願い事はなに?
明けましておめでとうございます。
今回は、前作"二人で見上げるクリスマスツリー"の続きとなります。
皆様のお目汚しになりますが、少しでも楽しめたら幸いです。
「ううっ〜、何か寒くなってきた〜」
「はあ・・・、ホントだね」
年が明けた、元日の朝。
今、二人で初詣へと向かっていた所だ。
家を出た時は暖かった体も、しばらく外を歩いている内に外気を感じる様になる。
昨夜の夜遅くまで、街中が賑やかだった所為か、歩く道には人影は無かった。
「ケンちゃん大丈夫?」
「うん、寒いけど体は冷えてないから、姉さんの方は?」
「う〜ん、体は大丈夫だけど、手がチョット・・・」
姉さんが、隣にいる僕にそう聞いてきたので、僕がそう言うと。
姉さんが少し考えてから、そんな事を言った。
姉さんは多くの女性の例に漏れず、やはり冷え性ぎみである。
姉さんはフワフワのグレーのコートに、厚手の白いセーターを着ていて。
下は、中が起毛したデニムパンツにロングブーツと言う、暖かい格好をしているが。
それでもやはり、体の先端の方が冷えるらしい
「じゃあ、いつもの様に温める?」
「うん♪」
僕がそう言うと、姉さんが機嫌よく返事を返した。
姉さんが返事を返すと同時に二人は立ち止まり、お互いに向かい合わせになる。
僕がジャンバーのポケットに入れていた手を出し、姉さんが手にはめていた手袋を外す。
はめていても手袋が薄かったので、冷えてしまうみたいだ。
「(ギュッ)」
姉さんが手袋を外した両手を僕の方に差し出し、その手を僕が両手で握る。
「(モミモミ)」
「ケンちゃん・・・、暖かい・・・」
僕は、そのヒンヤリして手を揉むようにして温める
僕の手の動きを受け、姉さんがウットリした声を漏らす。
姉さんの手は思ったよりも冷たくはなかったが、それでも女の子には辛いようである。
そんな姉さんの手を揉む続ける。
滑らかで柔らかくプニプニして姉さんの手を触るのが、僕は大好きだ。
特に冬は、冷たくなった手を温めるのを口実に、姉さんの手を思う存分触る事ができる。
一方の姉さんも、自分より大きな僕の手で包み込まれるのが気持ち良いらしい。
「ケンちゃん、もっと温めて・・・」
「(ギュー)」
姉さんが甘える様に更なる行為を求め。
それを受けて僕は、小さな姉さんの手を握り自分の体温を送り込む。
「はぁ・・・、温かい・・・」
とても気持ち良さそうな声を出す姉さん。
こうして僕は、人気の無い通りで立ち止まり。
しばらくの間、姉さんの手を温めてあげていた。
***********
「(ガヤガヤガヤ)」
「はぁ〜、多いねぇ〜」
「うん、多いねぇ〜」
少しの間、姉さんの手を温めた後。
僕達は神社へと、再び歩き始めた。
そして、目的の神社へと着くと、余りの人の多さに絶句する。
この神社は、この近辺では結構有名な神社で。
正月になると、多くの参拝客で賑わう所でもある。
一応、地元なので、人が多い事は知っていたが。
なぜだか今年は、いつもの年より明らかに人が多かった。
拝殿まで、参拝者の列が延々と並んでいて。
見るだけでゲッソリしてしまう。
「ここにいても仕方ないから、早く並ぼうよ〜」
「そうだね・・・」
ゲッソリしていた僕にも構わず、そう言ってジャンバーの袖を引っ張る姉さん。
僕はウンザリした表情で、姉さんと一緒に列の後ろに並んだ。
・・・
「(トン!)」
「あっ!」
「(ヨロっ)」
列に並んでいると、参拝が済んで返る客と姉さんがぶつかる。
姉さんは少しだけ体勢が崩れるが、すぐに立ち直った。
「大丈夫、姉さん」
「あ、うん、チョット当たっただけだよ」
少し困惑した様な表情で、僕にそう言う姉さん。
整然と並んだ参拝前と比べ、参拝が済むと皆バラバラで返るので。
少し鈍い所がある姉さんは、気を付けないとぶつかってしまう。
・・・
「姉さん、こっちに来て」
「(グイっ)」
「えっ」
しばらく並んでいて、何度もぶつかりそうになり。
見て居られなくなった僕は、隣の姉さんの肩を抱き、自分の方へと引き寄せる。
