織姫も彦星も積極性が足りない
川を渡って携帯を盗む話
文庫を読みながらスポーツドリンクを飲む。こうしていると、さもスポーツをしているように錯覚する。
俺が所属するのは、名ばかり部と呼ばれる中の1つ、写真部。その写真部の部室、狭い部屋、机と椅子が4セットある内の1つに腰掛け1人でいる。1年生の俺がこの部室を独り占めできているのは、この部活動に先輩も同級生もおらず俺が1人でいるからだ。それ故、ろくな活動も出来ずに、存在だけして活動のしない名ばかり部と呼ばれている。
写真部の部室で文庫を読むのならコーヒーが似合うような気もするが、どうもコーヒーが苦手だ。
ろくな活動もしていない部活動の部室で、スポーツドリンクを飲みながら運動部の掛け声を聞くのは背徳感を凄まじい。
ドラマで見る、嫁に会社にいると言いながら居酒屋で酒を飲む行為に近いなと勝手に思った。
この写真部に入ったのは半ば強制的で、相楽合という女生徒の所為だと言ってほぼ間違いない。その一件以来、彼女には、彼女の所属する新聞部の手伝いをさせられたりと縁出来つつある。彼女が所属する新聞部も部員が1人で何かと大変なのだ。俺も人の手伝いをしないほど非情ではない。
窓の外を見ても教室棟と管理棟しか見えずロケーションは悪い。しかし、運動部が汗水流す校庭を見るのも申し訳ない。だからこの眺めも悪くはないと思う。
外はいつの間にか雨に変わり、外からきゃあきゃあと声が聞こえた。突然のにわか雨だ。
再び文庫に目を落とし、読み進める。しかし、なぜか集中が続かずに目が滑る。良いところだったのにと思い時計を見るがまだ15:30、帰るには少し早い。必死に読もうと居座りを直すがなかなか読めない。
眠くなってきたのかと時計を見るが、まだ16時。普段と変わらない生活をしていた自分が突然眠くなるのか不思議に思うとこんこんと音がした。
どうやらドアをノックされたらしい。この第4準備室の引き戸を見ると、はめ込まれたガラス部分から相楽さんが顔を覗かせていた。
「どうぞ」
そう声をかけると、がらがらと音を立て相楽さんが入ってきた。 俺が何も言わないうちに、遠慮なく向かいの椅子を引き、座りながら腕を机の上に置き手を組んだ。そして、
「南君、今は暇?」
と聞いてきた。
「本を読むという部活動中。」
「じゃあ暇だね。ちょっと付き合って。」
階段を降りて左に曲がると廊下が雨で濡れてしまっていた。リノリウムの床で靴がキュッキュッとなる。窓が閉められてるから、にわか雨で吹き込み、閉めたのが遅かったのだろう。外は夕日が覗き、さっきの雨が嘘のようだった。
相楽さんは被服室というプレートの部屋で立ち止まりこんこんとノックをした。
「はあい。」
と気の抜けた声が聞こえて中に入ると女生徒が1人。靴に入れられた学年別の色を見ると赤、どうやら2年生らしい。
「そちらは?」
と2年生が聞く。
「南統次です。1年です。相楽さんに連れられてきました。」
「南君ならなんかわかるかもって思いまして。記者見習いだと思ってください。」
いつの間にか俺が新聞部に入部されそうになっている。 事情を説明しろと目で相楽さんに訴えると
「こちらが2年生の井上十子さん。被服研究会の人。」
「どうもはじめまして。」
「はじめまして。」
違った解釈をされたためもう一度目で訴えると流石に察したようだ。
「どこから説明しようかな。」
「最初からでいいんじゃない?」
「そうですね、そうします。面倒だから一回しか言わないし、質問は最後にまとめてね。」
そう前置きして話し始めた。
今日、私は新聞部の活動で記事を書くために被服研究会を取材したの。被服研究会の井上先輩はコンクール、まあ簡単に言うと県展で賞を取ったのね。我が校の被服研究会で唯一の入賞者らしい…。ですよね?
