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ある女軍医のお話  作者: ハル
3/12

最初に視界に入ったのはテーブルに並べられた大量の酒瓶だった。乱れた髪を手でくしあげながら身を起こす。


「…ハァ…飲み過ぎた」


二日酔の頭痛を感じながら空き瓶を片付けていく。

転がる瓶に手を伸ばした時、昨夜の事が頭をよぎる。そして溜息。


『やっぱり…行くんじゃなかった』


戦争で捕虜の尋問や拷問は付き物だった。非人道的な扱いをされる捕虜を見る度に耳を塞ぎ医務テントへと引きこもった。それでも捕虜の痛みに呻く声は聞こえてきた。その度に祈った。


『早く…楽になりますように。あの人が苦しい思いをしないよう助けて下さい。お願い……』


捕虜が秘密裏な情報を吐く確率は40%。

半分以上の敵兵は最期の最期まで何も語る事無く死んでいった。その死に顔は殴打の為に醜く腫れているとはいえ何かをやり遂げたかのような安堵な表情をしていた。そうした敵兵の遺体を見る度、心の中で呟いた。


『よく頑張ったね』


布にくるまれた遺体の手を握りながらいつもそうしていた。




「朝礼!!各班正長は前列まで行進せよっ!」


毎朝開かれる朝礼は女にとって最も面倒な儀式であった。各小隊長のつまらない"ありがた~い"お話や戦陣での心構えの暗唱及び復唱……何年経っても変わらない内容に欠伸が止まらない。真面目に張り切って取り組む新兵達の姿勢に心から感心した。


『……こんな事に時間かける前に早く戦争終わらせてよね』


首を項垂れながら終了を待っていると目の前に誰かが来た。


『…やばっ、隊長だ…』


正体が分かっただけ余計に頭を上げられない。サボりの常習である女はいつもこうして隊長に見つかっては容赦ない拳骨をくらっていた。


頭に喰らう重い衝撃を覚悟していると……


「…忘れ物だ……」


隊長の手には応急セットの手提げが握られていた。

それは昨日収容テントから持ち帰るのを忘れた代物だった。


「あ……」

「やるならバレないようにしろ。俺が朝早くに奴のテントへ行って拾っていなかったらお前は敵幇助の罪で軍法会議行きだぞ。肝に命じろ」


手渡された鞄の肩紐は所々赤い血で汚れていた。




朝礼後、隊長のテントを訪れた。


「隊長、失礼します」

「入れ」


自分が来ることを予期していたのかテーブルには淹れたての珈琲が湯気を立てて待っていた。しかし今日は長居するつもりはなく椅子には座らなかった。


「座らないのか?」

「………教えて下さい、隊長。あの男が持つ情報とは一体何なのですか?我が隊にそれほど有益な情報(もの)なのですか?」

「知りたいのか?…まぁ、お前が軍法を犯してまで助けたがる男だ。……何でだ?いつもは目を瞑って我慢しているお前が何故今回は助けようとする……まさか惚れたとか言わないよな(笑)」

「断固違います。もう一度同じ事言ったらぶちかましますよ」



結局…隊長は笑うだけで何も答えてくれなかった。

ただ黙って手当を施した件はキツくキツくお叱りを受けた。しかし最後に子を心配する親の様に一言。


「ヘマやらかすなよ…あの男が我々に協力しない限り死ぬ事に変わりはない。お前がどれだけ頑張ろうがな。…夜はお前の好きなように扱えばいい。男も女のお前なら気を許して口を滑らすかもしれん。その時は逐一報告しろ」














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