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ある女軍医のお話  作者: ハル
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本音

「僕は行けると思ったんだけどなぁ。まさかあんなところで伏兵が出てくるとは思わなかったんですよ。痛っ!」


いつも食事を運んでくれる少年兵が敵地を偵察中、茂みに隠れていた敵兵に襲撃された。

出血の割に傷は深くなく4針縫合する程度であった。といってもやはり痛い事に変わりはないが……


「そうやって"行ける"とか"大丈夫"と思い込んでる時が1番危ないのよ。あなたは子供なんだから先輩の後ろに隠れてるぐらいが丁度いいの」

「えぇ~、嫌ですよ。格好悪い。僕は早く一人前になって戦闘に加わりたいんです。敵を沢山殺して昇格すればお金持ちになれる。そしたら…「幸せになれると?」


遮る声は少し威圧的なものだった。


«パチン!»


縫合が終わり糸を切る。包帯を取り出しその部分を包み込んでいく。


「……違うんですか?」

「いや、金持ちになるのは悪い事じゃないわ。お金の使い方さえ間違えなければ幸せになれるかもね。でもね、人を沢山殺して手に入れる幸せって…本当にあなたにとっての幸せになるのかしら?」


"敵も心をもつ人なり"

兵士になったあの日隊長から送られた格言であった。少年は思い出した言葉を胸に押し黙った。

その様子を女は微笑みながら処置を続けた。


「…よしっ、終わった。3日後には抜糸できるわ」

「はい、ありがとうございます。あの…なんかさっきはすみません。僕間違ってたかもしれない」

「すぐに間違いに気付くって大人でも出来ない人がいるのよ。……あなたは賢いわ。その賢さがあればきっと幸せになれる。きっとね」


少年と目を合わせ2人で笑っていると……


«バンッ!!…バンッ!!…バンッ!!»


銃声が3回鳴り響いた。

今日は演習など予定になかったはずだ。


「うわぁ…まだやってる」


嫌そうな顔をして少年兵は呟く。


「尋問?」

「いいえ、違います。今日は隊長が西基地に出掛けて居ないから"捕虜(あいつ)で遊ぼう"って先輩達がやってるんです」

「…やってるって…何を?」


「"的外れ"ですよ」

「!?嘘でしょ?」



"的外れ"とは杭に縛った捕虜を100m先まで持っていき兵士達はその杭に向けて順番に狙撃していく悪質な"扱い"の一種であった。勿論縛られた人間に当てる事はしないのだが、それでも銃弾が身体のあちこちを擦るのだから傷付くことに変わりはなかった。

だからそのような扱いをしてもいいのは隊長が口を割ることが出来ないと判断した捕虜のみであった。


『隊長がいない間に勝手な事を……』


苛立ちながら銃声のする方へ駆けていく。

近くなるにつれ兵士達の笑い声が聞こえてきた。


3人の兵士が長机に3台の固定された銃の前に立っていた。銃口の先には…あの男が十字型の杭に固定されていた。


「よぉーし!俺は"頭"だ。お前は?」

「俺は"足"」「じゃあ私は"腹"にしておきます」


狙う部位を楽しげに決める3人組の男達。

彼らは隊の中で最も狙撃率の高いエリート達だった。その横で他の兵士は誰が一番身体に近い場所に弾を当てられるか賭けに夢中だった。


「狙撃用ー意!!1…2……?って、おいっ!危ねぇだろうがぁ!!」

「何だ、あいつは……」



兵士達の視線の先には男の狙撃を邪魔するように立つ女がいた。両手を広げ怒鳴られても一歩も動く気配がない。


「あいつは……____だ。医者の____だよ」


1人の兵士が目を凝らして相手を確認する。


「__だと?」

「ハハッ、医者の"愛心"ってやつが疼いたんじゃねぇの?」


その言葉に全員が笑った。




一方、100m先の場所では………


男は垂れていた頭を上げ後ろ姿の女が自分を守る様に立ちはだかっている事に気付いた。


「……何やってる…そこをどけっ、弾に当たるぞ!」


しかし女は動かない。


「聞こえないのかっ!今すぐ離れるんだっ、もう俺に構うな!何をされても俺は……「分かってる!」


振り返った女の顔を見て言葉に詰まる。


つり上がり気味の大きな瞳からは涙が溢れ出していた。その顔は悔しさで満ちていた。


「私がどれだけ助けたいと思ってもあなたにとって私は兵士達(あいつら)の手先。どれだけやっても信じてくれないのは分かってる。でもあなたは間違ってない。だって私は敵だから。だから私の事は気にしなくていい。今ここにいるのも私の自由、弾に当たるのも私の勝手。…これで満足でしょ…」

「…どうして…どうしてそこまでして……」


女は止まらない涙を流しながら笑った。


「言ったでしょ…私にも分からないって」











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