獣鬼戦線part4
前話で課金したら面白い勢いでブクマが減って爆笑した
安心してください、多分あれが最初で最後の課金だから
あと、本編でもさらっと書いたけど流した人も多いのかな?アバター装備によるステータスの増減は無いです。ただの飾り、見た目が変わるだけの遊びです。課金したければすればいいけどしなくても何の問題も有りません。プレイ時間が戦闘力です。
そんな感じでよろしくお願いします
走ること暫し、森側の戦場にたどり着く。
そこは控えめに言って阿鼻叫喚の地獄絵図と言ったところだった。
先ず一体を除いて立っているものが居ない、プレイヤーもモンスターも例外なく地に屍を晒している。
いや、よく見ると両方生きているが体力を見ると八割を失い致命領域に突入し、『気絶』『麻痺』の状態異常が発生している。これじゃあ動けないだろう。
しかし、助ける余裕はなさそうだね。『彼』がこっちを見ている。隙を見せたらすぐに噛み殺されてしまうだろう。
屍の只中に一人佇んでいるのは血で染め抜いたかのような黒々とした毛並みの巨狼。
「また会ったね、今朝ぶりかな?」
つい数時間前に会ったばかりなのにもう会いに来たのか……人気者は辛いねぇ。
冗談はともかく『彼』がとんでもなく強いのは分かりきっている。弓を手に取り臨戦状態へ移行する。
『彼』は依然として座ったままこちらを睥睨している。
ふと、『彼』が笑ったように見えた。場の雰囲気が変わる。
黒い光が辺りを包み込んだ。
ーープレイヤー『YŪ』がユニークモンスター【復讐者】『魔狼・ロロ』とエンカウントしましたーー
ーーこれより特殊隔離領域を展開しますーー
ーー『強制依頼!:夜天の王は仇敵と踊る』を受注しましたーー
ーーご武運をーー
アナウンスの終わりと共に光が晴れる。
辺りの様子は一変していた。
死屍累々を体現していた荒野は直径数メートルを優に超える巨木が連なる森に。
正午を過ぎたぐらいの太陽が君臨していた青空は青褪めた月が支配する星一つない夜空へ。
僕は似たようなシチュエーションを知っている。
忘れるはずもない、ゲームを始めてから今までで最大にして最高に興奮した死闘だったのだから。
あの時の再現かのように、不意に背筋に氷柱を突き込まれたような悪寒に襲われる。
あの時のような迎撃は…不可能!その場から全力で飛び退く。
刹那の後ついさっき僕が立っていた場所が爆ぜる。
そこには予想通り『彼』がいた。
「『識別』」
__________
【復讐者】『魔狼・ロロ』
lv???
『我は待ち望んでいたかつて我が屠りし貴女を』
『我は待ち望んでいたかつて我を屠りし貴様を』
『さあ、今一度死の舞踏をここに……!』
__________
レベルは不明、名前はアナウンスされたからか表示されている。そして奇妙な文、ただのフレーバーテキストだと流すにはあまりにも重要な情報。
「そっか、そこまで私を求めてくれたのか」
なかなかに感慨深いものがある。
「そうだね。言葉はいらない。殺しあうことで分かり合おう」
死力を、尽くそう。
戦闘の火蓋を切ったのは僕の矢だった。
「『アサルトアロー』」
高威力低コスト実に使いやすいアーツだ。
『彼』はやはり避ける。だが、今のでわかった。
かつてのような、彼が一方的に僕を嬲ることができるほど力の差は無い。そしてあの時のように死力こそ尽くしたが最後は力押しできるほど『彼』は甘くないということが。
さあ、続けよう!
「『火』『風』『土』『水』『光』『闇』『ディカプル』!」
六属性各10発計60発の光弾と共に『接近』する。
『クレセート』に来た当初や今朝の接敵の際に何と無くではあるが『彼』の機動力、並びに奇襲力は理解している。
弓使いのセオリーとしては距離を置いて弾幕を張るのが一番なのだろうが、『彼』相手に距離を置いたらそれこそ姿を隠され薄暗い森の中、巨木の影という影から奇襲によって嬲り殺されるだろう。だからこそ懐に入り避けられない位置で確実に攻撃を入れる。
「『アサルトアロー』」
光弾を引き連れつつリキャストの終わった『アサルトアロー』で攻撃、それに隠れるような形で二の矢『ゴーストアロー』を放つ。
『彼』は先程同様に『アサルトアロー』を避け、『ゴーストアロー』に気づきギョッとしたように焦り前足で弾こうとする。掛かった。
「『チェンジ・バーストアロー』」
二の矢が『ゴーストアロー』から『バーストアロー』へと変化する。先ずは一撃、そして『バーストアロー』の特性は大ダメージと強力なノックバック。ただでさえ焦った迎撃で不完全な体勢なのにノックバックで吹き飛ばされたんだ、回避は不可能だよね…。
「ようこそ、待ってたよ」
追撃の光弾60発を打ち込む。追追撃の『鎧通し』も放つ、が、これは流石に避けられた。
忌々しげにこちらを睨む『彼』、いいね、楽しくなって来た……!