それで記事を書くために、井上先輩に被服室で話を聞く事になってたの。15時から。それで話を聞いてたの、さっきまで。そして終わったあたりで向こうの教室の英会話研究会の人がやってきて泥棒が出たって言うの。
話によると15時半頃に英会話研究会の3人が私たちの今いる被服室の前を通って奥の特別教室に向かったんだって。そしたら窓が開いていて、雨が吹き込んでいた。だから一旦特別教室に荷物を置いて戻ってきて窓を閉めたんだって。そして彼女たちも少し濡れちゃったからタオルで拭こうと教室に行ったんだって。
荷物を置いた特別教室じゃなくて一般教室に行ったのは、一般教室のロッカーに今日の授業の体育で使ったタオルを置き忘れたのを1人が思い出して、皆で取りに行ったらしい。ちなみに3人とも同じクラスらしいよ。
それで10分もないくらい、特別教室に荷物を置いたまま離れて戻ってきたら荷物が1つなくなってたんだって。
そこまで話すと
「質問を受け付けます。」
と相楽さんは背筋を伸ばし目を閉じ言った。
「今日は被服研究会は井上先輩だけだったんですか?」
「今日はね。コンクールの後だし。コンクールとかが近くなると皆遅くまでいるけど、終わった後は誰もこないのが普通だよ。テスト勉強と同じ感覚。」
「なるほど。それで、何が盗まれたの?」
「携帯。」
「それはまた随分と大事な物が盗まれたなぁ。」
携帯は個人情報もあり盗まれたら大変な物だ。被害者に同情していると、
「井上先輩はここで課題を少しやってくらしいから私たちは行こうか。」
と相楽さんは立ち上がった。
「どこへ?」
「被害者一同のところへ。」
そう相楽さんが言った瞬間ドアがノックされた。井上さんがどうぞと言うとが女生徒3人が現れた。靴の色を見るに全員2年生。
「どう?何かわかった?」
そう聞かれて井上さんは
「まだこれから。」
と答えた。どうやらこの人達が被害者一同らしい。
先に続き、どうもはじめましてと苦手な初見の挨拶をする。
「どうもこんにちは。私が携帯盗まれた清村です。」
どうも携帯を盗まれた事に困っていないような明るい調子だ。
「私が小木で、こっちが佐藤。」
と残る2人の名前もわかった。
携帯を盗まれたのが真ん中にいる清村さん。肩より長い髪は薄く茶色く、顔はなるほど美人だ。
そう思うと同時に相楽さんが
「美人でしょ。」
と耳打ちしてきた。
美人は自分より可愛くない子を取り巻きに従え自分を高く見せると言うが、他の小木さんも佐藤さんもまず可愛い。どうやらこの人達は類は友を呼ぶの体現らしい。
まずは先に現場に携わった人に聞こうと相楽さんに質問する。
「相楽さん。何かと気付いてる事はある?」
そう聞くと全然ダメと表情で訴えてくる。
「今日中に携帯見つからないと結構やばいなぁ。」
「帰りにショップ寄って止めてもらえば?」
「やり方わかんないな。」
「じゃあ一緒に行こうか。」
と一同は和気藹々としている。
腕を組み唸り、一通りこの階を探すかと思い、とりあえず辺りを見回すとおかしな機械が目に入った。
これは?と取り上げると相楽さんが大きな声を出した。
「あっちゃ~。ボイスレコーダー入れっぱなしだった。」
一体なぜボイスレコーダーが?と思ったが、そうだ彼女は新聞部の取材をしていたのだ。何か手がかりがあるかもと思い
「少し聞いてみようか。」
そう言うと相楽さんがボイスレコーダーを操作する。
「えーと。それじゃ、はじめますね。」
「はい。」
「まず、今回のコンテストで入賞した作品なんですが。実際に見せてもらいましたが、デザイン、そして色使いも今までないものでしたが、井上さん自身がまずどこから考え始めたんですか。」
「そうですね。コンテストに出すために毎日考えていましたが、どれもしっくりきませんでした。ある日姪っ子と遊んでる時に服が泥が跳ねて、それを見て今回の作品が思いつきました。」
「自分の声を聞くと恥ずかしい。」
と井上さんが言った。
「あたしたちからしたらいつも通りの十子なんだけどね。」
小木さんはそう言うと、でも私も自分の声聞いたら恥ずかしいなと呟いた。私もそうと佐藤さんが同意する。
清村さんは
「相楽ちゃん被服研じゃなかったのね。」
