生き写された女子高生たち
――誰かが貴方を決めるんじゃない。私が貴方をそう思っただけ。出典、最後に犠牲になった少女。
彼女は何も知らなかった。
僕に笑いかけることで、その先に苦難が立ちふさがっていたなんて。
あの時、僕はちゃんと彼女のことを思いやれたのだろうか。
あの選択が彼女のためになったなんて、到底思えないが。
「もういいか」
唐突に一条が言った。それは今この時点での話でしか無いのに、自分の出番の終了を確認する意義でしかないのに。
別に、彼女の件で何かを言われたわけではなかったのに、酷く動揺した自分がいた。
「ああ、ありがとう」
ぎこちない返答。
僕らしくない。こいつの前で弱い自分など晒す気などない。
ああ、僕はそれほどにも弱り果てているのか。木島奈々が何者かを考えるうちに、自分自信の存在意義とか余計なことばかり考えてしまったようだ。
まあ、そのおかげで真実にたどり着いたわけだが。
――僕のみた木島が化け物だってことがな。
『目に見えるのに、カメラには映らない』とはそういうことなのだろう。
この世界には、そういう不可思議なものがまだあったんだなあ。うわー、感慨深いなあ。
「木島奈々が世界の不思議の一部だったとは」
ミステリサークルの秘密も分からない僕に解けるもんじゃなかった。
古代文明の遺跡になんかヒントでものっていないだろうか。分かる方、是非ご連絡を。
一条照明は僕の戯言に対して何も反応を示さなかった。
が、「全く木島なんてアニメ女のどこがいいんだが」と言い捨てた。
呆れ顔をされた。
確かにお前みたいな単細胞にとっては木島は、恋だの何だのの障壁程度にしか思えないんだろうな。
アニメ女ってふざけたくくりじゃなく、ちゃんと人間としてみてやれよってアレ?
――ふと、腑に落ちない言葉があった。
「アニメ女ってなんだそれ」
どこにアニメの要素があったか。
目が馬鹿でかいとかそういうのではないのだろう。
僕には木島の目は標準サイズに見えた。
まあ『目が大きい』と言う特徴は正確にはアニメではなく、『少女マンガ風』というべきなんだが。
一条は自分の頭を二回こづく。
「――水面は知らないのか。あいつの髪型、『朝からお仕置き! ぐるぐるメータン』の『たんこぶ』の髪型そっくりなんだよ」
それは本当にアニメのタイトルなのだろうか。
だとしたら、クールジャパンは衰退の一途をたどっているような気がするんだが。
「タイトルとキャラの名前が悪意以外の何者でもないな」
まず、お仕置きとたんこぶにどういう共通点があるのかだけ説明しろよ。
にしても……アニメの髪型か。好きなキャラクターの髪型をやってみたいというファンの思考は僕には計り知れないからな。
その髪型が真似しやすいというのなら、気が向いたらすることも。
――――ん? まね?
「朝の魔法少女ものは火がつきやすいから。まあ、水面がするには髪が短すぎるって問題が」
「誰がするか」
僕に女装趣味はない。
今までも、この先もな。
でもそうか、そういうことだったのか。
「じゃあ、僕は教室に帰る」
立ち上がって、ドアの方に向かった。
一条のおかげで、大方の基本情報は得れた。何とか僕の中での境界線は引けたはずだ。
『不可思議』と『日常』の選別が。
ドアノブに手をかざした時。その時くらいは、素直に感謝してもいいんじゃないかって思えた。
一条の目を見て、こういった。
「――ありがとう一条」
その言葉を聞いた一条は、一瞬固まった。その後は、体ごとうずくまりやがった。
どんな顔をしているのか見えねえし、見たかねえ。
でもまあ、多分真っ赤になっているんだろうけれど。
さすがに僕も無粋なことはしない。
何も見なかったふりをして、部屋から立ち去った。
廊下に出た時、風にぶつかった。
――北側は言った。
ドッペルゲンガーに会いたいと。
――木島は言った。
朝、僕に会っていないと。
僕はそれ物語の始まりだと思っていた。
けれども、その認識は間違っていた事に気がついた。
それだけでドッペルゲンガーは生まれたわけではなかった。
ドッペルゲンガーは木島の無意識が生み出した産物でも、北側の幻想でもないのだ。
――全てが仕組まれていた、とすれば。
僕をおびき出すための罠でしかないとすれば納得がいく。
でも、何が目的なんだ。それだけが分からない。
まあ、それは本人に聞いてみるか。面倒だな。
金曜日は面倒なことが多すぎる気がする。
レポートの締め切り、宿題も大概金曜日まで。
ああ、確かあの事件も確か金曜日だった。
土曜のない公立高校において金曜日は週の終わり。
物事の締め切りであり、混み合いの期。
面倒ごとが立て込んで、人を困らせる。
だから、僕はこの曜日を好むことなんか出来ない。
一生。あーあ。
――金曜日なんか大嫌いだ。