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ある女軍医のお話  作者: ハル
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「その……考えさせてくれないか……」


男に「え?」と聞き返す。そしてようやく自分が何を言ってしまったか気付く。


「少し整理をしたい…」


慌てて付け足す。


「あのっ…違うの。そんな意味で言ったんじゃないからっ…何ていうかその…一人間(いちにんげん)として好きというか…あ、そっか。好きって言う言葉が適切じゃないのか…えっと…何て言えば…」


焦れば焦るほど思考がぐちゃぐちゃぐちゃになり…顔が酷く熱い。


その顔に男は失笑し始めた。


「その…俺が考えたいって言うのは祖国を離れてこの国の兵士になるかどうか自分の中で整理をつけたいという事だ」

「………へ?」


大きな勘違いをした自分に気付くと顔の温度が更に上昇する。


「…わぁぁっー!…「おいっ、待て!何処へ行く!」


どうにも制御出来なくなって外に飛び出した。


«バサッ!!…»「っ!?___医官っ?何処へいくんですかーっ!」


テントの入口で護衛に付いていた兵士が突如幕から飛び出してきた女を呼び止めたが聞こえていなかったのか、聞こえていても止まる気は無かったのか…とにかく女は猛ダッシュで基地の外れへと駆けて行った。




「ハァハァ…ハァー……何言ってんだろ…私。馬鹿みたい…フゥー…」


結局男のいるテントへ帰るに帰れず意味もなく基地の周りをぐるぐる歩いていた。すると反対側から一人の兵士が軽快な足取りで走ってきた。


それは男の腕を撃ち抜いたあのエリート兵士だ。


相手が分かった途端、瞬時に顔が(こわ)ばる。

目が合わないように下を向いてやり過ごそうとした。


«タッタッタッタッ……»「……………」


互いに何も言わずすれ違う。ホッと胸を撫で下ろした時、男から声を掛けられた。


「あの男の腕…「っ!?」……治りましたか?」

「……まだ完全ではないけど…傷は塞がった。後はリハビリで少しずつ筋肉をほぐしていくだけよ」

「ほぉー、もうそこまで…流石名高い軍医だけある」

「…自分で怪我させておきながら気にしてたの?」


男は「ハハハッ」と笑い女の方へ振り向いた。

女も男の方へ振り向く。


「フフッ…どうしてでしょうねぇ。あの男を撃ったあの日から満足に眠れなくてね、夜になるとあの場面が蘇るんです。腕に照準を合わせている自分、撃たれた男の苦しむ顔…それを笑って見てる自分。思い出した後は必ず酷い吐き気と頭痛に悩まされる……私って病気でしょうかねぇ?」


『俺はこんな場所でも良心(ばか)を持ってるお前が好きだ』


隊長の言葉を思い出す。


こんな血も涙も無いような兵士の中にもあるのだ…

それは小さな小さな良心(もの)なのかもしれないがとても大きな力を持っている。だから、この兵士はこれ程苦しみ悔やんでいる。


「……病気じゃない…」

「?」


診断結果が出た。


「あなたは正常よ、安心したわ」

「……それは良かった」


そう言うとニコリと笑いまた走り出した。

その背中を眺める女も僅かながら微笑んでいた。



「__医官、いきなり飛び出されるから驚きましたよ……もしかして、あの男に何かされたんじゃ…」


2人の兵士は不安気だ。


「大丈夫、何もされてないわ。ちょっと走りたくなっただけ」

「?そうですか…ならいいんですが…」

「あなたたち、先に夕飯食べてらっしゃい。護衛は取りあえずいいから」

「それはダメです。油断してる時が一番危ないですから。夕飯はコイツと交代で食います。__医官のお食事も先にお持ちしましょうか?」


いつもより少し早かったが、今日は何だかいつもより爽快な気分でお腹が空いていた。


「そうしてもらおうかな。じゃあ、2人分お願い」

「…そんなにお腹減ってるんで?」

「えっ?あ…そう、そうなの。久しぶりに走ったからかなー」


何だか面倒くさいのでそういうことにした。


«バサッ…»


テントに入ると、男は椅子に座ったまま眠っていた。先程の兵士達は男が何かしたと勘違いしたのだろう。手首には鎖錠が付けられていた。


「……寝ちゃってる」


起こさないようゆっくりと背後を通り棚から縫合用の糸と針、それと消毒液を取り出した。


さっき気付いたのだが、弾が(かす)った腕の傷が開いていたのだ。道具だけ持ち外に出ようと幕を上げた時……


「次はどこに行くんだ?」


寝ていると思っていた男の声に驚き思わず道具を全て落としてしまった。


«カシャーン!!……»「あ……」


落とした自分を男は振り返って見た。

散らばった糸や針を見ると…


「…怪我したのか?」

「う…うん、ちょっとね。でも上腕辺りだから他の衛生兵に縫合してもらおうと思って…」


すると男が意外な事を口にする。


「やってやる。ここへ座れ」

「…は?」


男は鎖錠をしたまま立ち上がると同じ場所から針と糸、脱脂綿と消毒液を取り出し机に置いた。


そのまま突っ立っていると…


「何してる、早く座れ」

「いやだ。素人の縫合なんて傷が化膿しそう」


すると男は針に糸を通しながら言った。


「医者だよ」


小さく吐き捨てるようにそう言った。


「……ん?」

「俺は医者だ。お前と同じ軍医なんだよ」
















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