第5話
「そういえばこれからのバイト代の管理どうする?」
「そういえばもう貯金する必要なくなったんだっけ? でもこれまで通り多摩が管理しといてくれたらいいよー」
夕日で赤くなっている顔を見ると気の抜けたような感じだった。
「なんか適当だな。」
「そう?そう見えるなら僕が多摩をそれだけ信頼してるってことだよー」
そう言い、あくびをして、目をこすっていた。
まあ、確かに寝不足+今日の業務を思い出すと疲れがたまってもしょうがない。
その日はテントに帰り、もらってきたパンを食べ、レイラが眠ったところで俺はカメラを持って街に戻る。
「でけぇ・・・・」
俺はシェルに教えてもらった女の家の前に立っていた。
俺は弱みを握るため家に進入しようと思っていたが家が想像以上にでかくて、しかも警備員までいるとなるときっちりと計画を立てないと突破できそうに無い。
そこで今日のところは警備員にばれないように家の周りを見て中に侵入出来そうな場所を探してから家に帰った。
翌日
「──何か言うことはありますか?」
工場に行くとオルカが俺を見るなり、なんともかっこ悪い女投げで例の写真を投げつけてきた。
「何でこんな変な顔の写真ばっかりなんです!!」
写真を俺の顔に押しつけながら訴えてくる。
「まぁ落ち着けって」
俺は肩に手を置き、出来るだけ優しい口調でなだめる。
「な、何です…」
「元々、ブスだったんd・・・お、おいやめろって悪かったってそんな怒んなって」
俺の首根っこを掴み、揺らしててくるオルカをなだめる。
「なぁ まともな方の写真をやるからさぁ 金貸してくれないか?」
「嫌です。」と即答のオルカに美肌などありとあらゆる加工した店主の写真を見せる。
「こ、これは…」と写真を見て震えるオルカ
「なぁ~」
「くっ・・・・・・・・いくらですか?」
「ありがとう。」
その後いくらでも金を出すといったオルカからたんまり受け取り、部屋を出ようとすると
「ん?そういえば貴方、さっきまともな方って、言いませんでした?なら最初からまともな方くれればよかったですよね!?」と正気に戻ったオルカの声を無視して早足で街に向かう。
俺はもらったお金を使って街で材料を購入、工場の部屋に戻り、急いで必要なものを作るための作業に取り掛かる。
作業は効率よく進み、3時間ほどで終了することが出来た。
「さて、行きますか」
俺は潜入用に用意しておいた仮面を着け、日本からこっちに来たときに着ていたパーカのフードを深く被る。
昨日見つけた小さなドアを音が鳴らないよう慎重にこじ開け、中に入る。
「す、すげー」
中に入ると外からは見えなかったが、よく手入れされた庭が目の前に広がった。
俺は、庭の木に隠れながら建物に近づいて窓が開いてないか確かめる。
そして開いてるドアを見つけ、慎重に中に入る。
「「あっ」」
とお互い思わず声が出た。
「あ、ああああんただ、誰よ」
いきなりターゲットに遭遇してしまった。
「おーい待ってよー」
「きゃあああああぁぁぁぁぁ」
俺は女を追いかけていた。
「何であんたが私を追いかけてくんのよぉぉぉぉぉぉぉ」
表しにくい気持ちなのだが、なんか楽しいよ。
嫌がる女の子を追いかけている今の俺はこの世界に来て銭湯を覗く直前ぐらい生き生きしていると思う。
俺は後を追って廊下の角を曲がると、女の姿が無くなっていた。
どこに入ったのか分からないので、とりあえず曲がり角から1番近いドアを蹴破り中に入った。
ドアを蹴った時に出たほこりを手で払いながら辺りを見渡しても女はいなかった。
がその代わりに屈強な男達がたくさんいた。
男達は俺の衝撃的な訪問に目が点になっている。
