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金曜日のバックアップ  作者: 希恵和
第二章 体育祭のノックアウト
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カムオーバー


女って怖いねー。

 でも彼女も女の子だ。

 

 つまり彼女もそんな奇妙な生物の一人だということを私は知っておくべきなのだ。


 話がずれた。本筋に戻そうと思う。

 

 それからというもの、市原さんの私への態度は一変し、まるで仲の良い友達のように接してくれるようになりました。

 その態度の裏に何かしらの思惑があるんだろうが、見てみぬふりで通すことにした。

 全く……難しいね人生。


 私達の社会科レポートは気が付いた時には出来上がっていた。

 といっても班のメンバーで数回打ち合わせした以外は、最終的に市原さんが書き起こしていたものを提出した。

 

 そういえばこの女子ばかりの班に一人放り込まれていたあのサブ男を何をしていたのだろう。

 打ち合わせにも来なかったあの大ばか者は何も成さずに、いけしゃあしゃあとレポート内に名だけは連ねていた。


 さすがに訴えてもいいようにも思ったけれども、そのことについて市原さんは「え、そんな人いたっけ」なんて言うものだから。


 めずらしく『彼女の方』が察した。


 どうやらサブ男と関わりたくないらしい。

 心底嫌っているのだろう。


 おお、おいたわしや。

 そして、さよならサブ男。

 

 お前は市原さんの中では、空気と同じ扱いだ。


 ――そんな事件から2週間がたちました。

 また金曜日の朝が始まる。

 私は日常を取り戻した。


 美しい登校風景。

 教室に入って席に座る。

 人の目線も気にせず、本を読めるような平和な日常。

 

 もうクラスメイトに白い目で見られなくてもいいなんて……ああ幸せ、こんな日々が毎日続くんだ私。

 ありがとう! これで彼女もその梱包財の私も幸せだ。

 二重人格安泰!  平穏万歳!


なんて、思っていた。

 しかし、そのような平和な時間が末永く続くわけもなかった。


「――嶺さんいますか」

 それは唐突にやってきた。


 私の名を呼ぶ声、すぐさま声の主を見た。

 その人は、見たこともないようなメガネ女子。

 

 小柄な体躯、おさげ髪。

 どうやらファッション性のある人らしく、お下げの一房一房が荒めに結われ、真面目さと可愛らしさが介在していた。

 後スカートの丈も大分短い……ってこれ、裁断されてるんじゃ……。


 唯一真面目そうに見えるのは、そのメガネくらい。

 フチのところが小さな花形の金具で咲き乱れている。


 命名『おしゃれメガネさん』が我の教室のドアに立ち尽くしていた。


 私は席から立ち上がり、彼女の元に行く。


「何か私に用でも?」なんて真面目くさった言葉で警戒した。


 この人は何を言うつもりか。

 また恋愛騒動に巻き込まれるのは嫌なんだけど。

 

 けれども、学生という職種はそれが本分かと思えるくらいに、頭の中は恋だの愛だの……。

 まともに取り合いたくないな……人生本だけ読んで暮らしたいよ……。


 などと心の中で弱音をはいていると、おしゃれメガネさんは何故か私のほうをきりっと睨む。

 その眼光にひるむ私。


 え、何のヤクザの物まね?


「こちらに見覚えは」

 そう仰々しく言い、彼女は私の目の前に『一冊の本』を突き出した。


 って、それには見覚えがある。

 というか私の本だよそれ。

 確か千葉に貸したやつ。

 

 ちなみに千葉とは隣のクラスの女子。

 一応、彼女の親友でもある。


 けれども、何故それがここに。


「これは図書室で落し物として預かっていたものです。本人に返しに参りました」

 

 『おいこらぁ、千葉』が一番。

 『千葉、ひねりつぶすぞこら』が次点に上がった。

 

 あいつ、勝手に人の本失くしてやがった。

 借りたものは大切にするって知らないのだろうか。

 千葉に常識が無いのか、それともそんなバカを友達にする彼女がお人よし過ぎるのか。


 私は大きなため息をついた。

 だめだこりゃ。

 

 これはありがとうと言うべきなのだろうな。

 わざわざ私のところまで届けにきたところ、この人は図書委員なのだろう。

 

 職務とはいえ、ご苦労様です。

「はあ……、そりゃどうも……」

 私は、本に手を伸ばした。

 

 が、メガネさんは本を自分の後ろにまわした。

 そしてもう片方の手で私の手をはたく。


 ――パシンと乾いた音がした。

 

 あれ? 今、私、何か理不尽なことをされなかったか?


 おしゃれメガネさんは、快く思っていないような顔をした。


「この本は嶺さんという女性の物です。彼女本人にお返しします」

 まあ当たり前だろう。本人に返すのは。


「ああ、だから私が嶺です」

 私以外にこの学級に嶺はいませんよ。


 つまり、私がその本の持ち主だ。

 ですから、それを受け取ろうとしているではありませんか。お、ほっほ。


 私は彼女の言葉の意味を上手く理解できていなかった。

 そのままの意味だったのだ。


 でも、私はメガネさんを見くびっていたのだろう。

 それに気がついたのか、気がつかなかったかはさておき。

 

 メガネさんは、憤りを感じたように息を深く吸い込み。

 今度は大声でこんなことを叫びやがったのだ。


「あ――貴方は、嶺さんではありません!」

 

 突然のことで、声も出なかった。

 ――今、なんて言った?



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