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金曜日のバックアップ  作者: 希恵和
第二章 体育祭のノックアウト
27/31

プレスアウト

生徒会とはわが校唯一の執行機関である。生徒会長の光山紫苑を筆頭とした優等生共の楽園でもある。


 その癖融通の利かないヘンコさんのオンパレードらしい。あ、ヘンコって変人って意味じゃないからね。変に頑固者って意味だから! 誤用しないでね。そこ間違えないように……特に彼女。

 

 だから目の前の人間は、生徒会役員でヘンコさんなのか。

 はい、証明終了。


「私は貴方のことを本を愛するものとは思いませんし、捉えません。何故なら本はすべてを語るからです。あの本は貴方様を異物と……ひぃい!」

 

 新藤さんは突如、悲鳴をあげた。強盗犯でも飛び込んできたのかって……あれ。

 この人私じゃなく、私の背後の巨乳の人見てないか、これ?


 ――ようするに市原さんを見ていた。


 メガネさんは市原さんアレルギーなのかな? 免疫細胞が市原さんのお胸に過剰反応して、アナフィラキシーショックでメガネがブルブル震えて、新藤さんが怯えていた……ってあれ擬人法かこれ?


「どどどっどおどど、どうしてここに! いえ、貴方と貴方がどうして……。はっ! 北側さん!? ……ということは2組ですね。な、何故2組の方が」

 貴方と貴方って言うのは私と市原さんのことらしい。までは分かったがそれ以降何言ってんだこの人状態。ってメガネさんじゃない新藤さんは、北側くんの事知ってたのか。え、美術部員だから? いや美術部員って生徒会とそこまで太いパイプで繋がっていたのだろうか。まあいいかそんなこと。


 ともかくメガネさんは今の今まで市原さんの存在に気がついていなかったらしい。いや、問題はそこではなく、なぜこんなに存在感の有り余る方をそこまで無視できるのか。そのメガネさんの無神経さにむしろ尊敬の念を覚えた。


 当の市原さんはシカトされるわ、怯えられるわで黙っているような人じゃないことは私だって知っていた。なのに、ホモサピエンスの中でも最上位の市原さんが。


 なぜかニコッと笑っていた。


「ふふふ」

 なんて微笑んでいた。


 花のような立ち振舞で雅な雰囲気さえあった。少し暑めの日常に春のうららが逢いに来たような、その朗らかな美しさの中にも、バラの棘は確かにあったとは。さて誰か気が付いている人はいましたか?


「ええ私たちは2組だけれども。それが何か」


 語尾が異常に重たく感じた。空気が死んだ。


 鋭い針が数十の群れをなし、メガネさんめがけて飛んでいき、全身棘だらけの串刺し状態になり、目も当てられない。どうやらメガネさんの顔面に直撃したようで、出血過多で血の気が大脱走で青々しい……って何を言っているんだろう私。

 

 ともかくそういうたとえしか出来ないような無酸素状態が数秒続いた。そろそろ酸素ボンベが欲しいです。モブキャラの私でさえ弱音を吐くようなこの状況下で、当の本人メガネさんは唇をわなわな震えさせつつも、この寒気のする空間に声を発した。


「一体貴方は何者ですか」

 なんてことを聞いているんだ新藤さん。その人ただのクラス委員長だからね。何の変哲も無いただの殺気がパンパないだけの女帝だからね。


「そのようなことをしても良いと思っているのですか」

 なんか人一人殺したみたいになってないかなあ。それ。


 対して市原さんは冷徹なお言葉を添える。


「新藤さんだって自分に自惚れているんじゃないかしら。貴方は一介の生徒会役員でしかない癖して、私の大事な人に失礼な態度を取ったのよ。身の程をわきまえなさい」


 市原さんは心の底から怒っていた。

 

 というか、その言葉は私に向けているのかな。

 いや待て市原さんの大事な人って……どう考えても話の流れ的に私のことだろ。


 もしかして私のために。私なんかのためにこの人は声を荒げているのだろうか。何かの間違いに決まっている。大体なんで私が市原さんの大事な人ってことに?


 まさか本当に私の事が好きなんじゃ……。

 てぎゃああ! だめ百合展開。百合の花が咲き乱れても何も良くない。かといって、木酢液が入り乱れても何の得もない。だめ、もう土壌回路は回復しない!


「何も聞かずに門前払いなんて、人の上に立つ者がすることではないわ」

 なんて市原さんが言い放つと、新藤さんは苦虫を噛んだような顔をした。


「では、貴方のご用件は何なのですか」

「体育祭の予算報告書の訂正を許可して頂けないかしら。横断幕用ペンキ代3缶ほどね。残額もそれ程度は残っていたと思うけれど」

「今日は31日です。どう考えても締切の22日をとうに過ぎています」

「それをどうにか出来ないかしら」


 市原さんがお願いという名の恐喝をした気が……ヤの付く自由業みたいだ。

 新藤さんは数秒ほど固まり、唾を飲み込んだ。

 

 そして、息を吐きだした。

「仕方ありません。私が許可します。ただし、訂正したものを昼までに私のところまで提出して下さい。それ以降は受け取り拒否ですから」


 あ、なんだ。結構簡単だった。というか新藤さん優しすぎる。これが優等生の深い懐なのかもしれない。彼女より数倍の深度を誇るなこれ。

 

 だからだろうか。優しくない私の彼女は微妙に優等生の認定を受けていないのは。


「ただし、条件があります。昼休みに私の業務を手伝うこと。これが条件です」


 はうい!? いきなり新藤さんがしゃべりだした。

「何で……あ、でも生徒会の業務とか一般人は出来ないですよね! そ、その専門用語的な」

 なんて私が反論してみる。何か阿呆なことを口走ったことは十も承知だったけれども。

 新藤さんはいとも簡単に跳ね返した。


「ただのPC入力操作ですので、難度は高くないと思われます」

 

 なんて急すぎる試練……。ただでさえ忙しい体育祭前にエリート集団生徒会の雑用とかレベルが高すぎる。こなす方は面倒な作業になること間違いなし。


 ああでも。まあ、いいか。私には関係ないし。きっと市原さんか北側くんのどっちかがやってくれるだろう、なぜなら二人は私と違って優等生だから。そう考えると荷は軽い。じゃあ私はここでお暇させていただく。


 そう思い、刹那的に逃げ切ろうとしたとき、背後の二人がほぼ同時で言い出した。


「昼は会議があるの。」

「ごめん俺、昼に搬入が」  


 はい? なんで二人そんなに焦って言うんだここで。

 何故、問題を持ち帰るってことをしない? ここでそれを述べたら解決もへったくれもないだろうが。めぐりあわせ的にここにいる人間の中で押し付けられそうな気がする。

 それだと暇人の私が押し付けられそうな気がする。


 気がする。

 

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