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ある女軍医のお話  作者: ハル
7/12

尋問場は医務テントの真逆に位置していた。


隊長は速歩を緩めなかった。横で敬礼している兵士達には目もくれずただ目的地へと突き進んだ。

尋問場の端に設営された白幕のテントに近付く。すると中から様々な音が聞こえてきた。


殴打音…柱に何かを打ちつける音…怒鳴り声……


「入るぞー」


遠慮すること無く足を踏み入れた。


「は…隊長!?どうされたんです?」


5,6人の兵士達は突然の来訪に驚いたらしい。皆が一斉に直立不動となった。


「んー…少し変更点が出てな。……そいつはまだ生きとるか?」


兵士達の輪の中心にあの捕虜(おとこ)がいた。後ろ手に縛られ俯く様に倒れている。右腕には止血用のタオルが巻かれたままだ。


汗を垂らしながら1人の兵士は言う。


「なかなかしぶとい奴ですね。いつもより強めの圧力はかけているんですが……全く動じません」


さらに別の兵士は……


「こりゃ明日まで持たないでしょう。内臓も恐らく損傷しているでしょうし、腕の出血が酷いですからね……今日の夜が山場になりそうですよ」

「いっそのこと楽に死なせた方が……多分コイツは死ぬまで吐かない奴だ」


兵士側の方が根気負けしたらしい。皆、諦めと疲弊の顔を隊長に向けている。隊長にしてみれば好都合だった。ニンマリ笑うと明るい口調で言った。


「そうか(笑)それは残念!じゃあお前達、そいつを医務テントへ移してくれ。あとはあの女がやる」


その言葉に兵士達は困惑の表情を浮かべる。

「一体、どういう事だ?」と言う顔だ。


「そんなに困った顔をするな。お前達の仕事を減らしてやったんだ、少しは喜べ……今日はそいつを運んだら仕事は終わり!!一杯ずつ奢ってやるよ」


それを聞くと兵士達の表情が一気に変わった。皆にこやかな顔でこん棒を端に投げ置き、倒れた捕虜(おとこ)は一番入隊歴の浅い2人が運んでいった。捕虜(おとこ)は完全に昏倒していた。







「………………」


がやがやとした人声で目を覚ました。腫れた目はあまり開かないが、周りを見渡すには十分だった。

首を左右に動かす。


「……ここは……牢じゃねぇな」


明らかにいつも収容されていた場所とは違った。

暗かった周りは沢山置かれているランプのお陰で明るい。ゴミの様に置かれていた身体が今はフカフカのベッドの上だ。掛けられた毛布も暖かく心地よかった。ふと撃たれた腕を思い出し傷を触ってみた。


「……ん?…包帯……」


傷はキチンと処置され包帯でしっかりと保護されている。気付けば身体の大半は布で巻かれていた。


「……誰がこんな事……まさか……(あいつ)?」


«…バサッ!!»「?」


垂れ幕が上がり誰かが入ってきた。簡易カーテンに映る影には長髪の人が机に置いた瓶に液体を入れ何か混ぜている。それをジッと見ていたがこちらに向かってやって来たので咄嗟に目を瞑った。


«カシャー……»


「……あなた、起きてるでしょ」


すぐバレた。ゆっくり目を開けるとそこにはやはりあの女が笑みを浮かべながらこちらを見ていた。


「よく眠ってたわね。お陰で処置の時楽だったけど」

「お前がしてくれたのか」


女はニッコリと笑って頷く。そして男の額に手を置き熱を計る。


「んー、まだ熱い。そりゃそうよね。あれだけ傷を付けられたらどれかに細菌が入ってもおかしくないわ。とりあえず当分はベッドの上ね」

「……何言ってる。俺は明日―「はいはい、今は何も考えないで。あなたが治ったらちゃんと説明してあげるから…今は傷を治すの…分かった?」


女の言葉に何も言えず押し黙る。黙った男に女は笑顔で頷くと腕の包帯を交換し始めた。しかし結び目が絡まっていてなかなか取れない。


「うーん…あれ?何で取れないのかな。よいしょ……やっぱり駄目だ」

「左手に持つ布を右手の輪っかに通せ」

「へ?」


男からの突然の指摘を女は聞き逃してしまった。すると男の左手がゆっくり伸びてきて女の右手を掴んだ。


「え?ちょっ…」


そのまま掴んだ右手の布を女の左手が持つ輪っかに通した。2人で引っ張ると結び目はスルリとほどけた。


「あ…解けた」

「まぁ、お前の場合ハサミで切る方が早いかもな……」

「凄いよ、見て!綺麗に解けてる!」

「………」


男の最後の言葉は女には届いていなかったようだ。

傍らでキャッキャッと喜ぶ女に呆れたが、どういう訳かそんな女の姿が微笑ましくまた愛おしく男には思えた。

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