と驚き相楽さんは訂正してる場合じゃないと思いごめんなさいと弁解してた。
「相楽さん。15時半頃にしてもらえる?」
そう言うと相楽さんは頷き、ボイスレコーダーを操作する。
「やっぱりコタツで足が触れるとびっくりしますよね。」
「そうそう。私も兄弟がいてよくそうなるけど反射みたいに動いちゃうの。」
「私も祖父母の家に行った時にそうなっちゃって。意識よりも先に逃げちゃいました。これが日本の文化コタツであり、これが日本人の心かと思いました。」
「何関係ない話になってんのよ。」
と呆れた顔になって清村さんが言う。
「いやあ、ついつい話が弾んで。」
井上さんは照れる様子はなく、ケラケラと笑いながら話す。
やがて、階段をたんたんと数人で上り声が薄っすらと聞こえはじめた。
「うわー、ひっどいなぁ~。」
「なにこれ~。ついてない!」
「これ、バックも濡れるから一回教室に置こ!」
相楽さんは安物なのに意外と性能が良いな。
確かに、結構声を拾う。キュッキュッと数名は駆け出し、またキュッキュッと戻ってくる。ガラガラと窓を閉め、
「やばい。私教室にタオル置きっぱだった。」
「じゃあ取りに行こうか。私たちのタオル一回特別教室から取ってきてその後に行こ。」
またキュッキュッと音が遠ざかり、キュッキュッと音が近付いてくる。そのまま階段をたんたんと下りていった。
「相楽さん少し早送り。」
はいよと答えてボイスレコーダーを操作する。ここら辺かなと言ってボタンを押す。
「確かにメダルって素材的にも気持ち的にも捨てられない物ですね。」
「そうなの。昔やってたスポーツチームの身内大会でもらったメダルとかね。父母会が用意してくれたやつだけど、ちゃんとした大会じゃないし。」
「私なら捨てちゃいますね。今はもうそのチーム行ってないんですよね?」
「そうなんだけど、何ゴミなのかな?」
「あんたら気が合うのね。」
清村さんは少し笑って言った。
またがやがやと声がして階段を上り、キュッキュッと奥へ進んでいった。
しばらくするとがらがらと戸が開く音がした。
「十子と…、1年生ちゃん。ちょっとごめんね。」
「いえいえ、雑談してただけなんで。私、相楽です。どうかしました?」
「いやぁ、相楽ちゃん。被服研の後輩かな?わたしの携帯盗まれちゃってさ。」
「え?彩綾の盗まれたの?」
「そうなんだよ!それでさ、十子と相楽ちゃん、ここ通ってく怪しい人見なかった?」
「うーん。わたしは見てないな~。話に夢中だったのもあるけど。」
「私は廊下に背を向けてたから、ちょっとわかんないです。」
「そうか~。うーん。どうしようかな。」
「探したんですか?」
「特別教室は一応ね。」
「でもそこ以外は探しても見つからないんじゃない?」
「それもそうだね。」
今、相楽さんと井上さんがいる位置を見るに相楽さんが廊下を背にして座り、井上さんがそれに対面し座っていたようだ。
被服室の戸は写真部の部室同様、ガラスははめ込まれ人の顔辺りが見える。井上さんの位置からは廊下を通る人を見れるが、いちいち通る人を気にする人はいないだろう。
たんたんと階段の音がなり、こんこんとノックをして入ってきたのは俺と相楽さん
今聞いても少し恥ずかしくなる初対面の会話から、
「あちゃ~。ボイスレコーダー入れっぱなしだった。」
という相楽さんの声で録音された音声は終わった。
「特別教室って出入り口って皆さん使ってるのに他はないんですか?非常口とか秘密の抜け道とか。」
「ないよ。」
と佐藤さんが答える。
「特別教室って名前だけど普通の教室と作りは変わりなくて前後に入り口があって、ベランダはない。」
教室棟の教室と変わりないのに特別教室とは何故だろうか。そう思うが今は気にしている時間はない。他にも確認すべき事実がある。
「この階の1番左奥でしたっけ。」
「そうそう、1番左奥。ここの隣の隣の教室。それでこの階の1番奥。廊下の突き当たりは教室棟と違って、特別棟は非常階段とかないから行き止まり。」
「なるほど、じゃあやっぱり特別教室に携帯を盗みに行くにはこの被服室の前を通らなきゃいけないわけですね。」
そう確認すると各自頷きなからそうそうと言った。
