表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

短編

Doll House

作者: はな

私が婚約破棄物を書くとこうなりました。




「マリア!貴様との婚約を破棄する!」



きらびやかなパーティーの会場に似つかわしくない声が響く。


何事かと衆人が目を向けた先には、黒髪の美女と、彼女に対峙する四人の青年と一人の少女の姿があった。



マリアと呼ばれた美女は、突如投げつけられた不躾な言葉に不愉快そうに目を細めるだけだが、そんな彼女の態度すら気に入らないのか、四人の青年は口々に罵声を上げている。


曰く、ユーリを苛めた。ユーリに嫌がらせをした。ユーリを妬んで殺そうとした。


どうやら金髪の青年の腕の中で涙を浮かべる少女がユーリという名前のようだが、マリアにとっては至極どうでも良いことだった。


穏やかではない単語に、周囲もざわつき始める中で、マリアは不思議そうに首を傾げる。



「おかしいわ。どうしたのかしら」


「何がおかしいというのだ!おかしいのは貴様の行動だ!男爵家だからとユーリを苛め、私に近づいたと妬み、あまつさえ危害を加えようとするなど!貴様のような醜い者は王妃に相応しくない!この場で婚約破棄を言い渡す!」



扇子で顔を隠し、五人の顔を順番に見回すマリアは、端から見れば動揺して、何とか味方を見つけようと焦っているように見えた。

その様子にマリアを取り囲むようにしていた五人は形勢の有利を感じ、ほくそ笑む。



思えば幼い頃から四人の青年はこのマリアという少女にはいつも煮え湯を飲まされてきた。


金髪の青年はマリアの婚約者だった。

何をするにも完璧なマリアは両親のお気に入りで、いつもいつも比べられてきた。勉強も魔法も政治学も、剣でさえも彼女に敵わなかった青年は、彼女が大嫌いだった。


黒髪の青年はマリアの兄だった。

彼は優秀だったが、完璧ではなかった。一歳違いの完璧な妹に、いつも驚異を感じて生きてきた。彼は妹であるマリアが消えてくれればと願っていた。


赤い髪の青年はマリアの従者だった。

孤児であった青年はマリアに拾われ、仕事と日々の糧を与えられた。懸命に働き、マリアの従者にまで登り詰めたものの、そこには絶望があった。いくら尽くそうとも決して手に出来ない高嶺の花。憧れ、焦がれたからこそ絶望は大きかった。いっそ死んでくれればと願う程に。


茶髪の青年はマリアの幼なじみだった。

幼い頃に交わしたいつか結婚しようというマリアとの約束は、政略の前に儚く散った。決して叶わぬ初恋を拗らせた彼は、約束を違えたマリアを深く恨んでいた。


そんな彼らの中央で、守られるように立つ少女、ユーリは勝利を確信し、涙を隠すように掌で覆った顔に愉悦を滲ませた。


ユーリは転生者だ。


日本で生まれ育ち、死んで、この乙女ゲームの中に生まれ変わったヒロインだ。


悪役令嬢であるマリアの断罪が終われば、あとはただただ幸せになれる。そういう運命なのだ。

だから、特に恨みもないがマリアには与えられた役割通りの悪役令嬢になってもらっただけ。それだけだ。



「困ったわ。どうしてかしら」



マリアは小さく首を傾げ、天井を見上げる。



「お姉さま、やっぱり修理は無理みたい」



意味不明な言葉に、五人は眉間に皺を寄せた。


マリアに姉はいない。何より話かけたのは豪奢な天井だ。


「気でも狂ったか!悪女が!」



これ以上は時間の無駄だと思い、マリアを投獄しようと兵を向けたその時、急にマリアの影が揺らぎ、跡形もなく消えた。



「なっ!?」



騒然となる会場に、マリアと知らぬ女性の声が響く。



「私が小さい頃に使ってたやつだから、仕方ないわね。娘に丁度良いと思ったのに」


「人形を買い替えればまだまだ使えるわ。ハウスは高いから、まずは人形を買ってあげるのはどうかしら。もう少し成長したらセットになったのを買ってあげれば良いと思うの」


「そうね、ちょっとした骨董品ですもの。売れるかしら」


「うーん、プレミアが付くようなのはなさそうですよ、量産品ですし」


「そうね、それに壊れた物を売るのもねぇ」


マリアの声と、別の女性のおっとりとした声は尚も響くが、会場にいた人々には全く意味が解らず、天井を見上げるばかりだった。


先程まで騒ぎ立てていた五人の姿が消えていることに、一体何人の人が気付いただろう。



ゆっくりと灯りの落とされる会場。

能面のような無表情で静かに壁に整列する着飾ったマネキン達。

パタンという音と共に、世界は暫しの暗闇に戻る。




「お母様!これなぁに?綺麗!」


「昔、母様が使っていたドールハウスよ。女神のお仕事を体験出来るの。今度一緒にお人形を選びに行きましょうね」


「本当!?嬉しいです!お母様」


「では私は着せ替えのドレスをプレゼントするわね」


「わぁ!マリア叔母様、ありがとう!」


仲睦まじく語らう親子と叔母の傍ら、ゴミ箱には薄汚れて草臥れた人形が五つ、捨てられていた。








蛇足


女神用知育玩具

女の子には聖女キット、男の子には勇者キットが人気

もう少し上の年齢層用には放置型天啓アプリとか、スキル育成アプリとか出てそう




マリアは不器用な姉に変わって修理を試みたけど、壊れたラジオの様に設定を無視した事を喚き続ける人形を見て、姉に廃棄を勧める。


本当は婚約云々ではなく王妃になってから内政で国を豊かにする方法を考えるゲーム。


っていう設定

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] テンプレな場面から始まって、主人公を断罪しようとする4人の男性キャラの設定に同情したり反感を感じたりと感情移入して、主人公がどのように対応するのか期待していたところで、全く予想外の展開・結…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