスにはバフのアイコンはないから大丈夫。


四つ・単独行動状態であること。

これは問題。でも一時的にパーティーを退出する。ニアさんに退出メッセージを送ると心配されながらも承認してくれた。これで大丈夫。


五つ・モンスターなどから敵視状態であること。

目の前にドラゴンがいる。


全条件の達成を確認。


弓を構え、弦を引く。


《ふむ?正気か?バフも掛かっていない、仲間も居ない、何より矢をつがえない?巫山戯ているのか?》

「ううん、至って真面目だよ?ただこれが条件ってだけ。いくよ」


スゥッと一度大きく息を吸う。覚悟は……できた。


「『刮目せよ!我が肉体に傷一つ、病一つない!』」


限界まで引かれた弦、その本来矢があるはずの場所に光が収束し一本の矢を創り出す。


「『されどこの矢放ちし時、我が身は朽ち果てるだろう』」


詠唱が進むにつれて矢が放つ光も大きく、強くなっていく。


「『我らが聖主よ!我が最期、我が流星の輝きをご照覧あれ!』」


《な、何だこれは!?》


ドラゴンも動揺しているようだけど詠唱は止まらない。止めることは、できない。

矢の輝きが最大となったところで撃ち放つ!


「『夜天王ノ流星(ステラ)』!」


ロロから夜天王を継いだ後、ひっそりと名前を変えていたステラさんの初披露だ。


ドラゴンへ真っ直ぐに飛び、着弾を確認することなく粉々に砕け散り僕は死んだ。






生存戦略終了まであと数話。


爆殺陣について

簡単に言ってしまえばい

『ビタロ+爆弾矢(上ベクトル)』

威力はほとんどないがノックバックがひたすらうざい技。

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― 新着の感想 ―
[一言] ビタロ+爆弾矢(上ベクトル)やめろォォォォオ!( ゜Д゜) ラスト正に覚悟完了ですね分かります笑
[一言] 覚 悟 完 了(BGM:進◯の◯人OP1)から始まる必殺技
[良い点] 何気にステラの条件厳しかったんだな... [一言] クールタイム短いビタロ爆弾なんてハメ殺しじゃないですか... さては厄災(勇者)の才能があるな!
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