「だから十子に犯人見てないか確認しにきたの。」
と清村さんが言う。
相楽さんが閃いたように話し始める。
「始めから清村さんの携帯盗もうと特別教室に潜んでたんじゃないですか?部室として使ってて来るのは分かりますから。」
それには無理があるだろうと思ったが、先に小木さんが否定する。
「部室は鍵かかってるから無理だね。皆知ってるだろうけど部室の鍵は職員室に1つあって借りるけど、他の部もそうやってるようにスペア勝手に作って部長が持ってるし。」
続いて佐藤さんが
「英研と偽って職員室から鍵を借りれても潜めたとしても、彩綾が来るだけじゃないからね。他の部員が来るかもだし、適当にしては行動的過ぎ。」
更に清村さんが
「それに、もし私が来てもその後どうするの?今日はたまたま雨が吹き込んでたから締めにいったけど、普段はそんな事なくてずっと教室に居るから盗めないし逃げられないよ。」
最後に井上さんが
「もし仮に雨をチャンスと思い窓を開けていたとしても、彩綾たちが締めない可能性もあるし。」
と続けて4人に否定され相楽さんはですよねと力なく頷いた。
まあ、それはあり得ないだろうと誰しもが思うだろう。それには今回は証拠品を使う必要がある。
「相楽さんが録音していたボイスレコーダーの音声を聞くに、やはり犯人はまだこの階に居る可能性がありますよ。」
そう言うと井上さんと清村さんがそうだと思うと言い、他の3人はなんでと言う顔をした。井上さんか清村さんが説明しても良いが、俺が言い出した事なので俺が説明する。
「単純な話で、このボイスレコーダーは階段の上り下りの音まで拾います。3人が来てから、3人の他には僕と相楽さんの上り下りの音しかしません。ボイスレコーダーで録音していると思って静かに階段を上るあるいは下るとは考えにくい。」
確かにと3人は頷いた。
「階段以外にこの階へのアクセスはない。だからこの階にいると思う。」
と井上さんが言う。更に話を進める。
「それに、清村さんと小木さんと佐藤さんが特別教室に来たのは雨が降ってからですよね。」
「そうだね。私達が来た時に雨が吹き込んでたから。」
「そうです。そしてボイスレコーダーは雨で濡れた靴がキュッキュッとなる音まで拾っています。さっき聞いた感じ、3人以外の音は聞こえなかったです。」
そう言うと清村さんが言葉を引き取り
「だから、犯人は多分音で近づくのをバレないように靴を脱いだんじゃないかな。」
と言った。直ぐに小木さんが疑問をぶつける。
「そこまではわかったけど、犯人は置きっぱにした携帯狙いに行ったなら私達いない事分かってるよね。なら何で音を気にしたのかな。」
確かにここは問題だ。誰か答えるかと待つと井上さんが話し出す。
「私達に音が聞こえるのを避けたのかもね。盗まれた後に彩綾が私達に何か聞きに来る事まで考えたのかも。」
そう言うと皆納得したように頷いた。しかし、本当はそうじゃないだろうなと思う。
「それじゃあ犯人はこの階にまだいるんだよね?」
「ボイスレコーダー聞いてから気を付けて階段の音聞いてるけど、誰も通ってないから多分居るよ。」
と清村さんが顔を顰めて言う。
「この階に居る部活は…。将棋部と書道部に華道部か。」
と小木さんが宙を見ながら言う。
清村さんが
「将棋部はうちのクラスの男子の伊藤がいたね。あとは誰いるか知らないけど。」
と首を傾げる。
「確かに書道部は1年生が女子2人と男子が1人いて、華道部は3年生の女子1人らしいです。」
と相楽さんが新聞部らしい情報量を見せつける。
ここでは俺が気を利かせる必要があるだろうと1つ提案をする。
「皆さんここでは待っててくれませんか?俺がこの階に居る人に聞いて回りますよ。」
そう言うとやはり皆訝しんだ顔をする。何でと聞かれる前に言う。
「皆で聞いて回ってる内に逃げられたら終わりです。だからまず階段を固める人が必要です。それに本人や友達に囲まれたら正直に白状出来ないんじゃないですか?だったら関係ない自分が行った方が良いんじゃないかと。」
流石に無理があったかと思ったが、皆納得してくれた。
「まあ、それじゃ私らは階段で関守してるね。」
と佐藤さんが言う。
「ここで待ってて音聞いてれば良いじゃん?」
