表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
金曜日のバックアップ  作者: 希恵和
第二章 体育祭のノックアウト
31/31

フィールクリーピー


『今日のお天気は晴れ。ただ日本列島を飛来する有害物質には気を付けましょう』


 それって『黄砂』のことでしょ? たかが砂のくせに。 


『たかが砂と侮ることなかれ』


 え……、エスパー?


『砂の中に、目のかゆみや充血、皮膚の痒みや湿疹を悪化させる微生物を含んでいます。要するに空飛ぶラピ●タ』

 ラ●ュタはそんな悪役じゃねえ。

 目関係でおそらく、あの名ゼリフにかけているのだろう……。耳がー、耳がー。


『というわけで、屋外での応援合戦のダンス練習は控えてください。それが無理なら、せめてマスクくらいはお願いします』


 お願いしますって、誰に言っているつもりなんだろう。


『分かっていますか。アメフト部』

 

 秒で宛先が判明。

 貴方アメフトと仲良かったっけ?


『中庭に干した防具取り込む際には、砂を払い落とすように』


 そんなことかよ。しょうもな。


『もちろん普通の砂も! 美化委員から苦情きてるからね。一応報告しておきます。いや今注意しましたから、『トイレ行ってて聞いてなかった』とかなしだから。この放送、トイレでもどこでも聞こえるから! 職員室以外はね』


『それじゃあ皆、練習頑張って。私も陰ながら応援しております……当日の晴天及び大成功的なやつを。ああ、出来れば風も無いとありがたいよね。テント飛んでっちゃたらかなわないし。当日病欠とかも嫌だよ? 皆で参加しようね。というわけでリスナーネーム『のり子ちゃん』のリクエスト『インフルなんかぶっ飛ばせ』! どーぞ』


 それ、風吹いてるじゃん。


 というか公共の電波使って何発信してるんだあのバカは。

 って校内放送相手に突っ込んでいる私もどうかと思うが。

 

 ――放送部員『千葉』は今日も元気に校内放送をしていた。


 さながらDJの如く、人々の退屈をしのいでいる。部活って大変だねーって他人事なところが、帰宅部の利点だろうな。全然共感しない。可哀想としか思えない。

 

 にしてもこの放送、ほぼ黄砂とアメフトのことしか言ってないし……。


 苦情が出ないか心配だ。おそらく彼女はアホなのでそれ程度で凹みもしないが、風邪もひかないだろうが、心配してあげよう。


 多分世界一平和なカスタマーセンター。

 

 ちなみに前述のアホは関西仕様のアホであるため、少しの愛嬌を兼ね備えている。申し訳程度に。


 

 千葉が放送活動している一方、私はといえば、昼休みの教室で一人でお弁当を食べているところとしか言いようがない。最後にこのミニトマトを食べれば終了だ。ぱくっ。


 程よく食欲を満足させたおかげが、私の判断力の鈍さも解消されそう。先ほどの行為の愚かさを改めて実感するとだ。


 こみあげる羞恥心。ぐああああああ! 


 なんで一条くんに飲みかけのコーヒー渡す……いや、口にはしてなかった! 


 多分、絶対、maybe!


 でも私の口付けたか付けてないかは、あっちには無関係。ただの常識の無い女とインプットされたに違いない。 


 けれども、これだけは信じてほしい。


 I am serious,not a funny girl. 

 But, [Kanojo]彼女is a crazy girl.


 頭のおかしいやつは一人で十分だ。彼女とか市原さんとか。いや市原さんは入れてもらったコーヒーを突き返したりしない。隠れて洗面所に流すくらいだ。私みたいに空気の読めない、社交性どころか人間性さえも無いような素っ頓狂なことはしない。

 

 ってどんな一人反省会だこれ。メリットが毛ほどもない。


 ――忘れよう。

 所詮、一条照明は犬だったのだと思おう。楽観的に。


 現実逃避を行っていたのち、背後からふわっとした雲が舞って来た。

「お疲れ様、嶺さん」

 ふいに肩を叩かれた。そんなねぎらいの言葉は不要ですよ市原さん。あなたのようにクラスのために汗水たらして働いているわけじゃないんで。


 あ、でもさっき生徒会関係のこと押し付けたって事実だけは忘れません。

 私、ねちっこいんで。


「まあ、おしゃべりしかしてないので、対したことはありませんが」

 井戸端会議in生徒会室って感じだったなあれ。

「おしゃべりって?」

 ああ、そりゃあもちろん。


「市原くんと」

「え、私?」



 ――間違えた。


 『いちじょう』って言おうとして『いちはら』って言っちゃった。


 いちから始まる苗字って……紛らわしいな二人とも。


 市原さんの理解範囲を超えたのかさらっと流された。


「で、何だったの?」

 何だったのって曖昧なことを聞かれても……そういえば私、生徒会室に行った意味あったのか?


