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金曜日のバックアップ  作者: 希恵和
第一章 始まりのイマージング
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ハンティング

 市原さんの弟はねーちゃんとは顔が似ていなかった。

 

しかし美形。それは市原の血か……。


「ねーちゃん、電子辞書貸してよ。次リーディングでさ」


――『リーディング』は二年生しか行わない。一年では英語総合っていう呼び方、三年ではただの英語演習だ。なるほどね、彼は青春真っ盛り二年坊主。

ちなみに私達は演習って呼んでる。


 ねーちゃんの辞書を待つ弟君は何故か一条くんに絡まれていた。知り合いなんだね。ひゅーひゅー家族ぐるみの中なんだ。


「今度の土曜日、カラオケでも行こう」誘う一条くん。

「その日ならちょうど空いてる」答える弟君とか。微笑ましい。


 ――でも、市原さんは何故か。一瞬固まったようにも見えた。


 辞書が見つからなかったとかじゃなく、ただ二人の会話を聞いて困惑してるような……そんな違和感。

 

 もしかしてその土曜日は『二人の記念日』だったのでは。でもって、一条くんがそのことを忘れ、弟くんと遊ぶ約束を今いれてしまったとか……。それじゃありきたりか。ん、ありきたりでいいのか普通は。


 その後、市原さんは弟さんに電子辞書を手渡し、「はやく教室にかえんなさいよ」を言っていた。ふふ、弟思いないい人だよなーーこの人。


 微笑ましくみていたら、市原さんと目が合った。ガン飛ばされる。


――そうでした。そんな……人のいい人を殴ったんでした。

 私じゃないですよ。『彼女』が、ですけど。



――五限目、現代文。だめだ。何も浮かばない。


「――サトシは香のことの手を掴んだ。それは何故か」

 国語教師がそんなことを聞いてきた。


 そんなのスキだからでしょ? 恋愛感情が絡むと人間変になるんだ。彼女も皆。

 

 恋と愛はどこが違うのかさえ分からない私にとって、高校生の恋愛事情なんか分かるわけがない。

 人を愛するって私が彼女をいつくしんでいるのと同じようなものか? 


 いや、違うのだろう。確か恋というものは男女の『愛してる』から始まって『初キス』『大人の階段』、以下エトセトラ。その後『結婚』続きはカミングスーンって感じだったはず。

 いえいえ違いますよ。私が彼女に抱いているのはそういうのではありませんよ。

 大体私、彼女とキスしたいとかは思わないので。


 あくまで妹を可愛がるようなものだ。目に入れても痛くは無いけれど、そんな行為をしたいとは塵とも思わない。

 そもそも自分自身にキスってなんだ。鏡に向かってするのか?


 彼女は何故に男選びが下手なのだろうか。何故故に一条君なんだ。私は彼女と体を共有する人格であるが故に彼女の思いもある程度分かるし、感じてしまう。だけれども。


 ――一条君への恋愛感情のみは『理解不能』だよ。だって彼は。

 その時、隣の席の一条君が私の肩を叩いた。

 

 クラスで孤立状態、人間関係過疎の私に声をかけてくれるなんて、案外いいやつなんじゃと……そう思ったのもつかの間。


「――ねえ、この問い①分かる? 手を掴んだ理由」


 いつもどおりに『聞くだけ男』が。そして答えが分かれば、すぐにゴミのように私を切り捨てるんだろう。残酷なリアリストさんめ……一条くんはそういうヤツである。決して彼女に好意があるわけでもない。利用するだけだ。


 ――彼は、私を踏み台にしているだけである。

 そこそこ勉強のできる人を使っているだけ。

 彼は『私』にも『彼女』にも恋愛感情は持っておらず、ただ利用価値を貪るだけ。って、うわああああ、なんでこんな人のこと好きになるの!? 彼女は!


 私は人から聞かれたものを無視できるわけもなく。


「それは……」

 

 そこで私はふと思った。『一条くんにとって大事なものってなんだろう』と。


 彼は本当に市原さんのことが好きなのだろうか。

 いや、違う。真実はそうじゃない気がする。多分この人は市原美香子のベクトルを掴もうとはしていない。それに値する行動をしていないからだ。


 ――――『行動』? 

 あ。そう思えば、すべてが繋がる。

 私は気が付いてしまった。

 周りは皆知能低下な高校生ども。でも、私もその愚か者の一員だったことに。


 何もかもを『男女の恋愛』にくっつける愚かな女子高生だったことに。戒めなんか何も効いていない。私だって何も分からないんだ。


 『彼女』がスキだったとしても、当の市原さんはそんなバカな女ではない。だから、一条くんを選ぶはずがない。


 なら昨日のうるうるおめめは? 別の感情? 喜怒哀楽。ひっかかり。昼休み、今週の土曜日。彼らの記念日……違う。もっと前に理由があった。よく出来たパズルだ。運命は大体簡単なパズル。


 イケメンの弟がいる美女がそれなりスペック男子の一条君に言い寄られてるんじゃない。だからといって、美女が凡人男子をおっかけるわけじゃない。美女だって男くらい選ぶよ。言い寄ってるんじゃない。


 アレは言葉を伝えるためのものだったんだ。


 ――あ、分かった。一条くんの正体が。


「それは、サトシの気持ちに同調すればいいんだよ」

 私が言った。知っちゃった。うふふ、どうしようかな。これ。

 

 私が市原さんの思いを分かったように。

 そうだよ。私。恋愛感情は一人ずつ違うんだって。

 

 私と彼女が相容れないように。


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