その突然の行動に、姉さんが小さな驚きの声を上げた。
「・・・ケンちゃん」
「こっちに来ないと危ないよ」
「う、うん・・・」
僕はそう言いながら、姉さんが少し顔を赤くさせて僕を見た。
「(そっ・・・)」
僕を見た姉さんは僕の背中に腕を廻し、肩を抱いた僕の胸元に頬を付ける。
「(ギュッ)」
僕も、姉さんを抱く腕に少しだけ力を入れる。
ただでさえ柔らかく抱き心地の良い姉さんだけど。
着ているモコモコのコートの所為で、更に抱き心地が良かった。
そんな気持ちの良い感触を感じていると。
まだ並ばないといけない事にウンザリ気分も、大分軽くなっていった。
**********
「やっと着いた」
「はあ・・・、疲れた・・・」
姉さんの肩を抱いて数十分経った頃、ようやく賽銭箱の前に着いた。
最初の内は、抱き心地の良い姉さんの感触に気分も良かったが。
次第に、周囲から鋭い視線が刺さる様になる。
どうやら肩を抱いてくっ付く二人が、イチャつくカップルに見えたらしい。
”イチャつくじゃねえ、バカップル!”、”爆発しろ!”と言った。
明らかに、嫉妬に満ち満ちた視線が突き刺さる。
そんな、嫉妬に満ち溢れる視線が背に突き刺さる内に。
精神的に、もの凄く疲れてしまった。
「さあ早く、お参りしよっ」
「う、うん」
姉さんから早く参るよう催促され、僕は慌てて財布から硬貨を取り出す。
「(コロコロコロ〜)」
「(ガラン、ガラン、ガラン)」
硬貨を賽銭箱に入れ、鈴をならし。
「(ペコ、ペコ)」
「(パン! パン!)」
「(ペコ)」
「(どうか、姉さんとずっと一緒に居られます様に・・・)」
二礼二拍一礼してお祈りをする。
僕の願いは、この綺麗だけど可愛らしく、いつも一緒に居て楽しい。
この抱き心地の良い姉さんと、いつまでも一緒にいる事だ。
僕と姉さんは、血の繋がりが無いが一応姉弟である。
しかし僕は、姉さんに対し姉以上の感情を持っているし。
姉さんも僕に対する態度は、弟に対する物とはとても思えないので、恐らくそうであろう。
とは言え、お互いに告白して、恋人どうしになろうとも考えてはいない。
折角の平穏な家庭に波風を立てたくないし。
それ以前に、恐らく二人が恋人どうしになろうとも、二人の関係は余り変わらないと思う。
多分、甘えたり可愛がりながら、互いに寄り添い支え合うのだろう。
だから無理して、恋人どうしになる必要もない。
それより、二人が出来るだけ長く一緒に望んでいた。
「(ジッ〜)」
お参りが済んだ僕は、隣で手を合わせている姉さんを思わず見ていた。
「ん? なに?」
「あ、いや別に・・・」
手を合わせる姉さんに、つい見惚れていると。
お参りを済ませた姉さんが、ジッと見て居た僕を不思議そうな見て。
その視線を受けた僕が、反射的に目を逸らせる。
「そ、そうだ、姉さん何お願いしたの?」
「うふふっ、な・い・し・ょ♡」
慌てて、はぐらかせる様に僕がそう尋ねると。
姉さんがイタズラっぽい笑みを浮かべつつ、そう答えた。
「言ったら叶わなくなるし、それに多分願い事はケンちゃんと同じだよ」
「えっ!」
しかし続けて言う姉さんの言葉に、僕は言葉を失う。
「そんな事より、ほらっ、早く帰りましょ♪」
「ちょっ、ちょっとぉ、姉さん〜」
僕が姉さんの言葉に呆然としている内に、姉さんが僕の腕を自分の肩に持っていく。
再び肩を抱いて欲しいと言う事らしい。
仕方なく再び、姉さんを自分の方に引き寄せる。
そうすると、また姉さんが僕の胸元に頬を付けた。
「(ゾクッ)」
再び、姉さんの肩を抱いたら、周囲の何ヶ所から。
殺気の篭もった視線が、僕の身体に突き刺さりだす。
「(はあ〜)」
僕は内心、溜め息を漏らしてしまう。
こうやって僕は、肩を抱かれて満足そうな姉さんとは対照的に。
あたかも針の莚に座ったかの様な状態で、二人で一緒に帰る事となったのである。
願い事はなに? 終わり
最後まで読んで頂き、ありごとうございます。
それでは皆様、良い新年をお過ごし下さい。