第4話
依頼を終え、レイラと一緒に街へ戻った。
「何かあったのかな?」
「そうかもな。」
街の中は警官が何人もパトロールしている。
「俺達が工場に戻っている間に事件でもあったのかもな。」
すると遠くから警官が俺達の方に向かって走ってきていた。
「はい、逮捕」
「は・・?」
俺は手錠がかけられた。
「───今回は注意だけだが、次同じ事をしたら牢屋に入れるから覚悟しておけよ」
俺は気の強そうな婦警に1時間の説教を受けた所でようやく解放された。
俺の容疑は見知らぬ女性に怪しい道具で不審な行動をした。
ということらしい。
何とかカメラの没収は免れたものの、警察にマークされたのは正直めんどくさい。
くそぉ あのクソ店主警察にチクリやがって!とあの女を親の敵のように恨んでいると
警察署の前で俺の事を待っていてくれていたのかレイラが立っていた。
「・・・待っててくれたのか。」
てっきり先に帰ってるかと思ってた。
その姿を見ると何だか申し訳なくなり
「あのさ、せっかくの休日だったのに色々悪かったな」と謝ると
「ううん。別にいいって僕がついて行きたいっていったんだし!ほらテントに戻ってご飯にしようよ!明日は朝からバイトの日だしね」と明るく返してくるレイラ。
俺も「・・・あぁそうだな」と返事して、夕飯の材料を買い、テントに戻ることにした。
もう暗くなりつつある街の中を食材を持って歩いていると前から女の子3人組が歩いてきていた。
相手はレイラに気づいたのか、すれ違う際に女の1人が小声で何かを言っていた。
俺は何の言ったか聞き取れず、とりあえず相手がどんな奴か確認するため振り向こうとすると、レイラが俺の服の裾を少し掴んで、俺の動きを制止した。
何かと思いレイラを見るとうつむきながら震えていた。
その日の夜、テントでレイラが寝たのを確認した後俺は街に戻って、そういう事に詳しそうな人に事情を聞きに行った。
「───で、なぜお前に一日に2回も会わねばならんのだ。」
今の時間は深夜2時、俺は残業で警察署に残っていた夕方の気の強い婦警にまた会い来ていた。
「それは俺のセリフでもあるが、レイラのことで気になることがあって、もしかしたら詳しいこと知ってくかもと思って、聞きに来たんだ。」
そこで、今日あったことを簡単に説明した。
「あぁそういえばお前は最近この街に来たから何も知らないのか。」
と納得したのか説明を始めた。
「あの子の両親は・・・・レイラが2歳の時仕事先で死んでしまったんだ。だからレイラぐらいの子達、多分レイラ自身も自分の事を孤児だと思っているんだ。それでも明るくて優しい子だったから、皆と仲良くやってたんだ。だけどちょっと前にある事件があって、街の同年代の子達から避けられ始めて変わってしまったんだ。」
「ある事件?」
「あぁ事件というのはな、この街を治める貴族の娘さんの指輪が盗まれたんだ。それで、その娘が警察にレイラが盗んだと言ったそうなんだ。証拠は無かったこともあって大人達はそこまで信じてはいなかったのだが子供達の間では噂が広まってしまってな・・」
証拠も無いのに犯罪者扱いとは、子供達らしい理不尽だ。
とりあえず、確認しておきたいことをいくつか質問する。
「その噂を広めたのは盗まれたって言っている女なのか?」
「噂の出所は多分そうだと思う。その娘は子供達の間でリーダー的存在らしいからな。」
「やっぱりそういうことか、レイラは犯罪者としての証拠は無かったんだろ?お前達はレイラの誤解をとくために何もしなかったのか?」と聞くと
「私達だって最初は色々行動したさ。だが私達が何かすればするほど私達の見えない所でレイラに危害が加えられるようになっていったんだ。日に日に傷が増えていくレイラを見て、私達は何もしないことが1番いいという結論に至ったんだ。」
俺はそこまで子供の世界に長くいたわけでは無いが言っていることはまぁ理解できる。
子供の人間関係に大人が介入するのはあまり得策ではないだろう。
かといってうまく干渉することも警察という立場もあるこの人からしたら難しいのかもしれないなとも思う。
「それでも心配だった私達は唯一、上から許可が出た陰から見守るだけという形になったんだ。でもその事件以降、レイラは街で悪戯をするようになった、まぁそこまでたいした事じゃ無かったんだが、そのせいで大人達からも煙たがられるようになっていった。街の人から嫌われ出したレイラをかばうと警察のイメージが悪くなると、最終的にはレイラを見守ることさえも禁止されてしまった。それからたまに見かける程度しか見ていないがレイラの表情はとても苦しそうだっだ。」言いながら暗い表情になっていくのを見るに何も出来ないのが歯がゆいという気持ちは伝わってくる。
「でも、最近レイラが変わったように感じたんだ。」
と表情が少し明るくなった。俺が顔に疑問の表情を浮かべていると
「レイラは多摩といったか?君と出会ってからすごく楽しそうに見えるよ。悪戯もしなくなったし、楽しそうにバイトしているとも聞いた。だから君には凄く感謝しているんだ。」
と頭を深く下げる婦警。
「ほう、そう思ってるなら俺の頼みを聞いてくれるか?」
「頼みだと?な、何だ?」
「その貴族の奴の情報を詳しく教えて欲しい。」
日本だったらプライバシーだなんだかんだ言われそうな事だけど、正直今は知ったこっちゃ無い。
俺の大切な人が無実かもしれない罪で風評被害を受けているのだ。何もせずいられるほど大人じゃ無い。
「本来、人のことを許可無く教えるのはいけないが・・・・」
