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ある女軍医のお話  作者: ハル
11/12

男の処置は非の打ち所のない実に見事な腕だった。

女の開いた傷口に針を通すのだが浅すぎず深すぎずの刺し具合であまり痛みを感じさせなかった。そして緻密な間隔の距離を均等に開けながら糸で縫っていく。


その見事な手さばきに女は感嘆の声が出た。


「わぁ…凄い」


その言葉に男の口は少し緩んだ。


「お前の包帯の論解もなかなか筋が通ってたぞ。…巻き方は少し荒いがな」


その時の事を思い出し女は赤面した。

恥ずかしさの余り男にあたる。


「もうっ、なんでもっと早く言ってくれなかったの。自分は医者だって」

「言う必要が無かったんだ。誰もそんなことは聞かなかったしな。捕まって尋問されるとも思ってなかった」

「ん?どうして軍医の貴方が戦場で兵士達と一緒にいたの?」


軍医は普通、前線から少し離れたテントで負傷兵が運ばれて来るのを待ち治療するものだ。貴重な人材が他の兵士と戦闘に加わることはまずなかった。


「普通は衛生兵が戦地へ行くはずでしょ。なのにどうして?」


«パチンッ!!»縫合が終わり糸が切られた。


包帯で患部を丁寧に巻きながら男は答えた。


「俺がこの基地に連れて来られた時、他にも捕まった2人を覚えてるか?」


覚えていた。銃創のある男も足を折った男もすぐに処刑されたのだ。


無言で頷くと男は続けた。


「あの二人は徴兵される前から俺の患者だったんだ。本来なら兵役は免除されるぐらい身体が弱かった…だがあいつらは国の為兵士として戦う事を望んだ。勿論俺は反対した。どうしてわざわざ自分の命を捨てに行くんだ、とね。そしたらこう言ったんだ。戦えなくても誰かの為に盾になれます、って。……馬鹿な奴等だろ?」


男は笑った。女には笑えなかった。


「結局俺は医者として患者の意思を尊重する事にした。だが、かといって死なせるつもりもなかった。共に志願し常に2人の側で支えた。…1人が逃走中突然発作を起こさなければ敵の捕虜になることもなかった。2人が殺される事も…拷問を受けることも。……お前と出会うことも、なかった」


最後の言葉はとても優しく出逢った事を後悔していないと言いたいような……女にはそう聞こえた。

だから女も言った。


「あの日…貴方に会いに行って本当に良かった。もし行っていなかったら私は…貴方を好きになる事なんてなかった」

「ハハッ…一人間(いちにんげん)として…だろ?」


首を横に振ると男の顔つきが変わった。

今度は正直に言おう…女は包帯を巻く男の手を握り言った。


「好きなの、あなたのことが…本当にすきなんです」

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