俺はいったん冷静になり、廊下に出て、ドアをくまなく見渡す。
するとそこには警備員室と書かれた看板がかかっていた。
「あぁ部屋間違えました。」頭をかきながら壊れたドアを強引にはめて部屋を出た。
「おい、お前止まれーーーー!!」
「ひぃぃぃ」
冷静になった屈強な男達が俺を追いかけてくる。
戦闘能力も無ければ武器も持っていない俺があんな屈強な男達に捕まったらその時点で俺の穴という穴は終わりだ。
このまま逃げてもラチがあかないので苦肉の策に出る。
今夜使おうと思って大事に持っていたローションを廊下の床にぶちまけ、待機する。
そこに凄い勢いで沢山の男達が走ってくる。
「「「うおあおああおお」」」
と情けない声を出しながら、ローションに滑って転ぶ男達。
俺は男達の写真を撮り、すぐに逃げる。
男達から逃げ切り、再びあの女を捜すため、室内をうろついていると女がある部屋に入っていくのが見えた。
俺は内側から窓を開け、外に出た。
外からその部屋の中を見ると豪華なベッドや机があるのが見える。
それが女の部屋だと確信がとれた所で部屋に近づき、窓の縁に盗聴器を設置、そのまま俺は敷地の外に出た。
「・・・いらっしゃいませ」
睡眠不足+筋肉痛で今にも倒れそうだ。
そんな様子を見てかレイラが
「ねえねえ、多摩、大丈夫?目の下のくまが日に日に酷くなってるけど・・・」
「おー大丈夫だ、最近深夜にハッスルしすぎてな」
「ハッスル?ハッスルって何?」
「知らないか・・なら知らなくてもいいよー」
そんなしょうもない話をしていると店にうるさい顔が入ってきた。
「ねーこのお店何か臭くなーい?」
「ほんとよねー」
「ねー」
と女達がクスクス笑いながらレイラを見ていた。
昨日見たばかりの女とその仲間2人で
あの時すれ違った3人組だ。
そいつらが入ってくるのが見えたとき、レイラがぎゅっと自分の服の裾を手で握った。
俺はすぐにその女達に寄っていき
「そうですかね?もしかしたらこちらの商品のせいかもしれませんね」
と以前完売したのをいいことに店長が調子に乗って定番商品にしようとしている大根パンを指さし、女達が余計なことをいう前に一方的に話を続ける。
「いやー大変申し訳ございません。以後このようなことは無いよういたしますので、今回はご容赦下さい。 あと、お客様を不快にさせてしまったお詫びとしてこちらの商品をお受け取り下さい。」
と言いながら俺は大根パンをゴミ箱に捨て、大量のパンを詰めた袋を女に渡し、「ちょっと!」「何すんのよ!」と睨み付けてくる女達をドアの方へと誘導する。
「大変申し訳ございませんでした-。またのご来店をー」
「チッ・・・あんた、覚えてなさいよ。」
店の外で女が小声で俺にそんなことを言っていたが笑顔で頭を下げ
「ありがとうございましたー。」と続け、店の中に戻った。
中に入るとレイラが寄ってきて
「多摩本当にごめん・・僕・・・・それにパンもどうしよう・・」と動揺していた。
「あぁ別に大丈夫だって。それにパンは別にいいんだよ」と言って厨房から出てきた店長を指さす。
「おい、さっきこっちで何かあったのか?声が少し聞こえていたが、ん?おい多摩大根パンの横に置いてあった俺の新作のグリンピースパンはどこに行ったんだ?」
「それならさっき女の子達がタダならもらってもいいって言ってくれたのであげました。」
「!!!!」
驚き、問い詰めてくる店長をなだめながらレイラに なっ大丈夫だろ?と合図するとレイラも笑ってくれた。
そんな騒動のおかげで今日は、いつもバイトモチベーションを下げまくっていた得体のしれないパンを客に売りつけるという作業が無くなった。