「何をしたんでしょう。会計委員会の締め切りがズレたとかそんな話を」

「そういえばそんな話もあったわね。噂では、放送部と会計委員会のすれ違いだったかしら」


「すれ違い?」

 それは新情報じゃないか?


「放送部が昼に放送してるじゃない、ほらこんな風に」

 そういって市原さんが耳をすませて。


「音楽の途中に連絡事項を加えたりするじゃない。会計委員会の締め切りも同様に校内にアナウンスされたの。その際に『日にちが間違えて伝えた』らしいわ。初歩的なミスと言えばそうかもしれない。ありきたりなもの」

「なんだ」

 やっぱりしょうもないものだった……っておいおい。



「――本当にそれだけですか?」


 たかが部活動が、生徒会やクラスを巻き込む騒ぎにはならないだろって梱包材の勘が立った。



「皆、そこまで集中して校内放送なんて聞いているものでしょうか」

「昼休みに教室にいる人間が注意深く、それも一言一句聞き分けているでしょうか」

「『にじゅうににち』と『にじゅうくにち』ってスピーカー通して聴いたらそこまで大差ないじゃないですか」

「そもそも言い間違いなら、すぐ訂正されませんか。外部からの指摘とか」


 例えば、正しい情報を持っていたであろう会計委員会の誰かとか。

 そういう方面がそれを放置した理由が、その原因が、分からない。


 疑問系バックアップの質問攻めに市原さんが回答する。


「嶺さん、学校内での最大の連絡網は校内放送なの」

 まあスピーカー使えるのって、放送部員の他は教職員ぐらいだしな。それだけ限定された機器ではあるけれど、それって最大って言えるのだろうか。


 限定的な人材のみが発信する声だけの情報。

 紙媒体の生徒会広報や学年通信の方が視覚情報として伝達される分、情報の劣化がなくてよさそうなものだけれども。


「でも、広報は視覚情報にしか頼らないじゃない。それって受け取る方の視覚環境が何らかの異常をきたした時、それらの伝達情報は変質するかもしれないわ」

「変質って?」

「読み手が視覚に障害を持っていたり、文面そのものが改ざんされていた場合とかね。火事等の災害時では視界は不鮮明な時があるでしょう? その場合、目で見えるものより、耳で聞けた情報の方が大事なの」

「だから、聴覚に訴える校内放送はとても重要なの。たかが放送であっても、その情報は不確かであってはならないの。ただ非は放送部だけじゃないの。情報の訂正がなかったってことは中継役の生徒会の管理ミスとも言えるわ。その点では生徒会長の」

「いえ、そうではなくて」


 放送部が間違ってたってことを、後から問いただすような展開になっていること自体がヤバいんだ。

 これじゃあ、放送部が全体未聞の放送事故したみたいな言い方じゃない?

 

 ってそこまでのことかこれ? これじゃあ、放送部袋叩きじゃない?

 

 とりあえず、この状況の打開が大事だ。

 とはいっても、ここでは話の主導権は市原さんが握ってるから。私にはどうのしようもないけれど。


「何も校内放送だけが重視されるべきものではないことは、私だって分かってるの。現にメールやラインがあるでしょ。ただそれらの個人間の繋がりは、その連絡範囲が大きくなるにつれて、人から人へ情報が映るときに、内容が受け取り方によってその意味を変えて、下手をすれば『伝言ゲーム』になりかねない」

「だからこそ、情報伝達に対して責任を持たなければならないの。放送部も生徒会も、私みたいなクラス委員長の役職持ちもね」


 理論から言えばそうかもしれない……友達が少ないせいか、スマホで連絡のやり取りなんかしない彼女の経験値ではそれしか言えない。


「でも、放送部が犯人って証拠は」

 そんな簡単に断定できないんじゃ。


「3組のダンス練習の記録動画に、その時の放送が入り込んでいたらしいわ。私は聞いていないのだけれど」

 

 ――それは仕組まれているのかって思うほど用意周到で。


 できればそれが不鮮明な音声であってほしいと思った。全部曖昧にしていいと思った。

 たかが連絡網。たかが1週間のズレ。


 それが魔女狩りみたいな陰湿なものになり果てている現状が、自然消滅しろって思った。


 別に放送部に愛着はない。部活動に対して、彼女も私も興味なんて毛ほどもない。


 けれども、それでは放送部員の中で。それも最高学年でもある千葉が悪いってことになる。

 連絡担当者は別のものかもしれないけれど、三年の千葉が責任的な面で関与している可能性は非常に高い。


 ただでさえ犯人捜しにまで発展しているような案件で、彼女の友達が吊るしあげられることは、流石にバックアップの私も承服しかねる。


 まるで、誰かが千葉に罪を擦り付けているような気がして。


 気味が悪い。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