と小木さんが言い、まあそうかと佐藤さんが納得する。
しかし相楽さんは
「じゃあ私が行っても大丈夫ね。」
と同行を志願してきた。
相楽さんは俺がどうするのか気になりついてきたようだ。やはり少し怪しんでいる。
だから前もって言っておかなければならない。
「俺がする事に口出ししないでくれよ。」
相楽さんは少し俺を睨むが仕方ないという顔になり
「分かりました。」
と言った。どうも納得していない様子だが話を続ける。
「どの教室がどの部の部屋か分かる。」
「被服室の隣が華道部で、階段の直ぐ右が書道部、1番右奥が将棋部。」
やはり彼女は何でも知ってるなと改めて関心する。
迷わず将棋部の部室に向かうが、相楽さんは約束通りに理由を尋ねない。どうやら本当に納得してもらっていたようだ。
戸の前で1つ深呼吸をして、ノックもせずにドアを開ける。
中には驚いた顔をした男子生徒が1人。靴の色を見るに2年生。慣れないことはしない方が良いなと思いながら顔を変えずに声を低く話す。
「伊藤さん。」
そう言うと男子生徒は、一瞬たじろぐも
「なんだよ。」
と返した。
目の前の2年生が伊藤さんであるか分からなかったが、返事から伊藤さんであることが分かった。
「清村さんの携帯返してください。」
そう言うと、相楽さんが俺の背中を少し突く。何か言いたいようだが、今は何も言えない。相楽さんの顔も見ずに伊藤さんだけを少し睨むように見る。
「何言ってんだよ。あんた誰だよ。」
そう言うが伊藤さんは少し表情が強張っている。
「今の携帯って位置情報が分かるんですよ。建物の中の何処かもわかるんです。」
そう言うとまずいと言う顔になり、明らかに血の気が引いていた。
「俺が返してあげますよ。本人や小木さん佐藤さんに渡すより良いでしょ?それに落ちてたって言ってあげますよ?」
そう言うと、伊藤さんは顔を伏せ、ちらりと俺を見る。やがて観念したようにリュックから可愛らしいケースの携帯を取り出し俺に渡そうとする。
不意に横から手が伸びその携帯を掴んだ。相楽さんかと思い横を見ると清村さんがいた。
清村さんが携帯と見つめ、画面をスカートで拭き、ため息を1つ吐き一言伊藤さんに言い放つ。
「マジでキモい。」
写真部の部室に戻ると直ぐに相楽さんが質問してくる。
「何でわかったの?」
どこから説明しようかなと思い、
「最後はカマかけただけで賭けだった。」
と前置きをする。
「じゃあ一人一人にカマかけるつもりだったの?」
「いや。たぶん伊藤さんだろうとは思ってたよ。」
「何でそう思ったの?」
相楽さん椅子に座り、俺と相対し凄く知りたいという顔をして身を乗り出している。
「まず、靴を脱いで音が鳴らない様に気を使った理由は井上さんと相楽さんにバレない様にじゃない。やっぱり本人達にバレない様にだ。」
そう言うがやはりまだ理解は出来ていない様だ。
「被服室は雨が吹き込んだ廊下の直ぐ側で階段も近い。だから清村さん達の会話が聞こえたんだけど、伊藤さんがいた教室からが聞こえない。だから彼女達がいると思って静かに近付いたんだ。」
「何しにさ?」
「清村さんを見に行くためさ。」
そう言うと相楽さんはキョトンとした。そして首を傾げて、またなんでと聞いてくる。
「清村さんが好きだったんだろ。覗き見しようとしていなくて、携帯があって思わず…。」
「なんで?」
「それはわかんない。電話番号とかメールアドレスとかSNSとか知りたかったんじゃない?」
「大胆ね。」
と相楽さんは呆れる。顎に手を置き少し考えた後話し始める。
「でも、男子は書道部の1年生もいるでしょ?部室が同じ階だし彼の可能性もあるよ?」
相楽さんは俺が置いていた文庫を掴み俺に刺す様にそれを向けた。
「雨が吹き込んだ廊下を避けるために靴を脱いで裸足で歩いたならタオルを持ってるはず。同じクラスなら体育があってタオルがあったはず。1年生も体育があるかもしれないが、伊藤さんの方が確率が高いと思った。」
なるほどね。と納得した相楽さんは勝手に俺の分をペラペラと読めない速度で捲り、興味なさげに表紙を眺めて立ち上がり
「積極性に溢れるね。」
と言って戸を開けて出て行った。
ミステリー2%ヒューマン98%




