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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

絶望の殺戮者

作者: alice

絶望がテーマですので救いはありません

それでも一読してくれた皆さまには感謝の言葉しかありません

本当にありがとうございました。


未来には運命によってすべて決められているという考え方と、偶然によっておこる事象という考え方がある。そして今の俺にとってはどちらも残酷なものでしかない。間違いなく未来はただ絶望が続いていくものだと思わざるをえないからだ。

 

 今日、最も愛すべき人が死んだ。目の前で。


 その時は、ただ目の前の光景を受け入れることができず、呆然と眺めていることしかできなかった。そんな無防備で生きる力を失いつつある俺が、なぜ生き残ることができたのか、どうして愛する人と同じ場所へ向かわせてくれなかったのか、もしこれが運命なら、神は無常で残酷なものだ。偶然だったとしても、なぜその偶然が彼女なんだと呪いたくなる現実だった。


 何もかもを投げ出して死んでしまいたかった。しかし死ぬことはできなかった。最愛の人が殺された後の記憶を失っているせいで、どうやって死地から生還できたのかもわからない。自殺も考えた。しかしそれを許してくれる世界ではなかった。今は心臓が動いている人間はすべて駆り出してでもしなければならないことがあったのだ。


 侵略者の殲滅。10年前、突如現れた、明らかにこの星の生物ではないもの、皆が「ノーム」と呼ぶ奴らは、何の前触れもなく侵略行為を開始。次々と都市が、国が、大陸が真っ赤に染め上がり、生き残った一部の人間は一か所に集まり籠城を開始した。「ノーム」は人間の言葉を喋ることも、意思疎通をすることすらなく、ただ一方的な殺戮を繰り返すばかりだったため、人間は最後の一人になるまで抵抗することを決めたのだ。


 そんな絶望の未来しか待ち受けていないであろうこの場所で、俺たちはそれでも愛し合うことができた。少しでも明るい未来を描くことができていた。でもそれも今日で終わり。これからは前よりももっと深く暗い未来を生きていくことになる。

 それが生き残ってしまった俺への罰だった。


「前回の戦闘であなたの右腕、それと右目を失ってしまっています。これでは次回の戦闘に支障をきたします。そこで我々医療チームと研究開発チームが共同で新開発した義眼と義手をつけてもらうことになります。まだ臨床データはとれていない状況ですが、近いうちにまた大きな攻撃があると予想されている今、一人でも多くの兵士が必要なのです。実証データを集めてもらうため、引き受けてくれますね?」


 ひどく感情のない声で医者はそう言った。まるでそうするのが当たり前のような感じだった。でも俺にとってはどうでもいいことだった。生きたくない。早く死にたい。この世界で楽に死ぬためには、早く次の戦闘に参加して、「ノーム」に殺されることしか考えられなかった。俺の答えは決まっていた。


「何でもいい。俺を戦場へ行かせてくれ。」

「わかりました。装着時しばらくは神経との接続でかなりの痛みを伴うので覚悟をお願いします。」


 そうして俺の人体改造が行われた。戦闘中に右足や右目が吹っ飛んだ時よりも激しい痛みが3日3晩続いた。そしてようやく痛みが治まるとすぐに戦闘訓練が開始された。医者の説明によると、俺に装着された右目は敵味方識別システム、全体地図の表示、負傷した兵士の内部スキャン、そして新開発によって敵の皮膚から内臓までの距離を正確にスキャンし弱点を視覚的に表示してくれるシステムが搭載されていた。

 右腕の義手には、ブースト機能による物理攻撃上昇、銃の反動軽減機能に新開発により触れた敵を内部から破壊できる衝撃波を打てるようになっていた。

 そうして1週間の新装備の訓練が終わると兵士たちは一か所に集められ、「ノーム」が1000km北西に集合、5日後にこの地に攻撃を仕掛けてくることが報告された。


「やっとだ、やっと死ぬことができる。」


 俺はそんなことしか考えていなかった。人類の存命だの、仲間の命だのといったことはまったく興味がなくなっていた。そのせいで訓練が終わると誰とも会話することなく寄宿舎に戻り、暗い部屋で一日を過ごすことが殆どだった。


