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金曜日のバックアップ  作者: 希恵和
第一章 始まりのイマージング
7/31

スピーキング

 六限目、生物。移動教室。

私も市原さんも生物選択。廊下を渡るとき、つい声をかけてしまった。


「一条にはいつから付きまとわれてんの?」

 そういったとき、市原さんは私のほうを見た。


「何か、勘違いしてない?」

 市原さんが言う。

続けて市原さんは私をなぶるような目で続けてこういった。


「あなた昨日間違えてたんでしょ」

 違う。それは彼女だ。


 彼女は馬鹿だから。

 でも、私は大丈夫。パズルは得意だもん。

 自信満々に答えた。


「じゃあ、証明するよ。放課後、皆を残してくれない?」


 にやっと笑って見せた。

 不気味に見えるように口角をぎぃっとひっぱって。

 

 市原さんはそれを見て、表情がこわばる。


「あなた、誰」

 誰とは失礼な……私は私。でも彼女とは違う私。


 ここで二重人格をばらすわけにはいかない。私は普通に流した。


「私は、市原さんの悩みも全部知った。でもね、他の人たちにバラすつもりはない。かといって何もしない傍観者ではいたくない」

 これは提案なんて、生ぬるいものなんかじゃない。

 

 賭けだ。

 私の立場回復のための決戦なんだ。

 失敗は死に繋がる。準備はいいか。私。 

 そして、私は号砲を鳴らした。


「――私が、全部ひっくるめて解決してあげるよ」


 私は大きく一歩を踏み出した。物理的に右足を前にだして。市原さんを追い越した。彼女の顔を見ようとは思わなかった。

 驚いてるとか不審がっているとか、顔色みたって何も起きない。ここで何も解決しない。場をつくっただけだ。

 

 思えばこれは簡単なクイズだった。ヒントは出尽くしていて、解決法だけが確定していない。


 私が私で作り出す解決法。それは市原さんと私の問題を一発で消す方法。それ以外の用途では使えない。でも、それでいいんでしょ。私はただの梱包材なんだから。私は山の上から覗き込んだ世界を勝手に書き換えればいい。それが誰の目に、どのように映ったとしても私には、今の私には関係ないんだから。

 

 準備万端。

 勝率測定不可能。

 それでもやるしかない。

 

 さあ、金曜日は戦いだ。

 負けたら終わりのガチンコバトルは開催決定した。

 

 ――時が流れ、HR教室にもどった生物選択者たちは教室内にいた物理選択者と合流。


 そして週末にかかるの最後のHRをおのおのに感じていた。

 静かな教室。明日は休みだからか、妙に安堵感のある室内。私には息も抜けないけれど、むしろ緊張しかしてないけれど。これが針のむしろってやつか。


 ここで墓穴掘ったらどうしようとか内心いっぱいいっぱいですが、何か。

 担任教室に入ってくる。来週の報告。そして、さよならの四文字を言い、教師は去る。


 その後、市原さんは言った。


「皆、(みね)さんがちょっと話があるんだって。聞いてあげてくれない」

 と独特の言い回しで言った。


 その呼び止め方は怖いです。

 頑張らないと。いや頑張れ私。この後は私の時間なのだ。市原さんの与えてくれた大切な時間。


 夕暮れの中。集まったというより、立ち止まる生徒たち。

 私はそんなみんなの前、すたすたっと歩いていって、教壇に立つ。


「皆さんをここに集めたのは、私が謝りたいからです」

 私はこう切り出すことにした。


 私は脳内シュミレート通りの行動をする。

 市原さんの方を向き、申し訳なさそうに頭を下げる。ちょうど45度。


「市原さん、ごめんなさい。あなたを殴ってしまって。本当にごめんなさい」

 

 ここでよく出来た謝罪をする。

 心は無い。でもあるように見せかけて見る。私は演技派ではないのだけれど、まあ何とかなるかな。そんな素人芝居で市原さんがころっと騙されるわけはないけれど。

 

 もちろん、市原さんはこっちを向いているだけで何もいわない。

 そうそれでいいの。あなたはまだ分かっていない。今から私が何を言うか。

 

 その方が扱いやすい。

 私は今日一日、考えた。どうやって私は私の立場を回復させるか。

 

 どうやって皆平穏仲良しな素敵なクラスに戻せるか。でもね――別に『全員』を救わなくてもいいんじゃね。


「――殴らないといけない人物はあの時、あなたの隣にいたの」


 思わせぶりな口調で、切り返す私。

 どよめく群衆。市原さんは顔が固まった。

 

 私は、彼のほうを指差した。

 彼というか一条くんのほうを。

 

 にやり。貴様に決めたって。


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