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3.とりあえず家に入れてみました


 マイハウス。それは自身が手を加えない限り変化することのない、最高のお城。


 天井からぶら下がった洗濯物や美少年本で埋め尽くされた四方の本棚に文句を言う者は誰もいない。


 布団を敷きっぱなしにしようが自由。


 両親に毎日ガミガミ言われていた私にとって、ここは天国と呼んでも差し支えない場所。


 …なのに。


 どうしてこんなに美しい子供が、私の布団で寝ているのでしょうか。



 いやおぶって(人に会わないよう)階段でなんとか部屋まで連れてきて寝かせたのは自分だけど。


 慣れない運動で既に筋肉痛が始まりつつあるけど。




 散らかし放題の部屋で、この子の美しさは明らかに浮いていた。コンビニ弁当のゴミやシュリンクも剥がしていない本の山の中に置いておくのは申し訳なく感じる。なぜ普段から片づけをしておかなかったのか。あっそっか誰も訪ねてこないから…ってばっきゃろー。



 エクステとマスカラを駆使しても敵わないだろう艶やかなまつげが、浅い呼吸と共にわずかに動く。


 布団からはみ出した脚線美は普段あまり美を意識しない私でも嫉妬してしまうほどだ。


 最初は驚いた猫耳も、今では美しさに華を添えるためのものとしてあっさり受け入れてしまっている。


 だが、もはや問題はそこではないのだ。


 少し離れた場所で正座をしていた足を崩し、再び首元をじっと見つめる。


 触れれば折れてしまいそうな首のちょうど真ん中。



ーーーかすかに膨らみかけた喉仏が、美しい曲線の中央に佇んでいた。



そう。



この子は。



「男」なのだ!




 鼓動が耳元でやけにうるさく鳴る。主に顔から噴き出る冷や汗でフローリングがべたべたになりそうだ。中途半端に状況を理解した右手がふらふらと伸びていくが、すぐに理性の左手で力強く押さえつける。


 手の痕がついたらホラーだな、あはは。


 頭ではのんびりと思うが、実際は骨をも砕く勢いで自らの手首を握りつぶしている。そうでもしないとなにか…口が裂けても言えないような失態を犯してしまいそうだ。


 無理やり数度深呼吸をして、急激にヒートアップした脳を冷やしていく。縮まった肺が強く押し広げられるたび、少しずつ冷静さを取り戻していった。


 よく考えろ私。猫耳はついているが、相手は少年。未成年。


 手を出したら「アウト」だ、完全に。


 ん~、でも、これだけの美少年、何もしないには惜しい。


 私のパトスが収まる気配はないし、満たされるかつ犯罪にならないラインでなんとか。


 よし。


 ここまで運んであげたし、ほっぺぷにっとぐらいいいよね(はーと)。


 え、そもそも誘拐?お姉さんよくわかんない(はーと)。



 一度は冷えた脳内をさらなる欲望で上塗りして、うっすら手形のついた右手を今度は確実に目標へと伸ばしていく。


 うぇへへ、リアル美少年いっただっきまーす!



 おもちのような、それでいて肉付きの薄い頬。ここに詰まったありったけの夢を、今、手にいれん!


 心で高らかに叫び、いざ触れようとしたその時。



「うーん……」


 

 亜音速で右手を引っ込める。崩していた足を即座に戻し、痛いほど上気した胸に両手を当てる。


 あれ、起きた、起きちゃった? 私の雄たけび漏れちゃった? 


 冗談じゃなく冷や汗が地面につきそう。どうしよう、逮捕なんてことになったら…。でもこれだけは言わせて。声も少し高いぐらいで可愛いかよ。今のだけで五万は払える。


 内心かなり焦りつつもあくまで無表情を装う。目覚めたら気持ち悪い顔、なんていうのはさすがにかわいそう。


 しばらく離れたところで見守っていたが、彼が起きる様子はなかった。


 あれ、でもさっきから少しも動いていないような気が…。


 だ、大丈夫だよね?


 おそるおそる顔を覗き込む。うん、ちゃんと美しい睫毛の間から瞳が見えて…。



 瞳が見えて?



 背筋に冷たいものが走る。体の芯がきゅっと冷えるような錯覚に陥った。どうしていいか分からずうろたえていると、今度はばっちり目が合ってしまった。


 子猫のような青く澄んだ瞳が、こちらを見つめている。



「…誰、ですか」



 眉を寄せ、瞳に涙をためた彼は、震える声でそう呟いた。


 




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