 そして5日後、俺は立証データを集めるため、一番「ノーム」との戦闘が激化するであろう場所を担当することになった。つまりは一番槍だ。同じ小隊にどんな人間がいるのかすらわからない。とにかく敵を迎え撃てだの小隊長が言っていたような気がする。


「今日ですべてが終わる。もうすぐ会えるよ。」


 もちろん新装備のデータ集めに付き合う気なんて全くなかった。戦闘が始まれば真っ先に敵に突っ込み死んでやるつもりなのだから。


「前方1km!ノーム確認しました!」


 男の声が聞こえた。そしてすぐに視認できるようになる。数は分からないがとにかく見える範囲横一列すべてがノームだった。そして生きることに執着しなくなったからだろうか、全く恐怖を感じなかった。周りを見ると、全身が震えているものや一歩も動けなくなっているものもいた。


「まぁこんな後ろの人間の為に肉壁になってくださいと言わんばかりの部隊に配属されたとしても、そうそう死を受け入れることはできないだろうな。」


地響きが徐々に大きくはっきりしてくる。500m、250m、そして


「戦闘開始!」


 隊長の掛け声で人間側も動き出した。大声を上げて己を鼓舞し銃を撃つ者、結局、恐怖に打ち勝つことのできず、戦うことを諦めるものもいた。

 だが俺はそんな奴らよりも早く駆け出し、だれよりもノームに近い位置を走っていた。


「それじゃあ、こんな世界ともさよならだ。」


無防備に敵に突っ込み奴らの手が届く範囲に入った。

 

 グシャ。


 左手がちぎれる音がした。俺は一匹のノームに吹っ飛ばされその勢いで残っていた左手が無くなったらしい。


あとは出血死でも死ねるな。


 一発の攻撃で死ぬことができず、かなりの痛みがあるはずだが、ほとんど痛みを感じることはなかった。そして大量出血によって意識を失いかけていたその時、

新装備の右目と右腕が深い青の光を発した。


なんだよこの装備、光ってる?なんで、俺は何も指示してないぞ。


開発班によると、音声入力によってそれぞれの装備は動かせる仕組みになっていると教えられていたし、実際に訓練最中は俺が実際に声を出して機能を使っていた。それなのに今は何の声もなしに勝手に動き始めていた。


「システム起動中、使用者が戦闘不能になったためオートによる戦闘を開始する。」


そういうことか。つまるところこの義手は装備者が死んでも、バッテリー切れによって動かなくなるまで、殺戮を繰り返すようにプログラムされているのか。


「装備者の生存を確認。第一優先事項を治療とし、治療が終わり次第戦闘を再開する。」


な?治療だと?


俺は死にたくてここにいるんだ、治療なんかされて万が一生き残ってしまったらどうしてくれる。


「それは了承できない。そんなことはするな!」


「承諾できない。我々の最優先事項は装備者の生存、そしてノームの殺戮である。」


「そんなこと知るか!装備者が言っていることに従え!」


「承諾できない。これ以上の会話は不要と判断。システム起動を確認。これより治療を開始する。」


「おい!ふざけるな!やめろ!」


 義手の右手が折れの意思を介さずに左の肩に伸び治療を初めた。だがそれは治療と呼べるほどやさしいことではなかった。


「がっ!!!」


 握りつぶされた。左肩の傷口を。確かに出血はだいぶ収まったが、会話をするために意識が覚醒していたせいか、痛覚が正常に戻り、かなりの痛みが左腕に走った。


「て、てめぇ!やりやがったな。」


「治療完了。これより戦闘を開始する。」


「ふざけやがって。うぉ!」


足が俺の意思を介さずに勝手に動き出した。


なんでだ!?俺は動かそうとしてないのに。義足でもない、正真正銘俺の足だぞ!?