俺の目をまっすぐ見て
「君はレイラを救ってくれるのか?」と聞いてきたので
「おう、任せろ。」
「わかった。だが、その代わり条件がある。────」
話を終え、警察署を出ようとした時
「いざとなったら全責任は私が持つ。」と真剣な表情で言われた。
この人もこの人でレイラの事をすごく大事に思っているんだろう。
俺はテントに戻るとあることに気がついた。
先に寝ているレイラの布団が少し乱れていた。
俺がレイラと一緒に暮らし始めて1ヶ月
こいつの寝相が悪くないのも知っている。
「なぁなぁお前家に帰らなくていいのか?」
レイラがテントに来てから1週間が経ち、そろそろ親が心配してるだろうと思い、聞いてみると
「ううん。大丈夫だよ?」と笑って返し、それ以上何も言うことは無かった。
俺は自分のこういう無能さに腹が立つ。
ここ一ヶ月レイラと一緒に過ごしといて、こんなことにも気づいてあげられなかったなんて
違和感はあった。でもお互い知られたくないことがあるだろうと勝手に判断して、踏み込むのはいけないことだと決めつけていたのだ。
その違和感の中にもしかしたらレイラから俺へのSOSがあったのかもしれない、そう考えると悔しさが込み上げる。
俺はその日、1つの計画を立てた。
翌日、俺とレイラは普段通り、パン屋のバイトに向かった。
バイト中、ふわぁぁあと久しぶりに深夜まで起きていたこともあって何度もあくびをしていると、横で同じようにレイラがあくびをしていた。
それを見られたのが恥ずかしかったのか顔を少し赤くして
「・・・多摩さあ今日何か眠そうだね」
「・・・それを言うならお前こそさっきからあくびばっかりしてるやんけ」
「べ、別にそんなことないよーだ。あっそういえばさっき店長が新メニューのこと聞きたいから暇な時来てって言ってた。」
「んーわかった。」俺は店内の様子を見て、人が少ないのを確認してからレジを離れ、厨房に向かった。
厨房に入ると店長がパンを作っていた。
「・・・店長、新メニューを開発するのはいいんですけどそんな主役のパンよりもだいぶ大きな大根をパンに入れるのはやめた方がいいかと」
この街で知ったのだが、この世界でのパンという食べ物は、そのまま食べたり、スープにつけて食べるたりするというのが普通らしく、パンに何かを挟んだりするという考えは無かったらしい。
だからこの世界のパン屋というのは日本で言う所の食パンやフランスパンのようなパンの原型だけが売っているのを想像してもらえるとわかりやすいかもしれない。
そこで俺が店長に調理パンという物を教え、それを作って売ったところ街で大ヒットしたのだ。
それから、俺と店長はたまに新作パンの試作をしているのだ。
「なに このパンはだめなのか」と焼き上がったばかりのパンを見ながら落ち込む店長に
「今日も新作の開発ですか?」と聞きながら、次の新作パンのアイデアを考えていると
パンを両手に持ち、
「いや、今日はパンのことじゃ無く、レイラのことなんだ。」
大根パンを手に持ったまま真剣な顔をしていた。
「レイラっすか?」
「あぁ 今日の早朝にシェルが店に来たんだ。レイラのために何かするつもりなんだろ?あいつ俺にはいつも詳しいことを教えてくれないんだよ!俺に出来ることがあったら何でも言ってくれ協力するからな!」
店長の言うシェルというのはあの婦警のことだろう。
「・・・あの店長はレイラのことどう思ってるんですか?」
俺は単刀直入に聞いてみた。
シェルの話を聞く限り、普通だったら雇おうとは思わないし、それどころか客商売をしている人間からしたら関わりたいとすら思わないだろう。
店長はヒゲをさすりながら
「俺はあの子の死んだ親と知り合いでな、あまり詳しいことは話が長くなるから今は省くが、個人的には娘の様な感覚なんだよ。だから最初は俺もレイラの誤解をとくのに協力したかったんだ。だが俺は色々加減出来ないタイプの人間でな… シェルに介入するのを止められていたんだ。」
といってガハハと豪快に笑っているが、幹のように太い腕をしている店長が加減出来ないとか言うと色々冗談に聞こえない。
「それなのに俺達をバイトに誘ってよかったんですか?」
俺達がここでバイトするきっかけは2人で掲示板のところで求人を見ていると店長に声をかけられたことだ。
俺はレイラと出会ってからとりあえずお金がすぐに必要になったので、前雇ってもらった服の会社に行っていたのだ。
だが、2日、3日経ってもレイラを雇ってくれる店は無かった。
日に日に暗くなるレイラを見ていられず、俺もレイラと一緒の所でバイトする事に決め、一緒に店を探して面接には行くものの、いい返事はもらえずにいた。
そんな時に店長が声をかけてくれたのだ。
「・・・・・・・まぁ・・大丈夫だ」
店長が遠い目をしている。
あぁ、多分シェルって人に色々言われたのだろうな・・・・
「でも、俺達をバイトとして雇ってくれたのも、協力してくれるって言ってもらえたのもすごく助かります。ありがとうございます。」
とお礼を言うと店長はこの空気感が照れくさかったのか手に持ったパンを口に運んだ。
「まぁ そんなこと気にするn おええぇぇぇ」
店長は口に入れたパンを一瞬で地上に戻した。
「ちょっ 何、吐いてるんすか!」
「うぅ・・実は俺、大根苦手なんだ・・・」
「じゃあ何でこんなもんつくったんですか!」
その後、大量に生産された大根パンを売り切るというブラック過ぎる業務のせいで店長へのありがたみはすべて消え去った。