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Hello! My sister! 後編

作品中、『シスコン』呼ばわりされる兄・深沢よう31歳。


彼のシスコンっぷりをご覧にいれましょう。

*4


 ルミが中学生になった。


真新しいセーラー服に身を包み、後ろには相変わらず赤毛の男と黒髪の気弱そうな男を従えている。


従えている、というと聞こえが悪いが、本当はついて来ている。


正直、兄としては妹の将来が心配だ。


それでも、最近は中学生になってから女の子の友人も出来たようではある。


「ルミちゃんのお兄さんですか?」


 いつものように中学の校門で妹を待っていると、妹の友人らしい女の子に声を掛けられた。


僕も大学生になり、時間に余裕のある時はこうして妹を迎えに来ているのだ。


「ルミちゃん、まだ教室だと思います。呼んできましょうか?」


「……君は?」


「佐伯です。佐伯奈津。ルミちゃんと仲良くさせてもらってます」


 ペコリ、と頭を下げると、彼女はプリーツをひらりと翻し元来た道を駆けて行く。


やや茶色い、おそらく自毛であろう肩までの髪に見惚れた。


 ──私が見惚れた?


慌てて頭を振る。


妹の友人に、7歳も年下の少女に惹かれるなどあってはならない。


それは妹に恋心を抱くよりはましだが、それでもあってはならないことに違いはなかった。




「……兄様?」


 妹の声に我に変える。


どこをどうやって自宅に帰ったのかは解らないが、既に自宅に着いていた。


「今日の兄様、どこかおかしいよ? 具合でも悪いの?」


 そう言って顔を覗きこんでくる。


とてもじゃないが言えない。


佐伯奈津と名乗った彼女のことを考えていただなんて。


「今日ね、奈津にあったんだって? 奈津が兄様のこと、かっこよくて優しいって言ってたよ?」


 奈津、という響きに心が高鳴る。


会ったのは数分だというのに、こんなにも心惹かれてるというのか。


「……そうか」


「ちょっとうれしかったな。兄様が褒められると私も嬉しい」


 そう言って満面の笑顔を浮かべる妹に、いつもなら癒されるはずが今日は違う。


佐伯奈津嬢のことが頭から離れなかった。


妹よりも幾分大人びた、だがまだまだあどけない顔に。


化粧をしているわけでもないのに桜色に色付いた唇に。


触れてみたいと思ったのは背徳か。




*5


「兄様なんて嫌い! いつもいつも私の邪魔をして! 友達を作る隙も与えてくれないなんて!」


 兄妹喧嘩なんていままでにもそれなりにあった。


だが、今回は今までのいさかいとは訳が違うようだ。


 いつものように学校の校門まで迎えに行ったら怒鳴られた。


このところ、ルミがピリピリしていたのは解っていた。


それが爆発してしまったのだろうか。


これが反抗期というものなのは解ってはいたが、面と向かって反抗されるとさすがにショックだった。


私には反抗期がなかっただけに、妹にどう接してよいのかわからなかった。


娘のように大切にしてきた妹に反抗されるのは想像していたよりも辛かった。


「……ルミちゃんのお兄さん?」


 校門で呆然と立ち尽くしていた私に、見知った声が掛けられた。


見ずとも解る。


佐伯嬢だ。


「お久しぶりです。佐伯です。どうしたんです? ルミちゃん、帰っちゃいましたよ?」


 ……言葉にならなかった。


どう説明してよいかわからなかった。


「あ、場所。場所、変えましょう?」


 下校中の中学生がじろじろと見ては通り過ぎていく。


ここは気まずい。


彼女を私の車へと誘った。


 車を停車する場所を求め、近くのショッピングセンターの駐車場に向かう。


目立たぬように駐車場の端に車を止めた。


「一体、どうしたんです?」


 心配そうに顔を覗く彼女へ、簡単に事情を説明する。


よくよく考えたら7つも年下の少女に相談することではないが。


「……なるほど。ルミちゃんが……」


「私が悪いのだろうか……。私はルミによかれと思って……」


 産まれた時からずっと一緒にいた。


幼い頃に両親を亡くし、昨年には祖父も他界。


祖母と妹と私だけになってしまった。


だからこそ余計に、兄としてルミを守って行かねばと思った。


それを当の妹に否定されてしまうのは……。


「ルミちゃんはお兄さんのこと、嫌いな訳ではないですよ?」


 私を安心させる為なのか、彼女はにこっと笑う。


「だって、ルミちゃんの話でお兄さんが出てこないことなんてないんですもん。兄様が、兄様がって。嫌いな人が話題に出るなんてないでしょう?」


 じんわりと胸のうちが暖かくなる。


 私だってルミが本心から言った訳ではないのは解っていた。


言うなれば、飼い犬に牙を剥かれた、とでも言うのか。


自分のほとんどを注いで慈しんできた妹に、刃向かわれたということがショックなだけだったのだ。


それでも、佐伯嬢の気遣いは私に温かかった。


その言葉の一つ一つが、自然と素直にストンと居場所に収まったような感じ。


彼女に私は救われたのだ。




「……兄様、今日はごめんなさい。あんなこと心にも思ってないから、ね?」


 佐伯嬢との短くはない心休まる時間を過ごして、少し遅く帰宅したら妹が私を待っていた。


その黒目がちの大きな瞳をうさぎのように真っ赤にして。

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