 そこからは蹂躙の始まりだった。


 俺の体を乗っ取った義眼と義手は、無駄のない動きで敵の弱点部分へ移動し確実に衝撃波を食らわせ、敵を殺していった。


「やめてくれ、やめてくれよ、なぁ、殺してくれ、殺せよ!もう嫌なんだ、生きたくない!」


 何度叫ぼうと、願おうと、それが聞き届けられることもなく戦闘は続いた。 


そして見ていた兵士たちは、戦闘後こう口々に言う。


 死にたがりの殺戮者が、戦場を敵の血で赤く染めた。


 人類の反撃が開始された瞬間だった。




 人間側の勝利で終わった戦闘後、俺は自分の意志ではなく機械の意思によって医療チームのもとへ行き左手の治療を受けた。今回は適切に痛みを伴わない方法で。


「こんなことって、それじゃあ俺はどうすれば死ぬことができるんだ。この腕の力ならまずノームに殺される確率は低いだろう。じゃあ他の方法は?高い場所から落ちてみるなんてのは。」


「その場合もその装備はあなたを力ずくで守るでしょう。」


医務室に開発班の班長が入ってきた。


「まずは生還おめでとう。というのが正しいのかわからないがね。」


「くそくらえだ。」


「先ほどの問いの続きだが、高所からの飛び降りだけでなく、窒息や毒によるものでも、装備は君を生かそうするだろう。死ぬ方法として一番可能性があるのはノームと戦い、首がもげて死ぬことだろう。覚えているか、装着後しばらくは苦痛の時間が続いただろう。それは腕の神経と装備の義神経とをつなげただけではないんだ。その腕と目は君の脳とつながっている。だから一時的に君の意思に反して体を動かす部分を支配して動かすことができたんだ。」


 班長は淡々と述べる。これだけでも十分反吐が出る話だったが、次の話を聞いてさらにその気持ちが高まった。


「そして君の失った左腕の部分に関してだがね、義手の装備が決定した。君に拒否権はない。あれだけの勝利をもたらした個体だ。そうそう上が君を手放す訳はないと考えたまえ。」


「…俺に逃げ場はないのか。」


「ないね。君は死ぬまで戦い続けることになる。それこそ人類が君一人になろうとも、それでも戦い続けるだろうね。」


「悪魔め。」


 俺は目の前の人間のほうがノームよりもよっぽど醜悪で醜いものではないのかと感じずにはいられなかった。


「何と言われようが構わない。生き残るためなのだから。君が生き残る気がないのだとしても、そんなことで我々の歩みを止めることはできないことを理解しておくことだ。さて、もうそろそろ麻酔が効き始める。目覚めたら君は人類で最強の兵士になっているだろう。それまで少し休むといい。お休み。」


 俺はこのとき、この後起こるであろう未来について考えていた。おれの未来はどうなっていくのだろう。死ぬまで生存者のために戦い続けるなんて、そんなことをしても君は戻ってくることはないのに。やはり未来なんて残酷なものでしかないんだ。


 それからの俺は考えることをやめた。体の操作はすべてみシステムに任せ。目の前でノームが自分の手によって殺される光景を見ているだけの日々。生かされているという感覚。どうやら俺以外に同じ体にさせられた人間はいないようだった開発班の班長に聞いてみると、俺は適性があったらしい。そして他に適性があるものは現れていないとも教えてくれた。


 そうして5年が過ぎた。その間に人間は自分たちが安全に生活できる環境を確実に増やしていくことができた。それでもそこから一歩外に出れば脅威があることには変わりない。俺は今まで通りシステムに生かされながら、来る日も来る日もノームを殺し続ける日々を送っていた。

 変わったことが他にもある。俺が小隊長になったことだ。俺を中心とした戦闘特化型の隊で戦闘が始まるたびにどの小隊よりも多くノームを殺すことから「殺戮隊」と呼ばれるようになっていた。もちろん俺以外の隊員は適性がないため生身でノームと戦っていたが、それでも普通の人間よりも頭一つ抜けている力とセンスを持っている奴らだった。

 そんな小隊だったが、肝心の隊長が俺だったため、統率力は皆無に等しく、戦闘を始める場所は同じでも始まってしまえばみなそれぞれが自分勝手にノームを殺すという、小隊である意味がまるで無かった。


「なぁ、俺死んでるのと変わりないはずなのに、生きる意志はないはずなのに、どうしてまだ生きているんだろう。会いたい、会いたいよ。ユウナ。」


 俺は、戦い続ける。死ぬために戦い続ける。


一読してくださりありがとうございました

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