その後、店長がかわいそうになった俺は店長にメロンパンの作り方を教えて、今日のバイトをあがった。
「あのさ、多摩・・・・今日の・・」
「どうした?」
「い、いや何でも無いよ・・・」
「そっか、じゃあ今日俺この後少し用事あるから先に帰ってて」
「う、うん。」
俺は帰り道でレイラと別れ、ある建物の二階に向かう。
ここは警察が管理している一般人の立ち入りを禁止している建物だ。
ここはあの女の部屋がカメラのズームを使えば見える位置に建っているのだ。
シェルに許可をもらい少しの間ここで暮らすつもりだ。
部屋が1番よく見える位置にカメラを録画の状態で設置しておく。
これは犯罪じゃ無い、これは盗撮じゃ無いと自分に言い聞かせる。
そして盗撮という言葉に反応しそうになった俺の体の1部にはより念入りに何度も言い聞かせた。
カメラ設置後
またパン屋に戻っていた。
「店長!さっそく協力して欲しいことができました。」
「ど、どうしたんだ?何かあったのか?」
「あの俺だけ当分の間バイトを休ませてもらいたいのと、少しの間レイラをここに住まわせてやってくれませんか?」
「両方かまわんが そしたらお前はどこに住むんだ?」
「俺はまあどこでも大丈夫なんで、じゃあお願いしますねー」
「・・・お、おい!」
俺はすぐテントに戻りレイラにさっきの話をする。
「実はこのテントさ、管理局の奴にそろそろ返してくれって言われてさ・・・そのこと店長に相談したら俺の家に住ませてやるって言ってくれたんだよ。それでこのテント明日返しに行くからレイラは明日バイトに行くとき自分の荷物も持っていってくれるか?」
「うん、分かった。でもそれって多摩も一緒に暮らすんでしょ?」
「あーいや、俺はこれから一緒には暮らさないよ。」
「へ?」
予想外の返答だったのか素っ頓狂な声を出す。
「でも、そしたら多摩はどこに住むつもりなの??」
「あそこ」
俺は大きな建物を指さし答える。
「・・・・え?嘘でしょ?」
レイラの声が震えているのが分かった。
多分レイラが一番嫌いな人が居ると思われる場所であるからだ。
「な、何で、どうして?」
「そうだな、簡単に言うとお前といるのが嫌になったんだよ。」
「何でなの?」
「何で?そんなのお前が1番分かってることじゃないのか?」
「!」
「俺はさぁ、街の人に嫌われたく無いんだよ。この街に来てまだ日も浅いし、犯罪者の仲間とも思われたく無いしな。それで、アイツに相談したんだ。そしたらレイラと縁を切ったらうちで雇ってやるって言ってくれたんだよ。」
「う、嘘でしょ?それでた、多磨はどうするつもりなの・・・?」
「どうする?そんなの決まってるだろ?」
「アイツの元で働かせてもらうよ。給料もいいしな。」
「多摩はアイツに騙されてるんだ!私は犯罪者じゃない!!それを今から証め──」
「止めろ!!」
涙ながら走り出そうとするレイラの腕を掴み静かに呟く。
「お前が何をするつもりか知らないけど、多分そんなことしたらこれまで以上にこの街で嫌われることになると思うよ?そうしたら店長や俺に迷惑がかかるとか考えられないの?」
「!!!」
「あぁでも心配すんなよ。店長は今まで通り雇ってくれるってよ。」
「あと、これ。」
俺は今までのバイト代を捨てるように落とす。
「俺のも合わせれば今までのお前分のバイト代全額になると思うから。」
「・・・何のつもり?」
「これが手切れ金ってこと。」
「て、手切れ金?」
「あぁ分かんないか、俺とお前の関係はこれで終わりってこと。」
そこまで言った所で、レイラは街の方に逃げるように走って行った。
結局朝まで、ずっとテントの前にいたが、レイラがテントに戻ってくることは無かった。