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ある女軍医のお話  作者: ハル
5/12

背を向け邪魔を続ける女に兵士達は苛立ち始めた。


「……何やってんだよ、あの医者」

「おい、早くしねぇと隊長帰ってくるぞ」

「……誰があいつをどかす?」

「……」「……」「……」「……」


兵士達が女に強気になりきれないのは自分達より軍位が上であるから。もう一つは彼女が隊長のお気に入りだからだった。


沈黙が続く中エリートの1人が言った。


「少し脅してみますか……」


子供が悪戯を企むような声でそう言った。

口元を少し緩める不気味な顔に兵士の数人は背筋が凍る。


狙撃体勢に入る男の肩を別のエリートの一人が掴む。


「よせ…当たったらどうす…「当たらないでしょう。仮にそうなってもあの捕虜(おとこ)のせいにすればいいだけです。別に難しく考える必要もない事だ」


仲間の手を乱暴に()けると女の腕辺りに照準を合わせた。


「あ・た・れ…」«バンッ!!»



«バシュッ!!»「っ!?」


腕に熱い何かが(かす)った。

細い手首を伝って一筋の血が落ちていく。


しかし女が見ていたのは擦り傷を負った自分の腕ではない。その目線の先は捕虜の男に……


正確には男の腕に開けられた穴に向けられていた。



「…ね(笑)女には当たらなかったでしょう。貴方達は心配しすぎなんですよ。もっと自分に自信を持った方がいい……どうやら"遊び"はここまでのようですね。隊長のお帰りです」


遠くの方から軍用トラックのエンジン音が徐々に大きくなりつつ近づいてくる。

慌てた兵士達は急いで銃や机を片付け始めた。

男の腕を撃ち抜いた兵士は余裕の表情で愛用の銃を片手に立ち去ろうとしていた。その背中に狙撃を阻止しようとした兵士が声を掛けた。


「あの医者が今の事を話せば…お前はどうなるんだろうな」

「……ハハッ(笑)さて話しますかねぇ、あの女は賢い。隊長には伝えないと思いますよ。だって間違っているのは(あちら)なんですから」




「ウッ!!……っ……」

「ダメッ!!動かないで、止血が出来ないわ……あぁ、血が止まらない……早く医務テントへ運ばないと」


弾は皮膚を突き破り動脈を引きちぎり筋肉に食い込んでいた。緊急手術が必要だった。しかし…女1人では何も出来ない。人手が必要だった。信頼できる者が……


『…少年兵(あのこ)は幼すぎるし……さっきの奴等なんか論外だわ。他の衛生兵は野外に出ているし…』


「…グァッ……」


昨夜の痛みとは比べ物にならない激痛に男は傷を押さえる事も許されないまま耐えるしかなかった。

それに我慢出来なくなった女は縄を解こうと結び目に手をかけた時……。


「___っ!阿呆かお前はっ!解いた途端そいつに殺されるのは分かってんだろうがっ!」

「……隊長……」


鬼の形相をした隊長が部下2人を連れてやって来た。苦しむ捕虜(おとこ)一瞥(いちべつ)し遠くで固まっている兵士達を見やると状況を察した様に溜息をついた。そして男を庇うようにして立つ女に視線を戻す。


「……状況を説明してもら…「お願いですっ!先に治療だけさせて…「そいつはっ!…尋問中の捕虜だ。素直に吐けばそんな姿になる事はなかった。全てはそいつが自ら招いた事だ。腕に風穴空いたぐらいじゃ死なねぇよ。…連れて行け」


男はよろめきながら兵士に抱えられ尋問場へと連れて行かれた。その跡には血が点々と足跡の様に残っていた。


「………………」「……………」


残された女は悔しさのあまり涙が出そうになったが泣く事はなかった。代わりに大きな息を吐き、長い茶髪を鬱陶しいかのように後ろへ掻きあげた。そして隊長の前に立つと敬礼をし医務テントの方向へと歩き始めた。

























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