「アは、あハははハはハハハ!」
新たな矢を取り出し、突撃する。
狙うは頭、あの時のように眉間に矢を突き立ててやる!
『魔狼・ロロ』と言うボスについて彼は決して弱いボスと言うわけではないが、対応可能なボスではあると言える。
本来かのボスは高い攻撃力や機動力、隠密性を活かした奇襲戦を得意とするボスだ。攻略推奨レベルは60以上。しかし、対面して姿を見せて戦うにはその難易度は格段に下がる。
そう、ユウが攻略できるギリギリのレベルまで…
戦闘開始からどれだけの時間が経っただろうか。僕と彼、既にお互い満身創痍を体現している。
正確には僕は直撃こそ無いものの(って言うか1発でも直撃すれば余裕のオーバーキルになるので)かすりダメージや光弾を利用した自爆による緊急回避で体力をすり減らした。
一方彼は自慢の漆黒の毛皮を自らの血で濡らし、至る所に僕の矢を受けている。
戦いは最終局面に入りつつあった。
「『ホーミングアロー』『ディカプル』『アンコールショット』!」
20発の歪曲する矢で追い詰める。
『彼』はその全てを避け、僕と正対する。
次の攻防が最後になると、漠然と理解した。
彼は全身を黒い魔力で覆い、四肢に力を込める。
僕は三本の矢を掴み、その時を待つ。
刹那、彼が爆進する。
合わせて1射
「『蒼嵐一陣』」
直撃するも彼は少しも揺るがずに走り続ける。
続けて2射
「『バーストアロー』」
再び直撃、気持ち僅かに揺らいだか?しかし僕の元へ彼は走り続けている。
最後、3射
の、前に彼が僕の元にたどり着く
大きく開かれる顎門
全てを屠る強大な牙は、しかし空を穿つ。
軽業の進化『神業』その内包するスキル『二段ジャンプ』
僕の体は彼の頭、その直上に弓を引き絞った姿で在った。
3射
「『鎧通し』!」
彼を射抜く。それは奇しくもあの時と同じように彼の眉間である。
地面に着地……出来ずに無様にお尻から落ちた。
けど慌てて立つことはしない。もう、終わったのだから。
『彼』を見るとお座りの姿勢で僕を真っ直ぐに見つめている。その目は綺麗に透き通った金色をしていた。
『彼』に向かって一礼をする。例え電子で作り出された存在であったとしても関係ない。敬意を払うに値すると僕が決めた。
彼が僕に語りかけた…?
『実に心踊る闘争であった、我が仇敵よ』
「……君、喋れたんだ?」
『無論、ゆにーくもんすたー?と言う。まあ我のような輩には標準搭載されていると神王が言っていた』
神王、浅井さんの事だろうな。
『まあ、それももう終わる。我はもうじき消えるだろうからな』
彼の言う通り、彼の体は端から徐々に消えている。
『我が試練を突破した我が仇敵よ、其方に褒美を与えてやろう。武器か防具、装飾品、まあ我が力を受けるに相応しい器を出せ』
うーん、ふつうに考えれば僕は武器、『魔弓・フェイルノート』なんだけど、なんだろう、これじゃ無い。違う。違和感のような直感が働いてる気がする。
あ、そうだ。
「私自身じゃダメ?」
『ふむ?』
「『私』を器として差し出す、それでも大丈夫?」
『………』
『うむ、神王より承諾を得た。汝を器とする』
そう言って彼は溶け消え、私の体が微かに光る。
その時を微かにこう聞こえた。
『くくく、まさか怨敵を受け入れるなど、まっこと稀有な貴女よな』
ーープレイヤー『YŪ』がユニークモンスター【復讐者】『魔狼・ロロ』を討伐しましたーー
ーー称号【夜天を堕とした者】を獲得しましたーー
ーー『強制依頼!:夜天の王は仇敵と踊る』をクリアしましたーー
ーー報酬は纏めてストレージに贈られます、必ずご確認をーー
ーー【魔狼】の力の受け入れは次リスポーン時に適応されますーー
ーーお疲れ様でした、通常領域に帰還しますーー
景色が夜の森から元の荒野に戻った。
ああ、終わったんだなと感じる。
……『GMコール』
「どうしました?」
「浅井さん、ちょっとお願いがあるんだけど……」
「__________」
「なるほど分かりました。確かにこちらにも利は有りますね、早速実行させていただきます」
うん、自己満足だけどこれでいい。
この結果を僕が知るのはもう少し先、神々と対峙したその時となる。
突拍子のない事をしたユウくん、しかし跳弾の神様はこう言うのも見越してシステムは実装しておいた!公開はかなり先になるだろうと思ってたけど……!